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ファッション小売業者のエクスプレス(Express Inc.)は、何カ月にもわたる売上不振と株価の下落の後、新たな買収に期待を寄せている。
同社は4月13日、WHPグローバル(WHP Global)と共同で、男性向けファッションブランドのボノボス(Bonobos)をウォルマート(Walmart)から買い取る計画を発表した。両社はボノボスに合計7500万ドル(約101億円)を支払うが、これはウォルマートが2017年に支払った3億1000万ドル(約415億円)を大幅に下回る金額だ。
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この買収は、ファストファッションの競合他社であるH&Mやザラ(Zara)などと対抗するために苦戦してきたエクスプレスにとって、不満の残る数四半期を締めくくるものである。エクスプレスの第4四半期の純売上は前年同期比で14%減少し、2022年度の営業損失は合計6750万ドル(約90億5000万円)に達した。同社は昨年から評価額が70%以上も減少し、株価は下落が激しいためニューヨーク証券取引所(New York Stock Exchange)から上場廃止になる危険性がある。
売上好調なボノボス
エクスプレスは、売上が好調なボノボスが、自社の損失の一部を埋め合わせられる可能性に期待している。エクスプレスのCEOを務めるティム・バクスター氏は声明で、ボノボスが「売上の2ケタ成長」を達成したと語り、同社を「当社のブランドポートフォリオへ加えるのにふさわしい存在」と評している。同氏は、「この取引が、2023年度には営業利益に還元され、フリーキャッシュフローを増加させる」との見通しを示した。しかし、専門家は、米モダンリテールに対し、ボノボスは、特にモール小売という難しい分野について、エクスプレスの抱える多くの問題を解決するには十分でないかもしれないと語った。
ウォルマートはボノボスを6年ほど前に吸収合併し、ボノボスの「すばらしい商品と顧客体験」に言及していた。同社はこの契約とほぼ同時期に、モドクロス(Modcloth)など、eコマース主体のほかの多くの企業を買収していた。しかし、これらの買収の多くは、同社がその後数年間に小売戦略を転換し、中核事業に注力したことで、機能しなくなった。ウォルマートはボノボスを手放す2カ月前、スポーツ用品小売業者のムースジョー(Moosejaw)との関係を打ち切った。
ボノボスは2007年に創設され、男性用のスーツやシャツ、パンツなどのアパレルを販売している。同社は全体的に「高品質の」ブランドだと、ジェーン・ハリ・アンド・アソシエイツ(Jane Hali & Associates)のシニアリサーチアナリストを務めるジェシカ・ラミレス氏は米モダンリテールに語った。同時に、エクスプレスが「長い期間にわたって低迷してきた」ことを考えると、ボノボスの業績はエクスプレスを救済するには十分ではないかもしれないと、同氏は述べている。
若返りのための新戦略
「エクスプレスは長年にわたり、業務が整えられてこなかったブランドだ」と、ラミレス氏は米モダンリテールに語った。「エクスプレスの店舗に行ってみれば、すっかり時代遅れなのがわかる。ウェブサイトも古い。商品自体も古臭い。エクスプレスには全面的な見直しが必要だと思う。どのような意味でも、時代に合った小売業者ではない」。
グローバルデータリテール(GlobalData Retail)のマネージングディレクターを務めるニール・サンダース氏も同意する。同氏は次のように米モダンリテールに語った。「エクスプレスは見過ごされるようなブランドのひとつだ。同社の商品の品質は妥当だが、スタイルに関しては平均的だ。安くはない。それがエクスプレスの問題のひとつだと思う。同社の商品には価格を正当化するだけの強い提案力がない」。
エクスプレスはここ数年、方向転換を試み、特に若い層の買い物客とつながろうとしてきた。新しい戦略の多くは、ソーシャルでより強いプレゼンスを築き上げる、新しいパートナーシップをテストする、オムニチャネルの能力を引き上げる、そしてプロモーションへの依存を減らすことを重視してきた。「当社は常に測定と最適化を行っている」と、エクスプレスのCMOを務めるサラ・テルボ氏は昨年8月に米モダンリテールに語った。「そして、当社はトップオブファネルのブランド構築の投資について、健全なバランスを維持するよう試みている」。
エクスプレスとは「異なる種類のブランド」
エクスプレスとWHPグローバルとの関係が密接になったのは最近のことだ。両社は昨年「戦略的なパートナーシップ」を結び、WHPグローバルはエクスプレスに対する7.4%の形式上の権利と引き換えに、同社に2500万ドル(約33億5000万円)を投資した。また、エクスプレスとWHPグループは「ジョイントベンチャー」も結成し、この評価額は約4億ドル(約536億円)になった。WHPグローバルのポートフォリオには、アンクライン(Anne Klein)やジョーズジーンズ(Joe’s Jeans)も含まれており、過去数年間に小売での影響力を着実に成長させてきた。2020年3月に、購買力が10億ドル(約1340億円)を超えたと、CNBCは報じている。
サンダース氏は米モダンリテールに対し、エクスプレスが一部WHPグローバルの傘下であることを考えると、両社が共同でボノボスとの取引を進めているのは、「やや奇妙だ」と考えていると語った。「正直なところ、エクスプレスにはボノボスに触れてもらいたくない」と、同氏は語る。WHPグローバルの側から見ると、ボノボスは、WHPグローバルのほかの買収、特にメンズウェアについての買収案件のいくつかと一致し、「同社の選択肢を一つ増やすもの」だと付け加えている。
「ボノボスはもう少しカスタムで、よりオーダーメイドに近いという点で、異なった種類のブランドだ」と、同氏は述べる。「ある意味では、海外への展開準備が整っているブランドであり、その線に沿った取り組みが必要だと思う。米国内においては、十分に強力なものではないと思う。しかし、ブランドを成長させる余地はあり、WHPもそれを求めていると思う」。
エクスプレスは今夏、2023年度の第1四半期決算を発表する予定だ。それまでのあいだ、「エクスプレスは、自社の問題について、取り組むべきことがまだたくさんある」と、サンダース氏は述べる。ボノボスの買収は、「多角化という意味で、エクスプレスにとってはよいことだろう。しかし、だからといって自社の中核ブランドを正常な状態に戻すために必要なすべての作業を行わない言い訳にはならない」と、同氏は付け加えている。
[原文:Can Bonobos help get Express out of its rut?]
Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)