ポッドキャスト の ダイナミック広告挿入 、有りか無しか?:懸念を訴えるエージェンシーたち

DIGIDAY

ダイナミック広告挿入(dynamically-inserted ads)が急速にポッドキャスト広告界の常識になりつつあることに、疑問の余地はない。実際、IABのポッドキャスト広告収益レポート2020年度版(IAB 2020 Podcast Advertising Revenue Report)によれば、2020年度のポッドキャスト広告の大半がダイナミック挿入だった。

一部のエージェンシーはしかし、ホストリード広告(host-read ads:番組のホストが読み上げる広告)離れを危惧している。彼らが特に不安視しているのが、ダイナミック広告挿入――ポッドキャストのダウンロードまたはストリーミング時に挿入される広告――への移行に伴い、プログラマティックバイイングが増加し、ほかのデジタルメディアほど広告量が多くないことで知られるメディアを広告で一杯にしてしまう可能性だ。

「10~20分もの広告を押し込むわけにはいかないし(中略)、すべてがダイナミック挿入される録音済広告では、機能しなくなる」と、オーディオ広告エージェンシー、オックスフォード・ロード(Oxford Road)のCEO/創業者ダン・グレンジャー氏は話す。「広告量が増えれば、それだけ金銭的価値が下がる」と氏は言い添える。「1時間に2桁の分数が広告に割かれるようになってしまうと……魅力は消失する」。

ダイナミック広告挿入の利点がこの移行を加速

広告主、バイヤー、巨大メディアネットワークは一様に、ダイナミック広告挿入によるプロセスの自動化、迅速化、簡便化を、そして全般に低価格化を望んでいる。そうなれば、同じクリエイティブのスポット広告を複数の番組に打つことができる。ポッドキャスト界におけるターゲティング能力の成熟はつまり、広告主がリーチしたいオーディエンスおよび地域に関し、より大きな制御力を持てることを意味する。さらに、録音済のスポット広告ならば、長時間を要するポッドキャストホストの承認プロセスを省けるうえ、ホストリード広告中、ホストが果たして期待どおりのことを言ってくれるのかどうか、有料広告主が心配する必要もない。

アイハート(iHeart)は2018年にハウ・スタッフ・ワークス(How Stuff Works)を買収後、ダイナミック広告挿入に完全移行した――しかし、それはダイナミック挿入される広告であっても、ポッドキャストホストがあらかじめ読み、それを録音したものだ。アイハートメディア・デジタル・オーディオ・グループ(iHeartMedia Digital Audio Group)のCEO、コーナル・バーン氏はアイハートの継続的ポッドキャスト収益増の理由に、この移行を挙げる。2021年、アイハートのポッドキャスト収益は前年比148%増の2億5260万ドル(約278億円)だった。

「バーンドイン広告(Burned-in ads)」――バーン氏の言う、ダイナミック挿入ではなく、ポッドキャストファイル内に埋め込まれ、各エピソードのコンテンツの一部となっている、いわゆるベークドイン広告(Baked-in ads)――には「さまざまな限界がある(中略)。オーディエンスのターゲティングができない、クリエイティブの刷新ができない、いわゆるテスト&ラーンもできない」。

ポッドキャストマネタイゼーション&ホスティングプラットフォーム、エーキャスト(Acast)の広告もすべてダイナミックに配信されている――つまり、同社はベークドイン広告を販売していない(小規模のポッドキャスト勢は録音済広告を選ぶ傾向が高い一方、大規模なところはホストリードを好む場合が多い)。オーディオ企業テンダーフットTV(Tenderfoot TV)では、両者の混合が見られる。大半の広告はダイナミック挿入だが、いくつかはベークドインであり、その違いはパートナーおよびプロジェクトによると、テンダーフットTVのオペレーション&パートナーシップ部門を率いるトレイシー・キャプラン氏は話す。また、ポッドキャストネットワーク/制作会社キューコード(QCODE)も、主にコンテンツにベークドインできるブランドスポンサーシップスポットを販売するとともに、ダイナミック挿入の「スポッツ&ドッツ(spots and dots)」広告も扱うと、同社チーフストラテジーオフィサー、スティーヴ・ウィルソン氏は話す。オックスフォード・ロードが扱う顧客の大半はポッドキャストの広告費をダイナミック挿入のホストリード広告に投入していると、グレンジャー氏は語る。

エージェンシー勢は自動化の影響を懸念

ただし、エージェンシーおよびポッドキャストマネタイゼーションプラットフォーム勢は、動画およびデジタルディスプレイの前例があるだけに、ポッドキャストにおけるプログラマティック広告バイイングの増加を懸念していると、米エーキャストの自動化部門トップ、エリー・ディミトロラコス氏は指摘する。自動化は録音済広告の購入を簡便にする一方、CPMの価値を下げ、広告量の増加(そして、品質低下)を招く恐れもある。

「いま現在、この二分化と両者のせめぎ合いが起きている」と、エージェンシーであるヴェリトーン・ワン(Veritone One)のポッドキャストメディア部門VP、ヒラリー・ロス氏は語る。ポッドキャストエコシステムにはこれら全タイプの広告に適所があると氏は確信しているが、ホストリード広告が「絶対的存在」だと語る。氏によれば、「録音済広告の場合、制作のクオリティがすべて同様ではない」し、録音済広告からポッドキャストコンテンツへの「シームレスな統合」の「滑らかな実行」についても、すべてのネットワークおよびパブリッシャーが必ずしもうまく実施できるわけではない。これに対し、ホストリード広告はコンテンツと同じ声で読まれるため、リスナーの邪魔になりにくいと、氏は指摘する。

ヴェリトーン・ワンのポッドキャスト&インフルエンサーマーケティング部門SVPスティープン・スミーク氏は、「台本のある30秒広告」はつまり、ポッドキャストというメディアが広告で溢れ返るラジオの二の舞になりうる可能性を示唆していると警告する。氏はさらに、この潮流の変化は、ポッドキャスターおよび広告主との絆を築いてきた、この業界が長い人々にとっても厳しいものになると、言い添える。「我々は長い時間を費やして関係性を築き上げてきた。いまさらDSPに行ってボタンをクリックはしたくない」。

業界が録音済広告へと傾倒するなか、オックスフォード・ロードのグレンジャー氏はホストリードによるライブリード広告(live-read ad)の死を懸念する。ライブリード、つまり生読み広告は、ポッドキャスト広告においてもっとも価値が高いと氏は確信しているが、その支持率は下がっているという(IABの発表によれば、このタイプの広告がポッドキャスト広告収益に占める割合は2019年が52%だったのに対し、2020年は33%だった)。一方、2020年のニールセン(Nielsen)による調査では、ホストリードポッドキャスト広告のブランドリコールが平均で71%だったのに対し、非ホストリードは62%だった。「ライブリードを救え」と、氏は声を上げる。

この議論はしばらく収まりそうにない。実際、2022年2月第四週にニューヨークシティで開催されたオン・エア・フェスト(On Air Fest)におけるホット・ポッド・サミット(Hot Pod Summit)と2021年9月に開かれたIABのポッドキャスト・アップフロント(Podcast Upfront)でも、活発な意見交換がなされた。

アイハートメディア・デジタル・オーディオ・グループのデジタル収益部門トップ、カーター・ブロカウ氏は、特定の番組では広告量の増加にもかかわらず、CPMの低下は見られていないと指摘する。平均聴取時間とポッドキャスト広告のスキップページ率も変わっていないと、バーン氏も言い添える(後者は10~15%前後を維持していると、氏は語る)。氏によれば、ポッドキャスト業界の広告量が増え過ぎれば、「マーケティング、クリエイター、オーディエンスがすぐさま(中略)エンゲージメントおよび聴取時間の低下を教えてくれるだろうし、そうなれば我々もすぐさま是正する」。

誰もが同意できることがひとつあるとすれば、それは広告量が少ないことで知られるメディアを広告で溢れさせるべきではない、という点だろう。

「ホストリードとライブリードが高いROIを誇るにもかかわらず、録音済の、親密度の低い広告が何十万と入ってきたら、それは確かにかなりの脅威になりうる」と、エーキャストのディミトロラコス氏は指摘する「ただし、ポッドキャストはコンテンツ側に利益を上げさせる、つまり十分なマネタイズをさせ、より多くのユーザーにリーチし、より発見しやすくさせてくれる、という点において非常に平和的なメディアであり、ディスプレイ業界のパブリッシャーが行ったように、セルスルー率ばかりに固執しなければ、リスナー全員の経験(エクスペリエンス)を損なうことなく、目標を達成できるはずだ」。

広告主を惹きつけにくいコンテンツにはサブスクリプションが有効

ポッドキャストのサブスクリプションサービスの拡大も話題となっている。キューコード、テンダーフットTV、エーキャスト、ワンダリー(Wondery)はいずれも、2021年、サブスクリプションサービスを導入した――AppleやSpotifyといった大手も然りだ。

キューコードのサブスクリプションは2021年9月以来、2倍の成長を見せており、キューコードプラス(QCODE+)は現在、20の番組を擁している。一方、ワンダリープラス(Wondery+)は約40の番組とともに登場し、現在は200を越える番組をサブスクリプションサービスの一環として配信している。ペイウォールのなかに8つの番組を抱えるテンダーフットプラス(Tenderfoot+)は、2022年2月第5週~3月第1週に初のデイリーポッドキャストを開始した。

これらサブスクリプションサービスはすべて、非広告のリスニングエクスペリエンスを有料リスナーに提供する。ただ、これは同時に、広告主にはあまり魅力的に映らないコンテンツをポッドキャストクリエイターらが収益化する手段でもある。

エーキャストでは、小規模の独立系ポッドキャスター勢が、宗教系ポッドキャストなど、「大型のスポンサーシップに見合う規模ではない場合に」、サブスクリプションを主な収益源として利用できると、エーキャストのプロダクトマネージャー、ローレン・サープ氏は話す。これはまた、クリエイター勢が配信はしたいが、次の広告周期が来るまで待ちたくはないコンテンツの収益化にも有効となる。テンダーフットTVの新たなデイリー番組『ディス・デイ・イン・クライム(This Day in Crime)』はその一例だ。「我々は準備万端だったが(中略)広告市場はより長いリードタイムを必要とするところだからだ」とキャプラン氏は話す。

このように、リスナーが広告に煩わされることなくポッドキャストを楽しむ選択肢は増えているわけだが、アイハート――おそらく最大手のポッドキャストパブリッシャーのひとつ――はコンテンツ無料の維持について強気の姿勢を崩していない。そして実際、その決断を裏付けるデータもある。世論調査機関ユーゴヴ(YouGov)とバラエティ(Variety)による2021年の調査によれば、今後12カ月間、ポッドキャストへのアクセスにお金を払うまたは寄付する可能性が「非常に」高い、あるいは「まあまあ」高いと回答した者は、わずか16%だった。

[原文:Why podcast agencies are warning about the move to dynamically-inserted ads

Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:猿渡さとみ)

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