パブリッシャーが逆風のなか、成長機会を探る アドテク企業:オープンウェブ社が目指すものは

DIGIDAY

その善し悪しはともかく、アドテク企業のオープンウェブ(OpenWeb)が大きな注目を集めている。

広告収入に頼るパブリッシャーが(そして広告主も)経済的、構造的な逆風にさらされるなか、黒字化未達の企業が1億7000万ドル(約237億1982万円)の資金を調達して彼らを支援しようというのだから、注目されるのも当然だ。

そもそもオープンウェブの考え方は

とはいえ、オープンウェブの考え方は確かに興味をそそる。パブリッシャーが自分たちのプラットフォームで健全な議論と表現の自由を担保しながら、同時にファーストパーティデータを確保するのを支援するというのである。

いまのところ、具体的な方法については明らかにされていない。これまでの事業を見る限り、オープンウェブは基本的にはコメントプラグインで、データを活用しながらアドネットワークの働きに拍車をかける。

もちろん、同社は事業の手をデータマネジメント、ライブブログ、投票などに広げており、これまでとは微妙に異なる部分も確かにある。広告が構造的、経済的に混迷するなかで、それでも投資家の投資欲を焚きつけるのは、その潜在的な可能性であり、さらにいうならその可能性を取り巻くナラティブなのだ。

悪評のなか、予想以上の資金調達

訳が分からない? オープンウェブのCMO、ティファニー・シンユー・ワン氏はちゃんと分かっている。逆張りのようにも見えるだろうと、同氏は認める。そして時期的にそう見えるわけではないともいう。

この1年あまり、オープンウェブの存在意義には疑問符が付けられてきた。それというのも、ネット上の有害行為を撲滅すると謳いながら、うかつにもそのような行為を助長していたからだ。ギズモード(Gizmodo)とアドテク企業の監視役を自任するチェックマイアッズ(Check My Ads)の調査によって、その事実が明かされた。

対策は速やかに講じられた。オープンウェブは調査から2週間ばかりでいくつかのパブリッシャーを排除。間一髪で大惨事は免れ、このまま景気よくいこうといいたいところだが、そうは問屋が卸さない。「よくいえば不透明、悪くいえば詐欺的」といわれるアドテク業界では、悪評はなかなか消えず、今後の展開について、シンユー・ワン氏は現実に即した対応が必要だと考えている。

確かに、不安定な経済情勢のなか、予想以上の資金調達は同社の事業に勝算のありそうなことを示唆している。その反面、昨年11月に資金を注入したばかりだというのに、さらに追加的な資金を確保しなければならなかったともいえる。この事実は、現在の環境下でアドテク事業を経営するのに必要なコストについて、実に多くのことを物語っている。

たとえば、クライアントのオンボーディングひとつをとってもそうだ。オープンウェブとの取引を希望する新規のパブリッシャーは、人工知能(AI)と人間によるチェックを通じて、偽情報やヘイトスピーチと一切関係がないことを確認しなければならない。市場の動向に合わせてこのようなチェックアンドバランスを維持するコストは決して安くない。

品質で線引きされた市場

それでも、市場がめざす方向性を考えれば、それだけの価値があるともいえる。

「応募超過となった今回の資金調達ラウンドは、オープンウェブの事業計画にとって大きな自信につながった」とシンユー・ワン氏は話す。また、同氏は「安全性やデータプライバシーが後付け的な扱いとなりがちな、アドテクがコモディティ化した領域で、パラダイムシフトが起こりつつあることを示すもうひとつのシグナルでもある」という。

それはサードパーティアドレサビリティが制限される世界、明確な品質の線引きにより市場が二分される世界への移行だ。一方では、ファーストパーティデータとユーザーの同意に基づいて、プレミアム広告が売買される。もう一方では、不正の影響を受けやすい、稚拙なターゲティング広告が蔓延する。結果的に、独立系のアドテク企業の大部分は、後者の市場に依存せざるを得ないだろう。

オープンウェブがどちらの市場に居場所を求めるかは明白だ。

短期的には安全性に焦点

期待通りの着地を決めるために、オープンウェブは複数の対策を講じようとしている。ファーストパーティデータの捕捉からエンゲージメント、バリデーションやベリフィケーション、読者の収益化まで、実に広範だ。聞き覚えがある? 確かに。データマネジメントプラットフォームにそっくりではないか。もっとも、シンユー・ワン氏は「コミュニティエンゲージメントプラットフォーム」と呼びたいようではある。

いずれにせよ、オープンウェブが向かう先はほかの多くの企業と変わらない。開かれたウェブを新たなソリューションに導き、閉じられたウォールドガーデンと対等に競争する下地を作る。

短期的には、これは安全性に焦点を当てることを意味する。とくに、パブリッシャーのサイトのコメント欄に発生する表現の自由とヘイトスピーチの境界線を管理するために、より効果的なツールを提供する必要がある。「技術の導入は課題の一部にすぎない」とシンユー・ワン氏は述べる。ヘイトスピーチの定義は流動的であるため、データを進化させる必要があると同氏はいう。このプロセスの一環として、同氏が「トラストタスクフォース」と呼ぶところの組織がオープンウェブ社内に設置された。

「このタスクフォースの指揮を執るのは私だ。法務、ポリシー、プロダクト、営業などの部門から幅広く人を集める」とシンユー・ワン氏は話す。さらに同氏は「その目的は、もっとも効果的なコンテンツモデレーション(投稿監視)ポリシーを策定すること。取引上の利害関係者に限らず、この問題に関して社会的な視点を代表する我々のパートナー企業、たとえばニュースガード(Newsguard)やグローバルディスインフォメーションインデックス(The Global Disinformation Index)、さらには私自身も長年参加している世界経済フォーラム(World Econoic Forum)の『デジタルセーフティのためのグローバル連合(Digital Safey Coalition)』などからも広く意見を聞きたい考えだ」と述べる。

今後の事業計画には2つの追い風も

今年、コメント欄で広告ターゲティングの機会を掘り起こすため、オープンウェブはフランスのアドテク企業のアドユーライク(Adyoulike)を買収した。コンテンツモデレーション機能の進化と連動して、この取り組みも世界的に拡大する予定という。アドユーライクはすでにEMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)地域に進出していることから、この助走期間はそれほど長くは続かないだろう。

今後、オープンウェブがアドユーライクのターゲティングツールを補完するような事業、たとえばセグメンテーションやコホートモデリングのプラットフォームを買収することは十分に考えられる。もちろん、既存の市場でできるかぎり多くの金を稼ぎ出すためだ。このような計画が具体化するのはそう遠い話ではないかもしれない。シンユー・ワン氏はこう説明する。「有機的成長に投資はするが、無機的成長も見逃せない。現在、検討を重ねている最中だ」。

意欲的な計画ではあるが、オープンウェブがめざすモデルに関する限り、その障壁は必ずしも高くない。ブルームバーグメディア(Bloomberg Media)やニュースUK(News U.K.)など、より進歩的なパブリッシャーは、オープンウェブの(少なくとも既存の)機能の自家版をすでに打ち出している。サイト内でオーディエンスを再循環させるような機能であれば、オープンウェブのような企業にも市場を動かす機会があるかもしれない。一方で、ワードプレスで作成した無数のブログで活用される、ロングテールのソリューションで終わる可能性もなきにしもあらずだ。

「オープンウェブの事業計画の中核を成す2つの要素には追い風がある。ひとつはファーストパーティデータだ。GoogleとAppleが規約やポリシーを変更したおかげで、その価値は著しく高まっている」。そう指摘するのは、投資銀行のファーストパーティキャピタル(First Party Capital)で共同経営者に名を連ねるケヴィン・フラッド氏だ。同氏は「2つめは表現の自由と、この自由を健全な環境で実現しようという動き。パブリッシャーはサイト内で発生するユーザーの議論からファーストパーティデータを取得し、これを収益化したいと考えており、オープンウェブの事業の成否は、この試みをいかにうまく支援できるかにかかっている」とも話す。

[原文:OpenWeb eyes growth amid structural and economical turmoil

Seb Joseph(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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