パブリッシャー各社、 ジェネレーティブAI 専門チーム設置を急ぐ

DIGIDAY

パブリッシャーにおける生成型AI技術活用の試みは、これまであくまで非公式でトライアル的な存在であった。それが今では、一部のメディア企業では本格的な導入に焦点が当てられている。

バズフィード(BuzzFeed)、ブリッジタワー・メディア(BridgeTower Media)、フォーブス(Forbes)、インヘニオ(Ingenio)、トラステッド・メディア・ブランズ(Trusted Media Brands、以下TMB)では、それぞれの企業の編集部から技術部門まで、AIプロジェクトに特化した新しいチームが組織されている。

2022年2月に、編集部門の幹部たちは米DIGIDAYの取材に対し、「ニュースルームの社員に、生成AIやチャットボットのChatGPTといった技術に精通し、彼らの仕事が向上するかどうか確認するよう促している」と回答した。

現在、いくつかの企業ではAI主導の実験的事業やプロジェクトをリードするための、正式なチームが組織されている。

AIチームを設立した主な企業の動向

  • バズフィードでは、2022年12月に結成された約12人からなる「ブレーン・トラスト(brain trust)」部門が存在している。広報担当者によれば、これは「非公式」で「流動的」なグループである。このチームには、CEOのジョナ・ペレッティ氏、編集部門のシニアバイスプレジデントであるジェス・プロバス氏、創設編集者であり成長トレンド部門のエグゼクティブディレクターでもあるペギー・ワン氏が含まれる。さらに、機械学習の専門家を含む、技術部門やエンジニアリング部門の代表者も含まれる。
  • ブリッジタワーメディアでは、デジタルプロダクト・マネジメント部門シニア・バイスプレジデントであるデイビッド・サービェ氏が中心となって3月半ばにAI実験とガイドラインに焦点を当てた7人のチームが組織された。
  • フォーブスも3月にAI関連ポリシーについて議論し、ポリシーを確立するための7人のグループを結成した。広報担当者によると、このグループには企業の広報、人事、法務、データプライバシー、編集、サイバーセキュリティチームからの代表者が含まれている。
  • インヘニオは1年前に、AI部門の監督としてグロース・ディレクターであるジェフ・スコウ氏(Geoff Skow)を採用した。ジョシュ・ジャフェ氏(メディア部門プレジデント)によれば、スコウ氏は編集、エンジニアリング、UXデザインの5人のチームと協力して、インヘニオの視聴者を拡大するために生成AIをどのように活用するかを検討している。
  • TMBは、最高技術責任者であるニック・コンタルド氏と最高業務責任者であるキャメロン・セールズ氏が率いる9人のチームを1カ月前に結成した。コンタルド氏によれば、このグループは「当社のほかのリーダーたちと話し合い、彼らが(AIと機械学習)についてどう考え、それがどのように彼らに影響を与え、私たちがそれをどのように活用できるかを聞くために組織された」とのことだ。

多様な職種のマネージャーでチームを形成

コンタルド氏がDIGIDAYに語ったところによると、TMBが設立したタスクフォースは今後6カ月間で投資できるひとつまたは2つの「中規模」AIプロジェクトを検討しており、このタスクフォースは全体的には3つの目的を抱えているという。

部門間でAIについての学びを共有し、どのAI企画をテストするかを決定し、生成型AIと機械学習の使用に関する企業方針を決定するとのことだ。チームは、ビジネス開発、編集、販売およびマーケティングなど、いくつかのチームからのマネージャーで構成されている。

「AIや機械学習を使って従業員を置き換えるようなアプローチは取らない」と同氏は語った。代わりに、特定の業務を効率化し、技術の進歩が読者に対するコンテンツの提示を向上させるかどうかを見ることに焦点を当てる、と彼は付け加えた。

「コスト削減、速度の向上、新製品」

AIの実験事業は「ブリッジタワーメディア全体で自然に湧き出てきた」とサービェ氏は言った。新しいタスクフォースの焦点は、「使用例を特定し、その背後にある構造を整理し、同時にポリシーを構築すること(中略)基本的に、この技術が会社でどのように使用できるかの安全な枠組みを築くことだ」という。

BTMのAIチームのほとんどはマネージャーであり、クリエイティブと制作、SEOおよびウェブ開発、編集、マーケティング、データビジネス、法律顧問部門から参加している。「彼らは、AI機能が実質的な効果を持つ可能性があるビジネスの中核部分の構成員たちだ」と同氏は述べる。

AIの使用に関して、同チームは3つのことに焦点を当てているという。それは、「コスト削減、速度の向上、新製品」だ。具体的には、AIを使ってサードパーティのベンダーを置き換え、企業の運用コストを削減する方法や、より速く、よりよくタスクを実行して生産性を向上させる方法、たとえば記事コンテンツ内における重要なトレンドを強調することでSEOを改善する方法などを検討する。

また、トレンドや大規模なデータセットを分析する製品を作成できるかどうかを確認するためにも、AIツールを使って実験しているという。さらに、「生成型AIの使用に関する品質、安全性、倫理を決定することも役割の一部である」とサービェ氏は言う。

「現在どのようなことができ、どのように使用できるかについて、会社が公式に承認することを検討している。そして、データプライバシーと同様に、関連ポリシーやアクションを継続的に評価・評価する組織の定期的な機能を持つことも検討している」と同氏は言い、「だから法務部も(チーム)にいる。必ずしも(AIを使った結果)違法行為をしてしまうことを懸念しているわけではなく、とくにIPや政府規制の分野で多くの未知の点があるためだ」とした。

AIの導入は必然

しかし、多くのパブリッシャーは、AIを自社内でテストするにあたって、よりオーガニックなアプローチを取っている。ティーム・ホイッスル(Team Whistle)のコンテンツ担当エグゼクティブ・バイスプレジデントであるノア・ワイスマン氏は、「自社でのAI活動を統括しているが、正式なチームは設立されていない。各マネージャーが自分の部門内でテストをリードしている」と述べた。

「タレント部門の責任者と制作部門の責任者では、非常に異なるユースケースがある。しかし、AIの活用自体はイノベーションと戦略の観点から絶対に必要だ」と同氏は言う。「チームリーダーのひとりとして、過去に取り残されないように人々がそれを活用するようにするのが私の仕事だ」。

ガネット(Gannett)にはAIに焦点を当てた専門のグループはないが、同社のプロダクト部門の責任者であるレン・トゥリアーノ氏が、企業全体のマネージャーとともにAI活動を監督していると、広報担当者は話す。たとえば、ガネットの製品レビューサイトであるレビュード(Reviewed)の副社長兼ジェネラルマネージャーであるクリス・ロイド氏は、アフィリエイト収益のためのAIの機会を検討しているという。

懐疑的な声も

ただし、自社のトップが完全にAIを信じきっていても、生成型AI技術がメディア業界の問題に対する解決策となることに完全に納得していないメディア幹部もいる。「私のCEOはAIに驚くほど取り憑かれているが、私自身は完全には納得していない」と、匿名を条件に取材に応じたパブリッシャー幹部のひとりは述べた。

[原文:Publishers create task forces to oversee AI programs

Sara Guaglione(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)

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