広告主はついに Twitter から撤退する理由を手に入れたのか:「舵取り役としてマスク氏を一切信頼できない」

DIGIDAY

マーケターにとっては困難な決断を迫られることの多かった一年だが、Twitterに留まるか引き揚げるかは、これまでで最も簡単な決断となるかもしれない。

ヘイトスピーチと言論の自由との紙一重の境界がますますあいまいになっていく場所で広告を続けていくのか、わずかながらもそこに投じていた資金をよそに持って行くのか。物議の的となっている億万長者イーロン・マスク氏がTwitterの支配権を握って以来、マーケターたちにはこの選択肢が突き付けられていた。よく考えてみれば、選ぶまでもない話なのかもしれない。

「これまで話を聞いたマーケターのほとんどが、10月末から資金を引き揚げている」と語るのは、この件について広告主と会って話をしている広告代理店の上級幹部だ。「率直なところ、コンシューマメディアにおける安全性とブランドの評判を大切にするシニアマーケターにとって、今できる最も合理的な方策はこうした資金に待ったをかけることだろう」。

つまり、Twitterに対する広告主のボイコットは、現在マーケティングで最も無難な一手なのだ。

マスク氏買収という「不確実性」

あるエージェンシー幹部は、米DIGIDAYに話をする承認は得ていないと匿名を条件に、次のように語った。「話を聞いたほとんどのクライアントは何が起こるか、物事がどの方向に進むのか、成り行きを見守っているところだ。この先どうなるかがわからないため、広告主は安全第一を決め込んでいる。方向性がはっきりするまで脇で静観するつもりのようだ。助言を求められれば、当社でもそのように勧めるだろう。だが、クライアントはすでにその構えでいる」。

彼らがすでにその構えでいるのは、マスク氏が最初に買収を提案した4月以来、Twitterの買収が荒れることが遠目にも明らかだったからだ。そして、そのとおりになった。この買収劇では、企業的な目くらまし、ミーム、約束違反、から脅し、内部告発、法的ないざこざなどが後を絶たない。マーケターたちはこのすべての展開を脇から眺め、最初は買収の可能性に心乱され、いったんそれが実現すると心を離し、完全に現実となった今では正式に身を引いている。

その不安定な状況は業績にも反映されている。Twitterの第2四半期決算報告の総売上高は、前年同期比1%減の11.8億ドル(約1652億円)だった。そのうちの10.8億ドル(約1512億円)が、前年同期に比べて若干の伸びを見せた広告売上だった。当時、保留状態にあったマスク氏による買収の「不確実性」が業績に影響しているとされた。

「クライアントと個別に話をしているが、選挙シーズンに目を向けるなかでかなりの動揺が見られる」とメディアモンクス(Media.Monks)のメディア部門グローバル責任者のメリッサ・ワイズハート氏は話す。「一般的に、多くのクライアントがブランドセーフティに関してはかなり守りの姿勢に入っている。ということで、動きを一時停止しているクライアントもあれば、少々様子見モードになっているクライアントもある」。

「心強い発言」の裏側に見えるマスク氏の思考

当然ながらマーケターは戸惑っている。買収によって、先行きが著しく不透明になったからだ。

マスク氏は3つものベンチャー企業を経営できるのか。コンテンツモデレーション評議会はどのようにTwitterを安全な場所にするのか。突飛なマスク氏の舵取りの下で、事業はどの方向に向かうのか。サブスク版のTwitterは、無償版に比べて広告主のオーディエンスの規模と質を低下させることになるのか。マーケターたちはこのような疑問に対する答えを求めている。これまでのところ、答えが次々に返ってくる様子はない。たまに答えを得られても、それをきっかけにもっと疑問が湧いてくる。

たとえばコンテンツモデレーションの問題を考えてみよう。マスク氏をはじめTwitterの代表者たちは、表でも裏でもポリシー変更はないとマーケターに述べてきた。これはたしかに心強いようにも思えるが、マーケター側ではそうとも思えずにいる。思い出してほしい。この「心強い」発言は自称「言論の自由絶対主義者」が発しているのだ。

あるメディアバイヤーは次のように述べている。「Twitterの広告主に対する対応をまとめると『解決するまでじっと待っていてほしい』で、これが現状を物語っている」。

だが、マーケターが待つのにも限度がある。結局のところ、彼らは必ずしもマスク氏を信頼しているわけではない。米DIGIDAYが話を聞いた幹部たちは、その点については明確だった。最低限でも、アプリのコンテンツモデレーション、特にマスク氏が喧伝するコンテンツモデレーション評議会に関連するところについてもっと知りたいという。それがどのようなものであっても、広告主の側には一家言あるだろう。

「おそらく彼らは、マスク氏のやりたいことは何でもやらせるはずだ」とザ・ソーシャル・スタンダード(The Social Standard)の創設者ジェス・フィリップス氏は話す。「うまくいけば文句は言わないだろうし、そうでなければ声を上げるだろう」。

広告主たちの懸念は和らがず

すでに声を上げたマーケターもいる。11月3日に開かれたマスク氏と大手メディアエージェンシーネットワークとのミーティングで、一部のエージェンシー幹部はTwitter新オーナーのマスク氏に対し、次々と変わる計画について彼らがどう思っているのかを歯に衣を着せずに伝えた。別のいい方をすれば、このミーティングで彼らの懸念が和らぐことはなかったともいえる。

「マスク氏が、いくらTwitterが『何でもありの地獄絵図』と化すことはないと宣言しても、広告をすべてなくすことはしないと約束しても、それを信じるに足る理由が広告主側にはない」とイーマーケター(eMarketer)のプリンシパルアナリスト、ジャスミン・エンバーグ氏はいう。現在、マスク氏に対する信頼はない。「過去に他のプラットフォームでこのような問題があったときには、広告主をなだめることのできる人たちが社内にいた。マスク氏はこうした人たちをすべて解雇してしまった。マスク氏自身が広告主のあいだで信頼を築いていかなければならない」。

Twitterから撤退した広告主たちは、Twitterが世界的なデマやヘイトスピーチの舞台とはならない確証をもっと得られるまでは、戻ってこないというのが現実だ。彼らが知りたいのは、コンテンツモデレーションに関するTwitterの新ポリシーの明確な内容であり、何らかのポリシーが確定した際には遵守徹底のための執行策が打ち出されるのかであり、そして何よりも、このポリシーが業界標準と矛盾しないものなのか、である。

「イーロン・マスク氏が評議会を設立して多様な声を聞くと発言したのは承知しているが、彼に対する信頼は一切ない。Twitterの舵取り役として私は彼を一切信頼していない」とソーシャルメディアエージェンシーのザ・ソーシャル・エレメント(The Social Element)のCEOを務めるタマラ・リトルトン氏は話す。同社はクライアントに対し、Twitterでの広告を一時停止して様子を見るように助言している。「コンテンツと行動の両方に関するモデレーションと管理を実際にうまくできなければ、非常に早い段階で『蠅の王』的な状態に陥ってしまうだろう。マスク氏がそれを望んでいるのではないかとすら感じる」。

広告展開に効果的な場所だったが

もちろん、すべてのマーケターがこのように白黒つけた見方をしているわけではない。売り出さなければならない新商品や宣伝しなければならない映画を抱えているマーケターもいる。こうした場合には、Twitterほどその瞬間を大きく拡散できる場所はほぼない。だが、瞬間というのは過ぎていくものだ。瞬間が去れば、広告も消える。

ここにこそ、Twitterの問題がある。カルチャー的な出来事を巡る目まぐるしい動きには最高の場所だが、それ以外はそうでもない。他の多くの企業がTwitterを去ったあとも、マイクロソフト(Microsoft)、パタゴニア(Patagonia)、ユニバーサル・ピクチャーズ(Universal Pictures)といった企業が残っているのもうなずける。キャンペーンが終わったあとも彼らが残り続けるかは、現時点では不明である。いずれにせよ、彼らにとっては、無視するには大きすぎてもそれだけに依存するには小さいソーシャルネットワークで何をしても、リスクは最小限だ。

イーマーケターによると、Twitterの米国での2021年の広告売上は24億ドル(約3360億円)だった。そのほとんどが、ほんの一握りの広告主に由来するもののようだ。広告トラッキング企業パスマティクス(Pathmatics)は、米国のソーシャルネットワークの広告主上位15社が2021年に広告にかけた金額は3384億ドル(約47兆4000億円)だったという。

「当社のメディアチームはクライアントを1社ずつ訪ね、何が適切かを見極めようとしている。だが、そもそもTwitterでの広告はとても少なかったということを忘れてはならない」とエージェンシーネットワークのスタグウェル(Stagwell)の会長兼CEO、マーク・ペン氏は述べた。「Twitterの広告モデルは常に困難を抱えていた。イーロン・マスク氏が広告ではなく、どちらかというとサブスクリプションのほうに向かっているのには、このような理由があるのだと思う。広告展開に最も効果的な場所であったことはなかったからだ」。

Twitterが今後どのような経緯を経るにしても、現在の泥沼状態はマスク氏が大きな影を落とすよりずっと前から存在していたものだ。カルチャー面での幅広い存在感と上質なオーディエンスにもかかわらず、Twitterは収益性の高い広告事業の構築に苦戦してきた。その苦戦は、これからさらに困難な様相を呈している。

[原文:Elon Musk’s Twitter takeover gives advertisers an easy out from the platform

Seb Joseph, Krystal Scanlon, Michael Bürgi(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

Source

タイトルとURLをコピーしました