パブリッシャーの求人、リモート従業員の採用で劇的改善

DIGIDAY

パブリッシャーにとって、リモートワークへのシフトは頭が痛い問題だが、人事への影響については明るい話題となっている。リモートワークの候補者を採用するようになったことで、応募者の数が増え、応募者の多様性も向上したケースもある。

クォーツ(Quartz)、フォーチュン(Fortune)、アクシオス(Axios)といったパブリッシャーでは、ニューヨーク、ワシントンD.C.、サンフランシスコといった従来の拠点をベースとしない従業員の人員を拡大している。3社とも、パンデミック前も比較的分散した形で従業員を雇用していたが、この1年でそれがさらに増加した。

実際、応募人材の開放によって、パブリッシャーはより多くの有色人種を採用し、居住地がネックだがそれ以外の条件は満たしているような社員を見つけることができるようになった。しかし、遠隔地での雇用機会を広げることは多様性の確保につながる一方で、大都市に住む従業員とそうでない従業員の給与を企業がどのように扱うかによって、公平性が損なわれてしまう可能性が生じる。

より大きな網で、より優秀な人材を

クォーツは2020年夏、採用プロセスの改善、応募人材、ひいてはスタッフの多様化を目的とした採用方針変更の一環として、「各地に住むすべての応募者」に採用を開放した。クォーツの最高経営責任者(CEO)であるザック・スワード氏は、「遠隔地に住む者に応募人材を開放したことが、これほど早く、強いインパクトを与えたことはない」と述べている。

「多くの職種に関して、応募者の質と多様性が劇的に向上した」とスワード氏はいう。現在、クォーツの従業員全体に占める有色人種の割合は、2020年の31%から42%に増加し、編集担当の従業員では50%に達している。このような改善は「予想以上に早く起こった」とスワード氏は付け加える。

フォーチュンの副編集長、ブライアン・オキーフ氏は、さまざまな場所にいる人を雇用することで、「うまくいけば、より多くの候補者を確保し、すべての採用活動において優れた候補者を見つけることができる」と述べる。フォーチュンは2021年に入ってから、全社で22人のフルタイム社員を採用した。フォーチュンの人事・人材部門担当シニアバイスプレジデントであるマイク・カイリー氏によると、これらの新規採用者のほぼ半数は有色人種であり、半数はニューヨーク以外の地域で働いているという。同社は最近、アーカンソー州、アラバマ州、バージニア州、ノースカロライナ州に住む人々を採用している。

パンデミックの影響だけではない

採用の幅が広がったのは、パンデミックの影響だけではない。スワード氏とオキーフ氏は、人材確保のための網を広げた理由として、厳しい労働市場と競争の激しいメディア業界を挙げた。

どこでも仕事ができ、どこからでも人を雇えるようにすることに、最初は経営陣が「ためらい」を感じていたという。しかしカイリー氏は、「この人材獲得競争のなかで、特に上級職においては、より柔軟性があったほうが採用しやすい」と述べる。

また、ひとつの募集に対して適性のある応募者を増やすことができるとカイリー氏はいう。たとえば、フォーチュンの求人募集には、これまで50~150人の応募があった。しかし、全国の応募者に求人情報を公開してからは、応募者数が倍になったものもあるという。最近では、クォーツのピープルオペレーション(人事)担当バイスプレジデントの求人に、「本当に適性を備えた」候補者800人の応募があったとスワード氏は述べている。

リモートを認めないことの不利益

カイリー氏は、リモートワーカーを多く採用しないことで「競争上不利になっていた」と語る。「もし、(その仕事は)ニューヨークでしかできないと言ったら、採用できる人を本当に限定してしまうことになる」。メディア企業がある特定の市場で雇用した場合、そのスタッフはその市場のものでしかない、とスワード氏はいう。全国のビジネスマンや製品担当者にとって、自分が住んでいる地域には大きなメディア企業はないかもしれないが、リモートワーカーに仕事を開放することで、その「恣意的な障壁」は取り払われ、メディア関連の仕事がほかの地域でもできるようになる、とスワード氏は話す。

フォーチュンは、パンデミックが起こり、在宅勤務を強いられるようになる数カ月前の2019年末に新しいオフィスをオープンした。カイリー氏によると、従業員が離職し、その地位を埋めなければならなくなった場合でも、フォーチュンではパンデミックが収まったときに、最終的にはこの新オフィスでの勤務を念頭に置いており、ニューヨーク地域に住む応募者をある程度優先させているという。

アクシオスの事情は違う。アクシオスの最高人事責任者、ドミニク・テイラー氏は次のように語る。「採用の際には、我々はリモートでの雇用を行う。オフィスへの出勤をベースにするという役職はない。我々はほとんどの場合、場所にとらわれない」。パンデミック前、アクシオスの従業員は16州に居住していたが、いまは31州に分散している。

アクシオスは今年、オースティン、ナッシュビル、フィラデルフィアなど、8都市でローカルニュースレターを拡大展開している。2021年には、2020年と2019年に採用した人数と同数の約160人を、ビジネスとエディトリアルに均等に分けて採用した。そのうちの約75%は同社での新たな役職であり、今年の従業員数は約400人になるとテイラー氏は述べる。そのうち40%強が有色人種で、これは例年とほぼ同程度だ。

都市と地方における給与調整

応募者層の拡大は、メディア企業が組織の多様性レベルを向上させるのに役立つ一方で、従業員間の公平性レベルに影響を与えるリスクがある。主要都市以外での雇用は、給与に影響を与える。企業によっては、従業員が住んでいる市場によって給与が調整され、生活費の安い地域に住む従業員は給与が低くなることがある。しかし、「そんなに低いわけではない」とカイリー氏はいう。

アクシオスとクォーツでは、従業員がほかの都市に移転する際に給与を調整することはない。しかし、この状態がアクシオスで永遠に続くとは限らない。テイラー氏は、「我々の指針をどうするか、まだ検討しているところだ」と述べ、パンデミックが続いているいま、従業員が移転することで「ペナルティを課すのは得策ではない」と付け加える。ひとつの案として、従業員が住んでいる場所が都市部か郊外か地方かなど、地域に応じた給与の調整が考えられる。

「我々は最高の人材を見つけようとしている。これは、この1年で我々が手に入れた大きな成果のひとつだ」とテイラー氏はいう。「より多くの候補者にアクセスできるようになれば、それに越したことはない」。

[原文:Why publishers say opening up remote hiring has grown and greatly improved the applicant pool

SARA GUAGLIONE(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:小玉明依)

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