「オフィス、在宅、どちらを選んでも待っているのは最悪だ」: オフィス回帰 問題に悩むエージェンシーHR幹部の告白

DIGIDAY

雇用主はいま、オフィス回帰を巡って難しい舵取りを迫られている。従業員を職場に戻す方法を探るなか、彼らは柔軟性という重い選択肢と向き合っている。

その決断はときに、多額の出費を伴う――DIGIDAYが最近報じたとおり、オフィス物件の賃貸契約は社運営費の5%にも上りうる。さらに、来年度の意思決定を左右する経済不安の増大が懸念されるなか、物理的なオフィスを維持するか否かで、場合によっては天と地ほどの差が生じる。

匿名性を保証する代わりに本音を語ってもらうDIGIDAYの告白シリーズ。今回は、多くの雇用主と同じくいわゆるキャッチ22(にっちもさっちもいかない)状況に陥っている、とあるエージェンシーHR幹部に話を聞いた。

なお、明晰性を考慮し、発言は多少編集して短くまとめてある。

◆ ◆ ◆

――社員のオフィス回帰について、現在の移行状況は?

赤ん坊のハイハイで戻っているような状況だ。冗談抜きで、そっと優しく、優しくやっている。たとえば、毎週火曜日は出社するよう社員全員に声をかける際には「ほら、戻っておいでよ、ランチをおごってあげるからさ、さあどうぞ」という感じだ。我々は小さなエージェンシーで、通常オフィスにいるのは10人程度、多くてもせいぜい16、17人。だからオフィスを手放すことにした。

理由はもちろん、いまは維持する意味がないからだ。誰も来たがらないオフィスを借りておくために、そんな高い賃料を払う理由がどこにあるのか? 代わりにコワーキングスペースを試してみようと考えている。

――つまり、コワーキングならば、たまにしか使わない場所を借りておくのに大金を払わなくてもよくなる。これで、オフィス問題は長い目で見ても解決すると?

しばらくはいわばお試し期間だから、まだ何とも言えない。ただし……ここはサービス業界だ。我々にはクライアントがいるし、社員は電話をかけなければいけない。そうなると、そういう営業の電話をかけるために彼らはどこに行けばいい? だだっ広いオープンスペースを借りるのか、それとも狭苦しい会議室をいくつか借りて、社員たちがそこに先を争って入ろうとするのか? どっちにしろ、最悪だ。

――たとえ自宅で仕事ができていても、社員をオフィスに戻したい理由とは?

肩を並べ合い、顔を合わせることがなくなったことで、大事な文化が失われてしまったと、痛感しているからだ。新人や新たな職務に就いた者にとっては、特にそうだ。「あの、これってどうしたら?」と誰かに気軽に訊ねる機会がほぼ完全に失われた。席についている誰かの手元をのぞき込み、その人がいま取り組んでいる仕事をどうしたらうまくできるのか、その場で手ほどきしてやる機会も。オフィスで聞こえてくる会話に耳を傾け、どうしたら皆をうまく導いていけるのかを学ぶことも。社内の違う部署の人々を知ることも。

オフィスに戻って来いと、こちらが強く命じないかぎり、彼らは戻って来ないんじゃないかと実際不安を感じている。ただおそらく、その場合かなりの数の社員を失うことになる。いまはまるで、囚われの身の気分だ。どこにも正解はない。ただ個人的には、週に2日オフィスに戻って来てもらうのが理不尽な要求だとは思わない。

もしもそれで辞めるというなら、どうぞご自由に。あなたはどのみちここにいるべきじゃない、という感じだ。

――まさしくキャッチ22(にっちもさっちもいかない)だと?

そのとおり。しかも「それで、通勤にかかる金は払ってくれるのか?」なんて訊いてくる従業員もいる。駐車代とか、電車賃とか、それはそれでまた別の大きな問題だ。完全にオフィスに戻るよう、社員に命じているエージェンシーがあるのは知っている。そのせいで、社員の頭数が減ってしまったところがあるのも。正直、正解がわからない。自宅でのほうが生産性は上がると言う人もいる、だけどずっと自宅にいるせいで燃え尽き症候群が起きた事例があるのも私は知っている。

ここはクリエイティブな業界だ。一日中、何度もビデオ通話をくり返していれば――しかも、すべてがきっちりスケジュールどおりに行なわれるわけだから――誰だって燃え尽きた気になる。面倒な通勤はしなくて済むのは確かだ。でもいまや、毎朝きっちり8時にログインし、夕方6時までPCの前から離れられないというまさにぶっ通しのスケジュールだ。これまでは当たり前にあった休憩的な時間がいっさいない。通勤もしなければ、外出もしないし、コーヒーでも飲もうとちょっと出ることもなければ、同僚たちと連れだってランチに行くこともないし、ハッピーアワーに軽く一杯、なんてこともない。そういう、一日にいわば区切りを付けることが何もないのだ。

――もう一度オフィススペースで一緒に仕事したいと思わせるようなアピール方法はないのか?

誰もオフィスに来ようとしないのに、そこを手放すと発表した途端、「ちょっと待って、僕らの行き場所がこの先どこにもなくなるじゃないか」なんて言いだす人もいる。結局、彼らは何もかもが欲しいわけだ。たとえば、1年に1回しか帰ってないのに親が実家を売ると聞いて、「えっ、ちょっと待って」と急に言いだすのと同じ。非常に身勝手だ。

――オフィスで働きたい人と在宅で働きたい人両方受け入れなければならない。そんな板挟み状態を従業員にも理解して欲しいと?

オフィスを借りて通勤手当を出すことがどれだけの経費になるのか、従業員がそこを理解してくれたら、どんなにありがたいか。オフィスの維持には、とにかくお金がかかる。多くの企業が、金融機関や、それこそ広大な平米数のオフィスを構える巨大企業が従業員に再び出社を強要する理由は、十二分に理解できる。賃貸契約期間はときに10年や20年にも及ぶだろう。

実際、我々もしばらくは契約に縛られて身動きが取れなかったし、維持するしか、休みなく払い続けるしかなかった。しかも、コロナ禍の初期に賃料の値上げまでされた。不動産屋は血も涙もない。だから、その経費がどれくらい膨らむものなのか、従業員にわかってもらえたら、とは思う。誰も来ないのに、なくなったら寂しいというだけのスペースのために高い金を払い続けるのは、正直馬鹿げている。

[原文:‘The worst of both worlds’: Confessions of an agency HR exec on the push and pull of returning to the office

Kristina Monllos(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

Source

タイトルとURLをコピーしました