「Lemon8(レモンエイト)」と言われてピンとくる人はおそらくいないでしょう。同社は中国のIT企業バイトダンス(ByteDance)の子会社で、インスタグラムのような写真・動画共有SNSです。
2020年に日本でローンチしてからというもの鳴かず飛ばずの状態が続いてきましたが、耳目を集める日も遠くないかもしれません。Lemon8が2023年中に米国で正式にローンチする予定だからです。
そんな話は聞いていない? DIGIDAYがしっかりとフォローしているので安心してください。それでは、SNSアプリLemon8の内部事情、マーケターにとっての意義、TikTokの独壇場にどうやって食い込むのかなど、さまざまな情報をお伝えしましょう。
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――そもそもLemon8とは?
Lemon8によると、「若者コミュニティ向けコンテンツシェアリングプラットフォーム」で、ユーザーは「美しさ、信ぴょう性、多様性に富むコンテンツ」を発見できるとか。
Z世代のオーディエンスにとって、インスタグラムとピンタレスト(Pinterest)が合体したようなものだと思えばいいでしょう。インスタグラムで目にするような洗練された写真が並び、ピンタレストのように製品別やカテゴリー別なのが特徴です。そこに、ファッションや食べ物などライフスタイルに関するさまざまな話題が加わるので、類似のSNSプラットフォートとは一線を画しています。Lemon8はインスタグラムとピンタレスト両方の世界(というか両方のアプリ)のいいとこどりをしてきたともいえるかもしれません。
さらに、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)の3月29日付の記事によると、Lemon8はTikTokと同じアルゴリズムを使っているようで、3月にはバイトダンスがLemon8の件で数多くのクリエイターに連絡を取ったそうです。記事では、Lemon8に使用されているのはTikTokと同じ「レコメンドエンジン」であるとバイトダンスが明らかにしています。このエンジンはどのSNSも決して真似できないものであり、TikTokのストリートが一目置かれたゆえんでもあります。
――聞いている限りはTikTokの話のようだが、Lemon8の特徴はどこにあるのでしょう?
米DIGIDAYが話を聞いたマーケターは口々に、少なくとも現時点でLemon8はクリエイター優先で対応しているようだと話しています――とはいえ、インフルエンサーが増えすぎて、「何でもあり」の状態になるようでは、やりすぎかもしれないですが。
TikTok人気ユーザーも、パッション・ウィリエムズ氏(@passionwilliems)やナターシャ・マシュレント氏(@natashascloset)、ガブリエル・ビクター氏(@gabivictorr)をはじめとするクリエイターたちが、この1週間でこぞってLemon8に加わり、先駆者になろうとしています。3人はLemon8で、すでにそれぞれ2011人、807人、186人のフォロワーを得ています。
しかしながら、Lemon8にはクリエイターのコンテンツが豊富にあるにもかかわらず、はっきりした収益化の道筋が見えないようで。これはおそらく、主力のインフルエンサーがLemon8にまだ飛びついていないからでしょう。
Lemon8のサービスが2020年3月には開始していることを考えると、いまだにクリエイターの収益方法が確立されていないというのは驚きに値すする――そう話すのはモバイルマーケティング企業アップトピア(Apptopia)です。同社はLemon8がApp StoreとGoogle Play Storeの両方でローンチした時期を引き合いにだしました。Lemon8はもともとSharee(シェアリー)でしたが、その後、中国アプリ小紅書(Red/シャオホンスウ)の国際版としてローンチした。ちょうどTikTokが中国版抖音(Douyin/ドウイン)のグローバル版なのと同じ体裁です。
しかしLemon8は2020年以降、日本、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム、マレーシア、シンガポールなどアジア市場で拡大してきました。
――なるほど……。それではマーケターはLemon8をどのように捉えているのでしょうか?
Lemon8をよく知っているマーケターのあいだでは関心は高いと言えます。それに、まだ知らない人はこれから知ることになるでしょう。マーケターというのは常に、成長著しいプラットフォームがないか注視しているからです。しかしながら、いまLemon8を見極めようとしているマーケターなら、大きな予算を注ぎ込む前にスケーラビリティがあるのか確認したいに違いありません。
もっと具体的にいうなら、このアプリの勢いがどのくらいあるのか、はたして次のTikTokや次のクラブハウスになる可能性があるのか知りたいはず。これまでのところ、Lemon8のユーザー数は伸びている。アップトピアのデータによると、この6カ月のダウンロード数は世界全体で630万件に及びます。また、この2月には米国で試験的にサービスを開始していますが、それ以降すでに25万6000件のダウンロードを記録しています。
これだけ急激に数字を伸ばしているので、TikTokのCEO周受資(ショウ・ジ・チュウ)氏が米連邦議会の公聴会で証言をした翌週に、Lemon8がApp Storeのトップ10で米国ライフスタイルアプリの1位にランキングされたのも当然でしょう(ただし、公聴会ではLemon8についてまったく触れていなかったので、このタイミングで1位になったのはおそらく偶然だと思われます)。これだけ評価が高ければ、マーケターの間で関心が高まるのも無理はありません。米DIGIDAYも5社のマーケターに話を聞いたが、Lemon8は確実に彼らの心をとらえていました。
たとえばMMIエージェンシー(MMI Agency)は現在、Lemon8の調査中で、顧客に紹介する前に実際にLemon8を利用して感触をつかみたいと考えています。「当社のチームは、Lemon8を利用しているインフルエンサーなら誰であれ、消費者が意欲的なのか、どのようなエンゲージメントが構築されているのか、状況を把握している」と同社コミュニケーション責任者のジョーダン・ロバック氏は話す。「私たちは常に、次にくるプラットフォームを探している。担当する顧客の目標のどれかひとつでも達成できるのかが重要だ」。
しかしながら、広告主としては探索モードであっても、ブランドは依然として尻込みしているようです。
たとえばエージェンシーのムーバーズ・アンド・シェイカーズ(Movers+Shakers)を見てみましょう。新しいSNSの噂を聞きつけると真っ先に利用することが多い同社の場合、創業者でCEOのエバン・ホロウィッツ氏は、一部の顧客とLemon8を調べているが(具体的な社名は出していない)、まだ1社も利用していないといいます。
マーケターがLemon8に多額の予算を注ぎ込むのは時期尚早であるのはさておき、Lemon8とバイトダンスの関係も当然ながら、躊躇の原因になっています。
――実際のところ、TikTokとの結びつきは大きいんですか?
TikTokのCEOが米議会の公聴会で激しい追及を受けてから数週間が経ち、Lemon8とTikTokの結びつきは間違いなく大きくなっているものの、多くの人にはまだよく解明されていません。バイトダンスのウェブサイトにはLemon8の記載はなく、Lemon8のウェブサイトにもバイトダンスの記載はないのです。
その代わり、シンガポール法人の登記簿台帳によると、Lemon8はシンガポールに本社を持つ民間企業ヘリオフィリア(Heliophilia。2022年5月25日に法人化)を親会社として登記されています。
同じ台帳には、ヘリオフィリアの所在地は「1 Raffles Quay, #26-10, Postal 048583」と記載されており、これはTikTokのシンガポール現地事務所とまったく同じ住所です。さらに、ロイター(Reuters)が2022年、Lemon8はバイトダンスの製品および戦略担当シニアバイスプレジデントで、TikTok元CEOでもある朱駿(アレックス・チュー)氏が管理していると報道しました。
そのため、一見、バイトダンスとLemon8の間にはデジタルリンクがほとんどない、もしくはまったくないように見えるものの、バイトダンスとLemon8のつながりは容易に見抜けるでしょう(それに、TikTokが疑惑の目で厳しい追及を受けている最中であることを考えると、陪審団は現在も、2022年の登記の動きがLemon8とバイトダンスやTikTokなどとの距離を置くための新しい戦略の一環なのではないかと注視しているようです)。
たとえば、バイトダンスは2023年3月に数多くのクリエイターと接触し、正式に米国でビジネスを展開する前に、新しいプラットフォームLemon8の立ち上げにクリエイターとして参加しないかと声をかけています。また、その際の触れ込みとして、親会社が同じTikTokが成功していることにも言及しています。
それだけでなく、LinkedIn(リンクトイン)にアカウントを持つLemon8の従業員は多くの人が、バイトダンスやTikTok、あるいはその両方の元社員である、もしくは、「TikTokと同じグループ会社のブランド」のローンチにあたり、配置転換でLemon8に入ることになったと書いているのです。
要するに、TikTokとのつながりは少し調べれば明らかで、ただバイトダンスが公式に発表していないだけなのです。
――ブランドは今後どのような動きを見せるのでしょうか。
TikTokの判決が公式に発表されない限り、ブランドが様子見を続けるのは当然でしょう。MMIの顧客もLemon8との契約には二の足を踏んでいます。
こうした見解を持つエージェンシーはMMIだけではありません。インフルエンサー・マーケティング企業リンキア(Linqia)の戦略担当バイスプレジデントであるキース・ベンデス氏はこう話します。「TikTok禁止の傾向が強まるにつれ、ブランドの懸念は強くなり、親会社が同じ新しいアプリを採用するよりも今後事態がどのように展開するのか見守ろうと考える」。
確かに、登場したばかりのプラットフォームに飛びつくのは勇気がいるうえ、Lemon8の親会社はバイトダンスです。それに、議会が今後のTikTokをどうするのか決めない限り、マーケターは慎重な態度を崩さないでしょう。
「TikTokに予算を回すかどうか慎重な広告主が、米国市場から締め出される可能性のあるアプリでオーディエンスを再構築するリスクをとることはないだろう」。そう話すのは、Z2Cリミテッド(Z2C Limited)の広報責任者ババール・ジャベド氏です。「バイトダンスのすべてのアプリが外されるのか、それとも、クリティカルマスに達して、アルファベット(Alphabet)とメタ(Meta)の2大巨頭を脅かすアプリだけが外されるのかはまだわからない」。
――つまり、Lemon8をTikTokの「代替」とすることはできない?
いまや、TikTokの従業員とバイトダンスの従業員が深くつながっているということはマーケターの常識になりつつあります。また、Lemon8が北京に本社がある親会社のアプリであることを考えると、バイトダンスと中国政府のつながりに関連して、どこかの段階でTikTokと同様の追及を受けないとも限りません。
「資金源も同じで、ソースコードもワイヤーフレームも変わらないとなれば、Lemon8はヒツジの皮をかぶったオオカミだ」とジャベド氏。
そうなると、バイトダンスが、Lemon8を単に次の目玉プロジェクトとして展開するよりも、議会の追及をかわしながら何とか進めようとしているように見えるのも理解できます。米国のITプラットフォームにおけるバイトダンスの影響を弱めようとする動きが見られてもおかしくないのだから。つまり、米国の議員がこのところバイトダンスを目の敵にしているのを考えると、Lemon8は代替案とはいえません。
とはいえ、バイトダンスがLemon8を利用してリスクを分散したくなる気持ちもよくわかります。これまでのところ、米国政府の追求は中国企業を親会社に持つ企業全体におよんではおらず、TikTokに限定したものだとリンキアのベンデス氏は指摘します。「それはつまり、バイトダンスの勢力が米国内の各方面で強くなれば強くなるほど、TikTok禁止の実現は政府にとって好ましいものになる」。
[原文:What marketers need to know about ByteDance-owned Lemon8 — and its link to TikTok]
Krystal Scanlon(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)