「未来はよりローカルでソーシャルになる」:食料品店の店内に「サードスペース」が増えている理由

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食料品店はもはや、必需品を買い求めるだけの場所ではなくなった。食料品店のなかには、店舗内に、地域の人々が集い、交流するための専用スペースを設けるようになってきており、この空間はしばしば「サードスペース(第3の空間)」と呼ばれている。

10月18日にウィスコンシン州にオープンしたハイビー(Hy-Vee)の新店舗は約10万5000平方フィート(約9750平方メートル)の面積を持ち、朝食メニューを充実させたパブ、32種類のサーバーを備えた完全着席バー、屋外パティオなどがある。これに対して6月にオープンしたホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)がニューヨーク市にオープンした店舗は、ワインや、スナック、180種類のクラフトビールを提供するバーや、フルサービスのコーヒーバーを併設している。

店舗内にコミュニティの集会場所(サードスペース)を設けるという考えは新しいものではないが、より多くの買い物客を引き寄せて利ざやを増やすため、店舗にこの機能を設ける食料品店は増え続けている。一部の食料品店はエクスペリエンスに傾倒する一方で、ほかの業者は地域コミュニティに特化した機能を追加しようとしている。

食料品店は買い物客により長く滞在してもらえるよう動機づけを模索

食料品店舗のサードスペースは、バー、コーヒーショップ、さらには高級フードホールなどを提供している。これらは、いずれも買い物客が対話するための専用の領域であり、買い物客がそのコミュニティの一部であることを示すものだと、カンター(Kantar)のシニアソートリーダーを務めるバリー・トーマス氏は語る。こうしたコミュニティ形成のためのスペースが、ファーマーズマーケットがさまざまな地域コミュニティのあいだで人気を博している理由の一部だと同氏は述べている。

食料品店にバーやレストランを設置する戦略は、パンデミックがはじまる直前にけん引力を持ちはじめた。その後、小売業者が店舗内でソーシャルディスタンスを気にするようになったことで、この戦略は人気を失った。消費者がソーシャルな場面に再度参加するようになるにつれ、この戦略も再び活気を帯びるようになってきた。

「コミュニティの集いのために専用のコミュニティ・ハブを作れば、買い物客やそのコミュニティに対して、自社が深く関与しているという非常に強いメッセージになる」と、トーマス氏は述べている。一部の人々はパンデミックのあとも多くの時間を自宅で費やしているため、ローカルなものとのつながりを増やすようになってきた。

地元企業とのコラボレーション

食料品店によっては、買い物客にアピールするために、地元の企業と協力することもある。たとえば、ホールフーズのニューヨーク市店舗におけるビールの品揃えは、タレア・ビール・コーポレーション(Talea Beer Co)のサンアップ・ヘイジー・アイピーエー(Sun Up Hazy IPA)や、バリアーブルーイング(Barrier Brewing)のマネー・アイピーエー(Money IPA)などのローカル商品が含まれている。マンハッタンにある別のホールフーズの店舗では、ニューヨーク市のランドマークであるザ・ハイ・ライン(The High Line)に直結しているバーや休憩所がある。また、マンハッタンのホールフーズの店舗は、精肉店や作業員が食品の準備をする様子を買い物客が見物できるように設計されている。

「すべてのテーブル、ケース、ペイントの色など、すべて手作業で厳選した。ザ・ハイ・ラインのすぐそばにあるハドソンヤードのコミュニティに美しく収まるよう、すべてが非常に思慮深く、戦略的にデザインされている」と、ホールフーズの北東地域プレジデントを務めるニコル・ウェスコー氏はグロッサリーダイブ(Grocery Dive)に語った。

食料品チェーン店のスプラウツ・ファーマーズ・マーケット(Sprouts Farmers Market)は、現地のコーヒー会社のプレスコーヒー(Press Coffee)とのパートナーシップにより、フェニックスの店舗内にコーヒーショップを開設すると、10月に発表した。一方でオーガニック食品店のナチュラルグローサーズ(Natural Grocers)は、セミナー、調理デモンストレーション、ヘルスフェアなどのイベントを店舗内で定期的に開催する。

日常の買い物を楽しみに変える、新しいアプローチ

オンラインの食料品配達やカーブサイドでの受け取りが一般的になってきた状況で、小売業者は顧客が店舗を訪問するための理由を作り出そうとしていると、マーケティング企業ベリキャスト(Vericast)で食料品チャネルに特化したクライアント戦略ディレクターを務めるジュリー・カンパニー氏は語る。このような店舗の新機能により、消費者にとって食料品のショッピングが楽しみなものになり得ると、同氏は述べている。

同氏は次のように述べている。「これは、多くの買い物客が楽しんではいない、日常的で定期的な食料品のショッピングに対する新しいアプローチだ。あえて言うなら必要悪だ」。

食料品店は多くの場合に利ざやが小さいと、ガートナーのディレクターアナリストを務めるブラッド・ジャシンスキー氏は語る。このため、必需品以外の食料品を提供することで、顧客に対して店舗に長く滞在するよう働きかけることができるとともに、消費者がより多くの金額を消費することを期待できる。

スペースへの投資・活用はますます増える

飲食店やたまり場とは別に、独自の体験に多くの投資を行っている小売業者もいる。スーパーマーケットチェーンのエイチイービー(H-E-B)は、テキサス州オースティンのサウスコングレスにある店舗に、屋内と屋外にダイニング用の座席を完備した、ライブパフォーマンス用の屋外ステージの建設することを計画している。このステージでは、ライブのデモンストレーションやサンプリングも行われる。この店舗に関する発表で、エイチイービーはこの新しい施設は、店舗を「コミュニティが集う場所」にすることをめざしたものだと語った。

しかし、店舗の広い面積をコミュニティの集会に割り当てることは、特に必要な初期投資と要員を考えた場合、正当化することが難しいかもしれないと、ジャシンスキー氏は語っている。ハイビーは、同社がウィスコンシンの新しい店舗とそれに付随するコンビニエンスストアにおいて、コミュニティのための建物、内装、在庫に3300万ドル(約48億8000万円)以上を「投資」したと説明している。同社は、この店舗のために現地で500人を採用することになると述べている。

「これらは、従来型の食料品小売店の運用とは大きく異なっている」と、ジャシンスキー氏は述べる。食料品店は、「適切なチームを配置し、店舗のデザインやレイアウトを適切に行い、トラフィックを食料品店と競合しないようたしかめておく必要がある」という。

専門家は、スペースを活用するさまざまな方法を探求する食料品店が増え続けると予測している。そして一部の食料品店は、どのような場所が、こうした種類のコミュニティ空間に適しているかを特定しはじめるかもしれないと語っている。

カンターのトーマス氏は次のように述べている。「店舗の未来はよりローカルで、よりソーシャルなものになると私は考えている。これらはある意味、両立するものだ」。

[原文:‘The future is more local and it is more social’: Why Grocers are developing third spaces in stores]

MARIA MONTEROS(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
H-E-B

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