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中国・四川風アジアのソースブランド、フライバイジン(Fly by Jing)は3月、自社のインスタグラムのフォロワーにホットなゴシップ話を提供した。
同社は、2021年後半に発売したダンプリングの商品ラインを廃止することを発表したのだ。同社はこのニュースをセリブリティの破局のように扱い、あるインスタグラム投稿で、同社がそのダンプリング商品との「意識的なお別れをした」と記載した。これは、多くのD2Cブランドが毎日迫られる決断、すなわち、「商品の販売を終了する適切な時期はいつか」を発表するクリエイティブな方法だった。
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新商品の発売は、表面的には、ブランドが収益を上げるための自然な方法のように思える。しかし、ひとつ間違えば多くの損失を招く試みだ。オールバーズ(Allbirds)は第3四半期の決算発表で、一部のアパレルのカテゴリーからの撤退を模索した結果、1270万ドル(約16億9000万円)の評価損を計上すると発表した。米モダンリテールの取材に応じた創業者たちは、商品の販売を終了するかどうかの判断は、主力商品と比べて、その商品にどれだけの需要があるのか、そして、その在庫に対して全体でどれだけの資金を投入する必要があるかという計算に帰結することが多いと語った。
リソースの集中
「新興企業の場合、リソース、時間、資金は限られている」と、デオドラントブランドのキュリー(Curie)の創業者であるセアラ・モレ氏は言う。
フライバイジンの創業者であるジン・ガオ氏は、同社が昨年後半、ダンプリングの販売を終了する決定を行ったことを、米モダンリテールに語った。「ソース事業が急速に成長しているのを見ると、2つのまったく異なる事業にリソースを分散させるよりも、中核事業に集中した方が合理的だと判断した」と、同氏はメールに記した。
デュードワイプス(Dude Wipes)の共同創業者であるショーン・ライリー氏は、新興企業の創業者は、その性質上クリエイティブであることを望み、多くの新事業に手を出すが、「あまりにも多くのことに挑戦してしまう」ことがあると、同氏は述べている。
デュードワイプスの場合、2019年頃にボディーウォッシュやデオドラントに事業を拡大したことが失敗だったと、同氏は述べている。
「我々は、人々がデュードのブランドを愛していて、デュードワイプスが好評だということがわかっていた」と同氏は述べる。「そこで、男性向けグルーミングのカテゴリーで、ほかの商品も作れないだろうかと考えた」。
問題は、2020年にトイレットペーパーが入手しにくくなったことから、同社のトイレに流せるウェットティッシュの需要が爆発的に伸びたことだった。
「大勢の人が、当社にあるデュードワイプスを買い占めていった。我々が製造できる量を超えていた」と、ライリー氏は語る。これに対して、同社はボディーウォッシュとデオドラントの販売を終了し、ウェットティッシュに特化することを決定したが、このプロセスは12カ月以上を要した。
ライリー氏は、全体としてあまりにも多くのD2Cブランドが、新しいカテゴリーへの進出が早すぎるという。同氏はデュードワイプスが、トイレットペーパーのカテゴリーに属するとみている。同氏によれば、このカテゴリーは約130億ドル(約1兆7300億円)に相当する。現在デュードワイプスがその市場に占める割合は1%未満で、同社の2022年の小売売上高は1億ドル(133億円)をわずかに上回ったに過ぎなかった。
そのため、デュードワイプスが、次の目標を立てる際、新しいカテゴリーで成長を試みるよりも、トイレットペーパーの売上において2%をめざすほうが有意義だと、同氏は考えている。今後同社が新商品を発売するなら、同社の主力商品と密接に結び付いた商品にすると、同氏は言う。たとえば同社は最近、トイレに流せる自社のウェットティッシュ用をトイレに置くためのホルダーを発売した。
新商品が主力商品の売上を超えた場合
企業が商品の販売を終了する理由は、それが不発に終わったからとは限らない。むしろ、コアな顧客のニーズを満たせなくなったという理由が多い。
たとえばキュリーのモレ氏は、自社が2020年、コロナウイルスのパンデミック以前から取り組んでいた手指消毒剤を発売したところ、もっとも売れている商品になったという。しかし、2022年になって手指消毒剤の需要は減少し、同社の売上額全体の約5%程度にすぎなくなってしまった。
そのため、同社が昨年、手指消毒剤の販売終了を決めたのは比較的容易な決断だった。しかし、モレ氏は、同商品の販売再開を求める顧客からのメールが、今でも毎週のように届くと言う。しかし、手指消毒剤の販売を終了したことで、より多くの資金を、自社の象徴的な商品であるデオドラントの新しい香りを開発するために投資できるようになった。
ほかの事例として、いくつかの新興企業では、新商品が主力商品の売上を超えた例がある。
オーガニックな機能性食品であるスパークリングソーダを販売するルビー(Ruby)は、3月初め、オリジナル商品である炭酸入りでないハイビスカス(Hibiscus)飲料を廃止し、炭酸飲料に特化すると発表した。
創業者のノア・ブンシュ氏は、自宅のキッチンで調合したさまざまな低糖質飲料を試した後、2021年にルビーを創設したという。同氏はホワイトスペースとして、ハイビスカス入り飲料に落ち着いた。
ルビーは昨年、ハイビスカス入り炭酸飲料を数種類発売することを決定した。しかし、炭酸飲料の売上が、「極めて急速に」炭酸入りでない飲料の売上を超え、それが、元の商品ラインを打ち切る大きな理由になったと、ブンシュ氏は述べている。
しかし、同社の決定をさらに後押ししたのは、顧客からのフィードバックだったと同氏は述べている。
「店頭で、炭酸入りでない飲料のデモやサンプル配布を行っていたときの反応で多かったのが、よい飲み物だが、炭酸が入っていればもっと美味しいだろうに、というものだった」。
成長のためのもっとも効果的な方法
ブランドが商品の販売終了を決めても、その商品を正式に市場から引き払うまでには数カ月を要する可能性がある。卸売パートナーが通知を受けた後も、既存の商品を売り切り、ウェブサイトのコピーを更新し、ソーシャルメディアで旧商品のプロモーションを止め、そして最後に顧客に発表しなければならない。
フライバイジンは、インスタグラムでダンプリングの販売中止を宣伝することにした。「ダンプリングとのお別れを嘆く代わりに、成功を祝う」という変わった方法をとることにしたと、ガオ氏は述べている。
全体として、フライバイジンがダンプリングの発売から得た教訓は、「特定の分野に集中し、光り輝くチャンスにノーと言うのは難しい場合もあるが、そうした集中こそが、成長のためのもっとも効果的な方法だ」と、ガオ氏は述べている。
[原文:DTC Briefing: 4 founders on when is the right time to discontinue a product]
Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)