「一番大切なのは ゲームコミュニティ のアイデンティティだ」:ワントゥルーキング ザッカリー・ディアス氏、ウィリス・ウィギン氏、ティップス・アウト氏

DIGIDAY

eスポーツ企業に役員やオーナーとして在籍するクリエイターと、組織の意思決定において彼らが振るう権能には、近年ことさらに厳しい視線が向けられるようになっている。しかし、経営に参画する現役クリエイターが世間的に大きな脚光を浴びなければ、こうした企業の価値評価がここまで高騰することはなかっただろう。

ゲーム企業を自認するワントゥルーキング(One True King:OTK)もそうした企業のひとつだが、彼らは目下、クリエイターオーナーと実務出身の従来的な幹部たちとの二極化解消という、針に糸を通すような繊細で難しい課題に取り組んでいる。

2020年10月の創業当初から、クリエイターが組織運営に関わることはOTKのDNAであるという。同社のオーナー名簿には、いまも新たなクリエイターが継続的に追加されている。彼らクリエイターオーナーは、昨年のストリーマーアワードで「最優秀コンテンツ企業賞」を同社にもたらすなど、OTKの成長を牽引する立役者だ。データプラットフォームのGEEIQによると、2022年6月にゲーミングデバイスメーカーのレイザー(Razer)とブランド提携し、ソーシャルメディアの総フォロー数は170万人に達するという。

米DIGIDAYは、企業経営において現役クリエイターと実務出身の幹部を連携させるというOTKの方針について詳しく知るため、同社の最高戦略責任者のザッカリー・ディアス氏、営業および提携担当バイスプレジデントのウィリス・ウィギン氏、クリエイターオーナーでCOOを兼務するティップス・アウト氏という3人のOTK首脳陣に取材した。

なお、インタビューの内容は、読みやすさを考慮して要約および編集し、各氏のコメントにはDIGIDAYの解説を付記した。

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――eスポーツ企業ではなく、「ゲーム企業」を名乗るのはなぜか?

ティップス・アウト氏:最大の理由は、我々が競技チームを持たないことだ。もっとも、正しく表現するならOTKはメディア企業だ。我々の仕事はゲームをこよなく愛する人々や、ゲームに関心を抱く人々に最善を尽くして最高のコンテンツを提供することにほかならない。OTKはeスポーツチームではない。ワーナーブラザーズ(Warner Brothers)やユニバーサル(Universal)、あるいはNBCなどのメディア企業がeスポーツチームでないのと同じだ。

我々の業界では、もともと「eスポーツ団体」発祥の組織が多く、その点でいえばOTKは少々異質かもしれない。この分野にあまり詳しくない人々にとっては、混乱するのもよく分かる。端的にいえば、我々はeスポーツチームを持たないし、近い将来にその方向に進む予定もない。

DD:実は、OTKはかつて「ワールド・オブ・ウォークラフト(WoW)」のチームを結成していたが、2021年以降は競技ゲーム関連のビジネスには関与していない。ティップス氏ははっきりそうとは言わないが、業界内には競技ゲームの役割に対する漠とした疑念があり、eスポーツとは一線を画するというOTKの決定は、この疑念を反映するものであるようだ。eスポーツに対する投資家たちの信頼もすっかり失われた。彼らはもはや、純粋なeスポーツ団体に収益を生む力があるとは考えていない。

結果的に、こうした組織は代替的な収入源を求めて、コンテンツ制作などの事業の多角化を進めるようになった。

ある意味、今日の主要なeスポーツ団体あるいは企業を見る限り、どちらかといえば「ゲーム企業」の呼び名がふさわしい。このネーミングはOTKにとっては好都合だ。eスポーツはいわばゲーム業界の脇腹にできた小さな腫瘍である。そしてOTKは腫瘍ではなく、宿主とつながることを選んだともいえる。

――OTKのブランドパートナーシップ戦略において、クリエイターの賛同が重要な理由は?

ウィリス・ウィギン氏:タレントとして所属するにせよ、オーナーとして加わるにせよ、OTKのよいところは各番組がタレント中心に作られるところにある。スポーツやコスプレなど、興味の対象はそれぞれに異なるが、彼らを中心にIPを開発し、作りたい番組を作れる環境を用意すれば、組織に所属して作品を制作しようという気になるだろう。

制作費はどう捻出するか? それはブランドとの提携で賄(まかな)う。では、どんなブランドと連携できるか。スポーツ番組の制作であれば、どんなブランドと連携するのが最善か。番組とブランドをどのように融合すれば、クリエイティブで楽しい番組ができるのか。OTKは所属タレントと協力して、これらの問いに答える優秀な番組を数多く作ってきた。

DD:OTKのブランドパートナーシップ戦略では、クリエイターオーナー全員がスポンサー候補を承認する必要がある。同社では毎週または隔週で全員参加の会議を開き、オーナーたちが有望な案件について協議する。さらに、四半期ごとの株主総会もライブ配信されるという。

このやり方には明らかに限界がある。オーナー全員の期待に適うブランドには限りがあるからだ。その反面、OTKの公明正大さを担保する仕組みとしても働く。スポンサー選びのプロセスに自分たちの声が反映されていると思えば、ブランデッドコンテンツの制作に対するクリエイターの意欲も高まるだろう。

――あまりに「企業寄り」になることのリスクは?

ウィリス・ウィギン氏:たとえば、フェイズクラン(FaZe Clan)の古参メンバーであるフェイズレインやフェイズティコのケースがある。フェイズの内部分裂に関する彼らの告発を知っているだろうか。両人とも、いかにも企業人といった人々が組織の主導権を掌握し、本来のフェイズクランらしさがコミュニティから失われていると不満を表明している。OTKはこの業界では比較的新参だ。出遅れ組の強みとして、こうした極端な例から教訓を学ぶ機会を得た。

私はかつてフェイズに在籍していた。過去の事案の多くについては公言できないが、フェイズレインやフェイズティコは12年来の古参で、フェイズクランの創設メンバーでもある。あまりに世間の言いなり、ベンチャーキャピタルの言いなりでは、自分たちのアイデンティティを失いかねない。そして製品を買い、コンテンツを消費するファンやオーディエンスにとって、一番大切なのはこのアイデンティティなのだ。

DD:ウィギン氏は2018年2月から2022年3月までフェイズクランに在籍し、営業やブランドパートナーシップの責任者を務めたこともある。フェイズクランは2022年7月に評価額7億2500万ドル(約959億5592万円)のSPAC(特別買収目的会社)買収を経てナスダックに上場したが、現在、業界ではこの上場を大きな判断ミスと見る向きが強い。2023年1月現在、同社の株価は1ドルに届かず、上場廃止の危機にさらされている。

フェイズクランに対する投資家の失望は、少なくとも部分的には内部的な理由に帰する。前述のフェイズを創設したクリエイターたちは、現在の経営陣が組織の方向性を十分にコントロールできていないとして、声高に不満を表明している。フェイズクランの現状は、クリエイターオーナーを組織から完全に切り離してしまうことの危うさ、ともすれば組織の資産たるクリエイターとファンを敵にまわしかねない危険を如実に表している。

――タレントの維持に果たすクリエイターオーナーの役割については?

ザッカリー・ディアス氏:彼らのようなクリエイターの多くがある種の「切り替え」をおこなっている。たとえば、個人であれば、「別の判断をすることも十分に可能だったが、自分としてはこれでよかった」で済むかもしれない。しかし、コミュニティや組織を管理運営する立場であれば、「2年後にも適切な判断だったと言えるだろうか」と考えるだろう。

クリエイターは組織の経営に関与することで、自分たちが長期的な価値を構築しているのだと認識する。ウィリスを中心としたIPの開発や番組の制作にも、積極的に参加するようになるだろう。クリエイター経済で起こりうる危機を目の当たりにしているのだから、ぜひとも、このような考え方をクリエイターのレガシーの一部として受け継いでもらいたい。

DD:ゲーム企業やeスポーツ企業が所属メンバーに株式を付与する慣行は、OTKが始めたことではない。ワンハンドレッドシーヴズ(100 Thieves)やティームリキッド(Team Liquid)などでも、所属するクリエイターのうち、とくに著名な面々には会社のオーナーになる機会を提示している。これは多くのファンを呼び込むクリエイター個人の力を暗黙のうちに認めているからにほかならない。ゲーム企業にしろeスポーツ企業にしろ、トップクリエイターを失えば一巻の終わりだと分かっているからこそ、彼らの引き留め策として株式の保有を認めるのだ。

OTKは創設当初からこの戦略を持っており、登録クリエイターは全員、自動的に株式の取得が認められる。ディアス氏も指摘する通り、OTKのメンバーは会社を短期的な金儲けの手段とは考えず、むしろ長期的な将来性を重視している。

[原文:How gaming organization OTK strikes a balance between creator-ownership and more traditional executive experience

Alexander Lee(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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