将来の 経済的懸念 が高まるなか、いまファッションブランドが決断していること【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

今後はさらに困難な経済状況が続くと警告されるなかで、強力なファッションブランドは、いまは実験する時ではないと決断している。

2020年末に6600万ドル(約96.5億円)でユラゼオ・ブランズ(Eurazeo Brands)に株式の過半数を売却した、創業8年となるスウェーデンのアクセル・アリガト(Axel Arigato)がまさにそうだ。当時、同社は年間4000万ドル(約58.5億円)を稼ぎ出し、2年間にわたり黒字を維持していた。同社の代表者は、現在の収益と成長に関する最新情報の提供は避けた。

共同創業者でCEOのアルビン・ヨハンソン氏は、安全な賭けに短期的に集中しようとしており、同社の新たな支援者がそれを妨げることはないという。だが、このブランドは立ち止まっているのではない。アクセル・アリガトが得意とする、すなわちスニーカーという商品カテゴリーをさらに発展させているのだ。それに加えて、単にローカルな消費者だけでなくグローバルな消費者にもリーチするという意味で、これまで築いてきたブランドをさらに構築し、もっとも見合う価値のある市場へと展開している。

安定していることが最重要

「グローバルな拠点でなければ、現状の我々にふさわしい市場ではない」とヨハンソン氏は言う。「それに消費者の財布のなかにある金はすぐに少なくなるだろうから、そうなれば消費者はカテゴリーのリーダー的な存在に向かうようになり、これまでやってきたのと同じやり方で(選択肢を)探すことはしなくなる。いま新たなカテゴリーに飛び込む必要はない。なぜなら我々が消費者の最初の選択肢ではなくなってしまうからだ」。

オールバーズ(Allbirds)はアクティブウェアのカテゴリーを終了し、オールドネイビー(Old Navy)はサイズ拡張商品を縮小している。どちらもパンデミックの最中にローンチしたものだが、このことは、ブランドとは通常関連性のないカテゴリーに消費者が興味を示さないという現状を物語っている。

「これからの(厳しい)時期、それが3カ月で終わろうが2年になろうが、その間は安定していることが非常に重要だ。そのために確実に備えておく必要がある」とヨハンソン氏は述べている。

いまはまだ我慢のとき

記録的な高金利インフレコストの増加、生活費の全般的な上昇、株価が過去最低水準まで下落するなか、あらゆる業界の企業が個人消費のさらなる変動と減速に備えている。多くの主要なアパレルブランドは年内の売上見通しを下方修正し、多くの専門家は、パンデミックが始まって以来比較的無傷だったラグジュアリー分野でさえも、迫り来る経済的影響を受けずにはいられないだろうと考えている。

ヨハンソン氏とクリエイティブディレクターのマックス・スヴァルド氏がスニーカーブランドとして立ち上げたアクセル・アリガトは、設立以来、プレタポルテ、アウターウェア、比較的手頃な価格のブランドアクセサリーなどの製品を発表している。いまのところ、その品揃えは、エメレオンドレ(Aimé Leon Dore)のような話題のストリートウェアの名を想起させる。「すべてが揃っているブランド」が長期的な目標だとヨハンソン氏は言う。しかし今はまだ我慢のときだ。

製品の需要に見合った供給を行うというアクセル・アリガトの最大の課題は、同社の戦略をも形成してきた。ヨハンソン氏によると、同社の製造コストはパンデミックのピーク時よりも下がっているが、納期は短縮されていない。今後の計画はサプライチェーンを需要に近づけること。現在、アクセル・アリガトはポルトガルで生産し、スウェーデンから出荷している。そして今は集中し続けていくことが、長期的にこのブランド健全に保つ上で必要なことだという。

強いブランドに支えられた強い製品カテゴリー

ニューヨークを拠点とするジ・アライバルズ(The Arrivals)の共同創業者でチーフブランドオフィサーのジェフ・ジョンソン氏は、強いブランドに支えられた強い製品カテゴリーが、いまの時代に合ったビジネスの利点だというヨハンソン氏の理論を支持している。ジ・アライバルズも、ジョンソン氏の言う「性能に根ざしたファッションコンシャスな」アウターウェアに注力して、8年前に創業している。その後、同ブランドのコートと同様に素材の機能性を生かしたゴープコア(註:アウトドアを日常に取り入れること)にぴったりのスタイルなど、アウターウェアの解釈を拡大してきた。昨年発売したパフィーパンツは、ジャケット以外のスタイルとして初のトップセラーとなった。2022年には、ラベンダーやエメラルドなどのシェードでこのスタイルを再登場させている。

ジョンソン氏によれば、今日の市場においては、焦点を絞るという単なる行為が差別化の要因となる。多くの消費者が発見を求めてAmazonなどのプラットフォーム大手でやみくもに買い物をする一方で、「『自分が必要としているたったひとつのものを完璧に作っているのは誰なのか』を特定する」という極端な消費者もいるのだと彼は言う。それを受けてジ・アライバルズやそのほかのブランドは、ますますこう自問するようになっている。「自分たちは実際に何をしようとしているのか? 自分たちが実際に得意とすることは何なのか? そしてそのふたつは、顧客が私たちに求めるものと一致しているのか?」

体験型の要素を過剰に優先している実店舗もまた、欲しいものがわかっている人の購入までの道筋を濁している、とジョンソン氏は指摘した。「ただ行くだけで自分の定番を見つけられる場所は限られている」。

「『大きな声で話して見てもらう』という時代もあったが、いまはあらゆることがすでに語られている時代に突入している」とジョンソン氏は述べている。「だからブランドとしての小さな囁きを、ブランドと心がつながっている相手に向けて投下すること(が共感を呼ぶ)」。彼いわく、ジ・アライバルズはつねに長期的な成長に対して理路整然としており、戦略全体にわたって一時的なトレンドは避けてきた。投資家の圧力がない独立したブランドであることが、それを可能にしているのだという。

マーケティングとブランディングのための支出は惜しまない

一方、アクセル・アリガトは、今年上半期に次の成長ステージに向けた土台を築いた。66名を新規採用して全従業員数は215名となり、ポルトガルとオランダにオフィスを開設し、ドイツと中国(天猫(Tmall)経由)に流通を拡大し、米国では初の採用を行うなど、卸売事業の構築に注力している。

小売の分野では、米国市場への参入に向けて不可欠なのは「ブランドを本当に大切にしてくれる同じ目的をもったパートナー」を確保することだとヨハンソン氏は述べている。ほかの市場では、アクセル・アリガトはデパートのショップ・イン・ショップでその存在感をうまくコントロールしている。パリでは、ル・ボン・マルシェ(Le Bon Marché)やギャラリー・ラファイエット(Galeries Lafayette)に店舗があり、プランタン(Printemps)にも近々出店する。またロンドンのセルフリッジズ(Selfridges)、ドイツのカーデーヴェー・グループ(KaDeWe Group)の店舗、ドバイのレベルシューズ(Level Shoes)にもスペースを確保している。

「ブランドの観点では、自分たちはよい位置にいる。だが、我々は自分たちの物語と運命を引き続きコントロールしていく必要がある」とヨハンソン氏は語る。「(地理的に)広がっていけばいくほど、(自分たちが何者であるかを)伝えるために、さらに焦点を絞っていくべきだ」。

同ブランドが保守的でないのは、マーケティングとブランディングのための支出だ。ヨハンソン氏によれば、ブランドはファッションビジネスの基盤であるため、マーケティングを退けるブランドは「もはやブランドでなくなってしまう」リスクがある。

顧客層に合わせたイベントを開催

アクセル・アリガトは小売店舗を拡大し、ヨハンソン氏は店舗でのユニークな体験を提供することが、現在の状況における重要な差別化要因だと考えている。同ブランドには6つの路面店があり、彼は現在、パリ、ロンドン、ニューヨークへの出店を視野に入れている。ニューヨークの1号店に続き、2号店、そしてロサンゼルスなどの都市へと拡大することが目標だ。

店舗は世界的なショッピングの中心地にあるが、それに対応する多くのアクティベーションは、地元の人たちのために行われる。ブランドショップがあるすべての都市で、同社はイベントの運営を行うために現地のシーンに熟知している人材を採用している。6月にはパリだけで3つのイベントを開催しており、1万人近くを動員したコンサートもあった。音楽を中心としたイベントや、プライド月間などのカレンダーに沿ったタイムリーな祝典もよく行われている。例年、各店舗が平均30回のイベントを開催している。

顧客層に合わせた価値観を提供するべく特にデザインされたイベントを開催することは、ジ・アライバルズでも採用している戦略だ。オンラインやソーシャルコミュニティで24時間限定の製品リリースを企画したこともある。今月末には、ブルックリンを拠点とするコンセプトショップ、シンシアリートミー(Sincerely, Tommy)で製品発売パーティーを開催する予定だ。

望まれるブランドが勝っている

イベントのほかに、アクセル・アリガトの理念を反映したコラボレーションも、2023年にブランドが計画しているマーケティング手段のひとつである。

同社が「ブランド」でリードしているのは消費者の習慣からして賢い、と指摘したのは、NPDグループのアパレル業界アナリスト、クリステン・クラシ=ズンモ氏だ。「望まれるブランドは勝っている」と彼女は言う。「私たちは経済が不安的な時期に生きているが、消費者は過去の不況時に目にしてきたような、全面的に完全に撤退するような行動をとっていない。消費者は消費することに対してもう少し慎重に、よく考えるようになり、自分がほしいと思うブランドには絶対にお金をかけるようになるだろう」。

ヨハンソン氏は、ユラゼオ・ブランズも同様にブランド構築を優先していると話す。そのため、アクセル・アリガトの成長を加速させるようなプレッシャーはかけていない。「ユラゼオ・ブランズよりも、私の方が急いでいる」と、彼は言った。アクセル・アリガトにとって、このパートナーシップは「知識と人材へのアクセス」が提供されているという点で、もっとも価値があるものだと証明されたという。

サプライチェーンを正しく編成することに加え、ヨハンソン氏いわく、週2日自宅で仕事をしながら、社内のコミュニケーションを調整することがロジスティクス上の優先事項だ。2022年に前年比50%増と、パンデミック前の90%から低下した上半期のブランドの収益成長の鈍化が、同社の接続性の低下の症状なのかどうかを彼は疑問視している。

最後に彼は、同社が現在は収益性よりもキャッシュフローを優先していることを強調した。健全なキャッシュフローは、倒産の危機を除外し、長期的な安定に必要な在庫ニーズと投資を支えるものだとヨハンソン氏は述べている。

[原文:Fashion Briefing: ‘Desired brands are winning,’ as future economic concerns spike]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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