WPP と エピック の提携は、メタバース の成熟を早めるか?:「ブロックチェーン/Web3の要素も絡んでいる」

DIGIDAY

世界最大手の広告会社WPPと米コンピュータゲーム大手エピックゲームズ(Epic Games)は2022年5月5日、新たな提携を発表した。この提携は、WPPのエージェンシーおよびクライアントがメタバースにおけるブランドの潜在的な機会について学ぶことを目的としている。

この提携を通じ、エピックゲームズは自社バーチャルクリエーションツール、アンリアルエンジン(Unreal Engine)の利用法に関する研修をWPPのクリエイティブ勢および幹部勢に提供していくほか、エピック傘下のキッズテック企業スーパーオーサム(SuperAwesome)と協力し、オンラインにおける子どもの安全およびプライバシー保護に関し、WPPの理解を深めていくという。

エピックゲームズはメタバース構築の第一人者を目指しているが、その戦略は徐々にアンリアルエンジンを中心としたものへと進化しつつある。かつては単なるゲームエンジンだったアンリアルエンジンはいまや、自動車のプロトタイプのモデリングから衣類のデザインに至るまで、さまざまな業界でプロの仕事に利用されている。ただ、その影響力の割に、アンリアルエンジンの詳細は依然、非ゲーミング界のブランドおよびマーケターには比較的知られていないのが現実だ。

主要ポイント

  • 今回の非独占的提携は、エピックゲームズのゲームを基本とするメタバース構想を裏打ちするものだが、WPPのある人物は米DIGIDAYの取材に匿名で応え、「メタバースに付随するブロックチェーン/Web3の要素も絡んでいるのは間違いない」と語った。
  • 研修は3つに大別される――クリエイティブ用、幹部用、メディアストラテジスト用の3種だ。前出のWPP社員によれば、いずれも「顧客の事業において各々が担う特定の役割に即した仕様」になっており、クリエイティブはアンリアルエンジン内で直に作業を進める方法を、幹部は同ツールの長所を活用したクライアントの導き方や彼らへの助言法を、それぞれ学べる。
  • WPPグループのメディアエージェンシー、グループ・エム(GroupM)のパートナーグローバルヘッド、キーリー・テイラー氏は、同提携へのグループ・エムの関与について、いわば「1台のスツールを支える3本の脚」と称した。
  • スーパーオーサムとの協力による「キュレートされた安全なスペース」は、「我々が取り組んできたものなかで」もっとも「適正かつ長寿」なものだとテイラー氏は語った。これには複数のクライアントも関わっているが、子ども向け広告がセンシティブで慎重性を要する点を氏は考慮し、具体的な社名等は開示しなかった。
  • フォートナイト(Fortnite)を介し、没入体験自体をゲームに発展させられる、グループ・エムのブランド勢(具体名は開示されなかった)が「今すぐに」利用できる機会があると、テイラー氏は語った。「クライアントのためにフォートナイト内に何かを構築する際、我々はその点をはっきりと意識している。これほど著名なゲームにおいてそれができることは、その広告主にとって極めて有効なアクティベーションとなる」。
  • グループ・エムとしては、アンリアルエンジンを通じ、ライアントが、アバターや肖像など、ゲーム環境で必要とされるタイプの広告スペックを開発するなど、「目的のために」アセットを構築して遊ぶことを可能にしたいと考えているとテイラー氏は述べた。
  • 小規模なクリエイタースタジオは、現在、メタバースエコシステムに欠かせない重要な一部になりつつあり、フォートナイトやロブロックス(Roblox)といったプラットフォーム内でのブランド体験を創造するべく、企業と独自に契約を締結するところもある。ただし、WPPはこのエコシステムにおける将来的関与については、コメントを控えた。
  • メタバースの最初の住人はゲーマーだが(だからこそ、WPPは2020年後半、ゲーム内広告に特化した企業アンズ(Anzu)に投資した)、メタバースはゲーミング界の若年層へのリーチを目指すクライアントだけでなく、「パッケージ商品や自動車、ヘルスケア、エンターテイメントなど、さまざまな分野のクライアントにとっても重要度が極めて高い」と、WPPは確信している。

より広範な推進活動

エピックゲームズがアンリアルエンジンの潜在的利用法に関する意識高揚を目的としてエージェンシー(今回の場合は、持株会社)と提携したのは、これが初めてではない。3月、エピックゲームズはデジタルエージェンシーのコレクティブ(Collective)および英広告業界団体IPAとの提携を発表しており、6月にはアンリアルエンジンのワークショップをIPA本社で共同開催する。

同イベントのチケットはほんの数日で完売した。これは、WPPとエピックゲームズが今回の提携を通じて奨励したいスキルセットをブランドおよびマーケター勢が強く求めていることの証にほかならない。「人々が我々のツールを利用し、それをアンリアルエンジンの範疇外のどこか別のところで展開するのか、それともフォートナイトといったプラットフォームにおいて展開し、当社が配信する体験を創造するのか、どちらでも我々は構わない」と、エピックゲームズがロンドンに構えるイノベーションラボ(Innovation Lab)を拠点にするビジネスデベロプメントマネージャー、レイチェル・ストーンズ氏は話す。「我々は一種の長期的展開を考えている。あくまでもソフトウェアとして基盤的な存在を目指している」。

初の試みではない

今回の提携はWPPの全社レベルでのメタバース初進出を意味するが、WPPエージェンシーがエピックゲームズと手を組むのは、これが初めてではない。たとえばWPPエージェンシーの一社、ワンダーマン・トンプソン(Wunderman Thompson)は
メタバースプラットフォーム オデッセイ(Odyssey)のバーチャルオフィスとエピックゲームズとの独自のパートナーシップを通じて、以前から独自のメタバース知見に投資してきた。

「オデッセイはゲーミング会社として出発し、その後イベントに方向転換した。彼らはB2Bにフォーカスしているため、この関係は我々にとって非常に都合が良い」と、ワンダーマン・トンプソンのグローバルディレクターでメタバース専門家エマ・チウ氏は話す。「私たち独自のメタバースを構築し、いまは多くのクライアントにオデッセイを勧めている」。

バーチャルオフィスにオデッセイといった小規模プラットフォームを利用するワンダーマン・トンプソンの戦略は、WPPとエピックが提供するメタバースの知識が、エピックのメタバースの一角で活動しているかどうかにかかわらず、ブランドにとって価値あるものであることを証明している。年配のインターネットユーザーや非ゲーマーが、バーチャル空間内でこれまで以上に多くの時間を費やすようになるにつれ、こうしたスキルが今後、さらに不可欠なものとなる可能性は非常に高い。

「我々はこれまでしばらく、リアルタイムグラフィックスとゲームエンジンのこうしたアプリケーション応用に対し、常に業界およびブランドの使用を前提に取り組んできた」と、オデッセイのチーフテクノロジーオフィサー、マキシム・ロング氏は話す。「それがコロナ禍に入ると状況が一変し、リアルタイムグラフィックをオフィスやバーチャルイベントのような新しい用途で使いたいと考える人たちが急に増える現象が起きた」。

メタバースが中心的存在になるのはいつ?

メディアにおける革新は何であれ、許される時間的猶予がさらに短くなっているように思われる。では、メタバースが成熟した選択肢へと進化するには、どの程度の時間がかかると、テイラー氏は見ているのだろう?

「時間軸で言えば、3年から4年のあいだといったところだろう」と氏は話した。「関係要素として、ひとつには、エンターテイメントのフラグメンテーション(分断)があり、これは特に米市場に言える。さらに、IAB(インタラクティブ広告評議会)が初のゲーミング専門イベント『プレイフロンツ(Playfronts)』を開催した事実は、より多くの人々がこの場所について批判的に考えていることを示す非常に有益なシグナルだ。となれば、効果測定、サードパーティ検証、アクセスインベントリの簡略化といったことが後に続くのは必至だ」。

[原文:The Rundown: Why WPP/Epic Games partnership signals the next level of commitment to prepping for the metaverse

Alexander Lee and Michael Bürgi(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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