実店舗の「 リテールメディア 」は次の巨大収益チャネルとなるか:小売業者やテックベンダーが参入する利点と課題

DIGIDAY

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実店舗の「リテールメディア」が、小売業者が収益化すべき次の大きなビジネスの可能性として注目されている。店舗内のオーディエンスは、平均してデジタルオーディエンスよりはるかに多いからだ。

インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)による新たな調査では、プレイサー・エーアイ(Placer.ai)やコムスコアメディアマトリックスマルチプラットフォーム(Comscore Media Metrix Multi-Platform)のデータを引用し、ウォルマート(Walmart)やターゲット(Target)を含む13の大手実店舗小売業者では、店舗内のオーディエンスがデジタルオーディエンスより70%も多いことを示している。この調査によると、店舗内における多くのデジタル面が、高い頻度で露出されることが予想されている。これには、陳列棚でのブランド表示や、テレビでの動画広告も含まれる。

この数年間、オンラインのリテールメディアネットワークを支援するために多額の投資が行われているが、多くの小売業者にとって、もっとも重要な収益源は依然として実店舗だ。これに対して、マイクロソフト(Microsoft)やクーラースクリーンズ(Cooler Screens)といった多くのテック企業や、ウォルマートやAmazonのような小売業者は、ブランドが店舗で広告配信するのを支援するためのソリューションをさらに導入しつつある。しかし、これらの機能の多くは、まだ初期段階にある。そのため、店舗内でのリテールメディアサービスは、デジタルリテールメディアソリューションのように、数十億ドル規模のビジネスになるには至っていない。

次なる大きなメディアチャネル

「リテールメディアはすでに巨大なものに成長したが、考えてみれば、その成長はほとんどデジタルオーディエンスによるものだ」と、インサイダーインテリジェンスで小売およびeコマース担当のプリンシパルアナリストを務めるアンドリュー・リプスマン氏は語る。「つまり、そこには多くの可能性がある。店舗内での広告で、どれほど多くの人々にリーチできるかを考えれば、オンラインよりはるかに多いだろう」と、同氏は付け加えている。

マイクロソフト(Microsoft)は今年1月、プロモートIQインストア(PromoteIQ In-Store)を発表した。これは、小売業者がコンテンツやハードウェアパートナーをテストし、店舗内のリテールメディアのアクティベーションやデジタルサイネージを作り出すことを支援する概念実証だ。マイクロソフトは当時、このプロモートIQインストアの機能が今後12カ月以内に利用可能になると述べた。それとは別に、広告ビジネスで年間約300億ドル(約3兆9300億円)を生み出しているAmazonは、昨年10月にAmazonフレッシュ(Amazon Fresh)店舗でのデジタルサイネージ広告を開始した。

リプスマン氏は、CPGブランドなどレガシーブランドの広告主は、大きな規模でオーディエンスにリーチすることを望んでおり、それを実現できる場所が実店舗であると付け加えている。「私はこれを、次なる大きなメディアチャネルと呼んでいる」と、同氏は米モダンリテールに語った。「店舗内のオーディエンスの大部分は18歳から49歳だ。これは、テレビ広告主が常にリーチしたいと望んでいる層だ」と、同氏は付け加えている。

同氏は次のように説明している。「小売業者は店舗内の人々を訪問客と考えがちだが、ブランド広告主の観衆であるとみなすことも必要だ。リテールメディアは常に、検索や、ボトムオブファネル、閉ループのパフォーマンスという観点から目を向けられてきた。そしてこれはすべて当然のことだ。リテールメディアの最初の価値提案に沿っている。しかし、リテールメディアはファネル全体にわたるマーケティングの機会になりつつある」。

導入時の課題

Amazonやウォルマートのようなマルチカテゴリーの小売業者は、店舗内のリテールメディアソリューションをいち早く取り入れている。Amazonは10月に、各企業がAmazon DSPを利用して、実店舗のデジタルサイネージにプログラマティック広告を配信できるようにした。ウォルマートは2021年、店舗内の消費者にリーチするため、店舗内のレジやディスプレイ画面などの広告枠を販売しはじめた。

「これは間違いなくトレンドで、大手から小規模まで、あらゆる小売業者から、リテールメディアに関する話をますます多く聞くようになってきている。すべてのショッピングの80%は依然として店舗で行われる。そのため、店舗内での広告は膨大な数のインプレッションを生み出し、大きなチャンスになる」と、調査企業ガートナー(Gartner)のマーケティング実践のディレクターアナリストを務めるブラッド・ジャシンスキー氏は語る。

しかし、「小売業者にとって大きな障害となるのは、店舗内のデジタルサイネージや、セルフチェックアウト画面など店舗内広告の運用を開始するためのコストだ」と、同氏はメールに記載している。特に複数の店舗を保有し、店舗内の既存のネットワーキングインフラが限られているような小売業者にとって、必要なハードウェア、ソフトウェア、全体的な設置コストが大きくなる可能性があると、同氏は付け加えている。

そのため、多くのリテールメディアサービスは、小売業者がより多くの店舗で運用開始するには時間を要することから、依然として初期段階であると言える。たとえばAmazonは、自社の新しいデジタルサイネージ広告を10月に発表したとき、まず食料品店の「Amazonフレッシュ(Amazon Fresh)」数十店舗で利用できるようにすると語った。また、Amazon Goストアとの統合は「近日中」に行われると述べている。

店舗内のリテールメディアネットワーク構築におけるもうひとつの課題として、店舗から関連データを収集して広告のエコシステムをよりよく周知することや、この種のキャンペーンを計画・実行することが困難になるような技術の分断化といった状況が挙げられる。店舗内でデジタルサイネージを運用するコストも、参入障壁となるものだ。

「間違いなく大きなチャンスだ」

しかし、このような課題があるにもかかわらず、「特に、食料品を多く販売している小売業者にとって、店頭での販売が大半を占めることになるだろう。したがって、店舗内のリテールメディアは大きなチャンスだと考えられる」と、ジャシンスキー氏は述べる。

このようなメディアの機会は、クーラースクリーンズのような、冷蔵庫のドアをインタラクティブな広告ディスプレイに変えるテックベンダーに対する需要増加にも繋がっている。米モダンリテールが以前に報じたように、クーラースクリーンズは今年の全米小売業協会(National Retail Federation)において、インバウンドのリードが5倍に増加した。

ジャシンスキー氏は、このような店舗内メディアを導入する際、「そのループを閉じて、これらの広告の効果を実際に示すことができるのかという、アトリビューションに関する大きな問題はある」と付け加えている。

こうした未知の要素はあるものの、「これは間違いなく大きなチャンスだ」と、同氏は述べている。

[原文:Physical stores are poised to be the next major media channel for retailers]

Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Cooler Screens

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