インフルエンサーマーケティングにも浸透しつつある AI :「そっくりさんクリエイター」増加の懸念も

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人工知能(AI)テクノロジーは、小売業界のあらゆる部門に急速に浸透しているが、インフルエンサーマーケティングの分野も例外ではない。

デジタルマーケティングの世界では、人工知能を組み入れるのは新しいことではない。しかし、この数カ月、この話題はかつてないほど盛り上がりを見せている。AI機能はすでにeコマースでは多少なりとも標準的なものになり、オンライン小売業者は顧客のブラウジング体験や商品のリコメンドを行うためにAIを使用してきた。OpenAI(オープンエーアイ)が11月に開始したChatGPT(チャットジーピーティー)は、すでにプラットフォームと小売業者の両方の技術業務に浸透している。同時に、機械学習は、ブランドとインフルエンサーとの関係を作り上げるために人間的なつながりが要求されることが多いインフルエンサーマーケティングに組み込まれるようになってきている。

これは、いくつかの方法で行われている。たとえば、一部のコンテンツクリエイターは、AIベースの録音・編集プログラムであるポッドキャッスル(Podcastle)を使って、ポッドキャスト広告用の音声をクローン化している。ソーシャルメディアの投稿も自動化され、クリエイターはレーラソーシャル(Rella Social)などのソフトウェアを使用してキャプションを生成している。ポッドキャッスルとレーラソーシャルはどちらも、この数年間に登場したもので、人工知能がインフルエンサーとブランドとの関係を揺るがす可能性があることを示唆している。一方で、広告代理店や、その代理店が代表を務めるブランドもまた、インフルエンサーとの共同作業を効率化するAIベースのプラットフォームからの恩恵を受けている。

インフルエンサーマーケティングは現在、ブランドや小売業者のマーケティングのプレイブックの重要な位置を占めている。Shopify(ショッピファイ)が昨年公表したデータによれば、eコマースブランドはインフルエンサーマーケティングに費やした1ドル(約132円)に対して約5.2ドル(約686円)を生み出しており、この投資が効果的なことが証明されている。インフルエンサーの予算は増加の一途をたどっている。リテールタッチポインツ(Retail TouchPoints)のレポートによると、今年のインフルエンサーキャンペーンへの支出は46億ドル(約6070億円)に達すると予測され、これは5年前の2倍の額だ。さらに、68%のブランドは、2023年にインフルエンサーマーケティングの予算を増やすことを計画している。

インフルエンサーが退屈な作業から解放される

多くのインフルエンサーにとって、AIを使ったコンテンツプログラムは、コンテンツ制作を支援するツールのひとつに過ぎない。

クリエイターやインフルエンサー志望者にソーシャルメディアコースを教えるソーシャルストラテジストのテイラー・ローレン氏は、ここ数年間で、機械学習が時間節約のツールになっていると話す。「Notion AI(ノーションAI)が、ToDoリスト、スクリプト作成や撮影などブランドキャンペーンのさまざまな要素を整理するために次第に実装されてきている。これはアイデアを出してくれるので、ゼロから作業する必要がなくなる」と、同氏は述べる。

「AIが生成したキャプションは結果的にとても優れていて驚いた」と同氏は述べ、一部の人々はこのようなAIを気に入る一方で、ボットが自分の仕事を奪うディストピアの可能性を危惧する人々もいるかもしれないと付け加えた。AIインフルエンサーについての報道も、画面の裏側で誰がブランドを代表して商品を一般大衆に売っているのかということについて、道徳的な問題を提起している。

しかし、ローレン氏が一緒に仕事をしているクリエイターの多くは、AIツールを使用することで、出発点として優れたテンプレートを得ている。同氏自身は現在、Notion AIを使って、スクリプトの下書き作成のためや、ブランドキャンペーンの最中に思い付いたことを箇条書きのメモにしているのだという。「もちろん、これをそのまま投稿するわけではないが、作業を開始するための下書きとして役に立つ」と、同氏は付け加えた。

自動化は、管理費用の削減にも役立つ部分で、インフルエンサーはキャンペーンのクリエイティブな部分に集中できるようになる。「クリエイターの仕事の90%はメール作業だ」と、ローレン氏は述べる。そのため、プロジェクトプランニングのためのバーチャルアシスタントは便利なツールとして普及しつつある。それほかにも、契約書の作成など日常的な簡単な業務に役立つソリューションもあり、マイクロインフルエンサーや中規模のインフルエンサーなど、弁護士を雇えないインフルエンサーには役立つ。

広告主向けのクリエイターデータベース

ブランド広告の側も、人工知能のイノベーションによって既存の形が破壊されつつある。

デジタルマーケティングコンサルタンシーのダイアログNYC(Dialogue NYC)の創業者でCEOを務めるジュリアン・フレーザー氏は、イノベーションは諸刃の剣だと語る。同社はインフルエンサーマーケティングにおいて、サカラライフ(Sakara Life)、ブルックリネン(Brooklinen)、オリポップ(Olipop)などのブランドとも協業してきた。

同氏は次のように述べている。「AIの進歩はインフルエンサーの水準を向上させ、より良質で文化的に適したコンテンツを、より速く、より安く制作できるようになる。しかし一方で、ブランドにも同じ恩恵を与える。ブランドはよりインフルエンサーへの依存を弱め、AIが生成したコンテンツを多く使用することになるかもしれない」。

ダイアログNYCはすでに、ブランドのクライアントを、その美学や精神ともっともよく一致するインフルエンサーとマッチングさせるデータベースを開発している。しかしフレーザー氏は、ChatGPTのようなツールの使用は、どこかの時点で「人間的な経験や共感性を欠いたものになり、SNSが画一的な広告パートナーシップであふれかえる可能性がある」と述べている。これは、オーディエンスと真正な方法でつながる方法を模索しているオンラインのブランドや小売業者にとって問題になる可能性があると、同氏は語る。

ウォルマート(Walmart)やクラフトハインツ(KraftHeinz)などの企業キャンペーンを促進するエンドツーエンドのインフルエンサーマーケティングプラットフォームであるキャプティブ8(Captiv8)の共同創業者でCEOを務めるクリシュナ・スブラマニアン氏は、AIは、インフルエンサーマーケティングをよりスケーラブルにしていると語る。

「我々が現在目にしている大きなトレンドは、ブランドが、データを活用してクリエイターを簡単に見つける方法を求めているということだ」と、同氏は述べている。たとえば、ソーシャルメディアを隅々まで見て何千人ものクリエイターを探し回るのではなく、広告主がターゲットのオーディエンスを指定し、AIベースのデータベースで検索を行えるようにすることだ。

キャプティブ8では、クリエイターを採用する際に、既婚か未婚か、子どもがいるか、アレルギーがあるか、さらにはどのような車に乗っているかなど、具体的な質問を行っていると、スブラマニアン氏は語る。「これらのデータポイントはすべて、ブランドがどのインフルエンサーと協業したいかを絞り込むのに役立つ」と、同氏は説明する。同社のクリエイタークライアントのあいだでは、タイトルやキャプションの作成にすでにChatGPTが使用されており、コンバージョンが成功している証拠もある。「これは、アートとサイエンスの融合だ。クリエイターを相手にしているため、データで測定できない特性が現れることもある」と、同氏は述べている。

「そっくりさんクリエイター」増加の懸念も

しかし、AIで生成される対話は、そのような提案に人間の意図が欠けていることを消費者がしだいに感じ取っていくにつれ、避けられる可能性もある。マーケティング担当者に対して、よりクリエイティブで魅力的なキャンペーンを作り出すように手引きすることは可能だが、このトレンドが同じような広告を無数に作りだしてしまう結果になる可能性もある。

フレーザー氏のようなブランドのマーケティング担当者は、将来に及ぼす影響に関していくつかの点において注目している。

たとえば、フレーザー氏は「そっくりさんクリエイター」の増加に注意することを心掛けている。同氏によると、これまで、TikTokやYouTubeのようなアプリのフロントエンドで、これをごまかすことは困難だという。しかし、たとえばファーストコラボ(1stCollab)のような、AIを搭載したインフルエンサーマーケティングプラットフォームでは、ブランドは、簡単にほかのクリエイターを見つけ、キャンペーンの広告コンテンツを複製できるようになる。ファーストコラボは2022年に創設され、Yコンビネーター(Y Combinator)の現在のインキュベータースタートアップのラウンドの一部となっている。また、米国証券取引委員会(U.S. Securities and Exchange Commission)が有料ソーシャルメディア投稿に関する規則を強化しているなか、プロモーションの実践に関する懸念もある。AIで生成されたコンテンツによりキャンペーンのエラーが発生する可能性があり、ブランドはこの点を常に監視する必要があるかもしれないと、フレーザー氏は語る。

これらの懸念のいくつかは今後何年も起きないと思われるが、自社のインフルエンサーマーケティングプログラムを作り上げようとしている小売ブランドが検討すべき事項ではある。スブラマニアン氏は、こうしたテクノロジーが進歩するにつれ、「ブランドはこれらのパートナーシップをある程度制御することが必要になる」と述べている。

[原文:How AI is infiltrating influencer marketing]

Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Ivy Liu

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