Facebook 広告は不可欠か、必要悪か?:小売ブランドたちの賛否両論

DIGIDAY

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過去1年間にわたり、マーケターと小売ブランドはMeta(メタ)の保有するFacebookとInstagramをどのように使用するのが最良かという問題に取り組んできた。多くのデジタルネイティブなブランドにとって、Facebookは広告戦略の大きな部分を占めてきた。そして、2021年4月にAppleのiOS 14のプライバシー変更が行われ、FacebookやPinterest(ピンタレスト)などのプラットフォームは利用者を追跡してターゲットを設定するのが困難になり、アルゴリズムに大きな影響を及ぼすことになった。

それ以来、デジタル広告は大きく変遷し、多くの小売ブランドはマーケティングチャネルの構成を多様化してFacebookやInstagramへの依存を減らすために労力を注ぐようになった。

しかし、MetaのプラットフォームであるFacebookとInstagramは依然として、デジタル販売の最大のコンバータと見なされている。このため、これらのプラットフォームを使用すべきか、また、使用するならどの程度の金額を支出すべきかについて広く議論が行われている。

米モダンリテールは、各ブランドの事例をFacebook広告の良い点と悪い点とに分類した。

良い点:Metaは依然として拡張する最大の可能性を持つ

FacebookとInstagramで多くの支持者を持つブランドにとって、それらを捨ててしまうのは現実的な選択肢ではない。

家庭用ブレンダーのブレンドジェット(BlendJet)の共同創設者でCEOを務めるライアン・パンプリン氏は、「私は依然としてMetaを強く信じている。このプラットフォームは比類のない拡張性と販売数量をもたらし続けている」と述べる。同社はInstagramに64万5000人のフォロワーを抱え、Facebookのレシピ共有グループも10万人のメンバーが存在する。

同氏は次のように述べている。「FacebookとInstagramへの出稿及び出資は、当社の予算の大部分を占め続け、これらのプラットフォームに利用者が存在する限り、当社はこの出資を続けるだろう。この状況が近い将来に変化するとは思わない。当社は従来よりも多様化しているが、Metaのプラットフォームにかけている予算は減らしていない」。

多くのマーケターは直感的にFacebookから撤退するべきだと考えているにもかかわらず、ブレンドジェットのウェブサイトのコンバージョン率は「当社の継続的な創造性と、ウェブサイトの最適のおかげで、時間とともに増え続けてきた」と同氏は述べている。同氏は、昨年のiOSの変更によって同社が打撃を受けず、同社はそれに応じてキャンペーン費用を調整してきたことを認めている。同氏は次のように述べている。「当社は毎日、広告費用を一日中調整し続けている。顧客獲得のコストが一定レベルを超えた場合に当社は費用を減らし、低下した場合にはスケーリングが最大化するよう費用を増やす」。

パンプリン氏は、同社の社内チームが毎週制作するブレンドジェットの動画は「製作の質が高い」とし、それがFacebookプラットフォームが依然として機能している理由のひとつだと述べている。同社が最近制作したASMRのブレンディング動画はその例で、スムージーのブレンディングの動画に気分が安らぐようなささやき声をかぶせたものだ。この動画は現在までにYouTubeで360万回再生されている。FacebookやInstagramでは、さまざまなバージョンにわたって1億回以上再生されている。

同氏は次のように述べている。「当社には300を超えるアクティブな広告があり、現在もさまざまなバリエーションが実行中だ。重要なのは、利用者の注目を集めるような、視覚的に刺激のあるコンテンツを作成し、利用者の問題をその商品が解決できるということを利用者が理解するまで、スクロールさせないようにすることだ」。

パンプリン氏は、同社がFacebook Shopsやライブショッピング(Live Shopping)も使用しており、「当社にとって非常に急速に成長している」と述べている。同社のFacebookライブショッピングのイベントは、最小限の有料プロモーションで「数十万ドルの売上」を生み出したと、同氏は語っている。Metaでのもうひとつの主要な戦略は、「すべてのコメントに個別に回答し、将来の顧客と実際の関係を築き上げることだ」と同氏は述べている。そのためには大人数のチームを作るための投資が必要だと同氏は語る。「しかし、これは劇的な効果がある」。

「あらゆる場所、あらゆる形式で多数の広告を実行することにより、FacebookとInstagramだけでも毎日200万人を超える人々と接触している」と同氏は語る。同社は自社の動画の戦略をYouTubeやTikTokのアカウントにも適合させているが、ソーシャルでの到達範囲に関しては依然として数値が「及ぶものではない」と語っている。

悪い点:コンバージョン率が急速に悪化

植物を原料とするスーパーフードミックスのブランドであるユアスーパー(Your Super)は、FacebookとInstagramの広告の大部分を切り捨て、揺れ続けるD2Cのプレイブックを離れることを望んでいる。同社の共同創設者でCMOを務めるクリステル・デ・グルート氏は、「iOSの変更以来、当社はコンバージョンが大きく減少し、Facebookに何百万ドルもかけ続けることが困難になった」と述べている。

同社は2014年に欧州で操業を開始し、2018年の初頭に米国に進出した。それ以来、ソーシャル広告費用のほとんどはFacebookとInstagramに対するもので、これらへの費用は広告の合計予算の70%から80%に達した。

同社は5月、Meta全体への費用を毎月150万ドル(約1億9500万円)から約20万ドル(約2600万円)に減らした。「当社は先月、広告なしでコンバージョンがどうなるかをテストするため、広告をオフにすることを試みていた」と、グルート氏は述べている。同氏は、今のところD2Cのコンバージョン率は、ユアスーパーのFacebookやInstagramにおけるオーガニックなエンゲージメントのおかげで、昨年とさほど変化しなかったと述べている。同氏は、新しい予算はFacebookやInstagramが今年どれだけ役に立ってきたかをより的確に反映していると語った。

同社はその代わりに、Amazonの広告や、自社の新しい実店舗小売の運用開始をプロモートすることに重点を置いていく。同ブランドは今年、ターゲット(Target)、ザ・ビタミンショップ(The Vitamin Shoppe)、シーブイエス(CVS)、スプラウツ(Sprouts)の店舗で商品の販売を開始する。ユアスーパーのD2C売上高は2021年に6000万ドル(約78億円)に達し、Amazonや卸売とともに増加し続けると、グルート氏は予測している。

過去1年間にわたって、動画やさまざまな写真を含む、各種のクリエイティブキャンペーンをテストしてきたにもかかわらず、コンバージョン率は同社が2018年にFacebookを多用しはじめたときより「明らかに低かった」と、同氏は述べている。

2010年代後半のFacebookの全盛期に恩恵を受けたほかの小売ブランドも同様に、コンバージョン率の低下を感じている。例としてアパレルブランドのアウターノウン(Outerknown)は、AppleのiOS14がロールアウトされてから数カ月で、投資回収が25%減少した

グルート氏は、2022年において、FacebookやInstagramから新しい顧客を獲得する方法は、コストが高くなりすぎていると付け加えている。「このコストでは、顧客を獲得する意味がない」と同氏は述べ、さらに「もっと重要な点として、当社は顧客の維持に努め、顧客の生涯価値を倍増しようと試みている」と補足している。

良い点:豊富な資金を持つ層との接触

2019年に創設された宝石類ブランドであるジェイン・ウィンは今でも商品の大部分を自社のD2Cウェブサイトで販売しており、約15%の卸売販売を専門小売業者で行っている。このモデルによる当然の結果として、同社のデジタル広告予算はFacebookとInstagramに注ぎ込まれ、高年齢層が中心の良質な宝石類の買い物客を引き寄せるため比較的効果的だった。

この新興企業のマーケティングを率いるエミリー・バジャリア氏は、同ブランドの平均注文価格が約300ドル(約3万9000円)であるため、ピンタレストやTikTokなどほかのプラットフォームではコンバージョンが難しいこともあると語る。「インプレッション数は高いが、あまり信用できない」。

同氏は、現状では宝石類のカテゴリーの潜在的な顧客の大部分は、実績のあるソーシャルフィールドに時間を費やしており、そのなかでもFacebookとInstagramがもっとも大規模なものだと語る。

このため、昨年の4月以降にFacebookでコンバージョン率が多少低下していても、同社は引き続きMetaに費用をかける一方で、Googleショッピングやアフィリエイトマーケティングとの協力を増やすなど、広告の構成を多様化しようと試みていると、同氏は説明する。また同氏は、プライバシーの変更が行われて以来、ジェイン・ウィンはFacebookの社内マーケティングチームから連絡を受け、キャンペーンのヒントを教えてもらったとも言及している。

同氏は次のように述べている。「当社が近い将来にMetaを完全に離れることはない。しかし、D2Cブランドとしては、売上のためMetaに頼るべきではない」。

悪い点:コストの急増

多くのCPGブランドは、FacebookでのCPM(インプレッション単価)の増加に苦しんでいる。例として消化補助食品のブランドであるアーラエ(Arrae)は、2019年の創業以後にFacebook広告の金額が急増し、D2Cブランドである同社は代わりとして安価なTikTokの広告に投資することになった。アーラエの共同創設者であるニッシュ・サマントレイ氏は、同社に対するFacebookのCPM料率は25ドル(約3250円)の範囲を超えたと、米モダンリテールに語った。これは、独自のベータ版広告プラットフォームを急速に作り上げつつあるTikTokのCPMのほぼ2倍だ。

別のCPGブランドとして、D2Cのインスタントラーメンのブランドであるイミー(Immi)も、有料コンテンツのコストが上がり続けるにつれ、自社の広告のうちでMetaをどれだけ大きな割合にするかを見極めている最中だ。このような状況で、イミーは安価なTikTokへと急速に移行しつつある。

それでも、ラーメンブランドである同社はプラットフォームを完全に離れたわけではない。イミーの共同創設者であるケビン・リー氏は、同ブランドでは今年、プラットフォーム上で一定の売上を生み出し続けるよう、Facebookに対する広告費用を増やしたと語っている。同氏は、Metaの広告モデルが過去2年間に「必要悪となった」ことに同意している。FacebookとInstagramを最大限に活用するため、イミーは社内コンテンツチームを構築し、同ブランドのヌードルのレシピを使った独自のキャンペーンを作り上げて実行した。

しかし、Metaのコストの高さから、イミーはより安価なデジタルコンバージョンチャネルを探している。同社は総予算の一部をTikTokのベータ版広告に移行した。「できるだけ早く成果が出ることを願っている」とリー氏は述べている。この動きは、ますます多額の資金を呑み込もうとしているMetaに資金を注ぎ込むことを避けるため重要なものだ。「当社は毎月、CPA(顧客獲得単価)が少しずつ上昇するのを目にしている」。

[原文:The case for and against Facebook advertising]

Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:猿渡さとみ)

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