ジェネレーティブAI をファッションブランドはどのように利用しているのか?

DIGIDAY

ジェネレーティブAIで作成された架空のナイキ(Nike)コラボレーションスニーカーの写真がソーシャルメディアで何週間も話題になっている。だが、これはファッション業界がAIを活用している一例に過ぎない。AIの用途はマーケティングやエンジニアリング、没入型体験に及んでおり、すでに有益で広大である。

ますますユーザーフレンドリーになっている新しいAIツールのおかげで、AIは2月に話題を集めた。3月20日には、画像エディターのAdobe Fireflyがテキストから動画への変換をサポートする新しいAIテクノロジーを、また、グラフィックデザインプラットフォームのカンバ(Canva)がブランドデザインをサポートする新しいAIテクノロジーを展開した。これらのローンチはビジュアルコンテンツ作成におけるAIの有用性をさらに証明するものであり、これは始まりに過ぎない。

業界の専門家は、AIツールによりさらに迅速でシームレスなワークフローが可能になり、マーケティングや運用、エンジニアリングなどの分野の従業員は創造的なタスクや問題解決のタスクに集中できるようになると予測している。コンサルティング企業のマッキンゼーのパートナーであり、2022年1月の「Generative AI is here(ジェネレーティブAIの台頭)」レポートの共同執筆者であるロジャー・ロバーツ氏は「これは、今日のテクノロジー業界でもっとも速く変化しており、潜在的にもっとも影響力のあるトレンドのひとつだ」と述べている。

ハイパーパーソナライゼーション

eコマースサイト、ターゲット広告、店内体験を通じて消費者向けの製品と体験のパーソナライゼーションを次のレベルに引き上げることは、小売業者に利益をもたらすためのユースケースのひとつである。今日までのパーソナライゼーションは、主に関心や年齢層、場所によって顧客をグループ化するマイクロセグメンテーションにより行われている。

「ハイパーパーソナライゼーションを提供するためにはもっと多くの自動化が必要になる」と述べているのは、パーソナライズド・モバイル・メッセージング・プラットフォーム、アテンティブ(Attentive)のCEO、ブライアン・ロング氏だ。同社は3月27日にアテンティブAI(Attentive AI)を発表した。これは、AIと、アテンティブの1.4兆のデータポイントからの効果的なコンテンツに関する洞察を利用して、ブランドが完全なマルチチャネルキャンペーンを作成できるようにするツールである。現時点ではベータ版を使っている主要小売ブランドから148%の収益増加が報告されている。

「多くのブランドは入力したテキストプロンプトに基づいて背景画像と前景画像を組み合わせ、製品カタログ内の製品を活用するマーケティング画像を生成するために、当社のジェネレーティブ画像作成プラットフォームを使うことになるだろう。その後ブランドは画像の設定や照明などの要素をパーソナライズする」とロング氏は述べる。AIはテキストプロンプトと組み合わされた画像のデータベースを使って適切な設定要素を選択する。「その結果、場合によっては本番環境に対応した画像を送れるようになることもある。それ以外の場合では、最終的な撮影に必要なものを理解するのに役立つこともある」。ロング氏によると、このツールを使えばブランドは異なる地域向けのマーケティング画像をほぼ無料でカスタマイズできるという。

アテンティブAIはキャンペーンのコピーも作成する。「我々の最大の課題はいつもマーケティングコピーをタイムリーに完成させることだった」と述べているのは、ストリートウェアブランド、ハットクラブ(Hat Club)のeコマースディレクター、ジェイソン・エドワーズ氏だ。「驚いたのは、アテンティブAIのおかげで、我々が介入して完成させる前にかなり最終版に近い形でコピーが得られるという点だ。コンテンツ作成時間が大幅に短縮できるようになり、おかげでもっと良いキャンペーンを構築して、顧客をもっと適切にセグメント化できるようになる」。

ビジュアルマーチャンダイジングとコレクションの制作

AIはビジュアルマーチャンダイジングの問題を解決することもできる。ブランドが多くの店舗をオープンするにつれて、ブランドのアイデンティティをグローバルに表現するだけではなく、各店舗の環境に合わせたビジュアルマーチャンダイジングが必要になる。コストと時間の制約ゆえに、ビジュアルマーチャンダイズ責任者がブランドの全店舗のレイアウトを担当することは稀だ。

ロバーツ氏は次のように述べている。「AIを使って、最高のバーチャルビジュアルマーチャンダイザーの本能と直感に基づいて学習プログラムをトレーニングできれば、マーチャンダイザーのアイデアやスタイルや機能を、各シーズン、各店舗にもたらすことができるだろう」。

ロバーツ氏はAIのビジネスへのクリエイティブな応用についても言及している。「ブランドはジェネレーティブAIテクノロジーを使用して、コレクションのメモやスケッチ、アイデアを統合できるようになる。AIを使って、それらを運用・財務やマーチャンダイジング・マーケティングと組み合わせれば、ブランドにとって持続可能で、顧客にとって好ましい価格とマージンでコレクションを作成することができる」。

リーバイ・ストラウス(Levi Strauss & Co)はAIを使用して、ウェブサイトやほかのチャネルで幅広い多様なモデルを起用している。同社のデジタル・新規テクノロジー戦略のグローバル責任者、エイミー・ガーシュコフ・ボレス博士は 「AIを使用してメンバーにパーソナライズされた特典を提供することで、ロイヤルティプログラムを強化して差別化してもいる。これにより、登録数、収益、アプリ登録が大幅に増加している」と述べている。たとえば、パーソナライズされた特典にはその地域で人気のある製品に基づいてローカライズされた割引などがある。「昨年、ヨーロッパでロイヤルティプログラムを拡大して以来、当ブランドのメンバーは世界中で500万人に達している」。

ガーシュコフ・ボレス氏は、特定の市場の消費者データに基づいて、「AIは、当社のウェブサイトとモバイルアプリでパーソナライズされた製品のレコメンデーションを提供するのに役立っている」と語っている。「また、当社は消費者のモビリティデータを活用して、地元の消費者に特有のニーズと関心に合わせて店舗をカスタマイズし、需要が最大の場所に新規店舗をオープンしている」。

最後に、ガーシュコフ・ボレス氏は、AIはセールにおいて利益を出す可能性が最大のカテゴリーと製品の在庫を分析して、同社のプロモーションを強化していると述べている。同氏は、シーズン半ばとシーズン終了時のセール、米国とヨーロッパでのブラックフライデーのセールなどの例を挙げている。

Web3ブランド

Web3ブランドにはすでにAIをクリエイティブプロセスに採用しているところもある。社歴2年のWeb3ブランド、RTLSS(レストレス)の創業者、チャーリー・コーエン氏は、同社スタジオはジェネレーティブAIを使ってAIがコードを作成できるようにして、コーディング開発作業を加速して、ワークフローが最適化されたと述べている。また、同氏はユーザー生成コンテンツの作成にもジェネレーティブAIを利用している。

「今年を通してさらに多くのAIを徐々に統合していく」とコーエン氏。「次のドロップでは、AIを使用して、鋳造と鋳造後の両方のエクスペリエンスをゲーム化する予定だ。当社が現在構築しているUGCツールキットにはアセットの検証やIP保護の管理などのバックエンドプロセスも含まれる。そのようなプロセスはAIによって自動化されて強化されることになる」。

NFTのブロックチェーントランザクション履歴を分析し、NFTが複製ではなくオリジナルであることを確認するためにAIを使うことができる。また、AIにより、NFTアートのコンテンツを分析して、それがオリジナルであり、著作権法に違反していないことを確認することも可能だ。

Web3で活動中のフィジカルファッションブランドの1社であるトミーヒルフィガー(Tommy Hilfiger)はAIを使って顧客との共同制作を試みている。これはメタバースファッションウィーク中に行われ、消費者に、ジェネレーティブAIを使って同ブランドの代表的なプレッピースタイルのアイテムをデザインする機会を提供している。

ファッションショー

すでにさまざまな変貌を遂げているファッションショーもAIによって変化しつつある。新興テクノロジー企業、ファッション・イノベーション・エージェンシー(Fashion Innovation Agency、以下FIA)の責任者であるマシュー・ドリンクウォーター氏は、パンデミックの最中にロンドン・カレッジ・オブ・ファッションでAIのコースを担当して以来、ファッションショーでのAIの使用を試している。2020年に学生が最終的な作品を披露できなかったため、ドリンクウォーター氏はFIAと協力し、アーカイブショーの映像と動くモデルの骨格データを使ってバーチャルランウェイショーを制作した。このプロジェクトは、今年、フォトリアルなモデルとAIを取り込んで再考され、LinkedInで3月21日にリリースされている。

ドリンクウォーター氏は次のように述べている。「以前のショーでは膨大な量の手作業が必要だった。今回がそうではなかったというわけではないが、ショーの実施には具体的なスキルセットが必要だった。AIツールによりこの種のエクスペリエンスの制作はかなり対応しやすくなっている。特に、AIプラットフォームのランウェイAI(Runway AI)が今週(3月最終週に)ローンチしたテキストプロンプトから動画へのAIツールが利用できるようになったことは大きい」。

「動画コンポーネントはエンゲージメントを次のレベルに引き上げる。画像は確かにクールではあるが、動画の場合、人は立ち止まって時間をかけて視聴するからだ」とロング氏は述べている。

FIAは、今年のランウェイプロジェクトのためにAIプロンプトツールのミッドジャーニー(Midjourney)とステイブル・ディフュージョン(Stable Diffusion)を用いた。FIAはラグジュアリーブランドからインスピレーションになる画像を取得して、AIモデルをトレーニングしてルックを理解し、それをある男性モデルに着用させてフォトリアルな動画を制作した。ドリンクウォーター氏は、創造性とAIを使ったファッションの実験において人間的な要素がさらに必要であるというロバーツ氏の意見に同意している。だが、ドリンクウォーター氏は、フォトリアルな新しい機会がデジタルファッションの大量導入を推進するのに役立つだろうと語っている。

留意事項:AIはメタバースよりも速く実装できる

ロバート氏は、メタバースは「本当に素晴らしい体験を生み出すには多くを適切な方法で組み合わせる必要がある。AIはそうではない」と言い、「いま持っているソフトウェアに機能を追加して向上させることができる。ヘッドセットが必要だったり、まったく新しいプラットフォームを作成したりする必要はない。これが、AIについて語ることからAIを使ってCFO関連の影響を与えるまでのハイプのサイクルが短い理由だ」と説明する。

不況関連の懸念により企業がコスト削減を進めているが、AIを活用して人件費を削減することも可能だろう。「AIが収益に与える影響により、AIの活用がCTOとCFOにとって最優先事項であることが示唆されている。多くの場合、AIは人の作業の反復的な部分を担当し、スタッフはプロジェクトを迅速に実行できるようになるだろうが、AIが(すべてに)取って変わることはできない」。

ドリンクウォーター氏は次のように付け加えた。「これは、機械学習、人工知能、没入型体験の使用など我々が組み合わせられるものの組み合わせであり、(組み合わせにより)次世代の没入型体験を提供し始めることができる」。

[原文:How fashion brands are using generative AI

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

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