ソーシャルメディアによる燃え尽き症候群が話題になっているなか、ブランドはZ世代にリーチするための次のプラットフォームを探している。新しいアプリがマーケティングのベテラン2人によりローンチされるが、彼らによるとこれこそが解決策だという。
マーケティング会社幹部がローンチしたRTROとは
マーケティング会社、THエクスペリエンシャル（TH Experiential）の幹部が、4月末に新しいソーシャルアプリ、RTRO（レトロ）をローンチし、iOSアプリストアに登場している。中毒性のあるアルゴリズムを省略してメンタルヘルスにフォーカスしたこのアプリにはグループチャットの新しいハブになる狙いがある。機能には、プライベートグループチャットのセクション、ブランドやインフルエンサーがフォロワーにメッセージを送信するためのパブリックセクション、ChatGPT統合が含まれている。創業者はマーケティングの経歴と美容業界との関係を利用して、ループスビューティ（Loops Beauty）やアラスティンスキンケア（Alastin Skincare）などの美容ブランド数社をこのアプリに惹きつけている。
Advertisement
「多くの人たちにとって、チャット、テキストメッセージ、SMSが好ましいコミュニケーション方法になりつつある傾向が見られる」と述べているのは、RTROの共同創業者でTHエクスペリエンシャルのパートナーであるニコール・ファルコ氏だ。「多くのテストで得たフィードバックから、iMessageではユーザーは複数のコミュニティを整理するのに苦労していることがわかった。WhatsAppやGroupMeは好まれているものの、ユーザーはそのようなアプリから離れたいと思っている」。
ファルコ氏は、2020年のパンデミックのロックダウン中に、THエクスペリエンシャルの共同創業者兼CEOであり、RTROの共同創業者であるトリスタン・ブレナン氏と共にこのアプリの概念化に取り組み始めた。THエクスペリエンシャルは、セフォラ（Sephora）やベネフィットコスメティクス（Benefit Cosmetics）ら多数のクライアントのポップアップマーケティングイベント作成にフォーカスしていたが、迅速にデジタルに移行しなければならなかった。
ブレナン氏は「文字通り、（THエクスペリエンシャルの）事業のデジタルストリーミングアプリの面全体を一晩で構築した」と述べている。RTROは別会社であるが、新しいアプリをローンチしてさらに深くデジタルに関与するという考えは、既存のソーシャルプラットフォームでのマーケティングに対するクライアントの不満を耳にしていたことから生まれた。
「我々は経験を生み出すデザイナーだ。そこで、『自分たちの視点でソーシャルメディアを捉えてみたらどうだろうか』と考え始めた」とファルコ氏は語る。同氏には、MACコスメティクス（MAC Cosmetics）でクリエイティブ戦略・デザインの消費者体験担当グローバルディレクターを務めた経験がある。彼女は、ブレナン氏と自分が「機能を備えたアプリを開発しているだけのシリコンバレーの人々」ではないことは利点だと考えている。
「我々はマーケティング代理店なので、ブランドが抱えている問題について考え始めた」とファルコ氏は語っている。
ChatGPTを使用した「Ask AI」機能も搭載
RTROのプライベートグループチャットのセクションはRTROサークル（RTROCircles）と呼ばれ、ユーザーはグループを作成したり、テキスト・リンク・画像・動画を共有できる。一方、ブランドとインフルエンサーはRTROTVと呼ばれる機能のパブリックチャンネルで同じことができ、DM形式でフォロワーにコンテンツを送信することができる。ユーザーは公開投稿にいいねで返信したり、また、ChatGPT技術を使っている「Ask AI」アカウントとDM形式でチャットすることも可能だ。
RTROは、既存のトップソーシャルメディアプラットフォームが全体的に「失敗の時代」に突入しているという議論がメディアを賑わしている最中にローンチされることになる。Twitterは混乱期にあり、インスタグラムのユーザーはフォーマットの変更に不満の声を上げており、TikTokは米国での禁止の可能性に直面している。
プライベートDMと公式アカウントを別々に分けたRTROのフォーマットは、中国拠点のスーパーアプリ、WeChatのメッセージング機能を思い起こさせる。WeChatはファルコ氏がMACコスメティクス時代に親しんでいたものだ。WeChatにインスピレーションを得た米国市場におけるスーパーアプリのコンセプトは、長いあいだ、米国のトップテック企業の創業者らの関心事となっており、RTROの目標の一部でもある、とファルコ氏は語っている。
AIコンポーネントに関しては、自動化されたプライベートチャットコンパニオンをZ世代がどのように利用するかについてはまだ結論が出ていない。4月19日にSnapchatが独自の「My AI」機能を導入した後、バーチャルキャラクターがチャットページの上部に自動的にピン留めされるのに不満を抱いたユーザーから1つ星のレビューが殺到した。
RTROでのChatGPTの統合は仮想の友人というよりは情報源としての位置付けであり、ブレナン氏は、ChatGPTが「学期末レポートでズルする」以上の目的で使えることをZ世代に向けて示すためだと語っている。
「RTROを使ってユーザーが自分の暮らしを取り戻せるように働きかける」とブレナン氏。RTROは毎週金曜日にプロンプトを送信し、レストランやアクティビティの推奨事項など週末の行動の提案をチャットで受け取るようにユーザーに促すという。
パブリックのRTROアカウントを持つ美容ブランドには、ループス（Loops）、ジョア（Joah）、キスビューティ（Kiss Beauty）らがある。一方、アラスティンスキンケアはRTROのプライベートチャット機能を使ってスキンケアの専門家とつながり、5月4日に開催される同社のエステティシャンサミットでグループを立ち上げる予定がある。またキスビューティもプライベートグループチャットチャネルをローンチするという。マイヴァナヘアケア（Myvana Haircare）とヘイロー42（Halo 42）もRTROに参加する予定である。ヘイロー42は、元アルマーニ ビューティ（Armani Beauty）のセレブリティメイクアップアーティスト、ティム・クイン氏が設立したブランドである。
ループスのCEO、メグ・ベッドフォード氏は、「ブランドとして、当社はこの（Z世代の）オーディエンスとつながりコミュニティを作成できるオーセンティックな新規プラットフォームに刺激を受けている」と語っている。また、Kビューティブランドのジョアはジレニアル世代やミレニアル世代の消費者をターゲットにすることに関心を寄せている。「当社が米国でブランド認知度とコミュニティを構築していくなかで、RTROは対象層とオーガニックにつながって、広告やアルゴリズムなしで直接関与できる場所だ。RTROのプラットフォームは当社ブランドの価値観と一致しており、デザインも当社の美学と一致している」とジョアのブランドマーケティングディレクター、ドナ・ピッズロ氏は述べている。
無償で45人のインフルエンサーが関与
またRTROのローンチには、ほかのプラットフォームで合計で500万人以上のユーザーにリーチしている45人のインフルエンサーも参加する。インフルエンサーには、ソフィア・スキアロリ氏（@soso_swagm、TikTokフォロワーは5.4万人）やメロディー・ペレス氏（@diaryoftroubledskin、インスタグラムフォロワーは14万人）らがいる。ファルコ氏によると、インフルエンサーはアプリへの参加やコンテンツの投稿に対して報酬を受け取っておらず、RTROはユーザーを取り込むための広告も現時点では行っていないという。
「RTROには、クリエイターとそのファンとのあいだの管理が強化されたコミュニケーション手段としての可能性があると考えている」とペレス氏。「ダイレクトメッセージやコメントへの返信が大変なこともあるが、RTROはクリエイターが積極的に関与するために一定の時間を確保できるスペースを提供している」。
アルゴリズムに左右されないコンテンツ
いまのところRTROは収益化を追求しておらず、ブランドは無料で参加できる。将来には収益化計画が開発され、それには、ファルコ氏が「アルゴリズムのないコンテンツチャネルサーフィン」と表現するRTROTVセクションで展開される動画機能セットを通じたソーシャルコマースが含まれるようになる。
近年、10代のメンタルヘルスに与える影響に関してソーシャルメディアのアルゴリズムは批判の対象になっている。そのため、創業者らはRTROアプリを若者のメンタルヘルスにとって優しいオプションであることを強調している。この点は、アルゴリズム以前の時代を感じさせるブランディングに取り入れられている。
「基本的には、現在人気が高くトレンドになっている懐かしさのあるアイテムを若干活用している」とファルコ氏。「目的は、人々や素晴らしいコンテンツとつながれる時代に人々を連れ戻すことだ」。
［原文：New Gen Z-centered app RTRO launches with ChatGPT and focus on messaging］
LIZ FLORA（翻訳：ぬえよしこ、編集：山岸祐加子）
