「私の目標は素晴らしいシリーズと素晴らしいテレビを作ること」: ユービーアイソフト ・フィルム・アンド・テレビジョン 責任者 ジェイソン・アルトマン 氏

DIGIDAY

1月中旬にリリースされたHBOの最新ドラマシリーズ「ラスト・オブ・アス(The Last of Us)」は、ビデオゲームの知的財産がストリーミングビデオの世界で新たに注目されていることを示す最新の例である。この番組の第1話は、瞬く間にHBO史上2番目に多く視聴されたシリーズ・デビュー作となり、「サクセション(Succession)」や「ユーフォリア(Euphoria)」などの人気作品を抜き、数日で470万人の視聴者を獲得した。

同ドラマシリーズの公開をめぐる大騒ぎの恩恵を受けたのはHBOだけではなかった。番組への関心が高まったことで、先週にはドラマの元ネタであるビデオゲームの売り上げが増加。「ラスト・オブ・アス・パート1(The Last of Us Part 1)」と「ラスト・オブ・アス・リマスター(The Last of Us: Remastered)」の両方の購入がそれぞれ200%以上急増した。ノーティードッグ(Naughty Dog)のゲーム開発者にとって、2013年に最初にリリースされたタイトルとしては異例の大ヒットとなった。

ビデオゲームの映像コンテンツ化の増加は、知的財産の膨大なバックログを誇る大手ゲーム開発者にとっては朗報である。彼らの知的財産の多くは、映画・ドラマ化に適しており、またゲーム自体も再び注目を集めることで大きなメリットを得られる。ユービーアイソフト(Ubisoft)は、そうした開発会社のひとつだ。最近のビデオゲームの映画・ドラマ化への関心の爆発的な高まりをどのように利用しているかを知るために、DIGIDAYは2017年からユービーアイソフト・フィルム・アンド・テレビジョン(Ubisoft Film&Television)の責任者を務めているジェイソン・アルトマン氏に話を聞いた。

この会話は、長さと明確さのために編集および要約されている。

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ーー現在映像化しているメジャーなビデオゲームについて

私がとくに楽しみにしているものが2つある。ひとつはネットフリックス(Netflix)と共同で制作している「アサシンクリード(Assassin’s Creed)」シリーズで、これはフラッグシップ・シリーズを制作する素晴らしい機会だと思う。アサシンクリードはとくにテレビに向いている。テレビ・シリーズとして制作することで、長期的に同タイトルを探求するための、幅広く長い滑走路を提供してくれると思う。登場人物や世界、歴史の豊かさを探求することができ、テレビはそれに適しているだろう。

もうひとつ開発しているプロジェクトは、ソニー・スクリーン・ジェムズ(Sony Screen Gems)と共同で制作している、ゲーム「ジャスト・ダンス(Just Dance)」をベースにした長編映画だ。ファミリー向け映画という枠組みのなかで、同ゲームの世界、音楽の世界、ダンスの世界を探求する、本当に楽しい機会だと思う。

ーーアルトマン氏

ユービーアイソフト・フィルム・アンド・テレビジョン(Ubisoft Film&Television)の最初のプロジェクトのひとつは、2016年に公開された「アサシンクリード」の長編映画化であった。この映画は1億2500万ドル(約162億7387億円)の製作費で2億4000万ドル(約312億3984万円)以上の収益を上げたが、メインストリームの批評家と原作ゲームのファンの両方から、この映画の性急な世界構築と複雑なストーリーに対する激しい批判を受けた。

「アサシンクリード」の長編映画は、映画という枠組みが持つ制限によって、その成功が妨げられたということがアルトマンの回答から読み取ることができる。「アサシンクリード」や「ラスト・オブ・アス」のようなゲームが提供する物語は長く広がりを持つものであり、全てを楽しむには何日もかかることがある。映画ではなくテレビ化にすることによって、それらの物語に十分な時間を与えることができる。

とはいえ、アルトマンはすべてのビデオゲーム原作の作品制作においてテレビ・映画が優れた媒体であるとは考えていない。テレビ化や映画化される世界観がそもそもどれだけ深いかにかかっている。「それは、物語のタイプに本当に依存する」と彼はいった。「ビデオゲームの映画化作品のなかには、これまでもいくつか、非常に楽しく、成功したものがあったと思う」。

ユービーアイソフト・フィルム・アンド・テレビジョンは、プロジェクトを映画とテレビに振り分けるだけでなく、パリを拠点とするアニメーション部門も持っており、「スプリンター・セル(Splinter Cell)」ゲームをベースとした今後のアニメシリーズなど、アニメーションプロジェクトに注力している。同社パリ支社のマネージングディレクターであるヘレン・ジャグー氏は、「アニメーションの方が汎用性が高い」と述べる。「これにより、より多くのインディーのクリエイティブ領域を探索したり、新しいジャンルをテストしたりすることができ、我々のIPライブラリを使って色々と試すことが、さらにエキサイティングになる」。

ーービデオゲーム原作の映像コンテンツの流通方法について

私たちは、それぞれのプロジェクトが最も適していると考えられる流通形態に向けて開発する。もちろん、あらゆる形態の流通形態に対してオープンだ。しかし、プロジェクトの種類に応じて、それぞれ開発中の番組や映画の財務を支えることができる流通の種類を探している。私たちはすべてのオプションを喜んで検討している。

たとえば、Appleの「ミシック・クエスト(Mythic Quest)」シリーズがある。当時のAppleは新しいプラットフォームだった。私たちは、彼らがやっていることを信じており、彼らがプレミアムテレビで本当にプレミアムな体験を提供すると感じていた。そして、その番組を評価してくれる視聴者がそこにいると思っていた。彼らと仕事を続けられることを本当に嬉しく思っている。現在は彼らと『ミア・モータルズ(Mere Mortals)』という新たな(ミシック・クエストの)姉妹シリーズを開始したところだ。

当社は多くの制作会社と同じように仕事をしている。ビジネス上の取引がどのように機能するかの詳細についてはあまり話せないが、私たちが提案しているのはクリエイティブ・パッケージであり、パートナーと協力して、そのクリエイティブパッケージ、ショーランナー、ディレクターのビジョンをサポートするための制作予算を見つける。「これがそのビジョンを達成するために必要な予算だ」と伝え、彼らと密接な関係を築いて、一緒に取り組んでいる。

ーーアルトマン氏

現時点では、シリーズ物のビデオゲームIP作品の圧倒的多数が、リニアテレビではなくオンラインのストリーミングサービスを介してリリースされている。HBOには「ラスト・オブ・アス」、ネットフリックスには「ザ・ウィッチャー(The Witcher)」、パラマウント+(Paramount+)には「ヘイロー(Halo)」など、数え切れないほど多くの作品がある。ではリニアテレビではというと、正直なところ、ビデオゲーム原作で従来のリニアテレビ向けにシリーズ化され、このレベルの人気を誇る例はない。

従来のテレビでビデオゲーム化が行われていないのは、少なくとも部分的には、Apple TVのようなストリーミングサービスが、成功が実証されていない知的財産の映画化・ドラマ化に対して、リニアテレビの競合他社よりも積極的に賭けて出ていることの表れである。しかし、それはビジネスとしてもよいことだ。ニールセン(Nielsen)の2022年12月のゲージ(Gauge)ランキングによると、最近のテレビ利用の伸びの大部分はゲームが牽引しており、ケーブルテレビと放送テレビの利用はともにパーセンテージポイントで1ポイント減少している。ゲーマーであれば、お金を払ってケーブルテレビを視聴したりはしないだろう。

ーー原作に忠実であることの重要性について

哲学的には、素晴らしいゲームを作るためにしなければならない選択と、素晴らしい映画やテレビを作るためにしなければならない選択は、全く異なると思う。主な違いのひとつは、ゲームではプレイヤーに主体性がある。プレイヤーはキャラクターを演じていて、自分の動きがキャラクターの動きである。しかし映画・テレビでは異なるタイプの経験を提供する。そのため、異なる方法で共感を生み出す必要がある。したがって、主体性と共感という違いに、選択の違いがあらわれるだろう。

私たちが制作する(ゲームを原作とした)映画・ドラマ作品は、面白いと思ってくれる人であれば誰にでもリーチする可能性があると思う。ビデオゲームは大衆メディアや大衆文化から影響を受けており、シリーズのファンとゲームのファンの両方に、そしてスリラー映画のファンや、アクション映画のファンにアピールする機会があると思う。

ーーアルトマン氏

原作のファンを満足させることと、ゲーマーではない人でも気軽に楽しめるような作品にすることのバランスを達成することは、極めて困難な作業であると同時に、人からの感謝を期待できるような作業でもない。テレビドラマ化のためにストーリーがカットされたり追加されたりしたことに、少なくとも原作ゲームのファンの一部が憤慨することは避けられない。

しかし、このバランスをうまく取ることが、ビデオゲーム化の成功と失敗の違いを生む。これまでのところ、批評家たちはHBOの「ラスト・オブ・アス」がゲーマーと一般視聴者の両方を満足させたと称賛しており、膨大な視聴者数もそれを裏付けているようだ。番組の第2シーズン制作はすでに事実上保証されている。

ーー映像コンテンツ化によるビデオゲームの販売促進について

私の目標は素晴らしいシリーズと素晴らしいテレビを作ることだ。それが私の唯一の焦点であり、それが私のチームが本当に注力していることだ。私たちが行っているのは、オーディエンスとの接点を増やすこと、ファンが(IPを)探索するための追加の方法を作成すること。そして、人々がそれを気に入り、人々がそれを友人と共有し、フランチャイズと関わるさまざまな方法を持てれば、素晴らしいことだと思う。

「アサシンクリード」シリーズについて、フランチャイズをちゃんと体現する作品にする必要があるが、クリエイティブであることこそがその推進力である。オーディエンスを広げる効果が生まれたり、マーケティングにプラスの効果や効果があったりするのであれば、それは本当にポジティブなことだと思うが、クリエイティブであることを優先するのが私たちの仕事の仕方だ。

ーーアルトマン氏

ユービーアイソフトにおけるアルトマン氏の責任は明らかに質のよい映画とテレビを作ることであり、同社のゲームのマーケティングをすることではない。しかし、この一連の質問に対する彼の回答は、「アサシンクリード」のようなフランチャイズの表現方法が、ゲームとドラマで一致するよう、同社のマーケティングチームと調整しているいることを明らかにした。ストリーミング・プラットフォームが人気ゲームの映画化やテレビ化を量産し続けるなか、ゲーム業界の潜在的なマーケティングチャネルとしての役割はますます大きくなるだろう。

[原文:How gaming companies like Ubisoft want to expand screen adaption after the success of HBO’s The Last of Us

Alexander Lee(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)

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