TikTokのCEOが米連邦議会に初出席するなか、ほかのいわゆるビッグテック勢も依然、これが他人事ではないことを米議員らは明確にした。
3月23日、TikTokの周受資CEOは4時間以上にわたり、米下院エネルギー・商業委員会からTikTokに関する質問を次々に浴びた。中国に拠点を置く親会社のバイトダンス(ByteDance)と中国政府との関係性について訊ねる者もいれば、データ機密性、広告、コンテンツモデレーション、精神衛生といった問題に触れる者もいた。
厳しい目を向けられるTikTok
この公聴会の背景には、国家安全保障上の危機を回避するべく、政府機関のデバイスにおけるTikTok使用禁止に向かう世界諸政府の動きがある。米国ではTikTokの完全禁止を訴える議員もいるが、一方でTikTok側やさまざまな団体は、全面禁止は同アプリに依存する多くの個人および企業に害が及ぶと訴えている。
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バイデン政権はバイトダンスに対し、TikTokを米企業に売却するよう呼びかけてさえいる。この要求に中国側は反対しているが、周氏はこれについて「多くのソーシャルネットワークを蝕み続けているデータ機密性の問題の解決にはならない」と発言した。
「機密性問題への対応は必要だ」と同氏は訴え、「ただこれは、所有権の問題ではないと考えている。米国のソーシャル企業勢のことは大いに尊敬しているが、あえて言わせてもらえば、機密データの追跡やユーザーの安全性については、彼らも徹底できていない。Facebookとケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)を見ればわかる。あくまでも一例として挙げている」と話した。
周氏の態度はどっちつかず?
周氏(2021年にTikTokのCEOに就任)は今回、「TikTokには一部に言われているような中国政府との繋がりはない」と証言した。その一例として、同氏はTikTokの「プロジェクト・テキサス(Project Texas)」を挙げ、同アプリのデータストレージを総点検し、米ユーザーの全データを米法律の保護下に置くという、予算15億ドル(約1950億円)の一大計画について雄弁に語った。
さらには、同アプリのインフラストラクチャーに対するサードパーティオーバーサイト(第三者による監督)や、オラクル(Oracle)との提携によるさまざまな改善についても言及した。また、TikTokのコンテンツモデレーションおよび機密データの扱いは、ほかのソーシャルネットワーク勢のそれと何ら変わらないものであり、「これをよろしくないとする十分な根拠を、私は耳にしたことがない」と反論した。
一方、同氏が回答を避けた質問も多数あった。たとえば「TikTokは米通信品位法第230条の保護対象となるべきか」との問いに対し、その場での回答を避け、フォローアップを約束した(物議を醸している同法律は、米連邦最高裁で争われたTwitterおよびGoogleに関する最近の2件の訴訟の争点にもなった)。加えて、「TikTokが地理位置情報データを収集しているか」「TikTokの収益に占める親会社の取り分は何%なのか」「さらには同アプリと中国政府との繋がりに関するさまざまな質問」についても、後日詳細を提出する、としか答えなかった。
また、今回の公聴会に対する準備に協力した人物に関する詳細を明かすよう詰め寄られた際には、「自身の携帯電話は幸運を祈る言葉で一杯だった」と言ってはぐらかした。
米議員からの信頼は得られていない
米国では、ドナルド・トランプ前大統領がTikTokの禁止に動いて以来、2年以上に渡って共和と民主の両党が同アプリへの懸念を表明している。3月23日の公聴会中、米議会は「データプライバシーおよびビッグテックに関する公聴会をすでに何十回も開いている」と、ある議員は指摘した。また、データプライバシーに関する連邦法の可決が必要だと訴えた議員らもいた。同法案は2022年に委員会を通過したが、その先へは進めなかった。
公衆会にて、米下院議員リサ・ブラント・ロチェスター氏は5分間の質問中、「納得できる回答を得られるものと思って来たが、かえって不安が膨らんだ」と発言した。
また、「TikTokには困惑させられている。周氏は先ほどから、『これはTikTokだけが直面しているわけではない、業界全体の問題なのだ』と言い続けている」と、下院議員ブレット・ガスリー氏は発言した。「周氏を見ていて思い出すのは、マーク・ザッカーバーグ氏だ。ザッカーバーグ氏がここに来た後、私はスタッフに思わず、『彼はまるでフレッド・アステアだ、言葉巧みにひらりひらりと舞うダンサーのようだ』とこぼした。そして今日、周氏はそれとまったく同じことをしている」。
周氏には実際、TikTokのデータ販売について何度か訊ねられた際、答えをはぐらかそうとする姿勢が明らかに見られた。ある質問に対しては、「TikTokはデータを誰にも販売していない」と回答。だが別の質問に対しては、「『データブローカー』にはデータを販売していないと確信している」と発言を変えた。
また、GPSデータの広告利用に関する質問には、「詳細を確認する」としか言わなかった。さらに、13歳から17歳の青少年に向けた広告による収益額については「追って報告する」と答えつつ、「TikTokはそれ未満の児童に向けた広告は打っていない」とも言い添えた。
擁護や抗議の声も
一方、議会の外では人権およびデジタル権保護団体らがTikTok禁止に反対する動きを見せている。たとえば、そうした団体のひとつであるファイト・フォー・ザ・フューチャー(Fight For The Future)はさまざまなTikTokクリエイターを擁し、「DontBanTikTok(TikTokを禁止にするな、の意)」運動を起こした。また、アメリカ自由人権協会を含む10以上の団体が議会に連名で抗議文を送り、TikTokの禁止はデジタルフリーダムの侵害であると、訴えた。
「誰もが自由にインターネットを使える状態が当然であり、議会の気まぐれのせいでプラットフォームからプラットフォームへと渡り歩かされるのは、ゆゆしき事態だ」と、ある有識者は話す。
また、「TikTokの広告慣行は、ほかのソーシャルプラットフォームと比べて特段たちが悪いわけではない」と、広告監視機関トゥルース・イン・アドバタイジング(Truth In Advertising)のCEOボニー・パテン氏はいう。ただし、同氏のチームはTikTok自身の条項および条件に合致しない広告事例を同プラットフォーム上で発見しているとも話す。たとえば、「TikTokが禁じているにもかかわらず、インフルエンサーらによる非開示広告が多数見られ、マルチレベルマーケティングの実例も多々ある」と指摘する。
加えて、「マーケティングの観点からすると、TikTokを巡る問題の数々は、Facebookやインスタグラム、Snapchat(スナップチャット)について提起された問題と変わらない」と同氏は続けた。「青少年に悪影響を及ぼす欺瞞(ぎまん)的販促行為という点は同じだ。大きな違いは、その所有者が誰かという点にある」。
[原文:TikTok’s CEO faces bipartisan skepticism in first Congressional hearing on security concerns]
Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)