脱リニア&サーキュラー経済を前提とした経営は、企業にとって最重要課題のひとつだ。その一方で、導入・推進の仕方がわからず、手付かずとしている企業は多い。そうした問題を解決しようと、企業のサーキュラー経済推進・普及に取り組むのが、デジタルマーケティング支援会社・メンバーズだ。
同社の「サーキュラーエコノミー推進支援サービス」は、欧州連合(EU)でも採用されたアイデア発想ツールCircularity DECK(サーキュラリティデッキ)を使いながら、サーキュラーエコノミーへの理解・実現に向けたアイデア創出やアクションを促すためのもの。具体的には、企業内ワークショップや先行事例調査分析、サステナビリティ報告書のアドバイスなどを行う。
メンバーズの数藤雅紀氏は、クライアントにサーキュラーエコノミーの推進を提案する際、「本業で儲けながら進めていくもの」と話す。
資源投入量・消費量を抑えるサーキュラーエコノミーは、儲けるという概念とは対極にあるように見える。しかしながら、どう儲けるのかをまず考えるべきで、「これからは地球をよくしながら儲けていくことが当たり前の世界になる」と、同氏は言い切る。
今回は、Circularity DECKを使ったワークショップを体験した大丸松坂屋百貨店のサステナビリティ戦略担当者・米山由紀氏、伊藤友博氏にワークショップの効果をうかがうとともに、メンバーズの数藤雅紀氏を交えてサーキュラーエコノミーの重要性・必要性を聞いた。
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「サーキュラーエコノミーの推進」を掲げる大丸松坂屋百貨店
――大丸松坂屋百貨店は、2021年からマテリアリティ(重要課題)に「サーキュラーエコノミーの推進」を追加して取り組んでいますが、その背景を教えていただけますか?
伊藤:大丸松坂屋百貨店では、以前から「廃棄物の3R(リデュース、リユース、リサイクル)」に積極的に取り組んでいました。しかし、活動が進むにつれ、「廃棄物が出る」ことを前提としたこの取り組みだけでは、根本的な環境問題の解決には至らないのではないかという疑問も出てきていました。そうした背景から、弊社が中核事業会社として属するJ.フロントリテイリンググループのマテリアリティに「サーキュラーエコノミーの推進」が加わったのです。
3Rには、表面化した課題に対して適切な解決策を考えるというスタイルで取り組んできましたが、「サーキュラーエコノミーの推進」には、より戦略的な、攻めの姿勢が求められると強く実感しています。そうしたマインドセットの転換も含めて、どのような形で推進を具体化していくか、いろいろと戦略を考えています。
伊藤友博/大丸松坂屋百貨店 本社経営戦略本部経営企画部 サステナビリティ戦略担当。2018年よりCSR・環境マネジメントに携わり、2021年より現職。社内の廃棄物削減目標策定や資源循環促進に関する計画策定を担当している。
――どのようなきっかけでCircularity DECKの存在を知ったのでしょうか?
米山:私は、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンのCSV分科会に参加しているのですが、そこでメンバーズの方と知り合ったのが直接のきっかけです。小さな分科会なので、いろいろな方とじっくりお話しできてとても勉強になるのですが、その際にCircularity DECKのお話を伺い、興味を持ったのです。
伊藤:私は昨年、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンのサーキュラーエコノミー分科会に入会しました。そこで数藤さんの講演を聞く機会があり、メンバーズがサーキュラーエコノミーの推進を支援していることを知りました。
数藤:大丸松坂屋百貨店という、大手B to C企業からご相談があったというのが、まずとても嬉しかったですね。なぜなら我々は、B to C企業にこそ、サーキュラーエコノミーに積極的に取り組んでほしいと常々思っていたからです。
現状、サーキュラーエコノミーに取り組んでいるのは、B to B企業がほとんどです。しかし、B to B企業だけが取り組んでも、世間に大きく波及させることはできません。サーキュラーエコノミーの実現のためには、B to Cへのアプローチが非常に重要だというのが、我々の認識です。
サーキュラーエコノミーというと、どうしても「サーキュラー(循環)」の部分に注目してしまいがちですが、それだと、「どうやって回そうか」とコストの方に意識が行ってしまうか、もしくは理念優先でボランティア意識の方が強くなってしまうか、のいずれかに偏ってしまうケースが多いと感じています。
そうではなくて、「エコノミー(経済)」のほうが重要で、まずは「どう儲けるか」から考えるべきだというのが、我々の考えです。以前は、地球を壊しながら儲けていたのが、これからは地球をよくしながら儲けていくことが当たり前の世界になっていきます。その流れに消費者を巻き込んでいくことができるのがB to C企業の強みで、そうした企業が増えるほどにサーキュラーエコノミーの裾野が広がります。だからこそ、大丸松坂屋百貨店様からの今回のご相談は、サーキュラーエコノミーに特別な関心を持って取り組んでいる我々にとって、とても嬉しいお申し出でした。
米山:「儲けてください」という言葉はすごくインパクトがありました。CSR的な流れで考えると、どうしても肩に力が入るというか、「そういうもの」という意識で捉えがちです。そうではなくて、「本業で儲けながら回していくものなのですよ」と仰っていただいたのは、腑に落ちましたし、気が楽になりました。
米山由紀/大丸松坂屋百貨店 本社経営戦略本部経営企画部 部長 サステナビリティ戦略担当。2021年より現職。百貨店の事業領域のなかで環境・社会課題解決にアプローチする「ソーシャルグッドな活動」を社内で推進している。
サーキュラーエコノミーの戦略と原則を理解できるツール「Circularity DECK」
――Circularity DECKの機能について、詳しく教えてください。
数藤:Circularity DECKは、サーキュラーエコノミーの戦略と原則をまとめたカードデッキです。オランダのマーストリヒト大学・持続可能性研究所ヤン・コニエツコ教授が、数百の企業を分析し、開発したメソドロジーを基に開発しました。サーキュラーエコノミーの原則を理解し、企業内での共通理解や言語化、加えて、それに向けた新しいアイデアや取り組むべきアクションを特定するためのフレームワークを多数収録しています。
Circularity DECK では、5つの戦略と3つの階層(Ecosystem層、Business Model層、Product層)から51の具体的な戦術に落とし込み、それぞれをカード化しています。
ワークショップでは、これら51のカード(戦術)を、3つの時間軸(AsIs[現在]、AsIs+[手の届く現実像]、ToBe[未来])とビジネス規模軸を念頭に置きながら分析し、市場ニーズやビジネスの可能性を踏まえたアイデアの見える化を促すことができます。
ワークショップは、サーキュラーエコノミーに関する組織内の共通理解/言語の形成のほか、理解浸透のためのチェックリスト作成、今後やるべき行動策定、新規アイデア創出などに役立てられます。すでにEUでは、大手企業を対象に500回以上のワークショップ実績がありますが、メンバーズでは、開発者であるマーストリヒト大学・持続可能性研究所のヤン・コニエツコ教授より指南を受けこの日本語版を開発し、日本向けにローカライズしたワークショップを多数実施しています。
サーキュラーエコノミーの原則を理解し、新しいアイデアや取り組むべきアクションを特定するフレームワークをカード化した「Circularity DECK(サーキュラリティデッキ)」
議論が活性化し、アイデアの出やすいワークショップ
――ワークショップは2022年12月に行われたとのことですが、何人ぐらいが参加したのでしょうか?
米山:弊社からは17人が参加しました。4~5人のグループに分かれて、ディスカッションするという形式で行いました。
伊藤:参加メンバーはさまざまな部署から呼んだ方がいいというアドバイスを頂いていたので、事前に検討して、かなり幅広い部署・年代の方に声をかけました。これまで会社で実施してきた研修は、同じような立場の人の集まりであることがほとんどですが、今回のワークショップは多様性を重視したので新鮮でしたし、私自身も多くの刺激を受けました。
米山:本当にいろいろな立場の人を集めました。サーキュラーエコノミーについてディスカッションするという体験自体が、ほとんどの人が初めてだったこともあって、全体としてワクワクした雰囲気でした。また、ディスカッションに先立って数藤さんからお話しいただいた内容がとても面白いものだったこともあって、最初から雑談を促すというか、議論しやすい雰囲気になっていました。
――ワークショップの様子はいかがでしたか?
数藤:議論が盛り上がりやすいように、日本版独自の工夫として、参加者には事前にテーマをお伝えし、「テーマに関連すると思われる事例を探して持ってきてください」とお願いしています。
今回のワークショップも事前に宿題を出す形で進めましたが、お持ちいただいた事例を拝見すると、非常にアンテナ感度の高い方が多いという印象を受けました。サーキュラーエコノミーに関する関心は高く、初めて会う人同士が多いメンバーだったにもかかわらず、事例をフックに活発なディスカッションが行われていたことに驚きました。
数藤雅紀/メンバーズ DXプロデューサー 循環経済&サスティナビリティ推進ラボ所長。コロナ禍のリモートワークをチャンスにすべく、英ケンブリッジ大学の経営大学院循環経済&持続的発展戦略プログラム修了。現在は循環経済の普及とビジネス化を推進中。
――ワークショップ開催後、プラスの効果はありましたか?
米山:いろいろな人と話すと、アイデアって出るものなのだなということを強く実感させられました。実際、ワークショップでは、さまざまなアイデアが飛び交いました。また、Circularity DECKを使って、出てきたアイデアを具体的な事例に紐づけていくことで整理され、さらなるアイデア創出が促されるといった体験もありました。
伊藤:アイデアがアイデアを誘発し、そして整理・統合されていくという実感が体験できたことがとてもよかったです。さまざまな部署・年代の方が一堂に会してディスカッションするという経験自体が初めてでしたが、こういう場を設けること自体が重要だということが、よく分かりました。
サーキュラーエコノミーがより理解される社会に
――今回のワークショップの成果を基に、サーキュラーエコノミーをどのように推進していく予定でしょうか?
米山:大丸松坂屋百貨店は、2024年から新しい中期が始まります。この3年間で何をやっていくべきか、ワークショップで出てきたアイデアを参考にしつつ、お客様を巻き込んだ志のある施策を考えていきたいと思います。
伊藤:大丸松坂屋百貨店では、2016年から「エコフ」という、資源循環施策を行っています。店頭でお客様から不要な衣料品や靴、バッグなどを回収し、リユース・リサイクルする取り組みで、多くのお客様と育ててきた活動です。「サーキュラーエコノミーの推進」の下では、それを超える大きな施策に取り組みたいと思っています。
――大丸松坂屋百貨店をはじめとし、サーキュラーエコノミーを推進したいと考える企業に関して、メンバーズでは今後どのような支援をしていきたいと考えていますか?
数藤:理解促進を促すワークショップをどんどん開催していきたいですし、その理解に基づいたキャンペーンも手掛けていきたいと思っています。たとえば、日本ではカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)に取り組む企業がとても多いですが、その目標達成には、サーキュラーエコノミーの推進が絶対に必要です。
また、サーキュラーエコノミーはマテリアルリサイクルだと思っている人が多いのですが、それは大きな誤解。サーキュラーエコノミーとは、ゼロウエスト(ゴミゼロ)にすることで、そのために製品デザインから見直し、製造量を減らし循環しやすい形にすることという考え方です。循環しやすい形を作るという点がDXにも通じるのですが、そうした一連の理解が、日本の企業は全体的に遅れていると感じています。
サーキュラーエコノミーの理解が促進されることによって、消費者の意識改革、態度変容をマーケティングの側面から支援し、プロダクトのリデザイン、ビジネスモデルの再構築、社会的なエコシステムの実現を目指したいと考えています。
メンバーズはマーケティング支援会社です。これまで大量生産、大量消費を促進してきたことへの反省があります。地球に多大な負荷をかけながら、利便性を追求し、利益を得てきました。そうした過去への贖罪から、サーキュラーエコノミーへのシフトを支援する責任があると考えます。今後も、志を同じくする企業を支援しながら、サーキュラーエコノミーの実現のために働いていきたいと思っています。
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Written by DIGIDAY Brand STUDIO(内藤貴志)
Photo by 渡部幸和