ワンクリック決済「ファスト」、資金繰りに困り事業停止:新規スタートアップらへの警告に

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ワンクリック決済のスタートアップ企業であるファスト(Fast)は、創業当初から多くの関心を集め、オンラインでの話題をさらってきた。同社は2021年に突然スタートアップシーンに躍り出て、自社のワンクリック決済サービスを公式リリースしてから6カ月も経たないうちに、ストライプ(Stripe)が主導する資金調達ラウンドで1億200万ドル(約126億円)を確保したと発表した。潤沢な資金を手にした同社は、eコマースの世界でより卓越したプレイヤーとなるための絶好の位置を占めていた。

しかし、同社の好調はわずか1年で終わりを告げた。ジ・インフォメーション(The Information)は3月30日の記事で、ファストがレイオフに加えて身売りを検討していると報じた。同社は昨年の大半で、毎月1000万ドル(約12億4000万円)の資金を消費し、新しい資金調達ラウンドの立ち上げに苦戦していると報告されている(編集注:ファストは本記事の原文が公開された翌日の4月6日午後、事業停止を発表した)。

これは、従業員のあいだに重い空気を生み出すことになった。筆者が話したこの件について詳しいふたりの情報源によると、ファスト従業員のなかには、レイオフの噂が社内をかけめぐるなか、3月末に開催されたショップトーク(Shoptalk)での会議をキャンセルし、競合他社の面接を受けはじめた人もいたという。ファストのPR企業は、米モダンリテールからのコメント要請に回答していない。

大きな転換を示している可能性

ワンクリック決済の分野には、筆者が以前の記事で述べたように特有の課題がある。しかし、ファストが資金調達に苦戦していることは、eコマースのスタートアップ企業が2022年に資金調達で直面する可能性があるほかの課題を象徴しているかもしれない。昨年の資金調達は大盛況で、過去最大のベンチャーキャピタル資金が投入されたが、一部のスタートアップ企業、特に目を疑うほどの高い評価額を得た企業に対しては、投資家の目が厳しくなってきている。

ファストのたどった道は、ほんの1年前から状況がどれだけ変化したかを明確に示す例だ。同社は、自社商品が市場に出て1年しないうちに、1億ドル(約124億円)を超える資金を集めた。同社のワンクリック決済商品が昨年もたらした収益が約60万ドル(約7440万円)にすぎなかったといい、同社は昨年の1億ドル(約124億円)のシリーズCラウンドの調達を試みたが買い手は見つからなかったとジ・インフォメーションが報じている。

これは、大きな転換を示している可能性がある。ベンチャーキャピタル企業のブリッシュ(Bullish)のマネージングパートナーであるマイク・ドゥダ氏は、ベンチャーキャピタルの全体的な状況について次のように述べている。「ベンチャー投資とプライベート投資は、時間軸に大きく左右されるようになり、おもに特に過去数年間で、勢いが増してきている」。

実際に過去2年間にわたり、eコマースのスタートアップ企業はオンラインショッピングの増加に加えて、低い金利に支えられてきた。米国商務省(Department of Commerce)は、2020年から2021年までのあいだにeコマースの売上額は14.2%増加したと報告している。このような情勢から、多くの投資家がeコマースのスタートアップ企業、そして特にeコマースのスタートアップ企業の成長を支援するテック系スタートアップ企業に注目するようになった。これが、ファストがわずかな期間にこのような巨額の資金を確保できた理由であり、競合他社のボルト(Bolt)の評価額が今年初めに110億ドル(約1兆3600億円)に達した理由でもある。投資家たちは、このような好条件の資金調達の環境はいつまでも続くものではないと警告しており、特にD2Cスタートアップ企業は投資家の関心を失いつつあるという兆候もすでに見えはじめていた。

急速に変化する起業家の運命

しかし、ファストの苦戦以外にも警戒すべき兆候は多く、資金調達を求めているeコマースのスタートアップ企業の運命はさらに急速に変化しはじめている。

インフレに加えて、ウクライナとロシアの戦争は継続的な懸念分野となっており、投資家たちはこれらが消費者の購買意欲にどのような影響を及ぼすか疑問を抱いている。RH(旧名レストレーションハードウェア)のCEOは、3月29日の決算発表で経済について悲観的な見通しを示した。同氏の意見はその後広まったが、同氏はこの状況が、2008年のグレートリセッション(大不況)以来、もっとも困難な時期だとしていた。

ほかのeコマースのスタートアップ企業が、ここ数週間に資金調達で問題を抱えているという報告もある。ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)は3月、子ども服の新興企業であるロケッツオブオーサム(Rockets of Awesome)が資金調達に問題を抱え、買い手を探しているとされていると報じた。ジ・インフォメーションも、靴の新興企業のアトム(Atom)が今年、市場の低迷に備えて、既存の投資家からつなぎ資金を調達することができたが、そのためにGoogle検索広告のコストを50%減らすなど、コスト削減を行う必要があったと報じている。

「人々はまだ取引を望んでいる」

VCであるブリッシュのドゥダ氏は、今年の資金調達環境を悪化させた要素のひとつは、株式を公開している企業の業績だと指摘している。昨年株式公開に踏み切った企業の業績が歴史的に見ても散々なものであることを指摘した。

同氏は、「次のラウンドを立ち上げるなら、評価額のアップグレードが課題となるだろう」と述べている。しかし同氏は、資金調達の環境はさまざまなニュースによって浮き沈みすると確信している。同氏は1月末、昨年のIPOの実績について消極的ないくつかの記事が発表されたのと時を同じくして、シリーズBまたはCラウンドの資金調達に踏み切った企業をいくつか知っているが、「3〜4週間で、ある程度躊躇は消え去ったようだ」と述べている。

「人々はまだ取引を望んでいる」のが現実だと、同氏は述べている。

[原文:DTC Briefing: Fast’s flameout is a warning sign for startups looking to fundraise in 2022 ]

Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Fast

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