ジェンダーに関する固定観念が、男性の育児休暇取得を阻む

DIGIDAY

4人の子を持つジェレミー・スウィフト氏には、ある優先順位を大切にしている。

第一に、より良い夫になること、第二に、より良い父親になること、そして第三に、デジタルマーケティングのプラットフォームであるコーディアル(Cordial)でより良いリーダーになることだ。スウィフト氏はコーディアルの共同設立者でありCEOでもある。しかし、物事は常に順調だったわけではない。

たとえばスウィフト氏は、これまで4人の子どもが生まれるたび育児休暇を取得してきたが、その期間はわずか1週間から2週間程度であった。というのも同氏は、すぐに仕事に復帰しなければならないというプレッシャーをいつも感じていたからだ。とりわけ4人目の子どもが生まれたとき、スウィフト氏はコーディアルのための資金調達をしている最中であり、一層焦りを感じていたという。

家族が優先される職場文化を

そもそも、当時スウィフト氏は仕事に追われ、家族との時間をほとんど持つことができていなかった。しかし、妻のアウディ氏が状況の改善をスウィフト氏に求めたことが、変化のきっかけとなる。スウィフト氏はアウディ氏の想いを受け、この問題に真摯に取り組むことを決断。定期的にセラピーを受けることにしたのだが、これが家族とのつながりを深めるのに役立ったのだという。

スウィフト氏はこれを機に、コーディアルにおける男性社員の育児参加に関するポリシーを拡大。育児休暇を4週間に拡大し、完全有給制とした。また、12週間(こちらは無給)の休暇期間も設けており、父親たちは必要に応じてこれを利用できるようになっている。現在同氏は、コーディアルで働く、新しく赤ちゃんを迎えるすべての父親に対して、この制度を利用するよう推奨しているが、こうした動きは、まだ変化のはじまりに過ぎないと考えている。

「家族がもっとも優先される職場文化を確立することが目標だ」とスウィフト氏は強調する。「業績主導型の文化では、育児休暇の制度があっても、私たちは企業のリーダーによってモデル化された行動原理、企業の前進に役立つと考える行動原理に従わざるを得なくなる」。

父親たちが直面する問題

これまで、企業が提供する育児休暇の期間は2週間が平均的な長さだった。しかしここ数年、4週間以上の育児休暇を提供したり、制度を他社と共有する企業が増えている。たとえば、ボルボ・カーズ(Volvo Cars)やジョン・ルイス(John Lewis)は、新たに親になるすべての従業員に対し、6カ月の有給休暇を提供することを発表している。

だが、男性は最低限の育児休暇しか取らないという風潮は、依然として根強い。ハリスポール(Harris Poll)とボルボ(Volvo)が最近発表したデータによると、調査対象となった米国の労働者かつ父親である501人のうち62%が、男性は育児休暇を取得すべきではないという暗黙のルールがあると考えており、59%が自身の企業では誰も育児休暇を取得していないと答えている。そして67%が、できるだけはやく職場復帰することが『名誉の証』だと考えている。この調査によると、ジェンダーに関する固定観念によって形作られるさまざまな負のイメージが、こうした状況に影響しているという。

なお、この調査に回答した男性たちが所属する企業は、2週間以上の育児休暇を提供しているが、58%が6週間の育児休暇を取るとキャリアが後退するのではないかと懸念しており、55%が育児休暇を最長期間で取ることで職を失うことを恐れている。

事業から離れることは不可能

英DIGIDAYがこの記事のためにインタビューした、ソーシャルメディア、エンターテイメント、金融、広告、キャリアコーチングを含むさまざまな業界の9人の男性にとっても、このようなキャリア上の懸念は当てはまる。父親の育児休暇は、2018年に娘が生まれたときには自分は経験できない「ぜいたく」のように感じられた、とカルチャーTV(Cvlture TV)のプレゼンターであり、グライムミュージックのアーティストでもあるニック・ナガーカー氏は述べる。

「メディアや音楽分野の事業主で、かつアーティストである私にとって、ビジネスやキャリアへの悪影響を受けずに、長期的に事業から離れることは、どのようなレベルでも不可能だ」。

リンクトイン(LinkedIn)の英国、アイルランド、イスラエルにおけるマーケティングソリューション責任者であるトム・ペッパー氏は、最初の子どもが生まれたときに2週間の育児休暇を取得したが、この期間は充分ではなかったと感じた。そこで2番目の子どもが生まれた際には、リンクトインの育児休暇のポリシーに変更があった直後だったこともあり、より長期の育児休暇を取得することにしたという。こうして、リンクトインで6週間の育児休暇を取った最初の父親たちのひとりになったペッパー氏だったが、不安もあったという。

「やはり、制度を利用して長期間仕事を離れることについて周囲からどう思われるか、不在のあいだに何か重要な決定が下されるのではないかという不安を感じていた」。

ジェンダーに関する固定観念が背景

こうした問題は、育児と一家の稼ぎに関して存在する、ジェンダーに関する固定観念に結びついたダブルスタンダードの存在を示唆している、と会計ソフト企業ゼロ(Xero)の米国担当マネージャー、ベン・リッチモンド氏は述べる。ゼロは、一次育児者に26週間、二次育児者に6週間の有給休暇を提供している。休暇は「マタニティ」や「パタニティ」ではなく、「親」や「パートナー」といった言葉を使って呼ばれる。

「以前は、女性が育児のために休暇を取ることが求められており、復職後に彼女たちのキャリアが阻まれるというケースが数多く見られていた。なぜなら彼女らは、休みを取らない男たちとの競争を強いられていたからだ」とリッチモンド氏は述べる。

「もし、私たちが育児休暇に非ジェンダー的アプローチを取りはじめれば、女性のための競争の場を平等にし、育児休暇を取ることに結びついている負のイメージを乗り越えることができる。いまこそ、育児における役割と休暇についての考え方を再確認するときだ」。

この問題は、リッチモンド氏個人にとっても重要だ。というのも同氏は、夫とのあいだに代理出産で子どもを持つ計画を立てており、その際に育児休暇を使うつもりだからだ。「夫が家で子供の世話をしているあいだ、私が仕事に行く。そのあと交代して彼が仕事に戻り、私が赤ちゃんと過ごす時間を持てるようにするつもりだ」。

職場復帰支援にも多様性を

リッチモンド氏が述べるような計画がうまくいくかは、今後育児休暇から職場復帰した父親を、企業がいかに支援するかにかかっている。現状、育児休暇から職場復帰した母親に対しての支援はある程度行われているが(もちろん不十分という見方もある)、父親に関してはそのレベルにすら至っていない。

「新たに子供が産まれた父親と母親とのあいだには、職場への段階的な復帰ができるかどうかについて違いが存在する。企業は、単一的な『職場復帰』のための支援ではなく、多様なニーズに応える必要がある」と、エージェンシーのアーク・ワールドワイド(Arc Worldwide)で、シニア・バイスプレジデント兼クリエイティブ・ディレクターを務めるマシュー・ウィーナー氏は述べた。

「パタニティ・コーチ」として活躍するイアン・ディンウィディ氏もまた、父親を仲間外れにする育児支援プログラムを引き合いに出して、改善の必要性を強調する。

「母親と父親のあいだに、お互いの経験から学ぶことがあるのは間違いない。しかし、全体を見据えながら男性と女性に別々に焦点を当てたプログラムを作成し、提供することが、すべての人に利益をもたらす鍵である」。

[原文:‘Serious ramifications’: Why unshakeable gender stereotypes prevent men from taking paternity leave

MARYLOU COSTA(翻訳:塚本 紺、編集:村上莞)
Illustration by IVY LIU

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