「ブランドは私自身の延長線上にある」:創業者 インフルエンサー がソーシャルメディアに賭ける利点と課題

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サプリメント販売の「マレア・ウェルネス(Marea Wellness)」を創業したモニカ・グローネ氏は、同社の創業者として、自分にとって身近なトピックの数々を、何年も前からインスタグラムに投稿してきた。

マレア・ウェルネスは、月経のある人々によく見られる栄養素の欠乏に対処するよう設計された、毎日摂取するマルチビタミンを販売している。このため、グローネ氏のインスタグラム投稿の多くは、健康、ウェルネス、および生理の症状への対処を中心にしたものだった。

しかし、同氏のインスタグラムのフォロワー数が爆発的に増えはじめたのは今年の1月初旬のことだ。3000人だったフォロワー数は、2月末には15万人を超えていた。2月初めに同氏は、最低30グラムのたんぱく質を含むレシピを作る方法について、30日間で30本の動画シリーズを投稿することにしたのだ。

「ブランドは私の延長線上にある」

同氏は、この動画シリーズが成功した理由は、親しみやすく迎え入れるフォーマットにあるとしている。同氏はどの動画も同じ導入からはじめた。「今後30日間、あなたと私で、最低30グラムのたんぱく質を含む食事を一緒に作ろう」。

「『あなたと私』という表現が好きだ、本当に一緒に作っている感じがする、というコメントをもらった」と、同氏は1月のインタビューで米モダンリテールに語った。

同氏は現在、マレアに興味を持つ人々を増やすため、自分のソーシャルメディアのフォロワーをどのように活用するかについて考えている。同氏は2月、マレアのミッションとより密接に一致する動画シリーズを開始した。今後30日にわたり、ホルモンの健康をサポートするために何かをするというものだ。

グローネ氏は、少なくとも自身にとって、ソーシャルフォロワーを増やすのは、創業者として終わりのないToDoリストのなかでも重要な項目だと語る。「マレアは私の延長線上にあるものだ。私自身の問題を解決することになる」と、同氏は述べる。「顧客に自分との共通点が多くみられるため、私は創業者として、一個人として、ブランドに人々を惹きつけるよりもはるかに簡単に、多くの人々を惹きつけることができる」とも同氏は述べている。

高騰する顧客獲得コスト

このように考えているのはグローネ氏だけではない。「チェンバレンコーヒー(Chamberlain Coffee)」創業者のエマ・チェンバレン氏、「ミスタービーストバーガー(MrBeast Burger)」を開業した人気ユーチューバーのミスタービースト氏、サプリメントブランド「ブルーム・ニュートリション(Bloom Nutrition)」の共同創業者マリ・ルウェリン氏など、インフルエンサーが自身のブランドを立ち上げるにつれ、競合に対応するためにはソーシャルメディアに多数のフォロワーが必要だと感じる創業者が増えてきている。

創業者がオーガニックな投稿によってソーシャルメディアに自分自身、または自分の企業のフォロワーを増やすことには、多くの利点がある。具体的には、多くのD2Cブランドにとって悩みの種となる、有料メディアによる顧客獲得コストが積み差なって高額になるという問題点を回避しながら顧客ベースを増やすことができる。オンラインのワイン販売業者のウィンク(Winc)が12月に破産を申請したとき、最大の債権者のひとつがメタ(Meta)であり、ウィンクはメタの72万4000ドル(約9920万円)を超える資金を借りていた。

男性向けコスメティクスブランドのストリックス(Stryx)の共同創業者であるジョン・シャナハン氏は、同氏の会社が毎年収益を倍にしてきた一方で、広告出費は倍にならなかった主な理由は、同社がTikTokで32万8000人のフォロワーを集めてきたためだと語っている。

しかし、フルタイムでインフルエンサーとして活動するのは、創業者にとって大きな負担になる。自分のソーシャルメディアで数十万ものフォロワーを集めることに成功した創業者たちは、インスタグラムや、YouTube、TikTokなどのプラットフォームで成功するためのもっとも大きな要因のひとつは、継続的に投稿することだと語る。多くの場合、動画を毎日、場合によっては1日何回も投稿する必要がある。これにより、創業者の仕事は、一見華やかな部分ばかりに見える。しかしその舞台裏では、創業者は苦労を重ねて新商品の発売の手配や、顧客からのクレームの処理を行い、現金の流出入を黒字に維持しようとしている。

インフルエンサーはフルタイムの仕事

このような作業は、誰もが続けられるものではない。アジア系食品販売の「フライバイジン(Fly by Jing)」の創業者ジン・ガオ氏が指摘したように、インフルエンサーから創業者になった人々のほとんどは「実際には、自分の会社のCEOを務めていない。なぜなら、インフルエンサーはフルタイムの仕事だからだ」。

それでも、D2Cの新興企業のあいだで競合が激しくなるにつれ、創業者は、自分たちと同じカテゴリーに属する数十もの競合他社に対して優位に立てる方法を探している。一部の創業者にとっては、多くの労力を費やしてTikTokのスターやインスタグラムのインフルエンサーになり、その影響力を利用してより有名なメディアに取り上げられることが、その方法になる。一方で、同業他社の創業者のフォロワー数が激増するのを横目に見ながら、自身もソーシャルメディアへの注力を増すべきかどうか判断に迷っている創業者もいる。

シャナハン氏は、ほかの創業者から「もっとも多く受ける質問」は、自身のソーシャルメディアのフォロワーを増やす方法だと語る。これはおそらく、同氏がその部分で成功したことが知られているためだろう。同氏は創業した最初の3年間に、ストリックスのTikTok動画のほぼすべてに出演し、毎日平均3本の動画を撮影していた。多くの場合、これらの創業者にとって最大の懸念は、コンテンツの作成と自社ビジネス運営との「バランスを取る」ことだと、同氏は述べている。

ベトナム産のスペシャルティコーヒーを販売する「グエンコーヒーサプライ(Nguyen Coffee Supply)」の創業者であるサーラ・グエン氏は次のように述べている。「ソーシャルメディアでより積極的にならなければいけないと、不必要に自分を追い詰めてしまうことはあった。さらに多くの動画を投稿し、バイラル化すれば、自社の売上が増えるだろうとは思う。しかし最終的に、日中は『創業者として私が費やせる余力はここまでだ』と考えることにした」。

創業者とインフルエンサーの境界線はあいまいに

一部の創業者は、インフルエンサーとみなされることを嫌う。理由としては、ガオ氏が指摘するように、コンテンツクリエイターとしてフルタイムの仕事をしている人々が存在し、常に自分たちより多くのフォロワーを保有している創業者が少なくとも複数存在するからだ。

しかし、ソーシャルメディアで多くのフォロワーを持つ人々が独自のブランドを立ち上げる機会が増えるにつれ、「インフルエンサー」と「創業者」との境界線はしだいにあいまいになってきた。

現在のD2Cブランドの構築が従来のものと異なるもうひとつの理由は、新興企業の背後にいる個人に対して顧客がどれだけの関心を持つかだ。新興企業の初期段階で、創業者はソーシャルメディアのアカウントの管理、顧客からのメールへの対応、見込みバイヤーへの売り込みなど、いくつもの役割を果たす必要があることが珍しくない。

その結果、米モダンリテールと対談した創業者の何人かは、顧客サービスに関する問い合わせが直接自分宛に送られることが多いと話した。これは、一部の人々にとって、創業者がいかにそのビジネスの代名詞となっているかを示している。

「どの創業者も、自分自身がカメラの前に立てば、さらに顧客の共感を集めることができると答えると思う」と、ガオ氏は述べる。

創業者を全面に押し出した結果として、人々はD2Cブランドを単なる事業ではなく、ライフスタイルのある面を真似したくなるような人々の延長線上にあるとみなすようになりつつある。顧客は、美容品ブランドの創業者がスキンケアの習慣でほかにどのような商品を使用しているのか、または、旅行カバンブランドのCEOがどこでバケーションを過ごすのかに興味を抱くかもしれない。

ソーシャルメディアの持つリーチ力

このような視点からは、どのような形のコンテンツ作成も、ブランド構築活動の一部となり得る。インスタグラムの投稿、メディアからのインタビュー、ポッドキャストへの出演はすべて、個人としてか、事業として行ったものかを問わず、ある創業者が特定のトピック、趣味、分野において影響力があり、意欲的な人物だという考えを強化してくれる。それは結果として、企業の売上を促進することになる。

これにより、創業者はこれまでになく多くの方法で自分のフォロワーを集められるようになった。成長マーケティングコンサルタントのグレース・オウマカベサス氏の言葉を借りれば、創業者にとって変わったことは「マイクロソフト(Microsoft)のCEOでなくても多くのオーガニックなリーチを持てるようになった」ことだ。

より多くのフォロワーを集めたいと望む創業者にとって、多くの場合はソーシャルメディアから作業がはじまる。ここでは、ベンチャーキャピタル資金も必要なく、ヴォーグ誌の編集者と顔見知りでなくても、数万の人々に訴えかけることができる。「多くの女性創業者、特に私のネットワークにいる人たちは、自分自身のソーシャルメディアを成長させる重要性を理解している」と、マレアのグローネ氏は語る。

ザ・スキム(The Skimm)とフードフィフティツー(Food52)でバイスプレジデントレベルの役割に就き、現在はグレートジョーンズ(Great Jones)などの消費者向け新興企業にアドバイスを行っているオウマ・カベサス氏は、創業者に対して、自身のソーシャルメディアのフォロワーを増やすためにどれだけの時間と労力を注ぎ込むかを考えるとき、「現実的に」なるよう助言していると語る。すなわち、創業者が四半期に一度だけインスタグラムに投稿しても、そのアプリで大した成功は納められないだろうということだ。

フォロワーを増やすための試行錯誤

また創業者は、自分の個人用アカウントとブランドのアカウントのどちらのフォロワーを増やすことに投資するのがより価値があると感じるかどうかを判断しなければならない。

たとえば、月経ケアブランドであるオーガスト(August)の創業者であるナディア・オカモト氏は、自分自身がインフルエンサーになることで成功した。同氏はTikTokで400万人を超えるフォロワーを生み出し、これに対してオーガスト自身のフォロワーは33万5000人余りににすぎない。同氏が以前米モダンリテールに語ったところによると、これはビジネスアカウントが個人アカウントほど多くの機能にアクセスできないことを考慮したうえでの決定だった。

ストリックスのシャナハン氏の場合、TikTokに全力を投入することにした。ストリックスは、主要なソーシャルメディアプラットフォームのすべてにアカウントを保有しているが、同社のフォロワーが最大なのはTikTokだ。

同氏はストリックスを創設する前にYouTubeのチャンネルを所有し、男性用衣類のレビューを行っていた。同氏は7〜9分の動画を毎日投稿していたこともあった。同氏はストリックスを創設して少しした2019年に、友人の勧めに従ってTikTokへの投稿を開始した。

「TikTokへの最初の投稿は、最初の24時間に30万回くらい再生された。このとき私はすでに4年間もYouTubeで投稿していたが、このような種類のリーチが得られた動画はほとんどなかった」と、同氏は述べている。

その際、シャナハン氏はTikTokのアルゴリズムを解析したいと「うずうずした」。同氏は初期に、トレンドのフォーマットを色々とテストしてみた。現在、同氏の動画はより信頼性の高いパターンに従っている。同氏はひげを剃る、顔を洗う、または色付きの保湿剤などの自社製品を塗りながら、カメラに話しかける。

同氏はこのような形で動画に出演しながら、ストリックスのフォロワーに対してあごひげの剃り方やにきびを除去する方法などの身づくろいのヒントを教えている。ときにはストリックスの舞台裏について面白い話をしたり、同社を創業するのことになった背景について語ったりすることもある。

売上にも貢献

シャナハン氏は、以前にユーチューバーとして活動していたおかげで、厳格な投稿スケジュールをキープできていると語る。「カメラの前に立って、エネルギーが枯渇してしまうまでの時間は90分から2時間だと学んだ」と同氏は述べている。

その結果、多くの人々は何よりもシャナハン氏をストリックスと結びつけるようになった。「兄や父親みたいな雰囲気があるのだと思う」。そして、これまでスキンケアの問題を話せる男性がいなかったという顧客からの質問に答えることが多いと語る。

シャナハン氏には共同創業者のデビール・カハン氏がいるが、同氏は動画にほとんど登場しない。「彼は私のように表に出ることには関心がない」とシャナハン氏は述べている。

これらの動画は「いいね!」とコメントを集めているだけでなく、ストリックスに多くの売上を生み出している。ピーク時で、オーガニックなTikTokの投稿は同社の売上の80%を生み出したと、同氏は推定している。

コンテンツを作成し続ける日々を抜け出す

ストリックスがTikTokで成功を収めたにもかかわらず、シャナハン氏は最近アプリでの投稿を中断した。同氏の妻が4人目の子どもを出産するため、同氏は12月に仕事を休むことにした。同社はシャナハン氏の不在中に、3人のクリエイターと提携し、ストリックスのTikTokアカウントの権限を引き渡すことを決定した。

ストリックスはこれまでにもTikTokでクリエイターとのパートナーシップを試みたが、良い結果を収めたものは少ない。シャナハン氏は、TikTokの人々がなじみ深い顔ぶれに引かれることが原因だとしている。そのため、長期間にわたって同じ3人のクリエイターと提携することで、それらの動画もシャナハン氏の動画と同じような成績を収められるようになることが期待されている。

シャナハン氏は不在になる前に、ストリックスのフォロワー向けの動画で「私の顔を見る機会が減るだけで、それによって当社の商品が、より多くの人々によってどのように使用されるかを示すチャンスが生まれる」と説明した。

事業規模が拡大した際の課題

これは、創業者インフルエンサーにとってよくある課題を表している。ソーシャルメディアで成功するには、アルゴリズムに対して常に供給を続ける必要がある。しかし、創業者の企業の規模が大きくなり、創業者がさらに多くのプレスイベントに招待されるようになると、創業者が動画作成に使える時間は減少していく。または、シャナハン氏の場合のように、個人としての生活が変化することもある。

フライバイジンは初期のころ、ガオ氏はすべての顧客に対して個人宛ての感謝の手紙を送り、可能な限り多くのコメントやDMに回答するよう努めてきた。しかし現在では、同社のソーシャルメディアアカウントの権限はほかの人々に移譲されており、ガオ氏は同社のブランドとボイスを定義する詳細なガイドを作成して、すべてのソーシャルメディア投稿を自分が作成したかのように見えるようにしている。

同氏の個人用インスタグラムアカウントである@jingtheoryは2万6000人を超えるフォロワーが存在しているが、同氏が投稿するのはほとんど仕事についての投稿だという。同氏は「私の生活は仕事を中心としているから」と述べている。

フライバイジンの知名度が上がり、同社の商品は現在、コストコ(Costco)やターゲット(Target)など大手小売チェーンの数千の店舗で販売されているが、「私の時間がより求められるようになった」と、同氏は述べている。今年の大きなプロジェクトは料理本の作成で、これは同社が成長し、同氏への関心が高まるにつれて生まれることになったものだと同氏は語る。

同氏が現在インスタグラムに投稿するものの多くは、フライバイジンがトゥデイショー(Today Show)などのテレビ番組で取り上げられたり、Spotify(スポティファイ)がグラミー賞のために投稿したパーティーなどのイベントに登場したことへの紹介が中心になっている。

ブランドにおける創業者アカウントの役割

TikTokやインスタグラムに毎日投稿している創業者の多くが望んでいるのは、やがては自社ブランドも十分に大きくなり、ガオ氏のようにメディアに大きく取り上げられるようになること、そして自社のブランドへの認知が十分に大きくなり、毎日投稿する必要がなくなることだ。

たとえばシャナハン氏は、現在ではストリックスの多くの顧客が同氏をTikTokの動画と結びつけるようになったため、「会社にかかわっている限りは動画の作成を続けるつもりだ」と述べている。しかし同氏は、やがては自分が作成するストリックスの動画は15〜20%だけに留め、残りはクリエイターを使って作成するようになることが理想だと語っている。

しかし、そのような段階に達するまで、早期段階の創業者がどの程度自分でソーシャルメディアに登場するかは、最終的には個人の優先順位の問題になる。マレアのグローネ氏は次のように述べている。「これは創業者個人と、その個人が創設したブランドによって異なる話だと思う。自分の個人的な問題に触れるブランドを構築するなら、それは良いアイデアだと思う」。

グエン氏は、グエンコーヒーサプライをはじめたとき、映像作家をしてきた自身の背景を活かして、主にオーガニックなソーシャルディアを通じて、同社についての話を広めたと語る。5万6000人以上のフォロワーが存在する同社のインスタグラムアカウントは、ベトナムコーヒーと、その主要な銘柄のひとつであるロブスタ豆について人々に教育するために使われている。

同氏の個人用インスタグラムアカウントには1万8000人以上のフォロワーが存在している。同氏は、このアカウントには統一された戦略はないという。多くの場合、個人用インスタグラムアカウントに投稿するかどうかの決定は、仕事を離れた休息があるかどうかに左右されると、同氏は述べている。

「もし私が動画でカクテルを手にして乾杯と言い、人生はとてもすばらしいものに見えていたとしたら、1日かけて5000件くらいの問題を解決した後に、カクテルを手にしているのだ」と、同氏は述べる。

長期間、継続的に維持できるか

グエン氏は、個人用のソーシャルメディアのフォロワーを増やすためにもっと労力を費やすべきだろうかと考えたこともあった。

しかし同氏は、創業者インフルエンサーのモデルのサステナビリティを気にしている。すなわち、売上を伸ばすためには創業者が厳格なペースを守りながらコンテンツを作成する必要があるが、それを長い目で見たとき、どれだけ長期間、継続的に維持できるかということだ。

「企業は創業者に依存しすぎるようにならないかと心配になる」と同氏は述べる。同氏は、「私は企業ではないし、企業は私ではない」と自分に言い聞かせようとしていると語るが、企業の名前が自身の名前から取られたことを考えれば、これは皮肉だと認めている。

同氏は次のように述べている。「私は、ここに境界と区別をきちんと設けることが、経営者としての私にとっても、企業にとっても重要だと考えている。私にとって、この境界線が曖昧に感じられるときがあったからだ。もし、私が企業だと感じるときは、自分の価値が企業に結び付いていると感じてしまう」。

[原文:‘An extension of me’: The rise of the founder-influencer]

Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Ivy Liu

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