「メディアバイヤーたちはニュースをあからさまにブロックしている」:ある プログラマティック広告 営業責任者の告白

DIGIDAY

この10年、プログラマティック広告に関する限り、ニュースメディアは一番の貧乏くじを引かされてきた。そして当面、運気の好転は期待できそうにない。

というのも、インテグラルアドサイエンス(IAS)やダブルベリファイ(DoubleVerify)などのアドベリフィケーション(以下、アドベリ)企業が、メディアバイヤーのキャンペーンプランニングで活用するツールやフィルターを次々に追加しているからだ。

ニュースメディアでプログラマティック広告の営業責任者を務めるある人物によると、新しいタイプのブランドセーフティツールやブランドスータビリティフィルターの導入が進んでいるという。主にコンテクスチュアル(文脈)やセンチメント(感情)に基づくターゲティングに対応するもので、キーワードのブロックリストのような旧来のツールに追加して使われるもののようだ。

当然、広告主のキャンペーンは思うようにスケールしない。しかも、こうしたフィルターはプログラマティックギャランティード(保証型取引)のようなメディアと広告主が直接取引するキャンペーンにも適用されている。その結果、ニュースメディアはほぼすべての広告案件について、あらゆるデータをくまなく調べ、矛盾や重複、古くて使えないフィルターを適宜修正する必要に迫られている。

匿名を条件に業界の内幕を赤裸々に語ってもらうDIGIDAYの「告白」シリーズ。今回はこうした問題に対処するニュースメディアの苦悩について、前述の営業責任者に語ってもらった。なお、インタビューの内容は読みやすさを考慮して編集・要約されている。

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メディアバイヤーたちは、第三者によるアドベリはほとんどのキャンペーンにおいて死活的に重要だと話す。そして、パブリッシャーのブランドセーフティやブランドスータビリティに対する第三者の評価が、パブリッシャー自らの報告と食い違うなら、バイヤーたちは積極的に別のサイトに移動している。ニュースメディアに関するところ、メディアバイヤーたちは問題の解決を試みるよりも、拙速に手を引きすぎるという問題があるのではないか?

メディアバイヤーとしても、「ほかに在庫はいくらでもある」といって我々に圧力をかけたいわけではないと思う。むしろ問題は、プレミアムなプログラマティック広告や、メディアとの直接取引を扱うために、彼らがきちんとした教育や訓練を受けているのかということだ。この問題は運用型広告に限ったことではなく、純広型のキャンペーンの一部にも当てはまる。

メディアと直接取引するケースではどんな問題があるか?

RFP(提案依頼書)が来れば、そこには何が許可されて、何が許可されないのか、あるいは広告主が何を期待しているのかなどが書かれている。問題はバイヤーのメンタリティだ。オープンエクスチェンジでのメンタリティを引きずり、プレミアムなメディア取引はオープンオークションとは別物だと認識できていない。

オープンエクスチェンジでの広告運用であれば、入札前フィルター、キーワードリスト、ブロックリストはもとより、クリエイティブのブロッキングタグも含めて(あと2つほどあるが、思い出せない)、何重にも対策を講じるのが上策だ。すべて重要で、どれひとつも欠かせない。というのも、オープンエクスチェンジでは、インベントリーのキュレーションが十分におこなわれていないと、メディアバイイングの無法地帯に身を置くことになりかねないからだ。

一方、パブリッシャーから直接買いつける場合、メディアバイヤーたちは広告在庫やオーディエンスに対するパブリッシャー側の認識や知見をほとんど考慮していないように見える。加えて、我々メディアの側でもアドベリ企業と提携して、広告主やバイヤーのニーズに対応している。

これまでどんなことが起きてきたかというと、少なくとも私個人の経験に照らせば、たとえばニュース(プライベートプログラマティックマーケットプレイス[PMP])のリクエストが来たとする。ところが、このPMPがスケールしないため、問い合わせやトラブルシューティングを重ねたところ、キーワードリストの重複が影響して、PMPがスケールしないようだと判明する。

実際、カテゴリーフィルターを使ってニュースカテゴリーをまるごとブロックしてしまうケースもある。ニュースはIABのプリセットカテゴリーのひとつでもある。こうした時代に合わない古いフィルターが、サイトの収益化の妨げとなるのだ。

例を挙げると?

コロナ禍中、多くのメディアバイヤーが「COVID(新型コロナウイルス)」を除外キーワードとしてブロックリストに登録した。彼らの言い分はおおむね、「私たちのメッセージは現在の状況にふさわしくないが、状況に応じて再開する」というものだった。

実際、彼らはキャンペーンを再開した。コミュニティを作るとか、コミュニティを支えるといったメッセージがあちこちで見られるようになった。しかし、バックエンドのテクノロジーが更新されることはまったくなく、それはメディア直販のキャンペーンでも同じだった。「COVID」は除外キーワードのまま据え置かれ、ブロックリストから解除されることはなかった。こうして除外キーワードが雪だるま式に増加して、ブロックリストの肥大化が進むのだ。

つまり、いくつものブランドセーフティツールが重層化するという問題が起きている。しかし、ニュースサイトへの広告出稿を望むなら、なぜ「ニュース」というキーワードをブロックリストに登録するのだろうか。それは甚だ不自然に思えるのが?

パブリッシャーとしては愚問と言わざるを得ないが、それでもクライアントにこう訊ねる。「御社はニュースやニュースカテゴリーをターゲットしたいのか、それともブロックしたいのか」と。彼らの答えは基本的にこうだ。「その通りだ。それが弊社の最善策なのだから」と。

衝突を覚悟のうえで、我々は「その必要はない。私たちは信頼に足るニュースサイトだ。公平で偏りがなく、プレミアムで、エンゲージメントの高いオーディエンスを提供できる」と反論する。しかし、彼らの意見は変わらず、「これが弊社の最善策だ」と言うのだ。

この問題に対する解決策は?

教育という戦術をとる。我々のアプローチを示し、こちら側で重層的な対策を打つことは可能であること、御社のキーワードリストを頂戴して、同じようなリストが作成できないか検討すること、といったようなかたちだ。しかし現実を見れば、[2016年の米大統領選挙で見られた]ある種の恐怖戦術の残影がいまだに消えない。

それはバイヤーたちの心に植えつけられ、プレミアムパートナーシップであろうがプレミアムプログラマティックであろうが、発想の転換を難しくしている。

もうひとつの問題としてあるのが、バイヤーが使っているツールはニュースの配信面という環境で非常に具体的なブランドアクティベーションを支援できるほど精度が高くないということだ。アドベリ企業がバイヤーに提供するツールは、キーワードリスト、サイトリスト、カテゴリーブロックなど、なまくらなツールばかりだ。こうしたなまくらなツールでは、ブランドを十分に保護することはできないが、現状ではバイヤーが頼ることのできる唯一のツールでもある。

広告主やメディアバイヤーがそれぞれの最善策を曲げて、パブリッシャーに歩みよることはあるのだろうか?

こちらとしては、こんなアプローチを試みる。「広告を出稿するには非常に厳しい環境かもしれないが、御社が私たちのサイトで使う広告予算が私たちのニュースルームを支えている。私たちはそのことにとても感謝している」と。このようなアプローチによって、こちらの戦略的な考え方が広告主やバイヤーに伝わればよいと願っている。

しかしエージェンシーが相手だと、強いブロックが利いて、ついにはストップになることもある。そうなると、取引関係そのものを失うことにもなりかねない。私自身、「御社のスコアはとても高い」と言っていた広告主から切られたことがある。

IBTなのかブランドセーフティのスコアなのか分からず、そのスコアがどんなメソッドでどう出されたのかは知らない。いずれにしても、ニュースメディアは本来的にほかの企業よりも深刻な影響を受けている。そして取引を失っても、こう言われるだけだ。「あなたのサイトには出稿できない。ほかを当たる」。

アドベリ企業との提携関係、あるいは社内でのブランドセーフティの評価方法に影響はあるか?

ニュースメディアの立場で、たとえば私はダブルベリファイを使っているとする。そして、メディアバイヤーあるいはエージェンシーはIASを使っているとする。どうすればこれらを連携できるのか。あるいはバイヤー側でよく使うツールを教えてもらい、それをこちらで使ってみるなど。場合によっては、「それはできない」と言われることもある。

私個人としてはもはや、「こちらがアドベリ企業と提携する必要はあるのだろうか」と考えてしまう。どうせバイヤー側が自前のツールを使うのだから、こちらが使いもしないツールに金を払うよりも、バイヤー側に任せてしまえばよく、こんなツールはコストでしかない。不況下でもあるし、資金の使途は重要だ。我々にとって、この種のアドベリ企業は本当に必要なのかと考えてしまう。

[原文:‘They are blatantly blocking news’: Confessions of a programmatic sales lead on brand safety filters’ impact on publishers’ direct-sold ads

Kayleigh Barber(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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