年末のギフトシーズンがぴたりと終わるまで残り3週間を切り、どのパブリッシャーもコマースコンテンツ戦略の最後の仕上げにとりかかる。ここでの舵の切り方が、今期の収益目標に届くか、あるいはこれを超えるかの分かれ目になるかもしれない。
一部のパブリッシャーはすでに売上予測の達成を確実にしているが、現下のインフレ率と経済状態を考えれば、今年のホリデーシーズンは例年よりも消費者の支出が落ち込む恐れがあった。
セール情報の提供に力を入れる各社
しかし、ブラックフライデーの週末を成功裏に終えたパブリッシャーは自分たちの12月のコマース戦略に自信を深めており、景気の逆風にもかかわらず、このまま物販事業の堅調を維持できると確信している。
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ハーストマガジンズ(Hearst Magazines)でコマース担当バイスプレジデントを務めるエミリー・シルヴァーマン氏によると、「今年は特に、特売情報を伝える記事がいまも続いており、しかも依然好調を維持している」という。同氏のチームも当四半期末までセール情報の提供に力を入れるようだ。残り3週間、消費者の懐具合をにらみつつ、「ギフトを買い求める人々のために、やれることはすべてやる」と同氏は語った。
しかし、すべてのパブリッシャーやコマースライターが年末商戦関連のコンテンツ作成を継続するわけではない。ブラックフライデーの週末が終わり次第、常設のコンテンツに戻ったり、たとえば健康やウェルネスなど、第1四半期に善戦が期待できるカテゴリーに早々とシフトするケースも見られる。
この記事では、ブラックフライデー以降もホリデーショッピングの記事掲載を継続するケースと、大型セール期間の終了とともに方向転換するケースについてそれぞれ考察する。
年末セールの記事掲載を継続するケース
シルヴァーマン氏によると、ハーストマガジンズがブラックフライデーのセール期間中に販売した商品の売上総額は前年比約50%増だった。同期間中に読者の注目を集めた商品やブランドに関するデータも増加しており、第4四半期の残り期間や新年度に向けてのショッピングコンテンツを作成する際に、有用なデータとして活用される。
「年内発送の最終期限までの2週間、どこに時間を割くべきかを決める際、このデータはひとつの指標として活用できる」とシルヴァーマン氏は説明する。「実をいうと、[クリスマスが]近づくにつれて、負担は減る。というのも、配送の問題を考えなくてもよいクリスマス間際のショッピング、デジタル形式やサブスクリプション形式のギフトが増えるからだ」。
ファウンドリー(Foundry)のテック系メディアもクリスマスの直前まで特売情報に焦点を当てる。同社が運営するメディアブランドのほとんどは、ラップトップやヘッドフォンなど、高額商品の記事を掲載している。PCワールド(PCWorld)とテックハイヴ(TechHive)も同様で、両メディアの編集長を務めるジョン・フィリップス氏は「読者は年末まで熱心に値引きを探し続けるだろう」と述べている。
一方で、フィリップス氏はこんな本音を漏らす。「サイバーマンデーが終わってほっとしている。12月2日は休みを取るつもりだ。12月中はアフィリエイト商品のレビュー記事が最高に重要なのは承知しているが、2、3日は休みたい」。
しかし、その休暇を取る前に、フィリップス氏はブラックフライデーの週末に配信したPCワールドの記事をもとに、人気の高いカテゴリーを4つ選んだ。デスクトップPC、ノートPC、モニター、Chromebookの4つだ。このカテゴリーで、まとめ記事や目玉商品の特集などを含む、新規のレビュー記事を作成する予定だという。
さらに、両メディアには商品のレビュー記事を集めた「ベストピックス(Best Picks)」という常設のカテゴリーがある。12月中はこのカテゴリーも最安値や最新の特売情報で頻繁に更新する予定で、これはサイトのSEOランキングにも有利に働く。フィリップス氏によると、12月に検索結果の上位を維持することは、同社のアフィリエイト事業の収益を大きく左右するのだという。
年末セールの記事掲載を継続しないケース
トラステッドメディアブランズ(Trusted Media Brands)でショッピング担当の上席編集員を務めるブライス・グルーバー氏によると、リーダーズダイジェスト(Reader’s Digest)では、ブラックフライデーとサイバーマンデー後もギフトガイドと年末の値引き情報の更新を年内ぎりぎりまで継続するが、当初の担当チームは縮小し、一人もしくは二人の編集員を残すのみだという。買い物に関する記事のトーンも大きく変わるようだ。
「セール関連の記事を減らし、『いまのうちに買っておこう』といったトーンも抑制する」とグルーバー氏は話す。ブラックフライデーに至る数日は40%オフといった特売情報を前面に押し出すが、ブラックフライデーの週末が終わると、「特定の柔軟剤を使ってデニムを長持ちさせる方法」とか「キッチンカウンターの整理整頓に役立つオススメの調理家電」など、よりサービス色の強い、常設のコンテンツに回帰する。
リーフグループ(Leaf Group)が運営するハンカー(Hunker)とウェル・アンド・グッド(Well+Good)は年内発送の最終期限までギフト関連のコンテンツを更新しつづける。ただし、ハンカーのシニアバイスプレジデントでジェネラルマネジャーを兼任するイヴ・エプスタイン氏によると、この種のコンテンツの大半は当四半期の早い段階に集中するという。したがって、四半期末は必ずしもホリデーショッピングの記事にかかりきりになるわけではない。
アパートメントセラピー(Apartment Therapy)のコマースチームも、サイバーマンデーが終わると年末の特売情報を縮小する。アパートメントセラピーメディアのプレジデントを務めるリヴァ・シロップ氏の説明によると、同社が記事にする小売企業の多くは、サイバーマンデー後もセールを続けるが、特売商品はすでにあらかた出し終わっているからだという。
同社のコマースチームは常設のエバーグリーンコンテンツにシフトする一方で、ギフトガイドの更新にも注力するとシロップ氏は述べている。というのも、消費者が贈答品を買い求める季節であると同時に、高額商品の値下げを狙う買い物客がいるため、ソファなどの大型家具はいまも売れ筋商品のひとつであるからだ。
さらに、12月に新たな物販収入を創出するため、四半期後半の編集企画として「ホリデイリー(Holidaily)」という期間限定のニュースレターも発行している。クリスマスまでの7週間にわたり、週5日のペースで配信する。内容は目玉商品の紹介と購入リンク、ホリデーシーズン向けのお役立ち情報やレシピなど。また、クリスマスまでの12日間をカウントダウンするクッキーパッケージの企画もある。読者はニュースレターを通じて材料を購入できるため、ここにもアフィリエイト収入の機会が組み込まれている。
シロップ氏によると、アパートメントセラピーが発行するニュースレターの登録者数はいずれも2万人前後と多くはないが、開封率は120%から140%に達する。購読者が同じニュースレターを何度も開封したり、登録者以外の人に転送したりするため、全体的な開封率の増加につながっているという。
第4四半期は予想以上に好調
本稿執筆のために取材したパブリッシャーたちを見る限り、アフィリエイトコマースが好調に推移していることから、今期は全体的に良好な結果が期待できそうだ。
不況や景気後退の局面では常にそうなのだが、消費者は自分の金をできるだけ有効に使いたがるし、できる限りお得な買い物がしたい。ブラックフライデーの週末を見ても、この傾向は明らかだとシルヴァーマン氏は話す。それは結果的に、ハーストの特売特集にもプラスの効果をもたらした。
「消費者はセールに慣れている。希望する価格が見つかれば、迷わず手を伸ばす。セールが終わるぎりぎりまで待ったりしない」とシルヴァーマン氏。「我々は楽観的だ。年末に向けて好調に推移していると思う」。
ファウンドリーにとってブラックフライデーは強力な収益源だ。米国を拠点とする同社のメディアブランドは、アフィリエイトの手数料収入で前年比110%増を達成したが、この12月は稼げる余地はまだあると同氏は見ている。
「サッカーの試合と同じだ」とフィリップス氏は話す。「選手はできるだけ多く得点したい。我々も同じだ。ブラックフライデーは好調だったが、第4四半期全体で最高の業績をあげたい。我々はその方向に向かっていると思う」。
Kayleigh Barber(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)