エージェンシー主導の SSP統合 が大手SSPに有利な理由:「エージェンシーとSSPの距離が縮まるのは公然の事実だ」

DIGIDAY

アドネットワーク最適化の時代が到来してからというもの、SSPは大いに成長している。かつては広告販売でパブリッシャーの稼ぎ頭として役立つソフトウェアとして売られていたものが、いまや広告購入でマーケターの稼ぎ頭として役立つソフトウェアに生まれ変わった。

2023年が始まってからの1カ月程度をみるだけでも、この動きが本格化していることがわかる。

メディアエージェンシーのハバス(Havas)は、SSPのフリーホイール(Freewheel)と契約を結び、より透明性が高くスマートな方法でCTVを購入できるように取り組んでいる。またホライゾン(Horizon)は、識別子ソリューションをオープンX(Open X)のSSPプラットフォームに組み込んだ。

エージェンシーからの「優遇契約」

今SSP界隈では、とあるRFP(提案依頼書)が出回っている。その件に詳しい、あるエージェンシーの役員の話によると、それは数年前に導入したマーケットプレイスソリューションの見直しを進める、大手メディアエージェンシーネットワークのRFPだという。

そのエージェンシーは、既存のソリューションの代わりに、質が低く最適とはいえないサプライパスなど、余剰のサプライパスを削減できるSSPを利用したいと考えているようだ。そのために、SSP各社に声をかけて、「目に見えない費用を軽減する」「メディアバイヤーにインプレッションのキュレーション方法の権限をより多く与える」「オークションの透明性を高める」などのサポートを求めている。

この手の取引は、数年前であればパートナーの「優遇契約」と言われるもので、低めの料金、料金設定の透明性、レポーティングの質の向上を保証して、広告主が特定のSSPにより多くの予算を投入したくなるようインセンティブを与えるタイプの契約だ。

エージェンシーとの取引はますます重要に

もちろん今でも、SSPとの契約にはこうした駆け引きが不可欠である。しかし、最近ではサステナビリティやキュレーション、データといった内容も不可欠となる。

たとえばオープンXと契約したホライゾンにとって重要なのは、ホライゾンが市場のサプライサイドにターゲットを絞ったデータを集められるのかということだ。この契約は、両社のダイレクトインテグレーションに基づいて構築されており、インベントリーの質やオーディエンスのターゲティング、各種メトリックスに対するキャンペーンパフォーマンス全般にわたり、SSPがメディアバイヤーに大きな権限を与えることが可能だ。

オープンXで戦略パートナーシップ担当シニアバイスプレジデントのブライアン・チザム氏は、「ホライゾンのようなエージェンシーは、オーディエンスやアイデンティティのソリューションを独自で開発するのに多額の資金を投入してきた」と説明する。「この問題は、こうしたソリューションの場合、自社中心になりかねず、ブランドは限定的なメリットしか得られなくなる。サプライサイドのプラットフォームと統合することで、ホライゾンは自社の既存データとテック投資を増強することも、オーディエンスのリーチやレポートの規模を拡大することも可能になる」。

SSPの生き残りを考えると、こうした取引はますます重要になっている。取引をしないエージェンシーは、ほかの場所から資金を調達する傾向が見られる。2月8日に明らかになったヤフー(Yahoo!)とEMXの各SSPの閉鎖や、最近繰り返されているトリプルリフト(Triplelift)のレイオフがすべてを物語っている。

SSPが置かれているジレンマ

とはいえ、エージェンシーと契約すると、また別の問題をもたらすことになる。相手のSSPが相反する2つの力を天秤にかけざるを得ないからだ。

まずSSPは、最終的にはパブリッシャーの収益があがるように、これまで以上に高いフィルレートや価格を示してパブリッシャーの機嫌を取らなければならない。そのうえさらに、同じマーケターから想定外のインプレッション最適化を繰り出されないように、メディアバイヤーが可能な限り効率よくインプレッションを購入できる方策も考えなければならない。一方で、方策が考えついたら考えついたで、今度はパブリッシャーに対するプレゼン効果が薄れてしまう。いずれにせよ、これが、現在SSPのコマーシャルエグゼクティブが直面しているジレンマだ。

アドテクベンダーのパブマティック(PubMatic)で南北アメリカ担当チーフレベニューオフィサーを務めるカイル・ドーズマン氏は、「こうした取引は取り扱うものがデータであれ、アナリティクスであれ、キュレーションであれ、サプライサイドのメディアエージェンシーが商品を売りやすくなるようにサポートする方向で動いている」と話す。「エージェンシー幹部がこうした取引で望むのは、ビジネスが持続的に活性化することだ」。

その理由はいくつかあるが、2つの重要なポイントに集約できる。

まずはエージェンシーにとって、プログラマティック広告で収益力を高めるなら、SSPはほかのアドテクベンダーよりもよい立ち位置にいるように見えることが挙げられる。なぜなら、SSPのほうがパブリッシャーに近く、ほかのどこよりも広告インベントリーについて詳しいからだ。もうひとつは、取引が簡単にできること。つまり、SSPのほうが多くの広告予算を扱うエージェンシーの話をよく聞く可能性が高く、DSPはその必要がないということだ。少なくとも広告主がプログラマティックの大手なら、DSPはその広告主と直接契約することが多く、アドテクで広告費を確保するなら、それほどエージェンシーの意向にこだわらずにすむ。

これはエージェンシー主導の統合であり、大手SSPに有利に働く。

SSPを通じてプログラマティックへの投資を継続

「エージェンシーが広告費の統合と質の高いサービス提供を目論んだ結果、エージェンシーとSSPの距離が縮まっているのは公然の事実だ」と話すのは、インデックスエクスチェンジ(Index Exchange)で南北アメリカおよびグローバルパブリッシング担当シニアバイスプレジデントを務めるマット・バラシュ氏だ。

バラシュ氏はこの変化が生みだした業務についており、内情をよくわかっている。同氏はこう話す。「SSPは今、マーケットプレイス全体をどのようにデザインすべきなのかをよく考えなければならない段階にある。ここでよく考えて行動すれば、親会社の次の取引に備えられるようになる。SSPがこうしたマーケットプレイスを活用したがるのは、シンプルかつ業務上効率的な方法で、キュレーションを行ない、彼らにとって重要なパブリッシャーにアクセスできるからだ。それがOne to One(一対一)であれ、One to Many(一対多数)であれ構わない」。

こうした取り組みは要するに、インデックスエクスチェンジやオープンXのような、あらゆるトラフィックを形作るために必要なテクノロジーをメディアエージェンシーに与える企業が行っている。そのSSPが販売したトラフィックが、個別の広告主を相手にする質の高い売り手へと流れていく。別の表現をするならば、大きなメディアエージェンシーは、SSPを利用して自社のプログラマティックサプライチェーンを維持しているとも言える。そのサプライチェーンに予算が回ればまわるほど、エージェンシーは力を得ることになるのだ。

「エージェンシー各社はしばらくの間、自社のプログラマティックの事業を差別化し、そこから収益を得ることができるのか半信半疑だった」とアドテク企業の幹部が話す。同氏はまさにその業務に携わっていたという。「もし30年前に超大手エージェンシーWPPの投資チームにいれば、購買力で差別化できたはずだ。つまり必要なのは資金力にほかならない。だから、エージェンシーがSSPを使っておこなっているのは、顧客にとって重要なプログラマティックに投資することだ。それでエージェンシーをサポートできるSSPなら文句ない」。

これは何も新しい動きではない。エージェンシーとSSPが互いに距離を縮め始めてから、もう数年が経過している。肝心な点はそこにある。以前は存在意義にまったく相容れなかったことをするのが、SSPにとってますます当然になりつつあるのだ。

SSPはただ取り替えられるだけの存在に?

パブリッシャーと専属契約を結べばなんとか差別化できていた時代はもう昔の話だ。ヘッダービディングの登場で、すべてが変わった。つまり、アドテクベンダーはどこもほぼ同じようなことが求められるようになる。その結果、頼りだった専属性(排他性)は意味がなくなったのである。

そこで、SSPは(というより、余裕のあるSSPは)違うことを試してみた。それが、広告主もエージェンシーも、より低い料金で質の高いインプレッションをより多く購入できるようなサポートだ。この数年は、プライベートなプログラマティックマーケットプレイスから、サプライパスの最適化やセルサイドのターゲティング、さらには製品開発まで、さまざまな形でこの取り組みが導入されてきた。

とはいえ、すべてがうまくいっているわけではない。最終的にはエージェンシーが優遇してもらう代わりにおこなわれる取引なため、想像の域を出ない部分が多い。なかには、これにはグレーな部分があると斜に構える人たちもいる。つまりこうした取引は、次から次へとSSPを取り替えるためのインセンティブであり、エージェンシーが新たなリベートを受け取る手段にすぎないのではないか、というのだ。

[原文:Why SSP consolidation driven by agencies is benefiting the larger SSPs

Seb Joseph(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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