メディアエージェンシーたちが進める クリーンルーム の導入:「ブランドと経済に価値をもたらす、賢明で安全な方法だ」

DIGIDAY

デジタルメディアを売り買いするシーンでは「クリーンルーム」という言葉が爆発的に広まっている。その勢いたるや、たかが金庫を爆破するのに大量のダイナマイトを起爆させるがごとしだ。

しかし、広告主やメディアエージェンシー、あるいはメディア企業やプラットフォーマーが、このクリーンルームという考え方をメディアプラニングやバイイングのプロセスに取り入れるなら、究極的には一般消費者の利益につながるかもしれない。結果的に、消費者にしつこいとか、嫌がらせだと感じさせない、より効果的な広告が増えると思われるからだ。

少なくとも、大手エージェンシーグループ内でメディア事業を預かる幹部たちはそう期待している。彼らがクリーンルームに期待する価値はひとつではない。

データクリーンルームに期待されているもの

  • オーディエンスをより効果的に特定する ー より高い「忠実度」を実現する
  • 著しく複雑なプライバシー規制に対して、コンプライアンスを徹底する
  • プロセスの透明性を高める

クリーンルームの真価とは

とはいえ、メディア業界におけるクリーンルームの活用はまだ日が浅い。現在、巨額のメディア予算が動く毎年恒例のニューフロントおよびアップフロント交渉が進められている。何が定着し、何が脱落するのか、8月の終わりには審判が下されるだろう。しかし、大手エージェンシーグループ傘下のメディアエージェンシーたちが掲げる目標は高い

「クリーンルームはブランドと消費者の双方にウィンウィンの価値をもたらす論理的かつ倫理的な方法だ」。そう話すのは、IPGでデータおよびテクノロジーの最高責任者を務めるアルン・クマール氏だ。クマール氏はIPG傘下のエージェンシー各社と、IPGのデータ事業を担うアクシオム(Acxiom)とのパイプ役でもある。「クリーンルームに入るデータとその活用法がデータガバナンスの高い基準を満たしている限り、顧客により良いエクスペリエンスを提供し、ブランドと経済に価値をもたらす賢明で安全な方法であると確信している」。

一方、ハヴァスメディアグループ(Havas Media Group)で最高データ責任者を務めるマイク・ブレグマン氏は、クリーンルームは正当なデータとそうでないデータを判別する方法でもあると述べている。「クリーンルームはメディアパートナーたちが取った実に興味深い断片化戦略だ。彼らは互いにデータを共有したがらない。するとしても最小限に抑えたい」と同氏は話す。「彼らはクライアントがクローズドループを構築するのに十分なデータサイエンスを提供したい。その点は皆同じで、そのやり方はさまざまだ」。

最終的な目標は、ROIを把握することだとブレグマン氏は話す。要するに、「結果として、クライアントにとって意味のある業績アップは実現できたのか」ということだ。

クリーンルームはどこに帰属するのか?

グループエム(GroupM)のウェーブメーカー(Wavemaker)で北米担当の最高データアナリティクス責任者を務めるデルフィーヌ・エルノー氏は、「マクロレベルまたは戦術レベルで情報に基づく賢明なメディアバイイングをおこなうには、クリーンルームはもっとも効果的な手法のひとつだ」と述べている。「たとえば、クリーンルームを活用すれば、広告露出の真の価値を理解し、広告投資に関してより良い意思決定をおこなうことができる」。

北米電通メディア(Dentsu Media U.S.)で動画イノベーション担当シニアバイスプレジデントを務めるブラッド・ストックトン氏は、「クリーンルームの運用主体や活用方法は今年のアップフロントでだいたいの見通しが立つ」と見ている。「アップフロントの動向は、プランニングの観点で大いに参考になる。誰が我々のオーディエンスに対するリーチを持っていて、誰がそのリーチを伸ばす手助けをしてくれるのか。アップフロントはそれを知る手がかりとなる。そして、クリーンルームを活用すれば、データのマッチングを非常に高いレベルの忠実度でおこなうことができる。多様な番組を比較検討しながら広告枠を買い付ける際に、より正確で賢明な意思決定ができるようになる」。

いまだ不明な点もいくつかある。たとえば、クリーンルームはプランニングと交渉のどちらのプロセスに帰属するものなのかという点。さらに、クリーンルームのソリューションを提供するライブランプ(RiveRamp)、スノウフレーク(Snowflake)、ハブ(Habu)などのうち、どのベンダーが主導権を握るのか。メディアエージェンシーやプラットフォーマーが独自のクリーンルームを構築し、互いに連携させるケースがある一方で、クライアントが自前のクリーンルームを運用するケースもある。実際、ハヴァスメディアがライブランプと共同でクリーンルームソリューションの開発に取り組む一方で、IPGとアクシオムは独自のソリューションを構築している。さらに、グループエムとその傘下のウェーブメーカー、および電通は、クライアントもしくはメディアが選択したプラットフォームと連携している。

「今後、多くのマーケターは複数のクリーンルームを使い分けるようになるだろう。我々の役割は、付加価値を提供するパートナーとして、メディア投資の観点から、新しい活用事例を紹介したり、追加的なクリーンルームソリューションを提案したりすることだ」。ウェーブメーカーのエルノー氏はそう語り、メディア企業がクリーンルームを運用する事例として、ロク(Roku)とディズニー(Disney)の取り組みに言及した。「このような事例を見るにつけ、活用法や価値に基づいて、市場で利用可能なあらゆるソリューションに対応したいという思いを強くする」。

セルサイドとバイサイドの認識の溝

北米電通メディアのストックトン氏によると、買い手と売り手とクライアントのあいだで、クリーンルームに対する共通認識ができるのはまだ先の話だという。「クリーンルームとクリーンルームをつなぐ共通の枠組みをどう実現するのかなど、その未来を想像するのは刺激的だ」と同氏は話す。「いつになったら複数のクリーンルームの相互運用性を実現できるのか。こうした連携や相互運用性こそ、クリーンルームがめざすべき未来だ。これが実現されてこそ、効果測定にも貢献できる」。

「なによりも、処理するデータ量の膨大さに圧倒される。コンピュータの処理能力とストレージの進歩が大いに貢献してきたことはいうまでもない」と、ハヴァスのブレグマン氏は述べている。また、IPGのクマール氏によると、アクシオムの標準的なクリーンルームは30億行超のレコードを処理するという。「クリーンルームのクライアントはざっと20社から30社。アクシオムが処理するデータ量は、彼らセカンドパーティ全体で、毎日数千万レコードにのぼる」。

[原文:Media Buying Briefing: How holding company media agencies employ clean rooms to secure higher ‘fidelity’

Michael Bürgi(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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