大手ゲーム企業、 ユニティ テクノロジーズがAIに注力する理由

DIGIDAY

AIをめぐる話題が熱を帯びるなか、ユニティテクノロジーズ(Unity Technologies)の経営陣は気づけばその渦中に身を置いていた。AIを活用することにより、ユニティの人気ゲームエンジンを起点に、ゲーム内広告を含むあらゆる事業部門で売上を拡大できると彼らは確信している。というよりも、増収はすでに始まっているようだ。

ここ数週間、ゲーム業界の経営幹部たちは、ゲーム開発における人工知能の美点を称えることに多くの時間を費やした。5月24日に行われたエヌビディア(Nvidia)の四半期決算報告はAIの話題に終始し、これを背景に同社の株価は急騰した。ニューヨーク証券取引所に上場している大手ゲーム企業のひとつであるユニティテクノロジーズも、5月10日の四半期決算報告でAIへの傾倒ぶりを示し、ジョン・S・リキテロCEOは「AIをめぐるユニティの競争力」を強くアピールした。

今週初め、米DIGIDAYはユニティでアクセラレートソリューション担当副社長を務めるライアン・ピーターソン氏にインタビュー取材を行い、AI技術を活用して広告商品やゲーム開発ツールを改善するという同社の計画について話を聞いた。

なお、インタビューの内容は読みやすさを考慮して編集要約されている。

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ユニティはすでに広告商品にAIを導入しているが、どうのように活用しているのか?

ライアン・ピーターソン氏:

皆気づいていないようだが、AIはすでにユニティ広告の拡大に寄与している。AIは我々の広告プラットフォームの推進力であり、率直に言って、当期の業績が前期を上回ったのもAIの力によるところが大きい。確かに、ChatGPTは人々の心をわしづかみにしたが、ユニティはすでに8年ほど前からAIの専属チームとAIの責任者を配置している。我々の仕事では常にAIを使う。我々はマシンビジョンのリーダーであり、シミュレーションのリーダーだ。知覚技術のリーダーであり、広告事業にAIを取り入れることでもリーダーだ。

Digiday:

現状では、ユニティの広告商品の大半はモバイルゲーム内広告だ。広告商品をスケールアップして、ブランドが待ち望むプレミアム在庫の提供をめざすなら、この点は課題となるかもしれない。とはいえ、ユニティの広告在庫をめぐる各種の数字や潜在的な規模感には、すでに目を見張るものがある。ユニティ提供のデータによると、2022年にユニティエディタを利用した月間アクティブクリエイターは180万人人にのぼる。また現在、AR(拡張現実)アプリとVR(仮想現実)体験の50%以上がユニティで開発されている。さらに昨年、ゲーマーがユニティで開発されたゲームをプレイした時間はひと月当たり平均50億時間を超えた。

AIの導入により、ユニティのリアルタイム開発ツールはクリエイターにとってより利用しやすくなるのか?

ライアン・ピーターソン氏:

人々はすでに利用可能なツールを使ってイノベーションを実現している。プログラミングにコパイロット(Copilot)を使う人もいるし、アセット生成やジェネレーティブAIの各種プラットフォームを活用してオンラインでアセットを作成する人もいる。まだ話せないこともあるのだが、今後、誰でもゲーム開発にアクセスできるようなツールの発表があると思う。

Digiday:

ユニティが開発中のAI関連ツールについては、一部話せないこともあるとピーターソン氏は述べているが、不安材料もなくはない。ゲームエンジンに関しては、目下ユニティ最大のライバルはエピックゲームズ(Epic Games)のアンリアルエンジン(Unreal Engine)だ。エピックゲームズは今年のゲーム開発者向けカンファレンスで、ゲーム内クリエイターを支援する新たなエコシステムを発表した。これを見る限り、アンリアルは間違いなくいま現在もっとも利用しやすいリアルタイム開発プラットフォームである。

一方、先週フォーブス(Forbes)のポッドキャストでリキテロ氏がリークするまでは極秘扱いだったユニティのジェネレーティブAI構想「プロジェクトバラクーダ」は、同社が一気に遅れを取り戻す契機になるかもしれない。ユニティのゲームエンジンにAIを取り入れることで、開発者がリアルなキャラクターや環境をこれまでよりも容易に、そして最小限の作業でタイトルに追加できるようになると期待されている。

AIがゲーム業界全体に与える影響について

ライアン・ピーターソン氏:

ビデオゲーム業界は過去にいくつかの大きな転換期を経験している。最初は2Dから3Dへの転換だったが、誰もが記憶しているように、このときは移行に失敗した企業も多くあった。業界を代表するようなブランドが技術的な移行に対応できず、姿を消した。そしてモバイルが登場すると、3D市場で成功していた多くの企業がモバイルへの移行を果たせず、モバイル市場への参入を金で買わざるを得なかった。

いま、我々はこれまでと同様の明確な瞬間を迎えている。しかも、今回はモバイルや3Dへの転換よりも規模が大きい。AIはコンテンツの作り方を根本的に変えてしまうだろう。大手ゲーム企業のなかには、大型ゲームの運営で回収できる見込みのないコストを膨大に抱えているところもある。そうした作品は1000人規模のチームを必要とする技術で作られたものだ。AIを使えば、同じ1000人規模のチームであっても、その生産性は30倍にもなる。

Digiday:

5月10日の決算報告より1週間前の5月3日、ユニティは全従業員の約6%に相当する600人の人員整理を発表した。その結果、同社の株価は下落した。ところが、AIの活用を謳う四半期決算の報告後、ユニティの株価は反発した。投資家たちは、人工知能がますます力を発揮する企業なら、従業員の削減は組織の崩壊を予兆するものではないと考えはじめたのかもしれない。

不況の足音が近づくなか、上場企業であることのメリットについて

ライアン・ピーターソン氏:

上場企業は組織としての規律を強いられる。この規律を守り、資本市場への明確なアクセスを持つことで、不況を乗り切るだけでなく、不況のなかでも繁栄することができる。私はこれを「バネの圧縮」と呼ぶ。我々は投資を行い、日々懸命に働いている。パートナー企業と協力し、より多くの機能を送り出す。そして次のレベルへと跳躍するのだ。

Digiday:

2008年の金融危機以来、一部のエコノミストは「ゲーム業界は比較的不況に強い」と主張してきたが、不況の再来を前にして、この仮説に異論を唱える者たちも現れている。それでも、不況に強いゲーム企業があるとすれば、ユニティもそのひとつとなる確率は高い。ユニティは、大小さまざまなスタジオでゲーム開発に携わる人々にインフラを提供する企業だ。ユニティが本当に倒れるなら、ゲーム開発全体がいくつかの抜本的な変化を迫られることになるだろう。

[原文:Why Unity Technologies is leaning into AI as economic headwinds pick up

Alexander Lee(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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