慈善活動への関心が低下し、 パーパス 広告は厳しい状況に:ホリデーシーズンの「救世主」はオーディオ広告か

DIGIDAY

消費者がインフレに苦しみ、広告市場の競争が激しくなるなか、パーパスドリブンマーケティングはこれから年末にかけて、ますます困難な状況に見舞われるかもしれない。

動画制作・インサイトプラットフォームのクイックフレーム(QuickFrame by MNTN)によれば、ホリデーシーズン関連のデジタル広告費は2022年に450億ドル(約6兆1500億円)に達する見込みだが、社会的な大義やミッションを掲げたブランドを宣伝するパーパス広告は、厳しい経済状況に置かれている。大手小売業者が消費者とのつながりを築こうと、感情に訴えるストーリーで構成した広告を利用するケースが増えているため、同じくストーリーを伝えることを目的としたパーパス広告と競合する結果となっているのだ。

マーケティングプラットフォームのシステム1(System1)の分析によると、ホリデーシーズンの広告のテーマは、パーティーや華やかさといったものから、シンプルな喜びや一体感にシフトしているという。同社の調査によれば、最も効果を上げた広告のトップ5は、ホビー・ロビー(Hobby Lobby)、メイシーズ(Macy’s)、ウォルマート(Walmart)、Etsy(エッツィー)、USPS(アメリカ合衆国郵便公社)の広告で、いずれも感情に訴えかけるストーリーが上位にランクインした理由だったと、調査レポートには書かれている。

「インフレが悪化し、景気の先行きが懸念される今、消費者が静かなクリスマスを期待するのも無理はない」と、システム1で最高顧客責任者を務めるジョン・エヴァンス氏はいう。「ブラックフライデーが終わってクリスマスが近づくにつれて、チャリティー広告やパーパス広告が目立つようになるだろう。だが現時点では、いつもより内省的なテーマのクリスマス広告が多いシーズンとなっている」。

経済に対する不安

チャリティー広告を増やしたとしても、景気の停滞が原因で、消費者を引きつけるのは以前より困難になるかもしれない。クイックフレームが、Facebook、インスタグラム(Instagram)、YouTubeで配信されたコネクテッドTVのホリデーシーズン向けコマーシャルを調査したところ、ホリデーシーズン向けメッセージを盛り込んだコマーシャルは、ホリデーシーズンをテーマにしなかったコマーシャルと比べて、エンゲージメントが平均で58%高かったという。ただし、数年に及んだ困難な時期を脱しつつある消費者は、慈善活動よりセルフケアに関心を寄せているようだ。同じ調査によれば、慈善活動をテーマとした広告は、ファッションやフィットネス、スキンケアの広告と比べて、ROAS(広告費用対効果)が極めて低くなっていた。

人々が経済面で不安を感じていることが寄付への意欲に影響を与えていると話すのは、独立系エージェンシーのボートハウス・パロアルト(Boathouse Palo Alto)でプレジデントを務めるピーター・プロドロモウ氏だ。ただし同氏は、今年は経済的な困難が寄付の習慣に影響を及ぼすとしながらも、一部の市場環境は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに特有のものであり、この影響が長続きすることはないと予想している。

「人々は自分を慈善活動に熱心な人間だと考えたがるが、実際には個人的な状況に基づいて(慈善活動に関する)判断を下す傾向がある」と、プロドロモウ氏は米DIGIDAYに対して語った。「しかも、株式市場が今のように揺れ動いている状況で(中略)自分が所有する資産の価値が下落していくのを目にすれば、人々は財布の紐をさらに締めることになる」

さらに今年は、市場に流れるデジタル広告費が減少している。パンデミック時に爆発的に増加したデジタルビジネスが縮小し、大手テック企業が数カ月前から数千人規模のレイオフを続けているからだ。繁忙期になれば広告市場で注目を勝ち取ることがさらに難しくなるため、ミッション志向の組織やエージェンシーが成果を上げるには、今の状況を「ブランドと信頼を築くトレーニング」の期間と捉えることが必要だと、ホライゾンメディア(Horizon Media)でヒューマンインテグレーション担当シニアバイスプレジデントを務めるスティーブ・グラント氏は話す。

「企業は自社の目的を慎重に選択し、社内外でその価値をひたすら追求する必要がある」と、グラント氏は言う。「そうすれば、その価値が製品やメッセージを通じて広く市場に伝わり、効果を得られるだけのポジションを確立できるはずだ。(中略)ホリデーシーズンには、メッセージを伝える競争がとりわけ激しくなる」

ポッドキャストとメタバースの可能性

こうした状況から、ミッション志向の強い組織は、より親近感が生まれやすい環境で顧客を開拓しようと、ポッドキャストやオーディオ広告に目を向ける可能性がある。11月には、マーケットエンジヌイティ(Market Enginuity)がポッドキャスト広告部門をスピンアウトし、価値観を重視したスポンサーシップやポッドキャストに取り組む新会社サウンドライズ(Soundrise)を設立した。マーケットエンジヌイティによれば、同社の広告部門は2017年~2022年にかけて、ポッドキャスト広告の販売でクライアントの年間収益を55%増やしたという。

サウンドライズのCEOに就任したハリー・クラーク氏によれば、今年のホリデーシーズンはブランドにとって、製品だけでなく「自社の価値観をアピール」する絶好の機会だという。マーケティングがうまくいけば、消費者はそのブランドを信頼し、競合他社よりそのブランドを選ぶようになる可能性がある。また、ポッドキャストは番組のコンテンツにホストの話やメッセージを織り交ぜることができるため、この種の広告に適しているとクラーク氏は付け加えた。

「ギフトシーズンの消費者は、友達や家族も支持してくれるブランドの商品を贈ろうと考えるものだ。そのような消費者の購買感覚を捉えることで、パーパスドリブンキャンペーンでブランドにポジティブな影響をもたらすこともできる」と、クラーク氏は話す。

とはいえ、ビジュアル広告が不要というわけではない。プロドロモウ氏が指摘しているように、特にモバイルでは、「人々に視覚的にアピール」するコンテンツがシェアされるようになる。また、メタバースでの仮想現実(VR)体験など、視覚的に没入できる環境が増えている現状が、ストーリーを伝える上で役立つ可能性もある。

「(メタバースは)魅力的だと思う。寄付をしてくれそうな人にストーリーを伝えることができれば、非常に強力なツールになる可能性があるだろう。(中略)非営利団体は当然ながらミッションを柱としており、良いストーリーを伝えようと常に試行錯誤している」と、プロドロモウ氏は語った。

[原文:As purpose-driven ads face challenges this holiday, could podcasting provide a lift?

Antoinette Siu(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島翔平)

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