「間違ったことを言うことへの恐怖が我々を蝕んでいる」: イラン での女性の権利に関する業界の沈黙について、イラン系米国人広告主の告白

DIGIDAY

2022年9月、ヒジャブの着用の仕方が不適切だったとして22歳のクルド系イラン人女性、マサ(ジーナ)・アミニさんがイランの道徳警察に拘束されたまま死亡したことから、イランの女性の権利を求める現在の動きが始まったと報じられている。それ以来、彼女の死に抗議して始まった騒動は、イランの女性たちを奮い立たせ、女性革命と呼ばれている。

イランで展開するフェミニズム運動は、サッカーのワールドカップに出場したイランの選手たちのパフォーマンスにも影を落としている。選手たちは国歌を歌わず、ゴールを決めても喜びを表さなかった。スタンドにいたファンも同じように、抗議行動に連帯を示した。グッチ(Gucci)やバレンシアガ(Balenciaga)などの有名ブランドもソーシャルメディア上で支持を表明している。

一方、米国に拠点を置くマーケターや広告主は沈黙を守っている。そんななか、少なくともあるイラン系米国人の広告主は業界に対して声を上げ、2020年の「ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)」運動の盛り上がりのなかで行われたDEI(多様性、公平性、包摂性)の約束を履行するよう求めている。

この広告主は次のように語る。「私は、すべてのエージェンシーが立ち上がり、ブラック・ライブズ・マター、(アジア系米国人および太平洋諸島民への)ヘイト、フェミニズムについて発言するのを見てきた。イランで起きているフェミニスト革命を見ていて思う。『皆どこに行ったんだ? なぜ誰も声を上げないんだ?』と」。

匿名を条件に本音を語ってもらうDIGIDAYの「告白」シリーズ。今回は、世界的な広告エージェンシーの広告主が、イランのフェミニスト革命に対する業界の沈黙と、それが米国におけるイラン人の黙殺にどう関わっているかについて語る。

インタビューには、分かりやすさを考え、若干の編集を加えてある。

◆ ◆ ◆

――米国を拠点とする広告エージェンシーが、イランのフェミニズム運動について語ることが重要だと思う理由は?

我々は世界最大のブランドと仕事をしており、その影響力は計り知れない。我々は、文化を左右するブランドと仕事をしている。そして、我々は業界として、自分たちは文化を形成するとうたっているのだ。いま、我々は積極的に文化を支える立場にある。文化は、イランの抵抗がブランドによって強化され、見られ、語られ、支持されている段階にさしかかっている。しかし、文化を形成すると言われている人たちは、そうしていない。彼らは選択したのだ。いまは何も言わない、という選択がなされたように感じている。

――微妙な問題かもしれない。だから広告主が声を上げないのだと思うか?

イランは複雑な国で、政府も(我々の観点からは)非常に悪い。そのことに異論を唱える人はいないと思う。人々がイランについて考えるときは、ネガティブなことを考える。だから、連帯して発言することを怖がる。それは、ある意味、イランの「敵」に対して声を上げることになるからだ。それがなぜ難しく、厳しいことなのかも理解できる。しかし、我々はその「組織」と戦っているのだ。我々はイラン政権と戦っており、その政権は過激主義者だ。理解不足と知識不足がそれに拍車をかけている。

2020年の6月まで遡ると、間違ったことを言うことへの恐怖が我々を蝕んでいる。その繰り返しだ。人々は何かを言いたいが、「仕事を失いたくない」という理由で何も言わない。だから、もし私が何も言わず、誰も何も言わなかったら、何も言えなくなる。誰にも相談できず、自分一人で抱え込むのは恐ろしいことだ。

これはフェミニズムの革命であり、もちろんそれは複雑な問題だ。女性はただ平等を望んでいるだけだ。イランで起きていることの基本はこれだ。彼らと連帯するのは難しいことではない。特に西側諸国でフェミニズムを受け入れている我々全員にとって、立ち上がる(女性を支援する)ことは容易なはずだ。

――広告主はウクライナでの戦争に対して声を上げているが、イランで起きていることには沈黙している。この違いは何だと思うか?

戦争だからだ。プーチン大統領という明確な敵がいる。産業界はそれに対して声を上げる能力がある。一方、イランの例では、相手は過激主義者だ。イスラム教の過激な支配に戦いを挑んでいるわけであり、困難が伴うかもしれない。私はその挑戦を最小限に抑えたいとは思わない。ただ、ウラジーミル・プーチンという特異な敵は、イスラム教の過激主義者(に敵対する)よりもはるかに結集しやすいのだ。

――広告主やブランドにどのように声を上げ、何をしてほしいか?

いまの段階では教育が重要だ。イランの人々は世界にメッセージを届けるために必要なリーチを持っていないことを理解し、ブランドがそれを行うのだ。ブランドにはそうする力があるし、機会もある。我々は、過去にあった他のDEIイニシアティブと同じように、これをチャンスととらえる必要がある。いま、新しい方法でフェミニズムのために立ち上がる機会があり、それが失われようとしている。これは人々が受け入れるべき機会だ。

そうすることで、私のような人間に対して扉が開かれ、この空間に歓迎されていると感じられるようになり、そうでなければこの業界に自分を見いだせなかったかもしれない人々が、「ああ、ここにはサポートがある。私のための場所がここにある。そこに行けば、他人にネガティブな目を向けられることはないんだ」と思えるようになる。

[原文:‘Fear of saying the wrong thing is eating us alive’: Confessions of an Iranian-American advertiser on the industry’s silence on Iranian women’s rights

Kimeko McCoy(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:分島翔平)

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