オープン AI に対して新たな訴訟が提起。規制圧力が高まるなか、AI活用で重要なこととは?

DIGIDAY

AIがデータプライバシーと知的財産に与える潜在的な影響は、すでに数ヶ月前から注目の話題だが、オープンAI(OpenAI)に対して新たな訴訟が提起され、この2つの問題はカリフォルニア州の法廷で議論されることとなった。

このほど提起された集団訴訟の申し立ての内容は、ChatGPT、そのほかのジェネレーティブAIアプリケーションで使用される言語モデルの学習データ収集において、オープンAIは州または連邦の著作権法およびプライバシー保護法に違反しているというものだ。

訴状によると、オープンAIはインターネットおよび各種のアプリケーション、たとえばSnapchat、Spotify、Slack、さらには健康プラットフォームのマイチャート(MyChart)などから特定のデータを自動抽出(スクレイピング)しており、これが個人データの盗難に当たるとされている。

集団訴訟の詳細

クラークソン法律事務所(Clarkson Law Firm)が提出したこの訴状は、データプライバシーだけに焦点を当てているのではなく、オープンAIそのものが著作権法にも違反していると主張している。実際、著作権問題は相変わらず、さまざまな側面でグレーゾーンを抱えている。さらに後日、知的財産権保護に焦点を当てた訴訟も別の法律事務所から提起された。申し立ての内容は、オープンAIがChatGPTのトレーニング中に、米国人作家の著作物を濫用したというものだ。

クラークソンのマネジングパートナーであるライアン・クラークソン氏は、米DIGIDAYの取材にこう語っている。「AIをめぐるこの問題は指数関数的なスピードで進行しており、日を追うごとに我々の生活に絡んでくる。絡まりすぎて後戻りできなくなる前に、裁判所がこれらの問題に対処することが重要だ。我々はいまだにソーシャルメディアとその外部不経済から、意味ある教訓を学べていないが、これはそうした問題にロケット燃料を注ぐことになるだろう」。

クラークソンが提出した訴状には、直接原告の名前は挙げられず、十数人分のイニシャルが記載されている。同法律事務所では、現在も集団訴訟に参加してくれる原告を積極的に探しているという。また、専用のWebサイトを設置して、ChatGPTをはじめ、オープンAIの画像生成ツールの「ダリ(DALL-E)」、同じく音声合成ツールの「ヴァリ(VALL-E)」、さらにはGoogleやメタ(Meta)など、オープンAI以外の企業が提供するAIツールを含む、各種AI製品の活用事例を共有している。

オープンAIの技術は、すでにマイクロソフトの検索エンジン「Bing」パブリッシャー向けの広告ソリューション「Ads for chat API」で使用されている。

米DIGIDAYはオープンAIにコメントを求めたが、回答は得られなかった。しかし、6月23日に更新された最新のプライバシーポリシーによると、同社はクロスコンテクスチュアル広告を目的とした個人情報の「販売」または「共有」を行わず、13歳未満の子どもの情報を「故意に収集」しないとしている。さらに、従業員、求人応募者、請負業者、およびゲスト向けのプライバシーポリシーも設置しており、こちらは2月に更新されている。このなかで同社は、「過去12カ月間にターゲット広告を目的とした個人情報の販売または共有を行っていない」と述べる一方、別項では「ユーザーはクロスコンテクスト行動広告からオプトアウトする権利を留保する」とも規定している。

強まりつつあるAI産業に対する監視の目

クラークソンの訴状を見る限り、オープンAIはプライバシー保護法にも違反しているようだ。未成年者や社会的弱者を標的とした搾取的広告、アルゴリズムによる差別、そのほかの非倫理的で有害な行為を含め、広告配信を目的としたデータの収集および共有が行われているという。

クラークソンのパートナー弁護士でオープンAIの訴訟を担当するトレイシー・コーワン氏によると、同法律事務所が代理人を務める原告のなかには多くの未成年者がおり、自身を守るための適切な対策なしにAI技術が使われることを懸念しているという。コーワン氏は、「子どもたちの懸念は、大人のプライバシー侵害とは異なる種類の問題を孕んでいる」と述べている。

また、「規制も試験もされていないテクノロジーに潜む危険が浮き彫りにされた」とコーワン氏は話す。「AIに潜む危険から身を守るためのガードレールを整備すること、企業による個人情報の収集と使用を透明化すること、報酬や同意の仕組みを作ることがなぜ必要なのか。未成年者に関する申し立てを行うことは、これらを説明するうえでも重要だ」。

こうした訴訟の背景には、AI産業に対する監視の強化がある。米連邦取引委員会(FTC)も直近のブログ記事で、「ジェネレーティブAIが、データや人材、コンピューティング資源などに関する競争上の懸念を引き起こす」と示唆した。

一方、欧州連合(EU)はAIを規制する「AI法(AI Act)」の提案を進めているが、150社を超える企業の幹部たちが欧州委員会に公開書簡を送り、「規制には効果がないばかりか、競争を阻害する恐れがある」と警告した。米国の議員たちも規制の可能性を模索しているようだ。

AI活用時に注意しなければいけないこと

不確実で変転しつづける法規制の状況にもかかわらず、AIを単なる目新しいトレンドではなく、多くの事業領域に意味ある影響を与えるものとして認識するマーケターは増えている。とはいえ、彼らの多くは企業に試験的な運用を進めないわけではないが、同時に慎重な姿勢も崩さない。

ミネアポリスに拠点を置くソーシャルメディアエージェンシーのザ・ソーシャルライツ(The Social Lights)で、クリエイティブおよび戦略責任者を務めるグレッグ・スワン氏は、「ジェネレーティブAIツールの活用を望むスタッフに、AIで生成したコンテンツをそのままマーケティング素材にコピーアンドペーストしないように助言している」という。

「AIにしろ業界全体にしろ、早熟なティーンエイジャーを扱うようにあれもこれも、そして安全対策も必要だと考える傾向がある。たしかに、彼らにはまだ大人の監督が必要だ」とスワン氏は話す。「ひらめきと盗用の境界線を見極めるのは容易でない。そしてあらゆるマーケティング成果物と同様に、元になった素材や情報源は重要であり、盗用の問題やクリエイターへの公正な報酬、ブランドセーフティも大切だ」。

コストはかかるがリスクは抑える

新興のAI企業のなかには、許可なくデータをスクレイピングするのではなく、別の方法でデータへのアクセスを確保するものも現れている。たとえば、AIテクノロジーの開発および提供をするイスラエルのブリア(Bria)は、使用許諾を取得しているコンテンツのみを使用して、自社のビジュアルAIツールをトレーニングしている。

コストはかかるがリスクは小さく、ブリアはこのアプローチが上手くいくことを期待している(ブリアの提携先のひとつであるゲッティイメージズ[Getty Images]は、スタビリティAI[Stability AI]が1200万枚の画像を盗み、オープンソースのAIアートジェネレータのトレーニングに無断で使用したとして、今年2月に同社を提訴した)。

ブリアでAIの戦略的提携を統括するヴェレッド・ホレシュ氏は、「市場は法制度よりも素早く反応するだろう」と述べ、「市場が反応すれば、AI企業はより責任ある行動を取らざるを得なくなる。誰もが知るとおり、モデルはもはや競争優位性ではない。データこそが競争優位性だ」と話している。

[原文:As regulatory pressure mounts for artificial intelligence, new lawsuits want to take OpenAI to court

Marty Swant(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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