Facebookから印刷カタログへと広告費を移行する D2C ブランド【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

今回のファッションブリーフィングでは以下のテーマについて取り上げる。

・D2Cファッションブランドの「AYR」がカタログローンチ後に利益を生むようになった経緯
・いかにして女性リーダーはいまも「ガールボス」を演じるよう期待されているか

AYRにとって「デジタル時代のレガシービジネスの構築」に必要なのはカタログだった

創業8年のファッションブランドAYRの創業者たちは、パンデミックの半ばになって初めて、同ブランドは真価を認められ、利益が出るようになったと語る。そしてそれは印刷カタログをローンチしたことに大きく起因している。

「カタログは私たちのビジネスを変えた」と話すのは、AYRの共同設立者でCEOのマギー・ウィンター氏だ。カタログというマーケティングツールによって、今年の同社の収益は2000万ドル(約25億7000万円)から2500万ドル(約32億1200万円)になると彼女は指摘した。米国内で4〜6週間ごとに新しいカタログが送付されており、その75%は見込み客に配布される。28ページのカタログには10%オフの割引コードが入っているが、このチャネルで獲得した買い物客のうち、そのコードを使用しているのはわずか4分の1となっている。

同社はこれまでは毎年50%のゆっくりとした年間成長率だったが、ここ1年で売上を3倍に伸ばした。しかも2020年初頭には小売店の休業や注文のキャンセルで、収益の3分の1を失ったにもかかわらずである。現在は99%がD2Cでの販売で、一部の商品は通販サイトのショップボップ(Shopbop)で売られているほか、そのほかの商品はレンタルサービスのニューリー(Nuuly)でも入手可能となっている。

コンテンツ戦略がカタログの秘訣

「カタログには人間的なふれあいがあり、拡大(モード)になっているときに力を発揮する」とAYRの共同創業者でCOOのマックス・ボンブレスト氏は言う。「私たちは新しい商品を導入していて、この秋に向けて新たな(製品)カテゴリーを紹介している」。

カタログの秘訣となるのは創業者たちのコンテンツ戦略だ。過去の「ノスタルジックな」マーケティングコンテンツだけでなく、インスタグラムやTikTokからもインスピレーションを得ており、その結果、今日のカルチャーを反映した製品が誕生している。しかし、親近感を優先させるのと同じように、会社の理念を表現し、質の高いアパレルを生産する技術を尊重することも重要だと創業者である彼女たちは言う。

その多くを達成するには、カタログの制作に関しては実践的なアプローチをとることだ。モデルを除き、とくにフォトグラファーとグラフィックデザイナーの業務はウィンター氏がひとりで担っている。モデルにはボンブレスト氏や彼女の祖母がよく起用されている。

デジタル広告よりも印刷物は投資対効果が高い

パンデミックが始まったばかりの、ロックダウンが顧客の囲い込みを意味していた時期以降、ブランドが印刷物の発送を採用するケースが増加している。デジタル広告の価格が上昇したことも、より手頃な価格の代替手段を求めるブランドをこのチャネルへと向かわせる要因となった。2021年9月、ダイレクトマーケティングエージェンシーのベラルディ・ウォン(Belardi Wong)のクライアントの72%が、2022年にダイレクトメールやカタログプログラムの配布部数を増やす計画だと回答している。3月には、同社のクライアントの76%が、現在のマーケティングミックス以外のチャネルを活性化する予定であると回答した。同社のD2Cファッションブランドのクライアントには、ルニヤ(Lunya)、ネイキッドカシミア(Naked Cashmere)、バックメイソン(Buck Mason)などがある。

ウィンター氏によると、AYRの場合、カタログの投資対効果は同じ期間に購入したFacebook広告の2.5〜3倍となっている。しかし比較すると、カタログは「より大きな現金支出」が必要で、「(投資の)回収には時間がかかり、作業量も多い」と彼女は指摘した。「確かにトレードオフはある。しかしコンバージョンや会話というメリットがある」。

AYRでは、2019年末にまずふたつのスタイルをテストした後、2020年半ばにカタログを再導入した。ひとつはクリーンでシンプルなスタイル、もうひとつはより個性を注入したスタイルだった。ウィンター氏は、後者へのアプローチをインスタグラムで投稿する行為にたとえた。「そのやり方は『マックスに着せた服をマギーが撮影し、面白いと思うジョークを書いて、何も考えずに送信ボタンを押す』といった感じ」。それがより多くの売上を促進させることになり、ブランドの定番のフォーマットとなった。創業者たちは最近、ブランドのデニム工場を訪問したロサンゼルスへの旅行の際に、滞在先のホテルを撮影場所としてカタログ撮影を行っている。

工夫を凝らした誌面で親近感を生む

2020年末、AYRはカタログを中心とした売上に支えられて利益を確保した。創業者たちによると、ワクチンが普及するまでは、サイトへのトラフィックや売上の波の結果にもとづいて、カタログがいつ家庭に届いたのかを時間単位で追跡することができたという。同社のコアスタイルには、スウェットよりも、ジーンズやTシャツ、ボタンダウンなど、「All Year Round(一年中着られるという意味で、ブランド名はこの頭文字となっている)」なアイテムが含まれている。

各カタログには、80年代のコメディ映画『ガールスカウト・ビバリーヒルズ版(Troop Beverly Hills)』からリアリティ番組『ル・ポールのドラァグ・レース(RuPaul’s Drag Race)』にいたるまで、あらゆるものを参照したコピーという形で「イースターエッグ」が散りばめられていると、ウィンター氏は説明した。イメージは、インスタグラムのアカウント@lostjcrewで見られるJクルー(J.Crew)の古い印刷カタログからインスピレーションを得ている。ウィンター氏は2012年までJクルーのマーチャンダイジングで働いていた。「(Jクルーのカタログには)本物の、シンプルな安心感のようなものがある」と彼女は言う。また、同じような90年代の美をとらえた写真を投稿している@simplicitycityも参考にしている。

カタログはほかにTikTokからもヒントを得ており、ウィンター氏は、シャツの裾をボトムにスッキリ入れる方法といった、スタイリングのヒントをピックアップしている。また、スタイリングはAYRの「万能な社員」に頼っている、ともウィンター氏は話しており、ひとつのスタイルをさまざまなシーンで、違った方法で着用してみせることが多いのだという。そもそもパンデミック以前から、AYRは小さく機敏な会社で、社員がさまざまな業務を担う必要があった。

ボンブレスト氏はよく誌面に登場するが、彼女が創業者であることをアピールしたり、ブランドの顔として位置づけたりすることはない。彼女は「そこで表現されるのは、ブランドへの親近感であり、つまり人ではなく個性なのだ」と述べている。

また、創業者たちは調達や製造に対する自社のサステナブルで思慮深いアプローチに誇りを持っているが、カタログにそうしたプロセスを明記することに関しては、軽いアプローチを採用している。「洋服は私たちがもっとも誇りにしているものだが、洋服をそんなに深刻に捉える必要はない」とウィンター氏は語った。

大企業にはない個性で顧客を引きつける

カタログの成功は、会社のコンテンツ戦略にも変化をもたらした。たとえば、この1年で同ブランドはeコマースサイトの画像を一新している。これまではシームレスな白を背景に純粋にモデルだけを撮影していたものを、リビングルームや歩道、ビーチなど、日常のシーンでモデルを撮影した写真に置き換えたのだ。

「(買い物客を引きつける)『定着する』ものというのは、大企業に倣ってこうするべきだと思っていたことではなく、自分らしさを発揮することから生まれるのだということを学んだ」とウィンター氏は述べた。ボンブレスト氏は、エリザベスアンドジェームス(Elizabeth & James)やH&MでPRを担当した経歴の持ち主である。

2020年以前のAYRは「オーディエンスも収益も少ない小さなビジネス」だったとウィンター氏は語り、「ぐらついたスタートアップの段階は卒業した」と付け加えた。

D2Cメンズウェアカンパニーのボノボス(Bonobos)が最初にインキュベートしたAYRは、2016年に独立したブランドとなった。その際に資金調達を行い、それ以降、600万ドル(約7億7000万円)を調達している。同時に、ウィンター氏によればトップラインを25倍に成長させた。従業員数は12人だ。

「いまは独立採算で、利益はすべて新製品を生み出すことに投資している」とウィンター氏は述べている。

「私たちは、デジタル時代にレガシービジネスを構築しようとしている。だから(新たな)チャンスを活用すると同時に、混み合った市場で価値を作り出すことに注力している」。

ガールボス現象に対するウィンター氏の見解

AYRの共同創業者マギー・ウィンター氏は、ガールボス現象について「私たちは誇りを持って、着実に利益を上げている。私たちが注目を集めることもないし、フォーブス誌の表紙を飾ることもないだろう」として、次のように語った。

「今日のビジネスで女性が置かれている状況は、必要以上に厳しい。一方では、オーディエンスとつながりたいと思い、そして今日のオーディエンスがすべて女性であるということを、私たちは誇りに思っている。そして他方では、私たちは自分の仕事に対して真剣に受け止めている。私たちの仕事はビジネスを運営することであって、型にはまることではない。型というのは行動や振る舞いを指すのかはわからないが、ある決まった見方で見られることだ。それはとくに資金調達の際に、最終的に女性に求められていることだ。女性はひとりの経営者ではなく、商品として見られている。

つまり、男性が資本へのアクセスをコントロールし、女性はまるで商品のように扱われる。それがビューティ、ラグジュアリー、アパレルがこれまでずっとやってきた方法だ。そして現在もそのように機能している。実際に私たちは、女性リーダーたちが意思決定し、成功する会社を経営するよう、彼女たちをエンパワメントしていない。女性リーダーは華やかな雑誌で取り上げられることを期待されている。私たちは、彼女たちのスキンケアのルーティンについて聞きたがるし、彼女たちが何を着ているのかを見たい、住んでいる家の中を見たいと思い、そしてパートナーがどんな人なのかを知りたがっている。これが男性の場合だと、そうはならない。私たちは投資家のマーク・キューバン氏に『スキンケアのルーティンを教えて』と言ったりはしない。とても興味深いダブルスタンダードだ」。

[原文:Fashion Briefing: DTC brands are shifting ad spend from Facebook to print catalogs]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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