ブランドインキュベーター 、ザ・センターの戦略を探る【ビューティー&ウェルネスブリーフィング】

DIGIDAY

ザ・センター(The Center)が2019年にローンチしたとき、このブランドインキュベーターについてはほとんど知られていなかった。実際、いまでも謎が多い。しかし、これはベン・ベネット氏の次のプロジェクトだった。最近、ベネット氏は共同設立者兼クリエイティブオフィサーを務めていたハッチビューティブランズ(HatchBeauty Brands)を去った。ハッチビューティがオーランドピタプレイ(Orlando Pita Play)などのラインの裏の立役者であることを知っていたので、私はザ・センターについて詳細を知りたいと思った。

インキュベーターとしてのザ・センターの姿勢

ザ・センターがローンチしたころ、SOSビューティ(SOS Beauty)のようなインキュベーターはより前向きになり、ターゲット(Target)やQVCのような小売業者は自社所有ブランドを単独で作成しようとしていた。ビューティ分野のプライベートブランドセグメントはとても混雑していた。3年後のいま、その混雑ぶりはますます顕著になっている。クリエイティヴ・アーティスツ・エージェンシー(CAA)やユナイテッド・タレント・エージェンシー(UTA)などのタレントエージェンシーが、担当しているセレブやインフルエンサーの多くをブランド創業者に変えようと狙っているからだ。それほど大規模ではないが、NBCユニバーサル(NBCUniversal)は自社ネットワークのタレントのためにヴォリションビューティ(Volition Beauty)と提携している。現在、ビューティ分野はセレブリティが率いるブランドであふれかえっている。そして、規模の異なる起業家やブランドとの会話では「インキュベーター」という言葉が数えきれないほど登場している。

「ザ・センターについては明確なプランを持って取り組んだかはわからない。ただ、自分自身を創業者やブランドの顔としてブランドを構築するつもりはないことはわかっていた」と、ベネット氏は8月下旬に語ってくれた。私は数日間にわたり、ベネット氏、そしてザ・センターの4人の創業者であるスーザン・ヤラ氏、キャリー・バーバー氏、クリセル・リム氏、イスクラ・ローレンス氏を取材した。ベネット氏はこの4人を「姉妹の妻たち」と呼んでいる。

ベネット氏は次のように述べている。「創業者は自分の役割ではない。私の役割はホワイトスペースを特定し、その機会を埋めるための商業的な解決策を作成することだ。また、自分が構築しているブランドに対して自分が費やす時間が限られていることも理解している」。

現在までのザ・センターの焦点は機会をビューティ業界に見出し、ブランドの種を生み出し、その創業者の役割を果たす人材を結びつけることである。ベネット氏とその創業者がブランドを所有して、ザ・センターのチームと共に運営する。ベネット氏は、ザ・センターでは同時に約5ブランドを運営できると考えている。

セレブ・インフルエンサーブランドに対する考え

ベネット氏はザ・センターの設立時にインフルエンサーやセレブにはあまり関心を持っていなかった。ナチュリアム(Naturium)の共同所有者であるヤラ氏が言うところでは、ベネット氏は「インフルエンサーブランドは絶対にやらないだろう」というほどである。

だが、ナチュリアムは2019年、ザ・センターのポートフォリオでローンチした初のブランドだった。放送ジャーナリストからインフルエンサーに転身したヤラ氏は当初は別のビューティラインの提案を持ってベネット氏を訪ねたのだが、2020年にナチュリムに参加。ナチュリアムが軌道に乗ってしばらくしてから、ヤラ氏が自分の関与を発表したときに物議を醸した。ベネット氏とヤラ氏は、ヤラ氏の関与についてもっと早く公表できたであろうことを認めた。2020年にはバーバー氏が率いるブランドのメイクビューティ(Make Beauty)を買収。ポートフォリオはローレンス氏のソルトエア(Saltair)と、ベネット氏が2021年1月に買収したリム氏創業のフラー(Phlur)によって揃った。ベネット氏からは売上高は共有されなかったが、業界筋によると、ザ・センターの今年の小売売上高は1億ドル(約145億円)に達する見込みだという。ベネット氏はナチュリアムがザ・センターの売上の大部分を占めていることは認めた。

ブラッド・ピット氏が自身のスキンケアライン、ル・ドメーヌ(Le Domaine)のために実際に何を行っているのか、また、スカーレット・ヨハンソン氏が彼女のブランド、ジ・アウトセット(The Outset)にどのように関与しているかについて業界関係者や美容ファンから疑問が持たれているが、創業者になったインフルエンサーに対して懐疑的になるのは理解できる。現時点ではセレブリティとインフルエンサーの境界線は曖昧だ。キム・カーダシアン氏がその良い例だ。

ベネット氏によると、(ザ・センター傘下のブランドの)女性創業者はブランドの単なる顔ではない。彼女たちは自分のブランドの株式を所有しており、給料は受け取っていない。また、ザ・センターの社員とは見なされていない。バーバー氏は例外で、アートディレクションやザ・センター全体のキャンペーンにも関与している。ザ・センターには35人の社員がいる。

「私はビジネスパートナーを求めている。有名人のパートナーたちは他ブランドの宣伝をして報酬を得ているが、ザ・センターでも、パートナーをセレブのように扱ったり、ライセンシングをしたり、スポンサーになったりしていると思われている」とベネット氏。「だが、それは我々が行っていることではない。出張の際は女性創業者も含めて皆がエコノミークラスを利用する。滞在先は(中レベルのホテルの)ヒルトン・ガーデン・イン(Hilton Garden Inn)やコートヤード・マリオット(Courtyard Marriott)だ」。

メイクビューティのイスクラ・ローレンス氏の関与

ザ・センターの創業者になることは仕事であり、ローレンス氏はそれを忘れてはいない。「成果が出ることを願って仕事にエネルギーを注いでいる」とローレンス氏。同氏は2014年から協働していたアメリカンイーグル(American Eagle)に不意に解雇された直後にベネット氏に紹介された。

「(解雇は)足をすくわれたように感じた。落ちてゆくばかりだった。育児に苦労していたし、パンデミック下での生活がどうなるかと悩んでいた。ソーシャルメディアは日々変化していたし、私の安全、私のセーフティネット、私の契約、そして過去7年間の雇用主が一瞬にして消え去った」と、ローレンス氏は2020年の自分の職業的、個人的な状況について語っている。

ローレンス氏はほかのプロジェクトのライセンス契約をいくつか打診されたというが、「自分の名前を何かにただ貼り付けるようなことはしたくはなかった」と述べている。

「ベン(・ベネット氏)と私は(職業的な意味で)付き合っていた」とローレンス氏。「彼がソルトエアに関して賢明な決定を下していること、そして私が長期的に全面的に注力していることをわかってもらえていると信じている。私が引き続きこのブランドを支援して、裏方で必要とされている業務を行い続けることを理解されている」。

フラーのクリセル・リム氏の関与

リム氏がベネット氏に出会ったのも彼女が人生の岐路にあるときだった。ファッションインフルエンサーとして知られているリム氏は離婚してシングルマザーとしての生活に適応している最中だった。同氏はフレグランスブランドの創業者としては当然な選択肢とは思われなかったかもしれないが、魅惑的な香りに重ねられたリム氏の個人的なストーリーは、フラーの最初の製品であるミッシングパーソン(Missing Person)に必要な要素だった。

「製品は世界を席巻してTikTokでバズった。(製品を使うこと)空白を満たすという発想だった」とリム氏。「私にとって離婚手続きでもっともつらかったのは朝起きて何かが足りないと感じることだった。必ずしも夫がいなくて寂しかったということではない。ミッシングパーソンには暖かさがあり、孤独感が軽減された。親近感があり、懐かしい感じがした」。

次にローンチした製品のロストコーズ(Lost Cause)では放浪癖と身軽な感性が強調され、ノットユアベイビー(Not Your Baby)には遊び心と誘惑心が意識されていた。「(ノットユアベイビーは)セクシーだった。自分は独身で、まだ魅力的だと感じられた頃だった。前夫との結婚生活は8年以上、交際期間は15年以上だったが、それでも自分には(女性としての)魅力があった」。

それぞれの香りが特定の個性を持っていることは、フレグランスはワードローブというフラーの発想を打ち出すのに役立った。これはリム氏のファッションにおける経歴と今日の消費者がフレグランスをまとう方法と一致している。1年目、フラーのフレグランスの多くがリム氏の人生の一部を描いたものだった。たが、フラーが成長するにつれてこの点は変化してゆくだろうと同氏は述べている。

ザ・センターのブランドの今後

現時点ではD2Cのみのソルトエアは10月にヘアケアをローンチし、1月に大手小売店でデビューする予定だ。フラーはセフォラ(Sephora)で取り扱いがあるが、現在セルフリッジズ(Selfridge’s)でローンチされるところだ。製品の種類は異なるが、ソルトエアとフラー双方がナチュリアムの1年目の売上高に匹敵するか、または上回るだろうと思われる。ビューティインディペンデント(Beauty Independent)によると、ナチュリアムは初年度の売り上げが1000万ドル(約14億円)になると予想されていた。

ベネット氏は、ザ・センターがこれらのブランドを所有し続けることにはこだわっておらず、自身を「永遠の親」ではなく「生みの親」と称している。同氏はまた、ザ・センターはインキュベーターではなくブランドアクセラレーターだと考えている。なぜなら、インキュベーターというとザ・センターがブランドの創業者ではなく所有者であるというニュアンスがあるからだ。実際にベネット氏は最終的には傘下のブランドを戦略的なバイヤーに売却できることを望んでおり、そうなるだろうと考えている。この戦略は、ブランドインキュベーター分野やセレブ・インフルエンサー契約においては異例であるが、うまく機能している。

ナリュリアムの成長と未来

その証拠がある。ザ・センターのスピンオフがどのようなものか疑問なら、最善の例のナチュリアムを見ればよい。

ナチュリアムがザ・センター社内で3~5年間成長してから独立して運営されることを期待しているヤラ氏は次のように述べている。「ベン(・ベネット氏)は自分の目標とザ・センターができることについて率直に話してくれた。そして、私はレガシーブランドを構築することについて非常に明確だった」。ベネット氏は日常業務にはほとんど関与しなくなり、ヤラ氏が1年を費やして強力なビューティエグゼクティブチームを構築したため、この状況は加速している。 BHコスメティクス(BH Cosmetics)とタッチャ(Tatcha)での職歴があるフランソワ・ボニン氏が2月にCEOに、パシフィカ(Pacifica)とロレアル(L’Oreal)で働いていたマイケル・クレマー氏が4月にCMOに就任した。複数の情報源によるとナチュリアムは来年(売却のための)市場に出ると考えられている。

ヤラ氏とベネット氏の両氏が合意しているのは、ベネット氏はナチュリアムのようなブランドを3000万〜5000万ドル(約43億〜72億円)の売上を出すまでに急速に成長させることができるが、6000万〜1億ドル(約87〜145億円)を稼ぐには別のスキルセットが必要であるという点だ。ベネット氏は基本的にスタートアップモードが好きだと述べている。ビューティパッケージング(Beauty Packaging)はナチュリアムが年末までに5000万ドル(約72億円)の収益を上げるだろうと報道している。

お互いから学び合う女性創業者たち

「姉妹妻たち」のやりとりを2日間取材して私が驚いたのは、彼女たちがお互いに対して競争意識を持っていないことだった。現時点ではナチュリアムがザ・センターのポートフォリオの至宝であるが、ほかの創業者らはそれを気にしていないようだった。実際、ヤラ氏は賢い長老のようだった。たとえば、バーバー氏がヤラ氏にインスタグラムリールズの「Get Ready With Me(私と一緒に外出の準備をしよう)」のアドバイスを求めているところを目撃した。彼女たちはまた、ナチュリアムが売却された場合、ザ・センターと傘下ブランドにさらなる投資が提供されるようになることを理解しているようだ。

いまのところ、バーバー氏、ローレンス氏、リム氏は皆できるだけ多くのことを学びたいと思っている。そのうちに彼女たちが現在のヤラ氏の立場になるかもしれない。「お忘れかもしれないが、我々3人は母親であり、家族を養うレガシーを持ちたいと思っている」とリム氏は語っている。

メイクビューティは品揃えを充実させつつある。同ブランドは先日コンシーラーを発売し、2023年には小売拡大に注力する予定である。バーバー氏は次のように述べている。「メイクビューティをナーズ(Nars)のように誰にでも知られているブランドにしたいと思うので、ベン(・ベネット氏)やスーザン(・ヤラ氏)やほかの創業者から可能な限り学ばせてもらっている。スーザンから彼女の強みや彼女がCEOに期待することについて話を聞いて、メイクビューティのこれからの軌道についてより考えさせられた」。

ベネット氏は多忙を極めてはいるが、多くのカテゴリー(本格的なヘアブランドが次の段階かと思われる)と多くのブランドに目を向けている。そのようなブランドがインフルエンサー主導のブランドになるかどうかという質問に、同氏は次のように答えた。「必ずしもそうとは限らない。今はインフルエンサーやセレブリティがビューティのトレンドだが、それは一瞬のこと。状況は常に変化している」。

[原文:Beauty & Wellness Briefing: Inside brand incubator The Center’s playbook

PRIYA RAO(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

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