Q&A:広告業界が取り組む 「スコープ」 とは? – 温室効果ガス排出量の分類

DIGIDAY

広告業界ではいま、パブリッシャー、広告主、エージェンシー各社がCFP(カーボンフットプリント)の削減に向けて高い目標を掲げる動きがみられる。しかし多くの企業が、日々の事業活動に伴うCO2など温室効果ガスの排出量について、正確には把握できていないようだ。

企業の温室効果ガス排出量は、GHGプロトコルが定義するスコープ1から3までの3カテゴリーに分類される。スコープ1は自社における燃料燃焼などによる直接排出量、スコープ2は第3者から供給される電気・熱などを生み出す際の排出量、スコープ3は企業を取り巻くサプライチェーン全体の排出量を指す。

サステナビリティ推進を謳う企業の幹部でも、自社が関わる排出量についてすべてを把握しているとは限らない。

「デジタル広告の制作・運用を支えるネットワークでは、多くの活動やプロセスで温室効果ガスが発生するため、たとえば郵便配達員が個人宅のポストに雑誌を投函するプロセスとは違って、排出量が把握しにくい」と、ハースト(Hearst Corporation)のデヴィッド・キャリー氏は言う。キャリー氏は同社の広報/コミュニケーション担当シニアバイスプレジデントのほか、サステナビリティ担当も務めており、「広告主と消費者のあいだに多くの事業者が介在し、それぞれに収益が分配されるが、その収益を生み出す過程で温室効果ガスが排出される」と説明する。

スコープ1とは

スコープ1は自社が直接排出する温室効果ガスの量(直接排出量)を指し、測定が比較的容易と思われる。測定対象は以下のとおり。

  • オフィスビルの暖房用天然ガス
  • 配達車両の燃料用ガソリン
  • オフィスビルで発生し処理されるごみ
  • 自社が保有または運営する設備・機械運転用の可燃性燃料

ハーストが2022年11月に発表した2022年度版「ハースト・サステナビリティ概要報告書(2022 Hearst Sustainability Overview)」によると、同社の場合2021年は、3カテゴリー中スコープ1に分類される排出量がもっとも少なく、米英両国内の施設の合計排出量は、二酸化炭素換算で年間約4300tだった。

なお、二酸化炭素換算値(略語:CO2e)は、それぞれの温室効果ガスが気候変動に及ぼす影響について、二酸化炭素を基準とする地球温暖化係数を用いて算出した数値である。

ハーストにおけるスコープ1排出量は、同社が全世界に展開する504の施設を対象に測定された。「関連データ収集には1年かかった。当社のオフィスは500拠点を超え、計器類は数千にのぼり、膨大な量のデータ入力が必要だったため、作業は困難をきわめた」とキャリー氏はいう。

一方、アクセル・シュプリンガー(Axel Springer)が2022年4月に発表した2021年サステナビリティ報告書(2021 Sustainability Report)に記載された同社のスコープ1排出量は、二酸化炭素換算で4559tだった。

スコープ2とは

スコープ2は間接排出量を指し、他社により生産・供給されたエネルギー(主に電力)を自社で使用した結果、排出された温室効果ガスの量を測定する。測定対象は以下のとおり。

  • 自社が購入・消費する電力の発電に使われる燃料
  • 自社のオフィスが接続された送電網にエネルギーを供給する燃料

ハーストのサステナビリティ概要報告書によると、同社のスコープ2排出量は2021年、二酸化炭素換算で5万3800tだった。一方、アクセル・シュプリンガーのサステナビリティ報告書には、2021年のスコープ2排出量は二酸化炭素換算で1万4726tと記載されている。

スコープ2の数値は、当該企業のオフィスが世界のどの地域にあるかで変わり、一国のなかでも場所によって大きく異なる。温室効果ガス排出量は、地域の中央送電網に供給される電力の発電源に左右されるからだ。たとえば、ある企業が風力、水力、太陽光など再生可能エネルギーで発電している地域に構えたオフィスと、石炭火力発電に頼っている地域に構えたオフィスを比べると、温室効果ガス排出量では後者のほうがかなり多くなる。

スコープ3とは

「スコープ3は、スコープ1とスコープ2以外の間接排出量を指す」とキャリー氏は述べ、スコープ3が企業の温室効果ガス排出量の80%から90%を占めると説明した。つまりスコープ3は、自社向けエネルギー供給以外の活動を対象とし、製品の原材料調達から製造、販売、消費、廃棄にいたる過程で排出される温室効果ガスの量(サプライチェーン排出量)を測定する。

測定対象となる活動は以下を含む。

  • 社員の移動(通勤、出張など)
  • 第3者による配送サービス
  • 委託先工場における製品の製造、雑誌の印刷など
  • デジタル広告のエコシステムにおける企業活動
  • 企業広告の閲覧に消費者が使う、電子機器の消費エネルギーも含まれる

アクセル・シュプリンガーの報告書によると、同社のスコープ3排出量は2021年、二酸化炭素換算で合計33万2813tだった。ハーストは現時点ではスコープ3排出量を発表していない。キャリー氏率いるチームはいま、このカテゴリーに分類される活動の洗い出しと排出量の算定に取り組んでいる最中だという。「いまはまだ、正確な数値の算出に必要なツールが十分にないが、取り揃える予定だ」と同氏は言う。

排出量の測定方法は?

電力・天然ガス供給事業会社は、使用者の建物に直接メーターを設置し、その検針値をもとに請求書用データを作成する。しかし現在、電力・天然ガスの使用者である企業のスコープ3排出量算定に必要な全データを、提供できるエネルギー事業会社は存在しない。

「データのとりまとめには新たなツールが必要だ」と主張するキャリー氏は、ハーストがスコープ3排出量の正確なデータを抽出する目的で、セールスフォース(Salesforce)のNet Zero Cloudを含む複数の測定プラットフォームと契約したことを明らかにした。

事業活動により生じる温室効果ガスの測定分野には、サステナビリティ測定会社およびサードパーティベンダー数社がすでに参入している。

キャリー氏によるとハーストは、出張の予約と旅費・交通費などの経費精算管理にSAPコンカー(SAP Concur)を利用しているが、このプラットフォームは飛行機、ホテル、タクシー利用時の排出量算定サービスを開始した。また、米国内で流通するハースト発行の紙媒体雑誌の大半を印刷するクワッド・グラフィックス(Quad Graphics)が、印刷にともなう排出量データを提供するようになったという。

広告業界のカーボンフットプリントが環境に及ぼす影響は?

この分野ではほかに、デジタル広告業界向け排出量測定ソリューションを提供するスコープスリー(Scope3)などの企業がある。スコープ3に関する理解を深めるために、このカテゴリーの排出量の大きな寄与要因となるデジタル広告の事業活動について詳しく見ていこう。

ニューヨークに本社を置くスコープスリーは、インサイダー(Insider)、ボックス・メディア(Vox Media)、ダブルベリファイ(DoubleVerify)などのクライアントを抱える事業会社だ。同社の最高執行責任者のアン・コグラン氏によれば、スコープ3は全業界の総排出量のうち、デジタル広告業界の排出量が25%を占めるという。

同社は2023年4月、2023年第1四半期の広告業界におけるサステナビリティ動向に関する報告書を発表した。The State of Sustainable Advertising Q1 2023と題するこの報告書の要点を以下にまとめる。

  • 米国ではプログラマティック広告によりひと月あたり10万tのCO2が発生しており、これは1120万ガロンのガソリン燃焼による排出量に相当する
  • 広告インプレッション数1000回あたりのCO2排出量(gCO2PM)は、調査対象となったパブリッシャー平均で187から1772gCO2PMである
  • デジタル広告表示では、インプレッション数1000回につき、洗濯1回分(乾燥は除く)に必要なエネルギーを消費し、全世界平均で514.8gCO2PMのCO2を排出する
  • パブリッシャーのなかでワースト10の事業者(950から1772gCO2PMを排出)の場合、米国、英国、フランス、ドイツ、オーストラリアの数値を合計すると、ひと月あたり二酸化炭素換算で3万3500tを排出しているが、これは車で8600万マイル(約1億4000万km)走行した際の排出量と同等である

[原文:WTF are sustainability scopes?

Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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