ラグジュアリー 製品は、アントワーヌ・アルノー氏が言うように「本質的に持続可能」なのか【ラグジュアリーブリーフィング】

DIGIDAY

6月27日、28日にコペンハーゲンで開催されたグローバル・ファッション・サミットは、ファッション業界における持続可能な戦略の推進に焦点を当てた年2回のイベントである。ロロピアーナ(Loro Piana)のCEOであり、クリスチャン・ディオールSE(Christian Dior SE)の副会長も務めるLVMHのアントワーヌ・アルノー氏と、ロエベ(Loewe)のデザイナー、ジョナサン・アンダーソン氏とのメインパネルディスカッションでは重要な質問が投げかけられた。

「ラグジュアリーは本質的にサステナブル」か?

会話のなかでアルノー氏は次のように述べた。「ラグジュアリーは本質的に持続可能だ。それゆえにラグジュアリーは特別なのだ。最高品質の素材で作られており、耐久性があり、修理ができる。これこそが、ファッション業界のそのほかの部分とラグジュアリーを区別している点だ」。

これは世界最大のラグジュアリーメゾンからの重大な発言である。特に、ラグジュアリー市場が2023年には5~8%と、ファッション業界のそれ以外の部分よりも速いペースで成長しており、ラグジュアリー製品への需要を満たすために生産が増加していることを考えると注目に値する。世界経済フォーラムによると、世界のファッション業界は合計で年間800億〜1500億点の範囲で生産、販売しているという。

ケリング(Kering)の持続可能性最高責任者、マリー=クレール・ダヴー氏は、3月、Glossyとのインタビューで、ラグジュアリーに本来備わっているとされる持続可能性についてコメントした。「ラグジュアリーブランドは高品質で美しい原材料を注文するので、(ほかのブランドより)サステナブルだ。持続可能性が会社のDNAに組み込まれている。だが、ラグジュアリーブランドでさえも向上し続けることはできる」と述べた。

ファッションにおける持続可能性の問題は、ラグジュアリー消費者セグメントとマス消費者セグメントのあいだでほとんど違いはない。課題には、過剰生産、資源集約型の素材、炭素排出量の増加、生物多様性などがある。デザイナーのなかには、ベテランのシューズデザイナーのミルコ・スコッチャ氏のように、持続可能なブランドを立ち上げるために業界を去った人もいる。スコッチャ氏はこれまでボッテガ・ヴェネタ(Bottega Venneta)やトリー バーチ(Tory Burch)のデザインを手がけていたが、2019年に退任し、植物由来の素材を使ったシューズブランド、O2モンド(O2 Monde)を立ち上げた。

したがって、消費者やサステナビリティの専門家からは、ラグジュアリー全体にわたるサステナビリティの教育と原則の全体的な統合を求める声が高まっている。近年、ナイキ(Nike)、プラダ(Prada)、ロロピアーナなどのブランドは経営幹部に最高サステナビリティ責任者を加えている。そして、この役職がサイロ化しないように確認することの優先度がますます高まっている。

認定プログラムに従ってラグジュアリーブランドがESG+目標を達成できるよう支援するサステナビリティ機関、ポジティブラグジュアリー(Positive Luxury)の共同創設者兼共同CEOであるダイアナ・ベルデ・ニエト氏は次のように述べている。「これまでは、サステナビリティは誰にとっても重荷となっていた。なぜなら、エキサイティングではあるけれども、追加の仕事だからだ。現在目にしているのは、コンプライアンスの枠を超えた持続可能性の捉え方を理解しよう、また、持続可能性を全員の職務内容に組み込む方法を理解しようとする(ブランドの)信じられないほどの意欲だ」。

サステナビリティ分野を総合的に理解する人材の重要性

「サステナビリティ部門はここしばらく成長しており、分野全体を理解している人が必要だ」とニエト氏は述べている。「だが、(他部門の)専門家も必要だ。そうなると、問題は、サステナビリティを念頭にして作業する最適な調達担当者、マーケティング担当者、サプライチェーン管理者をどうやって確保するかということになる」。

英国のラグジュアリージュエラー、スティーブン ウェブスター(Stephen Webster)にとって、原材料調達における持続可能性は25年以上にわたり最優先事項である。社歴34年の同ブランドの創業者、ウェブスター氏は次のように述べている。「当社はすべての調達情報を顧客が利用できるようにしている。人々の関心はとても高くなっている。顧客からは(当社の持続可能性に関して)以前よりはるかに頻繁に質問されているので、当社チーム全体が提供している全製品とその調達方法について十分に精通していなければならない」。

スティーブン ウェブスターの本社チーム30人のうち12人は、事業のさまざまな分野にわたる持続可能性対応の理解と実践を推進するために、2020年に結成された「グリーンチーム」のメンバーである。同社のマーケティング・サステナビリティグローバル責任者であるサマンサ・チャップマン氏がグリーンチームのチェアパーソンだ。

ウェブスター氏は次のように語っている。「最初の窓口は消費者対応チームだ。(たとえば)営業職の場合、消費者と直接コンタクトするので、当社が何を行っていて、どんな会社であるか、(サステナビリティに関して)何をしているのかについて、最新情報を把握している必要がある。もっと運用的な職務ならば、当社のロジスティクス責任者はグリーンチームの一員だ。いろいろなプロジェクトのなかでも特に国内輸送のネットゼロを推進している」。

若い従業員からの要求

顧客のほかに、ラグジュアリー企業全体での持続可能性を優先するもうひとつの推進力は、若い従業員からの要求だ。ダヴー氏は3月に「現在の従業員、特に若い世代にとって持続可能性は重要なトピックだ。人事担当者は面接で(持続可能性の観点から)会社は何をしているのかと多くの応募者から問われている。また。応募者は会社がどれだけ迅速に実行しているかも知りたがっている」と述べている。

サステナビリティを重視する社風を持つ確立された企業の場合、同じ考えを持つ社員を惹きつけることは容易である。ウェブスター氏は「確かにそのような人々を惹きつけている傾向はある。(持続可能性は)面接段階でよく話題に上がるし、当社が持続可能性と調達を真剣に考えているのが良いと面接で言われる」。

ケンブリッジ公爵夫人のお気に入りの英国ブランド、L.K.ベネット(L.K. Bennett)のような比較的購入しやすいラグジュアリーアパレルブランドにも同じことが当てはまる。社歴33年の同社は、5月、パンデミック後のオケージョンウェアブームの影響で2023年1月までの年度の粗利益が40%増加し、3000万ポンド(約54.7億円)以上になると報告した。

L.K.ベネットの技術・クリエイティブ開発責任者であり、サステナビリティへの取り組みを主導しているリネット・ブラッドフォード氏は、「製品開発チームを採用するとき、我々は(応募者の)経験と情熱について尋ねる。彼らは持続可能性に関して変化をもたらしたいと本気で思っているのか。当社にとって、それは書類の上でアピールするようなものではない」と語っている。

ブラッドフォード氏は次のように付け加える。「我々は、(応募者が)当社のサプライヤーや同僚と積極的に協力して、サプライヤーや同僚に影響を与えたいと思っているかが知りたい。さらに高い持続可能性のために事業の何かを改善できると思うなら、そのために協力してくれるのか?」

事業全体で持続可能性に取り組むべき理由

80人ほどの規模のL.K.ベネット本社では、部門を超えて協力して業務運営を改善することが優先されている。役職に「持続可能性」が含まれていないにもかかわらず、この協働を推進しているのは若いスタッフだ。また、コミュニケーションチームは調達チームやデザインチームと協力して、同ブランドの材料に関する正確な情報を伝えている。

L.K.ベネットのPR・インフルエンサー責任者のシャーナ・トーマス氏は次のように述べている。「今の時代、グリーンウォッシングを行っているブランドは多いが、当社はその領域に存在しないことを強く意識している。それは、マーケティングからコミュニケーションまでのすべてにおいて、『当社は世界でもっとも持続可能なブランドだ』というような発言をしない、ということを意味する」。

ブランドは持続可能性に関する規制、基準、研究の変化に迅速に対応する必要性を考慮しており、持続可能性の統合された役割への移行が加速されている。事業全体を通じて明確なコミュニケーションと継続的な教育がなければ、評判と財務の両面で損害を被る可能性がある。

「持続可能性に関しては、毎月状況が変化している」と述べているのは、L.K.ベネットのグローバルプロダクト・デザインディレクター、トマシーン・ジョーダン氏だ。「優れた生地を見つけたと思っても、実際に詳しく見てみるとサステナブルではなかったりする。なので、変化を起こすためには継続的に前進し、推進していかなければならない」。

ブラッドフォード氏は、他業界と比べてラグジュアリー業界にも同様の課題があると述べている。そして、セクターに関係なく、サステナビリティチームを超えた統合的なアプローチを持つことは有益である。

「会社のレベルがプレミアムだからといって、答えをすべて持っている、あるいはすべてが正しいという意味ではない」とブラッドフォード氏。「アルノー氏のあの発言は少し物議を醸すのではないだろうか。LVMHは、おそらく非常に自信のある立場にあると感じているのだろう。だが、L.K.ベネットにとっては、持続可能性には事業全体にわたる透明性が必要だと伝えることが重要なのだ」。

[原文:Luxury Briefing: Are luxury products ‘sustainable by nature,’ like Antoine Arnault said?

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

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