パブリッシャー各社は今年、広告収入とeコマース取引が減少した第2四半期のあと、警戒感を強めていた。しかし第3四半期が終わりに近づいたいま、景気減速以外にも「対処すべき問題が山積している」と関係者の多くが語っている。
9月19日から21日まで、DIGIDAY PUBLISHING SUMMITが米フロリダ州キー・ビスケインで開催された。サミットの非公開セッションでは、パブリッシャーの経営幹部らが、採用の難しさや広告効果測定の複雑さなどの課題について情報を交換し、アドバイスし合った。
議論の内容にはチャタムハウスルールが適用されたが、これは米DIGIDAYが会議中の発言を自由に利用できるが、発言者やほかの参加者を特定する情報は伏せなければならないという決まりだ。以下、会場で交わされた会話の一部を、議論のテーマごとにまとめてご紹介する。
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事業の不振
「今期は、業界各社にとって最悪の四半期になった」
「季節性の変動が強く出ている感じだ。パブで出会った関係者や、協業パートナーと話をしたが、誰もが『まあ、例年どおり、第4四半期になればまた業績も回復するだろう』と言っていた。しかし、本当に例年どおりになるのか、疑問だ」
複雑化する広告効果測定
「我々の最大の課題は、当社以外のメディアを購入しているクライアントに、KPI(重要業績評価指標)として、アトリビューションやROAS(広告の費用対効果)のデータを示さなければならないことだ。メディアのアフィリエイト事業とダイレクトレスポンス事業の融合をめぐる課題もある」
「リテールメディア・ネットワークが多数、動きだしている。Amazonは自社運営のDSPを持ち、ECサイトでショッピング中のユーザーが閲覧している画面に広告を表示し、関連のアトリビューションを分析する能力がある。パブリッシャーにはできないことだが、それは我々の仕事ではない。パブリッシャーの本来の仕事は、影響力と配慮を示すことだ」
「広告のアトリビューション計測の結果を受けて、パブリッシャーがパートナー企業に何をどうアピールすべきかが、なかなか定まらない。パートナーの方針しだいで要件が変わってくるからだ」
分析の障害となるもの
「仕事をしていて頭にくるのが、最新の分析結果を見た社員たちが、『昨日、この数値が下がったのはなぜだ?』などと質問してくることだ。それに対して私は、『じゃあ昨日、私が集計したプログラマティック広告関連以外のデータを見ましたか? たとえば、大型買収案件のデータとか』と答える。自分がアナリストとして、データ中のパターンを見つけようとしているときは集中して仕事ができるが、分析結果の全体像をざっくりと説明してほしいと皆に言われるのは迷惑なんだ。過去1週間、1カ月のデータを分析して詳しくトレンドを調べる時間が削られてしまうから」
「社内の人間やクライアントに対して、まるで自己弁護しているかのような気持ちになる」
「データ分析は、キャンペーン実施前に始めなければならない。キャンペーン後のデータ分析は、自分の利益を守るためにやっているようなものだ。でもキャンペーン開始前に、こういう結果になりそうだ、という見通しを関係者に示せれば、『彼は信用できる。思ったとおり、仕事に真剣に取り組んでいたんだ』という反応が返ってくる」
「パブリッシャー事業にとって、中途半場なデータ分析は非常に危険だ。なぜなら関係者のなかに、現実に即した物事のとらえ方をしない人たちがいるからだ」
「私は社内の広告運用担当者と協力して、CEOへの報告用に、主要データをグラフや表などの一覧で確認できるダッシュボードを作成する必要があった。私はそのダッシュボードを設計したとき、CEOが読みたくなくなるように、わざと混乱を招きそうなレイアウトにしておいた。私としては、そうするしかなかったんだ。CEOは『面倒くさいな。これ、君が説明してくれ』と頼んできて、いまではもう、ダッシュボードを見なくなった」
大量離職時代の到来
「私は直接販売部門で働いているが、新入社員が未熟練者向けの職について6カ月から9カ月経つと、2倍の給料を提示するテック企業に引き抜かれてしまうという現象を見てきた」
「パブリッシャーも、大手テック企業と同等の給与や諸給付を払う必要がある。たとえばTikTokはあちこちの企業から人を引き抜いてきた。働きがいのある職場という評判は聞かないが、それでも相当な給料を払っている。Amazonも同様だ。一方、パブリッシャーが社員に支払う給料は、バイサイドの企業よりは多いかもしれないが、十分とはいえない。テック企業と人材獲得競争をするなら、それなりの給料を提示しなければならない」
「雇用市場では賃金インフレが起きているが、コピー&ペースト作業が主な仕事の24歳の社員に年俸を10万ドル(約1300万円)も払うつもりはない」
「過去10年、いや20年のあいだ、平均賃金は上昇しつづけてきた。だから、給与水準が5、6年、7年前から変わらない会社は、他に遅れをとってしまう。それが現実であり、人材定着に必要なコストは今後も増えていく。うちの取締役会が毎年、より高い目標を我々に課しているのもその費用を捻出するためといっていい。変だと思うかもしれないが、我々がもっと稼いで、いい人材を流出させないようにしなければならないんだ」
「確保した人材の流出を防ぐには、組織全体の知識を動員する必要がある」
「雇用市場でパブリッシャーがテック企業と競争していくのは厳しい。たとえばTikTokが人材を募集していたら、ミレニアルやZ世代の若者は『あんな会社で働けるなんて、かっこいい』と感じて応募するだろう。私自身、就職活動を始めたとき、Googleで働いてみたいと強く願っていた。それと同じことだ」
パブリッシャー 1:「社員に転職を決意させる給与のレベルがどのぐらいか、わかるかね?」
パブリッシャー 2:「もちろん」
パブリッシャー 1:「そこが肝心なポイントで、だから我々はこんな言葉を聞くはめに陥るんだ。『同じ職場で働く人たちが大好きで、素晴らしい会社だと思っています。でも、銀行かテック企業に転職することにしました。もちろん仕事はきついだろうし、平日だけでなく週末もこき使われるのはわかっています。でも、いまのうちにお金を稼いでおきたいんです』」
サードパーティCookieのサポート終了時期は?
「GoogleがChromeブラウザでのサードパーティCookieのサポート廃止の計画を発表したが、私は実現しないと思う」
「計画が実行に移されるとは思えない。Googleからすれば、広告事業にとってリスクが大きすぎるし、アドエクスチェンジのAdXに多額の資本をつぎこんでいるからだ」
「サードパーティCookieのサポート終了がいま重視される理由は、ChromeブラウザとSafariブラウザにおけるトラフィックのパフォーマンスの違いによる。両ブラウザ間で単価にかなりの差があるから、オープンマーケットでの広告取引が多い企業の場合、Cookie利用が規制された環境下での広告在庫評価のソリューションがないままだと、大きな損失を出しつづけることになる」
「ChromeでCookieを使わない手法のテストとして、オープンマーケットにおいて高単価で広告枠を購入した場合、その恩恵を受けるのはSafariのトラフィックだ。当社サイトの購読者のおよそ半分がSafariかFirefoxのブラウザで閲覧している。いますぐCookieレス技術の開発を進めるべき根拠は十分で、将来的にはChrome以外のブラウザも対象にすべきだと思う」
「同じ広告ユニットについてCookieが使える環境と使えない環境でのCPM(広告インプレッション単価)を比較すると、Cookieなしの場合はCPMが50%下がるだろう」
「入札者もマーケターも、アドレッサビリティが確保できないCookieレスの広告について価格を設定することを求められるが、それでは意味がない。実は、もっとも単価が高い可能性があるのは、Safariブラウザで表示される広告だ。ただし、イールドはChromeの半分しかない」
「Cookieを使用しない広告在庫から収益を得ようとするなら、一定のビューアビリティ(広告表示回数のうち実際に閲覧できる状態にあったインプレッションの比率)が確保できなければならない。ビューアビリティが低く、さらにユーザーエージェント(閲覧者が利用しているOS・ブラウザの識別情報)がない状態では、収益化はおぼつかない」
「GoogleによるCookieサポート終了時期の遅延は、業界各社にとってメリットにはならない。期限が迫るなかで取り急ぎ開発したソリューションが、中途半端であろうとそうでなかろうと、まだまだ先は長い。通りすがりにサイトを訪れた読者を『既知の読者』に転換させるための取り組みを続けなくてはならない。早急に手を打たないと、購読者へのコンバージョン率が低いままで、関係者を失望させることになる」
「サードパーティCookieが使えなくなったら、ブランド力をもつパブリッシャーはこう主張するだろう。『当社は、サイト購読者の登録情報をもとに質の高いオーディエンスデータを提供できる。御社も、うちのコンテクスチュアル・ターゲティング用シグナルを使ってかまいませんよ』」
「サードパーティCookieのサポートが終了したら、広告主は、自社が出稿した広告が効果を上げているかどうか判断するにはどうすればいいのか? 問題は深刻だ」
登録ウォールの亀裂
「当社では、登録ウォールを導入する準備は整っている。重要なのは、広告付き無料コンテンツに登録ウォールを設ける適切なタイミングはいつか、ということだ」
「正直言って、サイトの閲覧者にユーザー登録してもらうのと引き換えに、どんな特典をつければいいのか悩むことが多い。ユーザーが喜ぶようなものは何も提供できない」
「ユーザー登録で得られるのは、コメントを書き込めるとか、ブックマークを設定できるといった機能ぐらいで、魅力に欠ける。ユーザーの期待に応えるという観点を取り入れて、購読者へのコンバージョンを促すにはどうすればいいか? 現状のままではうまくいかない」
「私にとって最大の課題は、ユーザーのリピート訪問を誘導する仕組みづくりだ。SEO(検索エンジン最適化)に注力しているのに再訪問率が上がらないという問題を解決しなければならない」
「我々としては、メールアドレス等の情報と引き換えに、実質的価値のあるものを提供する必要がある。内容に興味が持てないニュースレターを受信しても、ユーザーにとっては価値がない」
「当社のサイトを訪れるトラフィックの多くが1回限りの閲覧で、そういうユーザーには干渉するつもりはない。しかし、サイトを5、6回訪問したユーザーに対し、オンライン行動の妨げにならないような形でターゲティングする方法はないだろうか?」
「ロイヤルティの高いサイト再訪問者とはどんなユーザーかといえば、メールアドレスなど我々が求める情報を、閲覧を邪魔されたと感じることなく素直に提供してくれる人たちだ」
コンバージョンファネルの行き詰まり
「当社では、コンテンツの一部有料化によるペイウォールの試験運用を近いうちに開始する見込みだが、料理レシピや家のインテリアのアイデアを掲載したコンテンツを、料金を支払って閲覧したいと希望するユーザーばかりではないと思う」
「自社サイトのペイウォールには厳正なルールを適用していて、ニュースレターの無料配信はユーザーにとってメリットがあるか、有料購読者に転換させるきっかけになるかどうかを検討したが、(関心から欲求、行動へ誘引する)コンバージョンファネルの構築は非常に煩雑で、けっきょく当初の計画は断念することになった」
「我々は自社のFacebookページのトラフィックを分析して、3万人近くの閲覧者をニュースレター購読者に転換した。これは大成功といっていい。収益化にはニュースレターのほうがはるかに効果的だからだ」
パーソナライズ化の問題
「ニュースレター購読者の多くは、配信コンテンツの徹底したカスタマイズは望んでおらず、パーソナライズ化されたブリーフィングは必要としていない。この種の購読者は、サイトで配信され、日々きちんと更新されるコンテンツを読みたいだけなのだ。彼らはほかのタイプのオーディエンスに比べて訪問1回あたりの閲覧ページ数が多く、長期にわたってロイヤルユーザーであり続けている。その一方で、我々がユーザーのロイヤルティを向上させるためによかれと思って打った施策は、ことごとく外れた」
「ニュースレターのパーソナライズ化を数カ月間、試験運用した。手書き風の文字を使ったメールに仕立てたりしてね。しかし、ロイヤルユーザーから直接寄せられた感想やアンケートの回答を確認したところ、その手のパーソナライズ化は不要だとはっきり指摘されていた」
「パブリッシャー社内でも、編集部門とコマース部門では目指す方向性が異なる。編集部門にとっては、トップページといえば、サイトを閲覧したときに最初に表示されるべき最重要ページだが、サイトを個々の購読者向けにカスタマイズする場合、その人のコマース関連の興味・関心によっては、デフォルトだと5ページ目に掲載される記事がトップにくる。編集部門の要求とコマース部門の要求が、ある種の対立関係をなしているところが興味深い」
アフィリエイトコマースにおける障害
「我々は、ECサイト上のコンテンツ表示方法をいろいろ試している。Googleは、サイトに掲載される商品の詳細情報を重視していて、専門家の監修による正確で簡潔な説明になっているか、目を光らせている」
「当社ではコマース関連事業に関する懸念が少しずつ高まってきている。2022年の売上は、2年前、1年前と同等のレベルには届かないだろう。成長軌道を維持していけるかどうかが気がかりだ」
もう1人、別のパブリッシャーの社員は、eコマース売上の大きな落ち込みはみられないと発言していた。ただし、同社のアフィリエイトコマース事業の成長を牽引しているのがGoogleのプラットフォームであるため、Google側のアルゴリズムの変更の可能性を先読みし、それを考慮に入れたコンテンツ配信戦略の策定が必要だという。
「我々のサイトでは、オリジナル写真の掲載に努めてきた。どんなコンテンツのパフォーマンスが良いか、専門家に傾向を分析させて、オリジナル写真が最適だと判断した」
「Googleのプラットフォームでは、誠実主義が評価される。商品仕様の説明については、どこかから流用してきた表現に頼るのでなく、自社ならではのわかりやすい商品説明ページ(PDP)の作成が求められる。我々にとっても複数の利点がある方法だが、それでもすべての側面の改善につながるわけではない」
「ECサイトで買い物をする消費者としては、候補の商品を20種類も表示してもらわなくていい。必要な情報はおすすめトップ3だけで、各商品の特徴の説明を読みたい。ユーザー目線でいえば、マウスを数回クリックしなければ到達できない情報を見つけるのは疲れるんだ」
「サイトには陳腐化した商品コンテンツが多く表示されていて、顧客離れにつながる可能性があるので、我々としては、『このコンテンツはどの程度いじるべきか?』という疑問に悩まされる。季節限定の商品の場合、1週間に1度はGoogleの目にとまるだろうか? いまはまだ、どう対応すべきか、模索しているところだ」
「そうした疑問に対する明確な答えが得られればいいのだが。たとえば、ECサイトのコンテンツの更新頻度はこの範囲内で、というようなルールを設けてもらえると助かる。更新にあたって、リフレッシュとはこうやるものだ、とか、コンテンツのこの要素についてはそのままにしておいていいとか。そういった情報は、喉から手が出るほど欲しいんだ」
「我々としては、コンテンツのリフレッシュの重要性はわかっているものの、毎月、あるいは四半期ごとのペースではタイムリーに更新できそうにない。現在、掲載コンテンツの更新はシーズンごとにおこなっていて、まずは在庫を保証すべく状況を確認し、入荷したばかりの新商品やヒット商品の情報を随時、追加する。これまでの経験から、コンテンツの充実につながる有効な方法だと理解している」
デスクトップPCのプッシュ通知で注意すべきこと
「我々はプッシュ通知ではかなりの経験を積んできた。ただし、それはニュースに限ってのことだ。送信する通知件数が多くなりすぎないよう気をつけながら、セグメンテーションをおこなう必要があり、サイトの読者が関心を抱きそうなニュース、価値をわかってくれそうなニュースが報道されたタイミングをとらえて送信している。モバイルサイトでも同様の機能が使えればいいのにと思う。モバイルサイトはコスト効率が高いし、我々のオーディエンスの多くがモバイル機器でコンテンツを閲覧しているからだ」
「プッシュ通知のテストは2019年に実施したが、当社の場合、うまくいかないことがわかった。また技術的な諸問題も出てきたため、最終的には、時間をかけて取り組む価値がないと判断した。協業していたベンダーは優秀だったが、優秀なベンダーの助けを借りたとしても、失敗してやっかいな事態を招くことはあるものだ」
「テストの結果、コンバージョン率の改善はまったくみられなかった。プッシュ通知のメッセージを送るたびにかえってコンバージョン率が悪化するように思えた」
「机上の分析では、コンバージョン率が向上するはずだった。しかし、実際に有料購読者に移行したユーザー数のデータを見たとき、わざわざ多大な労力を費やしてまでやる意味がないと感じた」
[原文:Media Briefing: Overheard at the Sept. 2022 Digiday Publishing Summit]
Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)