ラグジュアリーの現状と未来についてのレポート【ラグジュアリーブリーフィング】

DIGIDAY

Glossy+ ラグジュアリーブリーフィングを紹介する。これは、成功を推進するためのグローバルラグジュアリーブランドの戦略を解き明かすメンバー向けの最新記事である。その第一歩として、ラグジュアリーの現状と未来についてのレポートを5つのパートに分け、5週間にわたって掲載する。各記事ではファッション・美容業界のラグジュアリーカテゴリーに焦点を当てて、ラグジュアリーマーケティング担当者、創業者、投資家、アナリストからなるフォーカスグループの洞察を取り上げる。また、サックス(Saks)と協力して、サックスのラグジュアリー消費者のパネルから独自の洞察をまとめた。第1週は、デザイナーのブランドン・ブラックウッド氏やバーグドルフ・グッドマン(Bergdorf Goodman)の最高マーチャンダイジング責任者、ユミ・シン氏らの専門家からの情報に基づいて、革製品とアクセサリーにフォーカスする。楽しんでいただければ幸いである。Glossy編集長 ジル・マノフ

再販価値を売り込むファッションブランド、テルファー

再販価値により皮革製品の購入がますます推進されている現状で、ラグジュアリーブランドは自社製品が賢明な投資になることを証明するために再販率のマーケティングを開始している。

ラグジュアリー市場が成長するにつれてファッション企業は再販を受け入れるようになっており、比較的手頃な価格の若いブランドがラグジュアリーの新しい定義を切り開いている。投資品としてのハンドバッグをめぐる会話はかつてないほど拡大している。一次市場のファッションブランドや小売業者でさえ再販価値について語るようになっているのは、高学歴の消費者が不動産や車を買うようにハンドバッグを購入するという新しい状況を企業が受け入れているからである。

チャールズ・ゴラ氏は、創業9年のラグジュアリー再販企業、リバッグ(Rebag)の創業者兼CEOだ。同氏は、リバッグの2022年度クレアレポート(Clair Report)へのリンクがテルファー(Telfar)のオンライン製品ページに掲載されていると述べている。クレアレポートはリバッグのクレアAI(Clair AI)ツールのデータを活用しており、消費者はこのツールを使ってトップブランドの中古バッグの価値を評価することができる。過去にゴラ氏はこのツールをラグジュアリーアクセサリーのケリーブルーブック(Kelley Blue Book)と呼んだことがある。デザイナーのテルファー・クレメンス氏が手がける、革新的で、CFDA賞を受賞したバッグブランド、テルファーはクレアレポートのスターブランドだった。リバッグは、テルファーの「セカンダリー市場での平均値保持率」がエルメス(Hermès)を含むすべてのレガシーブランドの率を上回っていたと述べている。たとえば、テルファー x アグ(Telfar x Ugg)ショッピングトートは小売価格の211%を、テルファー独自のショッピングトートは193%を維持している。テルファーの大きなショッピングトートの小売価格は260ドル(約3.5万円)未満である。ゴラ氏は(クレアレポートが)Telfar.netにリンクされていたのには驚いたと言い、これは公式パートナーシップの一環ではないと述べている。

製品カテゴリーは異なるが、高級時計のブログからeテイラーに転身したホディンキー(Hodinkee)は、同社のクラウン&キャリバー(Crown & Calibre)ブランドを通じて「セル・ユア・ウォッチ(Sell Your Watch)」ツールを提供している。CEOのジェフリー・ファウラー氏によると、この機能は一連のプロンプトを通じて提供された情報に基づいて「即座に見積りを表示する」という。このツールは、顧客が時計を購入する前と顧客がセラーとして製品をリストする前の両方で平均して月に1万回使用されている。ホディンキーは、ロレックス(Rolex)、オメガ(Omega)、タグ・ホイヤー(Tag Heuer)などのブランドの新品と中古時計を販売している。

再販の機会は消費者にとって最優先事項である。TikTokで130万人のフォロワーを抱えるラグジュアリーコンテンツクリエーター、チャールズ・グロス氏は次のように述べている。「私のオーディエンスがよく使うバズフレーズは、購入における「投資価値」だ。『バッグを買ったら、10年後に売れるだろうか?』ということが注目されている」。

グロス氏は、「(オーディエンスは)『中古のバーキンがオークションで15万ドル(約2023万円)で落札された』というような見出しを目にしている。また、投資用としてバッグをクローゼットに保管している人もいる」と付け加える。

しかし、小売業界の経営陣の中にはファッションアイテムを投資対象として捉えるのに躊躇し続けている人もいる。サックスのCMO、エミリー・エスナー氏は「ラグジュアリーアイテムを支出対象から投資対象として考えるマインドセットの変化」を認識している。だが、「『投資』は魅力的だろうか、それとも(消費者にとって)脅威になるのだろうか? 正直なところ私にはわからない。途方に暮れている。ある意味では安全に感じられるが、その一方では(投資を考えた購入には考慮事項も多く)規模が大きく感じられる」と疑問を投げかける。

このような「変化」はブランドに新たな課題をもたらしてもいる。「再販市場はブランドに圧力をかけている」と述べているのは、500ドル未満(約6.7万円)のバッグを販売するブランドン ブラックウッド(Brandon Blackwood)の創業者兼デザイナー、ブランドン・ブラックウッド氏だ。「ソーシャルメディアが普及し、あらゆるもののペースが速いこの時代では、モノはすぐにリサイクルされる。なので、現時点で本当にクールなアイテムを持っていなければならないだけではなく、購入価値を維持するアイテムも持っていなければならない」。

ブラックウッド氏は、最近、ザ・リアルリアル(The RealReal)ストアで自社ブランドのハンドバッグ2点が小売価格よりも高い価格で販売されていたのを目にしたという。同氏は、その状況は価格帯と割引に対する同社の厳密な管理に起因すると考えている。厳密な管理はたとえばD2Cモデルにより可能になっている。

ショップショップス(ShopShops)を含む複数のリテールテック企業のアドバイザーを務めるメーガナ・ダール氏は、再販の台頭が昨年のラグジュアリー業界における最大の話題だと述べている。ダール氏は、再販の軌道は、部分的には、3月に発表されたグッチ(Gucci)とヴェスティエール・コレクティブ(Vestiaire Collective)との提携のようなラグジュアリーカテゴリーにおけるビッグネームのパートナーシップのおかげだと考えている。再販サイトに積極的に参加するとブランドは自社イメージをもっとコントロールすることができ、また、有用なデータへのアクセスもあると同氏は述べている。たとえば、売れ筋のバッグは、トレンドになる再発売の可能性を示しているかもしれない。

「再販に対してブランドがどう対応して全体目標を考えるかという点で、確かに(良い方向への)風潮の変化があった」とゴラ氏は語っている。また、同氏からはリバッグが初の公式ブランドパートナーシップをまもなく発表することがほのめかされた。

再販ブームの結果、さまざまな価格帯でラグジュアリーアイテムが入手できるようになっている。これは、Z世代にとっては朗報だ。しかし、これは市場の未来に大きな意味合いがある。ラグジュアリーブランドのトップは明らかにラグジュアリーアイテムの幅広いアクセスとその影響を受け入れてはいない。

たとえば、シャネル(Chanel)は価格を極端に引き上げている。ボストン・コンサルティング・グループ(Boston Consulting Group)のラグジュアリー担当グローバル責任者、サラ・ウィラースドーフ氏は「価格がこれほど高くなると予想していた人はいただろうか。価格は、明らかにインフレを大きく上回っている」と語っている。シャネルのハンドバッグの大部分の小売価格は、現在1万ドル(約135万円)以上である。

グロス氏は、シャネルが、意図的に入手を困難にしているエルメス(Hermès)の先例に倣っていると指摘する。シャネルは1年間に購入できる1つのスタイルのバッグの数を制限することに加えて、店舗で販売するバッグの点数を減らしており、支出額の多い顧客向けに特別なVIP体験を提供している。

テルファーが同社の事業の早い段階で証明したように、数量を制限することはブランドにとって有利に働く可能性がある。エルメス以外でこの方法で成功を収めたブランドには、マクシミリアン・ブッサー・アンド・フレンズ(Maximilian Büsser and Friends、MB&F)がある。ファウラー氏によると、同社は年間300本の時計を製造しており、入荷待ちリストは20年に及ぶという。

その反対側には、ラグジュアリーブランド全体のリーダー、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)がいる。親会社、LVMH(LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)は断固として再販を拒んでいる。

「さまざまな顧客のためにルイ・ヴィトン内には実に多くのバーティカルがある」とグロス氏。「ストリートウェアの顧客向けのエリア、ビューティ向けのエリアなどだ。900ドル(約12万円)のバッグが欲しければ、それを見つけることができる。3万ドル(約405万円)の製品や、世界で6点しかない製品のうちの1点を買いたいとしても可能だ。…ルイ・ヴィトンはラグジュアリー界のマクドナルドだと言われたこともある。速くて予測可能。特に国際市場ではその点が魅力的だと思う」。

ブランドにとっての教訓:再販製品と価格設定ツールを通常の事業に追加することは理にかなっている。

数字で見る:ラグジュアリー購入客は再販を念頭に置いて購入を増やしている

サックス・コンシューマーインサイト(Saks Consumer Insights)協力

2023年4月、Glossyはサックスと提携して、ラグジュアリー消費者3944人をを対象に現在の購入習慣について調査を実施した。今回は、ここ数カ月でラグジュアリー製品への支出がどのように変化したか、また購入時に再販価値をどの程度考慮しているかにスポットを当てる。

回答者の約3分の1(36%)が、2022年と比較して2023年にラグジュアリーアイテムへの支出が増加したと述べた。支出が「かなり多く増えた」と答えたのが13%、「わずかに多く増えた」が23%。34%は支出の習慣を変えていないと答え、30%は支出が減っていると回答した。

データを年齢層、性別、世帯収入別に分類しても、セグメント間での違いはほとんどない。ただし、支出額がもっとも少ないセグメントが21~30歳の若い購入客(39%%)であることは注目に値する。支出が多いと述べている消費者がもっとも多いセグメントは、男性(39%)と、世帯収入が30万~49.9999万ドル(約4045万〜6742万円)(38.5%)、少なくとも50万ドル(約6742万円)(38.6%)人である。

一方、回答者の多く(51%)は、現在、再販価値を念頭に置いて購入はしていないし、再販を考えて購入したことはないと回答している。また、5%が、過去12カ月において購入時に再販価値を考えることはそれ以前の12カ月と比べて減少したと回答した。しかし、その一方で、25%は購入の際に再販価値を一貫して考慮していると述べている。また、19%はこの12カ月で再販価値をより重視するようになったと答えた。

再販価値を考えたことがないという回答がもっとも多かったのは高齢の購入客で、特に51~60歳(51.9%)、61~70歳(60.1%)、70歳以上(74.4%)だった。男性もこのカテゴリーに該当し、59.9%が再販価値を考慮していないと回答した。

革製品・アクセサリーの現状と未来

現状と未来についてインサイダーの意見

消費者の購入行動:個性に対する需要が高まっている。

ストリートウェアからクワイエットラグジュアリー、あまり知られていないニッチなブランドまでが対象になっているのか? バーグドルフ・グッドマンの最高マーチャンダイジング責任者、ユミ・シン氏によると、新しいトレンドが形成されつつあり、さらに独自性を強調したスタイルに対する状況が整いつつあるという。多用途性に加えて「個性が鍵だ」とシン氏は述べ、「ルアール(Luar)やパペッツ・アンド・パペッツ(Puppets and Puppets)といったブランドの製品は自由なファッション感覚を呼び起こすが、顧客はその点を大いに気に入っている」と付け加える。1度に複数のバッグを持つなどの新しいスタイリングオプションもどこからともなく生まれている。「顧客は自分に合うものに魅力を感じ続けるだろう」と同氏は語る。

ブランディングエージェンシー、ジェネラルアイデア(General Idea)の共同創業者、イアン・シャッツバーグ氏もこのトレンドを感じているという。「大手ラグジュアリーメゾンと並んで語られるような、新世代のニッチなラグジュアリーブランドの台頭の可能性が見えるだろうか?」と、本レポートに貢献してくれたフォーカスグループのほかのメンバーに未来について問いかけた。シャッツバーグ氏は、ジャック・マリー・マージ(Jacque Marie Mage)、グッチ・ウエストマン(Gucci Westman)、トリュフ(Truff)などのブランドを通じて製品カテゴリー全体でその状況が起きているのを目にしてきたと述べている。

「以前は1000ドル(約13.5万円)以下で高級ハンドバッグを買うことはできなかった」と述べているのは、パペッツ・アンド・パペッツの創業者兼デザイナー、カーリー・マーク氏だ。パペッツ・アンド・パペッツは、500ドル(約6.7万円)のチョコレートチップクッキーバッグで知られるようになったニューヨーク拠点のファッションブブランドである。「だが、今日ではラグジュアリーアイテムは、それを取り巻くコミュニティとそれが何を表しているかということであり…高級というよりは、その個人にとって特別なものである」。

ビジネス戦略:物理的な小売が優先

「人々は対面ショッピングに非常に敏感だ」とマーク氏は語っている。4月下旬、(パペッツ・アンド・パペッツの)本社でサンプルセールを開催した際にこれに気づいたという。「セールは午前11時に始まり、11時5分には売り切れていた。客はバッグを実際に触って、製品を買って帰れることに興奮していた」。マーク氏によると、マーケットウィーク中に同社が大部分の小売パートナーへの販売から得るよりも、このセール中の売上のほうが高かったという。同氏は、現在、実店舗での機会を検討する計画があると言い、また、同社のマージンを再検討している最中だという。

ブラックウッド氏も同じ意見だ。「コンプレックスコン(ComplexCon)でポップアップを実施したが、週末中ずっと行列ができていた。顧客はバッグを(間近で)見て品質を確かめたいと思っている。実店舗にはまだ多くの価値がある」。

最近、リバッグの店舗数を9から6に減らしたゴラ氏は、デジタルは小売売上のまだ20%ほどだと語っている。「顧客にリーチしたいのなら、実店舗にいる必要がある」とゴラ氏。同氏は、デジタルチャネルを介して顧客にリーチすることが困難になっていることを認めている。リバッグの回避策の中には新しい紹介プログラムがあり、また、ゴラ氏は、ホテル、エクイノックス(Equinox)、IRLの拠点を持つ他企業との関係を確立するために交渉中だという。

規模と変動:依然として良好な状況にあるラグジュアリーハンドバッグカテゴリー。

VC企業、イマジナリー・ヴェンチャーズ(Imaginary Ventures)の共同創業者兼マネージングパートナー、ニック・ブラウン氏は、「過去12カ月間にさまざまな問題に直面した多くの非高級消費財企業のような落とし穴がないため、実際、投資家コミュニティはラグジュアリーセクターに対してますます強気になっている」と述べている。同氏は、高級品の高い利益率と(製品のパフォーマンスのマーケティング・寿命ではなく)ブランドのマーケティング・寿命にフォーカスされている点が、今日の小売環境で有利に働いていると指摘する。

一方、ゴラ氏によると、リバッグは一貫した売上成長を維持しているという。また、シャッツバーグ氏は「アクセサリーにフォーカスしているファッション企業は全体的に有利な立場にある」と述べている。

シャッツバーグ氏は「グッチは、アレッサンドロ(・ミケーレ)氏の下で革製品を発展させて大きな成長を遂げた。ラグジュアリーブランドは(革製品)カテゴリーで生き残っている。プレタポルテで拡大するのは非常に難しい」と語っている。

ブラックウッド氏によると「我々は非常に健全な市場にいる。適切なタイミングで適切な場所にいるということだ。それに、アクセサリーは常に優位でありつづけるだろう」。

皮革製品のリーダーであるLVMHは、4月、2023年第1四半期のファッション・皮革製品部門の収益が前年比で18%増加したことを報告している。2022年全体では、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール(Christian Dior)、セリーヌ(Celine)に牽引されてこのカテゴリーは前年比25%の成長を遂げた。

[原文:Luxury Briefing: The State & Future of Luxury Report

JILL MANOFF(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

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