ソーシャルメディア の分断が生み出すチャンスは:「広告主には多くの機会が生まれている」

DIGIDAY

2020年を振り返ると、消費者向けのメンズ石鹸ブランドであるドクター・スクワッチ(Dr. Squatch)は、ほとんどのソーシャル広告予算をメタ(Meta)のFacebookとインスタグラムにあて、TikTokやスナップ(Snap)などの代替プラットフォームには一切費用をかけなかった。しかし、過去3年間でオンライン広告が変化するなか、同社はFacebookとインスタグラムから離れる方向で多様化を推進してきた。

なお、2020年のドクター・スクワッチの広告費は総広告費960万ドル(約12億5221万円)で、そのうちメタに800万ドル(約10億4328万円)投下している。TikTokもしくはスナップには1ドルも投下していない(センサータワー[Sensor Tower]調べ)。

「ブランドはその瞬間に最も効果的なものに投資したい」と、CMOのジョシュ・フリードマン氏は以前DIGIDAYに語った。そう考えているブランドは彼らだけではない。

代替プラットフォームの時代

過去数年間、とくにD2Cブランドはコストの上昇、広告スペースの飽和、データプライバシー対策がターゲティング機能を低下させるなどの環境のなかで、メタに対する依存を減らすために、代替ソーシャルメディア・プラットフォームで広告費をさらに多様化させるよう試みてきた。

これは、ソーシャルメディア全体で起こっている変化を示している。メタはもはや、スケールアップや成長を達成するための唯一の場所とは見なされなくなっている。その結果、初めて広告主のソーシャルメディアミックスはレディット(Reddit)、スナップ、そしてもちろんTikTokなどのプラットフォームを含むように、メタ以外へと多様化している。多様化の取り組みは業界で新しいものではないが、既存のプラットフォーム(レディットスナップ)での改善された広告システム、TikTokの台頭、新興プラットフォームであるビーリアル(BeReal)マストドン(Mastodon)などの登場、そして最終的にメタに対する依存の見直しによって、加速している。

なお、2022年のドクター・スクワッチの広告費は総広告費4100万ドル(約53億4640万円)で、そのうちメタは2500万ドル(約32億6000万円)、TikTokが1130万ドル(約14億7352億円)、スナップが350万ドル(約4億5640万円)となっている(センサータワー調べ)。

「代替ソーシャルプラットフォームの時代に入っている」と、メカニズム(Mekanism)のチーフ・ソーシャル・オフィサー兼パートナーのブレンダン・ガハン氏は言う。「クライアントがマーケティングをメタだけに依存させるわけにはいかないことに気付き、さまざまなプラットフォームを積極的に探求し、承認している。」

ソーシャルメディアの分断が全てに影響を与える

Facebook、インスタグラム、Twitterはもはやソーシャルメディア広告の唯一の主役ではない。その結果が徐々に現れ始めている。昨年、メタは広告収益が2%減少し、一方でTikTokが人気を集め、経済的不確実性による広告の減速にもかかわらずeマーケター(eMarketer)によると好調を維持した。さらに、イーロン・マスクの乗っ取り後、Twitterは多くの広告主を失い、広告収益が減少した。

これらの企業、とくにメタに対する新たな競合相手が登場したことで、広告主は代替プラットフォームでの機会を追求し、そこで実験を行い、最終的にはより包括的なソーシャルメディア戦略を構築することをめざして広告費をシフトさせている。これにより、ソーシャルメディアにおける広告がより分断されるようになった。この新しいソーシャルメディア広告の視点は、デジタル広告の指針として広く受け入れられ、広告代理店のチーム編成から文化の議論や共有まで、すべてに影響を与えている。

それでも、メタはまだ広告費に対する最大の効果を提供しており、ダイレクトレスポンス機能と規模の面で優れている。しかし、マーケターは「代替プラットフォームが追いつきつつあり、マーケットを分断しながらユーザーの注意と広告主のお金を獲得しようとしている」と言う。

eマーケターによると、Googleとメタは今年のデジタル広告支出の50.5%を占めることが予想されている。しかし、そのシェアは、eマーケターの予測によれば、2023年には48.7%、2024年には47.7%に減少すると予想される。「メタは今やパズルの一部分にすぎない。まだ非常に大きな部分ではあるが、もはやパズル全体ではない」と、ティヌイティ(Tinuiti)の有料ソーシャル担当バイスプレジデントのアヴィ・ベン=ツヴィ氏は述べている。「メタがパイの95%を占め、ほかのプレーヤーが残りの5%の端くれを奪い合っている状況ではもはやない」。

メタの独走は終わりつつある

ソーシャルメディアは、ブランドによってはデジタル広告の最重要分野である。この分野は、広告主がさまざまなプラットフォームとそれら独自のアルゴリズムを通じてコンテンツを制作。指標を計算し、ターゲットとするオーディエンスを追求することで、より分断された市場になっている。

5年前までは、Facebookとインスタグラムが広告費とユーザーの両面でソーシャルメディアの市場を支配していた。2018年には、米国の成人の68%がFacebookを利用し、35%がインスタグラムを利用していたと、ピュー研究所(Pew Research)により推定されている。eマーケターによると、あらゆる広告に10ドル費やされるたびに、Facebookが1ドルを獲得していたという。

しかし、米DIGIDAYに独占的に提供されたマレンロウ(MullenLowe)の「ML:ネクスト消費者調査(ML:Next consumer survey)」によると、Facebookは「アクティブユーザー数の面で最も重いコストを支払っている」とされている。Facebookは、2020年以降のソーシャルメディア利用者のなかで4ポイントの減少を受けており、インスタグラムの成長も鈍化し、2020年以降はプラットフォーム利用が年1ポイントずつ増加していると、調査報告は述べている。

また、広告主の目にとってメタの問題はケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)AppleのiOS 14におけるデータプライバシー規制、増加するCPM、政治的緊張や高齢化するユーザーベースなどの問題が積み重なってきたことでもある。

「オンライン広告に対してさらに規制が課せられたことで従来のやり方が変わり、その世界に適応する必要がある」と、ティヌイティのベンツビ氏は述べた。彼はドリンクブランドのポッピー(Poppi)やライトエイド(Rite Aid)、ペット・ブランドのワグ(Wag)などと提携してきた。オンライン広告に課された規制が、エージェンシーのビジネスのやり方、すなわち成功の測定方法を形づくっている。

Twitterからも広告主が離れる

Twitterも、これまではスーパーボウルなどのライブイベントを中心に大きなプレーヤーであった。

マスク氏の買収後、たとえば今年のスーパーボウル周辺での支出マッチング・プログラムなど、広告支出の流出を止めるためのTwitterの独自の応急処置オプションは、広告主の目には十分ではなかった。とくにマスク氏がTwitterを買収した後の3カ月で、同社のトップ広告主の500社以上がほかへと転じたと、eマーケターによると指摘されている。

「消費者の観点からすると、間違いなく空白がある(中略)別の製品が主流になって、(Twitter)が持っていた一般的な領域を置き換え始めても驚くべきことではない」と、プロダクト(Product)マーケティングエージェンシーの創設者兼会長であるアーロン・シャピロ氏は言った。

レディット、ピンタレストも台頭

メタらによるこれらのつまずきを利用し、広告主にアピールするためピンタレスト(Pinterest)TikTokレディットスナップのような企業は、広告プログラムを改善している。

ティヌイティは、これらのプラットフォームで顧客の広告費を増やすことを重視し、より包括的なメディア戦略を築いている。ベンツビ氏はメタのダイレクトレスポンス機能に完全に依存するのではなく、オンラインおよび店舗での販売における効果、ブランドの関連性、エンゲージメントなどのさまざまな指標を測定していると述べた。

2020年には、ティヌイティはレディットやピンタレストへの広告費はほとんど投じられていなかった。しかし、2023年にはレディットでの支出を15倍、ピンタレストでの支出を4倍に増やしたいと考えている。(ベンツビ氏は具体的な支出額については明らかにしなかった)。

「ビジネス価値の観点からもっと包括的に見るようになっている。これらのチャンネルが提供している製品を活用するために、より洗練された方法で物事を見るように努めている」とベンツビ氏は述べた。

ブランドアピールの場は増えている

デジタルエージェンシーのブラインラボ(Brainlabs)では、2022年にクライアントの広告費の80%以上が単一のソーシャルメディア・プラットフォームに割り当てられ、残りの20%がほかのチャンネルにあてられていたと、グローバル製品担当シニア・バイスプレジデントであり、元グローバルソーシャル担当バイスプレジデントのオフィール・ハルフォン氏は説明した。現在、同氏によれば広告費の30%から40%が少なくとも7つの異なるプラットフォーム間で分割される予定だという。(彼は具体的なチャンネルについては明らかにしなかった)。

存在自体は新しいものではないものの、レディット、スナップ、ピンタレスト、さらにはリンクトイン(LinkedIn)のような代替ソーシャルメディア・プラットフォームは、広告主たちが言うには広告費のパイのなかでより大きな部分を占めるようになっているという。とくに、これらのプラットフォームが有機的なリーチよりも有料広告を優先するようになり、広告主がターゲットとするオーディエンスにアプローチする機会が増えている。

MMIのソーシャルマーケティング担当シニアディレクターであるサム・ケンドリック氏は電子メールでの取材への回答で、「オーディエンスが複数の異なるソーシャルメディア・オプションを持つようになり、Facebookからほかのプラットフォームへの大きなシフトが見られる」と述べ、「それに伴って、ブランドには有料でも有機的な面でもはるかに多くの機会が生まれており、とくにターゲット層が利用しているソーシャルプラットフォームに基づいてオーディエンスを対象にする場合の機会が増えている」と続けた。

とくにレディットは、広告収入を大幅に伸ばしている。ビジネス・オブ・アプリ(Business of Apps)によれば、プラットフォームは2021年に主に広告事業から3億5千万ドル(約456億3632万円)の収益を上げたとされている。ただし、一部の広告主にとっては、同プラットフォームにはまだ規模と一部の広告主のあいだでの活用方法の理解が不足しており、メディアプランの重要な一部になることが妨げられていると、以前のDIGIDAYの報道で述べられている。

TikTokが第3の柱?

一方で、デジタルエージェンシーのバーバリアン(Barbarian)のマネージングディレクターであるコートニー・ベリー氏によれば、ビーリアルやマストドンのような新興プラットフォームは、「気晴らし程度の存在」や「ニッチすぎる存在」とみなされている。これらのプラットフォームは実験の場を提供するものの、規模とインフラの不足が利益につながらない可能性がある。また、若い世代の注目を集めているからといって、「ブランドマーケティングや広告に適切で実りのあるものではない」と彼女は述べている。

これらの新興プラットフォームが魅力的であるにもかかわらず、広告主たちはTikTokがソーシャル広告費の支配的地位を獲得する可能性が最も高いと考えている。

「TikTokはゲームを変えた。我々が提携している全ての人がTikTokに興味を持っており、TikTokを使ってマーケティングに成功させる方法を模索している」とプロダクト社のシャプリオ氏は述べる。「TikTokが第3の柱になるのはそう遠くないだろう」とし、彼はほかの柱としてメタとGoogleを挙げた。(彼はクライアントのTikTok広告費については詳細を提供していない)。

短編動画がソーシャルメディア広告を一変させた

TikTokは、ソーシャルメディア全体で進んでいた細分化をさらに進めた。ほかのプラットフォーム、とくにインスタグラムがリールズ(Reels)で、YouTubeがYouTubeショーツ(YouTube Shorts)でTikTokの短編動画形式を独自に作成するようになってから、それは顕著だ。これにより、市場での競争が激化して広告主がクライアントの広告費をどのように使うかや、ソーシャルチームをどのように採用するかなど、あらゆる面で影響を受けている。

マレンロウによると、短編動画アプリはソーシャルメディア広告の状況を一変させたという。2020年以降、ソーシャルメディア利用者のなかでTikTokの利用率は12ポイント増加し、成長率は競合他社を凌駕しているという調査結果がある。

「2022年は、すべてのソーシャルプラットフォームがTikTokの機能や機能性を模倣して消費や利用の観点からトップに立とうとする年だった」とベリー氏は述べている。「私たちが見ているのは、必ずしも細分化というよりも、これらの異なるソーシャルプラットフォームのアイデンティティ危機なのかもしれない」。

模倣しあうSNS

歴史的には、古くからのソーシャルメディア・プラットフォームはそれぞれ独立して異なる機能を持っていた。しかし、過去数年間では、プラットフォームが同業者の成功した機能を模倣することで、ソーシャルメディア市場での関連性と優位性を維持する傾向がある。たとえば、インスタグラムはスナップチャットのストーリーズ(Stories)機能をコピーし、後にTikTokを模倣してリールズを開発した。Twitterは、クラブハウス(Clubhouse)をコピーしてスペース(Spaces)を導入。TikTokは、ビーリアルをコピーしてTikTokナウ(TikTok Now)を開始した。

TikTokは縦方向の動画トレンドを加速させ、ほぼすべてのソーシャルメディア・プラットフォームがそれを模倣し商品化することで(例:YouTubeショーツ、スナップ・スポットライツ(Snap Spotlights)、インスタグラムリールズ、ピンタレスト・アイデアピン[Pinterest idea pins]など)、一般的になった。

「TikTokは大衆文化に非常に大きな影響を与えており、ほかのプラットフォームがTikTok化されている、というのが現実に近い」とシャピロ氏は述べている。「TikTokファーストの戦略を行い、そのコンテンツがほかのプラットフォームで複製されることが多い」。

ソーシャルメディア広告の未来は?

ソーシャルメディア全体で変化が起こるなか、人々がソーシャルメディア上で検索する方法、さらに究極的には利用方法自体が変わってきており、広告主にとって新たな機会が生まれている。

専門家たちは、ソーシャルメディア広告の未来がまさにどのようなものになるかは、まだ未定だと言う。しかし、バーバリアンのベリー氏は、2つの不可避なことを業務において考慮している。変化は常にあり、とくに技術とアクセシビリティが急速に向上しているソーシャルメディアでは変化は絶え間ない。そして絶え間ない変化は、広告主にとって「試行錯誤、学習、拡大、成長の機会を提供している」と彼女は言う。

「私たちのビジネスではいつものことだが、これまでになく市場で最初に行動すること、常にその時々の新しい輝く対象(新しいトレンド)を追いかけることのあいだのバランスを追求することが重要だ」と同氏は述べる。

[原文:How social fragmentation is creating more opportunities for advertisers

Kimeko McCoy(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)

Source

タイトルとURLをコピーしました