いま現在、不況の最中にいると思うか否かは、人それぞれだが――全米経済研究所(National Bureau of Economic Research)からの発表はまだない。
いずれにせよ、グローバルリサーチ企業のワーク(WARC)は、2023年の広告業界に明るい未来を見ていない。
前期後期ともに好調な2022年に対し暗雲立ち込める2023
2022年8月第3水曜、ワークは2022/2023年の広告支出予想を発表した。その内容は、大手エージェンシーグループが2022年度、これまでに享受してきた前向きな結果――2021年に対し、全世界の広告支出が8.3%増、計673億ドル(約8兆7500億円)上回った――を裏打ちするものだ。
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そんな好調の前期に加え、米選挙活動に伴う広告合戦という棚ぼた的収入や、11月20日からクリスマスの前週までカタールで開催される巨大イベント、FIFAワールドカップによる強力な後押しも期待されている。
だが実質、朗報はここまでだ。ワークは世界の主要100市場のデータ分析に基づき、2023年度の伸び率は2022年度をはるかに下回るわずか2.6%、計9038億ドル(約117兆5000億円)に留まると見ている。さらなる景気減速も予想されるなか、注目すべきは、AppleのCookieブロック措置がもたらす長期的悪影響であり、この10年にわたりソーシャルメディアプラットフォーム勢が謳歌してきた類の成長が著しく抑制されるだろうと、同報告書は指摘している。
明暗分かれるソーシャルプラットフォーム
なかでも、ソーシャルメディアプラットフォームに関しては、2022年度から2023年度にかけて約400億ドル(約5兆2000億円)の収益減が予想されており、ソーシャルメディアの成長率はわずか5.2%となっている。2021年は48%弱の急成長を遂げ、2022年は11%と比較的大人しい伸び率だったが、それをさらに下回るこの数字は、ワークによるソーシャルメディアの予想成長率の中で過去最低となる。
その要因の一つがMetaのFacebookにおけるマイナス成長であり、-8.6%と予想されている――系列のインスタグラムはプラス成長だが、それもわずか6.7%と、前者のマイナス分を補えるほどではない。Facebook減速の理由の一つとしてワークは、スモールトゥミディアムビジネス(SMB)が今後の景気後退に多大な影響を被る点を挙げている。
一方、TikTokは過去2年間よりは減速するが(2021年が347%、2022年が143%)、依然、著しい成長――2023年は41.5%――が予想されている。
先行きの見えないとの予測に対し強気なエージェンシー勢
大手エージェンシーグループらは、2022年度第3四半期を通じ、前期の好調の果実を得られだろうが、年間を通しての結果については、現段階では何とも言えないと、ワークは見ている。
この2023年度の暗い見通しに対し、1年前の創業からこれまで好調を維持している比較的新興のエージェンシー持株会社、スタグウェル(Stagwell)のCEOマーク・ペン氏は、2022年現在の好況に鑑み、当惑気味に異を唱える。「それこそ異星人が今日、私の席に降り立ったとしても、その彼または彼女の目にも、景気後退の兆しはまったく見えないはずだ」とペン氏。「我々は2022年末まで揺るぎない成長を予想しており、この目に見える限り、消費者需要が低下するとも思えない」。
同様に、WPPのグループM(GroupM)ビジネスインテリジェンス部門グローバルプレジデント、ブライアン・ウィーザー氏も、メディア支出は2023年も現在の好調を維持するとし、伸び率は5.1%と予想する。「基本的には、米国では軟着陸が起きるだろうと考えている」。
業界全体に同じ低調の波が訪れるわけではない?
ウィーザー氏は、ソーシャルメディアの極低成長を予想するワークの見方に強く反論し、FacebookはSMBによる低支出の影響を実感するかもしれないが、だからといってソーシャル全体に同様の影響が及ぶとは限らないと、指摘する。「どの分野にも必ず、種々様々な要因により、ある程度固定された支出の場がある」と氏は指摘し、プラットフォーム一社の減速は他のプラットフォームへの支出で補われるはずだと言い添える。
報告書によれば、主な広告分野の中で確実な成長が見込まれるのは、テクノロジー/エレクトロニクス(2022年に対し11.5%増)、製薬/ヘルスケア(7.5%増)、ニコチン製品(同じく7.5%増)、非営利/公的分野/教育(7.1%増)となっている。
一方、最大の下げ幅が予想されるのが、意外にも自動車(2022年に対し12.4%減)で、次が金融サービス(4.5%減)、続いて輸送/観光とアルコールで、いずれもほぼ横ばいの0.4%減となっている。
[原文:WARC’s spend predictions paint dire picture for 2023 advertising, especially social media]
Michael Bürgi(翻訳:SI Japan、編集:猿渡さとみ)