デュオリンゴ がハイ・ヴァリリア語学習コースを展開する理由:「広告のための提携ではなく、真のパートナーシップが必要だ」

DIGIDAY

言語学習アプリのデュオリンゴ(DuoLingo)には、フランス語やスペイン語、中国語まで語学学習者に人気の言語が豊富に揃えられている。しかし、同社のブランド・マーケティングのクリエイティブ・ディレクターを務めるジェームズ・クジンスキ氏が先日目にした語学関連の話題は、そういった一般的な言語についてではなかった。

ネットで注目を集めていたのは、人気ファンタジー・ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ(Game Of Thrones)」に登場するエッソス大陸ヴァリリア・フリーホールドの古代言語、ハイ・ヴァリリア語(High Valyrian)についてだった。もちろん、架空の言語だ。

「目が覚めたら、ハイ・ヴァリリア語で結婚式を挙げている人たちがいる、というツイートについてのSlackのメッセージが来ていた」と、注目を集めていたオンライン投稿についてクジンスキ氏は語った。「結婚式に来る人は全員、式の進行を理解するためにあらかじめデュオリンゴをダウンロードして、ハイ・ヴァリリア語を学ばなければならないと人々がツイートしていた」 。

「ハイ・ヴァリリア語話者」に人気の理由

ゲーム・オブ・スローンズと同じ世界を舞台にした新作ドラマ「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン(House Of The Dragon)」は作家ジョージ・R・R・マーティンの小説「炎と血(Fire&Blood)」を基にしたもので、先日HBOマックス(HBO Max)が配信を開始した。言語学者デーヴィッド・ピーターソン氏が開発した架空言語ハイ・ヴァリリアだが、デュオリンゴによる学習コースは新作ドラマ配信よりずっと以前の2019年に、HBOマックスと連携して開設された。

そして最近になって、このコースは約400単語・フレーズのボリュームまで拡張された。しかし、デュオリンゴがHBOと公式にマーケティングコラボをしたのは今回が初めてだ。7月中旬に連携を発表したとき、デュオリンゴは51万4000人が同アプリを使ってハイ・ヴァリリア語を積極的に学習していると述べたが、この1カ月でその数が155%増加したという。この新しいマーケティングキャンペーンでは、実物大の「ゲーム・オブ・スローンズ」コレクター向けスチールソードを獲得するチャンスも与えられている。デュオリンゴによるとこの景品の推定小売価格は2万5000ドル(約350万円)だという。

HBOマックスはまた、ハイ・ヴァリリア語話者たちに、彼らの新しい言語スキルをAR対応のアプリで使う方法を提供している。このアプリを使うと、自宅で仮想ドラゴンを育てることができる(このアプリはポケモンGOの開発元であるニアンティック[Niantic]の技術を利用しており、ユーザーがデュオリンゴのレッスンで学んだフレーズを使用することができる)。契約の詳細は明らかにされていないが、HBOマックスとデュオリンゴは複数のメディアを通じて共同マーケティングを行っている。たとえば、ビルボード広告にハイ・ヴァリリア語で書かれた謎めいたメッセージを掲載し、同アプリ提供のコースを宣伝するのもそのひとつだ。一方デュオリンゴは、HBO加入者にデュオリンゴ・プラス(DuoLingo Plus)有料版を2カ月間無料で提供している。

デュオリンゴのマーケティング戦略において、このコラボレーションは例外的存在ではない。同アプリはさまざまなプラットフォームを横断するマーケティング戦略としてトレンドを利用しようと試みている。これによって同社は有料広告よりもオーガニックなマーケティングに注力できるようになっている。

同社によるTikTokアカウントは非常に人気を集めており、ロブロックス(Roblox)でも体験を提供するなど、同社はバイラルコンテンツを作成する方法を多数テストしてきた。こうしたコンテンツは、通常なら言語学習にそれほど興味を持たないようなオーディエンスを楽しませ、教育する内容になっている。

架空の言語がきっかけとなってほかの言語にも

「私たちはカルチャーにおいて人々の注目を集める瞬間を見つけようとしている。カルト的な観客、何かの熱烈なファンである人々の集団が存在するような瞬間だ」とクジンスキ氏は続ける。「私たちは、熱烈なファンたちと共鳴を起こそうとしている。なぜなら、私たちが彼らと私たちのブランド、そして言語教育ブランドとして私たちがやっていることに、共感を呼び起こすことができれば、彼らは(デュオリンゴの)宣伝大使になってくれると感じている。それ自体が、私たちが共有し、コミュニティと関わることができるコンテンツとして存在できる」。

デュオリンゴが言語と番組の共同プロモーションを行うのはこれが初めてではない。2018年には、同社はCBSと共同で「スタートレック(Star Trek)」ファンのためのクリンゴン語コースを開発した。昨年同社は、意欲的なフランス語話者たちに対して1カ月の無料レッスンを提供し、ネットフリックス(Netflix)の「エミリー・イン・パリ(Emily In Paris)」のシーズン2の共同マーケティングを支援した。

同社はまた、公式なパートナーシップがないにも関わらず、ドラマコンテンツの影響で特定の言語を学ぶユーザーが増える体験をしている。たとえばネットフリックスで「イカゲーム(Squid Game)」が公開されてからは、このアプリで韓国語を学び始めた人が増えたという

デュオリンゴによると、ハイ・ヴァリリア語であろうとクリンゴン語であろうと、架空の言語を学習するためにデュオリンゴに登録した人の43%は他の言語も学び始めるという。「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」では、HBOは言語の生みの親であるピーターソン氏に頼んで、さらに多くの単語やフレーズを開発する必要があった。これは、これまでよりハイ・ヴァリリア語が多く話されているためだ。

「(広告のために)無理やり作られた提携ではなく、素晴らしいパートナーシップであると感じられる必要がある。言語と、(マーケティングする)新番組との間で提携があることが理に適っている必要がある」とガートナー(Gartner)でマーケティングを担当するディレクターアナリストのクラウディア・ラターマン氏は語った。「これはブランドが話題になり、バイラル性の可能性を高めるための素晴らしい戦略的方法であることは間違いない。特に、多くの人々の注目を得るために競争することが難しい場合に有効だ」。

ロブロックスにも進出

デュオリンゴのマーケティング戦略はいくつかのオンライン・プラットフォームにまたがっている。調査会社カンター(Kantar)のデータによると、2020年から2021年の間に同社の広告費は154万ドル(約2億1000万円)から676万ドル(約9億5000万円)に増加した。しかし、今年は1月から6月の間に116万ドル(約1億6000万円)と、昨年の同時期の356万ドル(約5億円)から減少している。

また同社は、さまざまなプラットフォームの間で広告支出をシフトさせている。広告追跡企業パスマティックス(Pathmatics)のデータによると、2021年9月にストリーミングTVおよびコネクテッドテレビでの広告配信を開始した同社は、2022年には48万8000ドルをOTT広告に費やしている。これは昨年は32万5000ドルであった。

このアプリはほかのプラットフォームでも早くから成功を収めている。昨年の秋、同アプリのマスコットをフィーチャーした面白動画のおかげでTikTok上でバイラルになり、それ以来、同プラットフォームで牽引力を維持し続けている。今年の夏、デュオリンゴはロブロックスでの体験を提供し始めた。迷路でスペイン語のスキルをテストしたり、アプリの10周年を祝って仮想美術館を訪れたり、アバター用の商品を購入したりできる体験でロブロックス・デビューを果たした。

これまでのところ、同社のロブロックスでの体験は1000万回以上訪問されている。また、ここ数週間でビーリアル(BeReal)などの新しいアプリを使っての初期テストを開始した。さまざまなプラットフォームに表示される方法を見つけることも、ロブロックスでオーガニックなコンテンツで視聴回数を増やす手段となっている。クジンスキー氏によると、YouTubeやTikTokに動画が再投稿されてから、ロブロックスのコンテンツも800万回から900万回視聴されているという。

「ブランド愛の観点から生まれているこの勢いに今、非常にワクワクしている。ここからさらに深める価値があるのかどうかを確かめるために、いくつかの分野で実験を始めている」と同氏は言う。

[原文:From TikTok and Roblox to ‘Game Of Thrones,’ how DuoLingo is using trends for viral marketing

Marty Swant(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)

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