代替ID によるサイトパフォーマンス低下に不安を募らせるパブリッシャー:「これはゆるやかな破滅への道なのでは」

DIGIDAY

フロリダ州キービスケーンで開催されたDIGIDAY PUBLISHING SUMMITに参加した業界幹部によると、サードパーティCookieの廃止、あるいは少なくとも減少に対処し続けるなかで、パブリッシャーは、Cookieに代わるID技術をほぼすべて採用せざるを得ないと感じている。一方で、IDによるサイトへの過負荷が、ページの読み込み速度や検索エンジンでのランキングにどのような影響を及ぼすかについて、ますます懸念するようにもなっているという。

PUBLISHING SUMMITの非公開セッションにおいて、あるパブリッシャーの幹部が、「サイトパフォーマンスの問題は、小さなかすり傷を何千と負うかのようだ。その一つひとつが積み重なることで、死に向かう」と述べた。このセッションでは、パブリッシャーたちが匿名で率直な意見交換を行った。

さらに不安なのは、代替IDを採用することで広告収入に大きな影響が出るとはパブリッシャーがまだ考えていないことだ。「ある時点で、それは月に300ドル(約4万円)を稼ぐための最速の方法となりうる。ディールを設定し、技術的な作業をすべて行い、あとは座ってティッカーを眺めていれば、ゆっくりと動いていく」と、2人目のパブリッシャー幹部は語った。

SSPタグを削除する必要があったときと同じ

パブリッシャーにおけるID過負荷の懸念は、数年前にメディア企業が、できるだけ多くの(あるいは少なくとも実用的な)プログラマティック・マーケットプレイスで広告インベントリを販売するために、SSPやアドエクスチェンジからのコードを自社サイトに詰め込んで対応をした問題と同様だ。そのときの問題は、コードがサイトのパフォーマンスに影響を与えることだった。

過剰なスクリプトはページの読み込み速度を低下させ、サイト訪問者をいらつかせ、サイトの検索エンジンランキングを低下させた。そして、パブリッシャーは過去数年間、サイトパフォーマンスを向上させるために、サイト上のプログラムコードの量を減らしてきた

「これもまた(パブリッシャーが自社ページからSSPタグを削除する必要があったときと)同じ話だ。我々は、この技術的負債をページから取り除く方法を考え出した。これらのIDソリューションは、ページ上に存在することにその本質的な価値がある。これは非常によく似た問題だ」と、2人目のパブリッシャー幹部は話す。

アドテク企業からID採用を迫られる

複数のパブリッシャー幹部によると、問題をさらに複雑にしているのは、パブリッシャーがまだ、どのIDをサポートし、どのIDを省略することができるかを選べる状態になっていないことだという。その理由は? パブリッシャーは現在、アドテクのサプライチェーンから十分な情報を得ておらず、特定のID技術が広告収入にどのような影響を及ぼしているかを見極められないことにある。

「どのアドエクスチェンジかにかかわらず、IDを見たときに入札応答率が良い値なのか、高い値なのかについて、パブリッシャーに返ってくるデータではわからない。少なくとも、我々はそのような情報を入手していない」と、3人目のパブリッシャー幹部は言う。

「オープンなアドエクスチェンジでは、アプリのリクエストですべての情報を送信しても、向こう側には誰もいないようなものだ」と、2人目のパブリッシャー幹部は述べる。

4人目のパブリッシャー幹部は、自ら進んでIDが広告価格に与える影響をくみ取ろうとしていると話す。「ある環境下では、実際にデータの送信を制限して、制御を行う必要があった。すべてのインベントリーで、IDの利用と制御に相関して、約10%の上昇を確認した」。

さらに、パブリッシャーは、特定のアドテク企業から特定のIDの採用を迫られていると幹部たちは話す。

「ザ・トレードデスク(The Trade Desk)にせよヤフー(Yahoo)にせよ、彼らと実際に仕事をするためには、(ヤフーの)ネクスト・ジェネレーションID(Next-Gen ID)や(もともとはトレードデスクが開発した)UIDを採用しなければならない。だから、少しは影響を受けている」と、5人目のパブリッシャー幹部は語った。

「ふざけるなと言い返そう」

では、このID過負荷問題にパブリッシャーはどう対処すればいいのか? SSPのコードサイクルは、パブリッシャーが短期的には様々なIDのスクリプトをすべて追加し、必要がなくなれば取り除くという作業を繰り返すだけなのだろうか? そうかもしれない。

あるいは、パブリッシャーがPUBLISHING SUMMITで示した過去の過ちを繰り返す可能性についての認識は、将来的には、社内で不満をぶつけるだけでなく、同僚に懸念を表明し、ID技術プロバイダーに対してより厳しい態度を取ることによって、同じ過ちを回避するのに役立つのかもしれない。

「データ担当の同僚、収益担当の同僚、テクノロジーやファーストパーティデータ担当の同僚は、『このIDが必要だ』と言うが、製品担当の私が聞くのは、もっとくだらないことばかりだ。そこには駆け引きがある。Webサイトにゴミが増えることで、ビジネスに悪影響を及ぼすことがある。ユーザー体験、エンゲージメント、SEOに大きな影響を与えるため、どのようなトレードオフがあるかを覚えておく必要がある」と、1人目のパブリッシャー幹部は語った。

4人目のパブリッシャー幹部がパブリッシング・サミットのタウンホールセッションでグループにこう提案した。「パブリッシャーとして、誰かが『たった1行のスクリプトだから、本当に軽いんだ』と言うたびに、『ふざけるな』と言い返そうじゃないか」と。

[原文:‘Death by a thousand paper cuts’: Publishers fret over alternative ID overload hurting site performance

Tim Peterson(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:分島翔平)

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