パブリッシャーにとって ソーシャルプラットフォーム はトラフィック誘導手段以上のものに

DIGIDAY

メディア企業にとって、ソーシャルメディアプラットフォームとは主にコンテンツのプロモーションと配信を通して、自社のサイトやアプリにトラフィックを誘導するための重要なチャネルだった。

だが、新しいソーシャルメディアプラットフォームや動画フォーマットが次々と登場するなか、バッスル・デジタル・グループ(Bustle Digital Group、以下BDG)、バイス・メディア・グループ(Vice Media Group)、ワシントン・ポスト(The Washington Post)のオーディエンス開発・ソーシャルメディアの責任者たちへの取材を通して見えてきたのは、パブリッシャーがプラットフォーム読者の扱いについて「プラットフォーム上でオーディエンスを築いていくのか」、それとも「自社が保有・運営するオウンドメディアに誘導するのか」という二択を迫られていることだった。

この状況は、Twitterのトラフィック誘導が大幅に減る一方で、人々の情報消費の中心が依然としてソーシャルプラットフォームにある、という背景から起きている。

「トラフィック誘導はしたい。だがすべてのプラットフォームがトラフィック誘導に適しているわけではない」とワシントン・ポストのソーシャルメディア部門副部長のトラビス・ライルズ氏は話す。「インスタグラムのようなプラットフォームが大量の人を当社のウェブサイトに送り込んでくれるとは期待していないが、ブランドを構築し、ほかの場所では関わることの難しいオーディエンスと本格的に関わることに適した場、だとは考えている」。

トラフィック誘導かブランド構築か

ライルズ氏によれば、ワシントン・ポストのソーシャル部門はソーシャルプラットフォームへの投資を考えるときにプラットフォームを2つに分類する。Facebook、Twitter、LinkedInなど、ニュースのリンクを優先的に扱う「トラフィック誘導型」と、もう一方の「ブランド構築型」だ。

バイス・メディア・グループでは、バイスのウェブサイトを訪れない18~35歳というターゲットオーディエンスに対するリーチについてソーシャルメディアが鍵を握る。同社では、TikTok、YouTubeショート(YouTube Shorts)、インスタグラム専用にオリジナルの縦型動画を制作する。

バイスのグローバルニュース担当シニアバイスプレジデント兼グローバル編集長のケイティ・ドラモンド氏は、「オーディエンスをどこかに誘導しようとしているわけではない」と話す。「それぞれのプラットフォームでリーチするため、専用に制作されたニュースを提供しているだけだ。TikTokから当社のウェブサイトに流れることは想定していない。当社のTikTok動画から別のTikTok動画へと流れることを想定している」。

同氏は、「バイスが縦型動画のプラットフォーム専用のスポンサー動画というモデルに本格的に取り組んだ結果、過去6カ月、TikTokやインスタグラムのリール(Reels)用に制作されたスポンサー動画に対する広告主の関心が拡大している」とも話した。具体的な数字は明かさなかったが、たとえば最近バイス・ニュース(Vice News)はロビンフッド(Robinhood)についてTikTok専用のシリーズを手掛けたそうだ。

SNSは戦略上の最重要項目にも

BDGのソーシャルおよびオーディエンス開発責任者のウェスリー・ボナー氏は、「当社はFacebookとインスタグラムのフォロワーが全体の60%を占める」と述べた。同社サイトへのトラフィック誘導に関してはFacebookが最も多く、社内資料によれば2月のトラフィック全体の18%に上るという。

ボナー氏は「Facebookをトラフィック誘導に使用し続けることは、当社にとって戦略上の最重要項目だ」と語った。ブランドの記事や動画へのリンクを含むリンク投稿など、Facebookの広告商品はBDGにとっても、最も売れ筋のソーシャル広告だ。

その一方で最近、インスタグラムがフォロワー数を伸ばしている。BDGの100人を超えるソーシャルメディアクリエイターによる、オリジナルの写真や動画の発信が開始されたからだ。

「Facebookのユーザーはフィードをスクロールして、記事のリンクを見つけてはクリックし、記事を読んでまたFacebookに戻る、というやり方に慣れている。インスタグラムのユーザーは、少なくともその大多数は、そのようにはやりたがらない」とボナー氏は話した。インスタグラムでは、プロフィール内のリンク、リンクステッカーやストーリーズのリンクはクリックされるが、ボナー氏によれば「単純に投稿内のリンクをクリックするだけのFacebookに比べると、ほんの少し大きなハードルになっている」という。

ソーシャルに向けられるリソース、どうバランスをとる?

縦型動画の制作費は安くない。パブリッシャーはこの作業の多くを比較的小規模なチームで行っている、と経営者たちは口をそろえた。

ボナー氏の下には、10人から成る「非常に少数精鋭な」チームがある。「リソースの優先順位をどう付けるか、というのが大きな課題だ。リソースは無限にはないが、当社は収益を出そうと努めている。そのことはコンテンツ制作とすべてのチームに影響する」。

ワシントン・ポストは約16人のソーシャル担当チームを2つのサブチームに分けている。「インスタグラムチーム」と、それ以外のすべてのプラットフォームを担当する「コア・ソーシャルチーム」だ。ライルズ氏が2021年に立ち上げたインスタグラムチームは、ソーシャルエディタ、動画プロデューサー、デザイナー、コピーエディターを含む10人足らずの編成となる。TikTokチームはソーシャルチームと連携はするが、組織的にはワシントン・ポストのより大きな動画チームの一部だ。2019年にワシントン・ポストが最初にTikTokへの投稿の制作を始めたとき、動画レポーターのデビッド・ジョーゲンソン氏が所属していたのがこの動画チームだった。

ドラモンド氏によると、バイスではブランドごとにマルチプラットフォームのチームがあり、各チームは編集局内の「小チーム」として、ソーシャルプラットフォームを横断して記事のプロモーションを行なったり、バイスのジャーナリストたちと協力してオリジナルの縦型動画の制作とキュレーションを行ったりする。だが、バイスがオリジナル動画の制作に注力しているため、ウェブサイトのコンテンツに向けられるリソースは少なくなっているそうだ。

「以前と比べてウェブサイト用の制作は減っている」とドラモンド氏は話した。「ウェブサイトに関しては、数は少なくても賢い手を打とうとしている。そうすることで、使えるリソースと考える余裕ができ、必ずしもウェブサイトに誘導する必要のない別のプラットフォームで、どうしたらうまく報道できるのかに取り組める」。

ネタは形を変えてさまざまなプラットフォームで再利用

たとえば最近、ダリエン地峡からの現地報道を行ったバイスのレポーターであるエミリー・グリーン氏は、バイス・ニュースのウェブサイト用に記事を書くと同時にTikTok用の動画も制作したそうだ。

ボナー氏によると、一般的にBDGが制作するソーシャル動画の「実のある部分」は、各プラットフォームに合わせてテキストやフォントなどの詳細を変更し、形を変えてさまざまなプラットフォームで再利用される。

「こうするしかない。動画は金がかかる。クリエイターに対してはコンテンツ制作費を公正に支払いたいと思う。プラットフォームごとに支払いが発生したら、80を超えるソーシャルチャネルに必要な規模とボリュームを維持することはできない」とボナー氏は述べた。

ソーシャルメディアの未来は読めない

だが、パブリッシャーは以前より自分たちが所有しないプラットフォームにリソースを注ぎ込みすぎることに不安を感じてきた。それについてはどうなのだろうか。

ライルズ氏は「今日は利益をもたらしてくれているプラットフォームでも、明日は疑ってかからなければならない。ソーシャルメディア全般の問題として、こちらが一切何も所有していない、ということがある。ある意味、自分たちがコントロールできないゲームをやっているようなものだ」と話し、「新しい何かが出てきたとき、私たちはそれを見てチームの規模を考慮した場合、そこに注力するのは意味があるだろうかと考える。投資回収を考えたときに、少しの時間でもこれに集中的に取り組むことには価値があるんだろうかと思う」と続けた。

だがドラモンド氏は、バイスの縦型動画に対する投資にはプラットフォームの盛衰とは関係なく自信を持っている。バイスは今後、ニュース用検索エンジンとしての役割が拡大するに従い、さらに多くのライブストリーム、ドキュメンタリー形式の長尺動画、TikTokでの最新ニュース配信を試していく計画だ(最近の中国偵察気球疑惑のニュースでも動画配信を試し、現在では再生回数が30万8000回を超えている)。

同氏は次のように述べている。「プラットフォームは変わるかもしれないが、縦型動画もスマホでの視聴もなくなることはない」。

[原文:Publishers move past seeing social media platforms as traffic drivers

Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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