TikTok へ流れるインフルエンサーマーケティング予算:「ブランドの戦略転換はすでに始まっている」

DIGIDAY

ここ数週間、インスタグラムのTikTok化が話題になっている。ユーザーやインフルエンサーの抗議にもかかわらず、インスタグラムのアルゴリズムが写真よりも短編動画を優先する方向にシフトしているからだ。

それでも、同社の幹部は今後も動画優先の方針は継続すると断言しており、TikTokに対抗するため「リール(Reels)」向けの制作ツールをさらに充実させるという。

戦略転換を余儀なくされるクリエイター

当然、これまでインスタグラム向けの写真コンテンツに注力してきたクリエイターは、戦略の転換を余儀なくされる

広告予算がTikTokにシフトするなか、インフルエンサーへの支出も同じ方向に向かうだろうとの予測もある(インサイダーインテリジェンス[Insider Intelligence]のアナリストたちは、2024年までに、TikTokに支出されるインフルエンサーマーケティングの予算がインスタグラムを上回ると予想している)。インフルエンサーマーケティングの景観は今後も変化しつづけるだろう。

インサイダーの2024年に向けての予測は道理に適う。TikTokのユーザー数はここ数年で飛躍的に伸びており、特に2020年以降のZ世代層の増加は著しい。昨年の時点で、TikTokの月間アクティブユーザー数は10億人を超えている。リールによるTikTokの模倣を試みるなか、インフルエンサーが関与する広告費は、依然インスタグラムに軍配が上がる。しかし、ブランドの関心は、インスタグラムほど成熟しておらず、競争も激しくないTikTokのクリエイターに傾きはじめており、インフルエンサーマーケティングの現場にもすでにその影響は現れている。

フルサービスのクリエイティブエージェンシーであるスウィフト(Swift)で、戦略部門を統括するニコール・ファーマン氏は、「ブランドの戦略転換はすでにはじまっており、予算がTikTokにシフトしている」と述べている。実際、すでに一部のブランドは、Z世代へのリーチを強化するために、インスタグラムからTikTokへと予算を移している。「ブランドマーケティングにおけるマイクロインフルエンサーの役割は大きくなっており、ブランドも注目している」とファーマン氏は話す。

「Z世代のソーシャルの捉え方が変容」

インスタグラムのインフルエンサーマーケティングは、その誕生以来、大きな進化を遂げてきたが、その成熟は、このアプリのクリエイターたちにとって不利に働くことになるかもしれない。

ハバスメディアグループ(Havas Media Group)で北米事業のインフルエンサーマーケティング担当バイスプレジデントを務めるロス・マコーマック氏はこう話す。「TikTokの最近の急成長は、ブランドとクリエイターの連携に関する限り、TikTokにはいまだ未開拓の可能性や大きな伸びしろがあることを示している。インフルエンサーマーケティングが確立され、したがって競争も激しい大手プラットフォームとは対照的だ」。

同時に、インスタグラムの美意識はTikTokのリアル感に取って代わられる。一部のクリエイターにとって、この方向転換に適応するのは難しいかもしれない。ファーマン氏は次のように語る。

「Z世代のソーシャルの捉え方が変容しつつある」という。「彼らにとってソーシャルは、もはやセンスのいいコンテンツをきれいに並べる場ではなく、フィルターを通さず、あけすけなトーンで表現する場となっている。ブランドにとっては、Z世代が普通に集まる場所で彼らにリーチできる大きな機会が開かれた」。

インスタグラムが支持されてきた独自性

インスタグラムでは昨年、写真の共有から動画コンテンツ重視への転換を中心に、多くの重要な変更がおこなわれた。その結果、従来通りのインスタグラムを望むユーザーやインフルエンサーからは大きな反発を食らっている。

「インスタグラムがインフルエンサーにとって主要なプラットフォームであることには理由がある。ユーザーの支持があるからだ」。そう話すのは、ティームワン(Team One)でPRとソーシャルインフルエンサーエンゲージメント担当のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるメグ・サイラー氏だ。

「究極的には、TikTokの模倣が広がるよりも、プラットフォーム間の接続性を改善するほうが賢明な道かもしれない」。

ブランド主体のクリエイティブは限界がある

新しいプラットフォームとしてのTikTokは確かに魅力的だが、インフルエンサー作成の短編動画に対する需要は増えるだろう。当然、インフルエンサーコンテンツの需要増に対応できるエージェンシーは優位に立てる。同時に、広告がスキップされたり無視されたりするなど、それまでのトレンドに変化が生じた場合、柔軟に対応する能力も要求される。

デジタルマーケティングエージェンシーのブレインラボ(Brainlabs)でユーザー開拓の責任者を務めるボー・ジャックス氏はこう指摘する。「ブランドにとっては、プラットフォーム側のニーズに合わせて細かく分割したコンテンツが求められ、制作面での負担が重くなる」。

アップフルエンス(Upfluence)の調べによると、TikTokではインフルエンサーの投稿のほうがブランドの投稿よりもフォロワーのエンゲージメント率が高い

「このような調査結果を見る限り、できるだけ高いROIを望むなら、コンテンツ制作の方向性は、TikTokのインフルエンサーに任せるほうが賢明に思える」。インフルエンサーマーケティングを活用するエージェンシーおよびブランド向けのSaaSプラットフォームとして、タガー(Tagger)を創設したピーター・ケネディ氏もそう述べている。

裁量権を、ブランドからクリエイターに

TikTokの継続的な成長は、広告主たちにインフルエンサーマーケティング戦略の転換を迫るだろう。将来的には、インスタグラムとTikTokの両方に対抗するアプリの登場も見込まれる。TikTokの台頭により、クリエイターとブランドの関係に対するブランド側のアプローチにも、すでに変化が現れている。エージェンシーの幹部たちは、両者の連携を成功させるには、ブランドのコアメッセージとクリエイターの真正性の両立が必要だと述べている。

それでも、TikTokの独創性は、制作面でのかつてないほどの裁量権を、ブランドからクリエイターに委譲することを意味している。「長年、ブランドのコアメッセージとクリエイターの真正性をうまく兼ね合わせるが、もっとも効果的なコラボレーションの目標となってきた」と、マコーマック氏は述べている。

サイラー氏は、インフルエンサーマーケティングにおけるトッププラットフォームの座は、今後もインスタグラムが死守するとみている。「TikTokの成長は止まらない。それでも、アルゴリズムの変更に対するクリエイターとユーザーの反発をうまく乗り切ることができるなら、インフルエンサープラットフォームとしてのインスタグラムの優位は、当面、揺らぐことはないだろう」。

[原文:‘Brands are already changing their strategies’: Experts weigh in on TikTok influencer marketing spend

Julian Cannon(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)

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