「『有色人種を何人も雇ったんだから』という空気がある」:広告界の半端なDE&I施策、エージェンシー幹部2名の本音

DIGIDAY

ジョージ・フロイド氏の殺害を契機に、マーケティングやメディア業界をはじめ、広告関連業界全般において人種的公正を訴える声が世界中で高まった。あれから1年、多くのエージェンシーがそうした声に応えるべく、雇用における多様性の推進、包摂性に関する対話の促進プログラム、さらには被雇用者の多様性を示す統計の年間報告にいたるまで、さまざまな試みを実践してきた。

だが、業界内には依然、そうした試みや宣言のオーセンティシティ(信頼性・真実性)を疑問視する者もおり、有色人種コミュニティが真に必要としているものと、広告業界が提供しているものとのあいだのズレを指摘する声も聞かれる。

匿名を条件に本音を語ってもらう「告白」シリーズ。今回、米DIGIDAYは有色人種の女性でエージェンシー幹部の2名に取材を実施。中身のない多様性宣言の落とし穴や、マイクロアグレッション(主流派の非主流派に対する無自覚の差別的言動)、真の公正の実現に必要なもろもろについて、本音を語ってもらった。なお、読みやすさを考慮して、内容には若干の編集を加えている。

――2020年以降、広告・マーケティング業界で働く女性としての経験に変化は? 今回、米DIGIDAYに本音を語りたいと思った理由は?

幹部1: 私の場合、この流れの転機になったような、とんでもなくひどいことはないんだけど、誤解はいまだに多いし、問題はそこにあるんだと思う。つまり、有色人種の女性として標的にされている、という事実に。仕事でも日々の生活においても、そういうマイクロアグレッションがふと現れる場面は、何度もあった。この1年はたぶん、そういう(マイクロアグレッションと呼ばれる)ものは存在するのだという認識が、それもかなり高いレベルで広まった最初の年だったと思う。もちろん、それは明らかに進化ではあるが、何ごとにも完璧はありえない。するべきことはまだまだたくさんある。たしかに、そういう態度や言葉を向けられた経験を皆が一斉に口にするようになって、何が本物なのかというオーセンティシティに疑問を投げかけている。いまは誰もが英雄になれるし、仲間もたくさんいるから、その点で楽になったのは事実だ。ただし、君たち、1年半前はどこにいたの? という思いはある。

幹部2: それは私も同感だ。急に大騒ぎを始めた気がしてならない。「ほら見てくれ。もうわかった。目覚めたから。これがDE&I(多様性、公平性、包摂性)に関するうちの方針だから!」という感じ。それから、我々がしていることの発信についても、言いたいことはある。我々が何をしているのか、なぜそれが重要なのか、安心して働ける場を作れるよう、従業員のためのリソースグループへの対応とか、それ自体はもちろん、どれも素晴らしい。でも、それだけじゃまだまだ足りない。たとえば、我々が追えていないだけで、あえて見えないふりをする姿勢とか。

本当の意味での変化を知るには、人々の行動の部分をもっと深く掘り下げて見ていく必要があると思う。

――企業の多様性推進の試み、多様性を示す数字の公表、公開討論会や解説記事がどれも胡散臭く見えてしまう理由は?

幹部1: どれもお手軽だからだよ。疑問をはっきりと示して、何が真の帰属感と包摂性をもたらしてくれるのかをきちんと理解するのは、一朝一夕にできることじゃない。それに比べて、討論会を開いたり、思想的指導者に関する記事を書いたり、ウェブサイトに文章を載せたりするのは、どれもわりと簡単にできる。それで、よくやったと、すぐに褒めてもらえる。

幹部2 :前者にはもっと長い時間をかけたコミットメントが必要になるし、それは決して気持ちの良いことじゃない。諦めずに何度でも人々に呼びかけ、多くのことを阻害してしまう態度に対して、説明責任を負ってもらう必要がある。誰もが安心して一歩前に踏み出して、自分の将来性になんらかの悪影響が出ることを恐れることなく、上司やマネージャーに関するもろもろを安心して共有できるようにならないとダメだ。

どこかに恐れがあるんだと思う。不公平は本当に長い時間をかけて積み上げられてきたものだし、それで多くの人は得をしてきた。もちろん、そういう人はそれを手放したいとは思わない。もし手放せば、全体のパワーバランスが崩れるから。それにこれは、たとえばDE&I部長に任せて済むような話じゃない。たったひとつの役職の、たったひとりの人間の力だけで長い時間がかかる変化を起こせると思うなんて、非現実的にもほどがある。

――では、DE&Iを推進するこの流れは、広告業界史における一過性の出来事で終わるのか、それともこれからも持続するのか。どちらだと?

幹部1: CSR(企業の社会的責任)というものが、当たり前のものとして、徐々にではあるが、我々の考えや行動のなかに浸透していっている気がする。もちろん、組織にはするべきことがまだ山ほどある。いずれにしろ、これはこれからも話題にしていかないといけない、それはたしかだ。個人的には、いわゆるリーダーたちのことがいまひとつ信用できない。CEOやCFOといった立場の人たちが、起こすべき変化に対する責任や説明責任、当事者意識をしっかりと持てているのかどうか。組織のなかの、たとえばダイバーシティ推進部長ひとりに任せきりにしていないか。「私はちゃんとやっている、もう十分だろう。XXXもの大金を投じたし、あれやこれやパートナーシップも結んだ、有色人種を何人も雇ったんだ、うちの円グラフを見てくれ」という空気がいまだに漂っている。そういう部分を次のレベルに持ってかないとダメだと思う。

幹部2:ここでのKPI(重要業績評価指標)は、イコール・ペイ・デー(equal pay day、賃金格差をなくす運動)や女性デー(Woman’s Day)、プライド・マンス(Pride Month)といったものが必要なくなって、私たちがここに来るに至った歴史を皆が心の底から祝福できるようになること、その状態がもはや当たり前で、わざわざ声を上げる必要がなくなること、なんだと思う。

[原文:‘Look at my pie chart’: Confessions from two agency execs of color on the diversity progress still to be made by the ad world in 2021

KIMEKO MCCOY(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)

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