「不誠実な戦略だ」:隠れ値上げ「 シュリンクフレーション 」がソーシャルメディアを席巻中

DIGIDAY

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ある暑い昼下がり、リチャード・B氏はカリフォルニアでドラッグストアのウォルグリーン(Walgreens)に駆け込むと、スポーツドリンクであるゲータレード(Gatorade)のクールブルー味を掴み取り、のどを潤した。

同氏は米モダンリテールに、最初、スリムな24オンス(約680ミリリットル)のボトルがおかしいとは思わなかったと語る。しかし、改めてよく見ると、「3ドル(約410円)ばかり払ったにしては、やけに小さいなと思った」という。ボトルは細く、同氏が慣れ親しんでいた、ずんぐりとしたクラッシックな32オンス(約900ミリリットル)のボトルとはほど遠かった。同氏はTwitterで、ゲータレードのような会社が、「こどもだまし」でシュリンクフレーション(ステルス値上げ)をごまかしていると非難した。

リチャード氏は米モダンリテールに、自分はまあまあの所得階層にあるので、低所得層の家庭とは違い、このような小さな買い物が生活習慣に影響を与えることはないと述べている。「でも、大企業が人間の心理を利用して、製品を小さくしながら値上げしたことをごまかすなんて、ずるいと思う」と同氏はいう。

「シュリンクフレーション」がソーシャルメディアを覆い尽くしている

このようなパッケージングの現象をシュリンクフレーションという。これまで何十年もの間、特に景気後退の最中に使われてきた手法で、値上げしない代わりに1包装あたりの量を減らして利益を増やす。しかし、前回の景気後退以降、消費者はかつてなく多様な方法で、量を減らして実質的に値上げするという強欲な手段をとった企業を非難できるようになった。何百ものソーシャルメディアの投稿や、大量のオンライン記事が、現在のシュリンクフレーションの波を立証することに大いに役立っており、ユーザーはシュリンク(縮小)されたパッケージサイズの証拠写真を投稿している。ブランドのシュリンク前と後を告発する専用のサブレディット、r/shrinkflationまであり、3万7000人を超えるメンバーを集めている。一方、Twitterインスタグラムでは、この1年で、ハッシュタグ#shrinkflationが広まってきた。

実際、飲料品メーカーのペプシコ(PepsiCo)は最新の収支報告書で、利益を増やしコストを減らすために小さなパッケージを使用したと白状している。この手法を使っている消費財の巨大メーカーはペプシコだけではない。スナックブランドのドリトス(Doritos)やホイートシンズ(Wheat Thins)、おむつブランドのパンパース(Pampers)まで、多くの食品、日用品ブランドが、商品サイズを減らしている。ファミリーサイズのパッケージも例外ではなく、大手食品会社のゼネラルミルズ(General Mills)は、昨年、ファミリーサイズの箱入りシリアルの量を10%減らし、19.3オンス(約550グラム)から18.1オンス(約510グラム)にした。

小売データファームの84.51°の8月期消費者調査ダイジェストによれば、買い物客がパッケージサイズの縮小に気づいた商品の上位は、チップス(51%)、シリアル(37%)、チョコレートバー(29%)、トイレットペーパー(26%)だった。

低所得者世帯への思わぬ余波

シュリンクフレーションは、同じ値段で手に入れられる物が減るというだけでなく、一部の客層にとっては、生活に困難をもたらしている。WIC(Women, Infants, Children nutrition/女性、乳幼児、子供のために健康的な食品の提供、育児支援、医療機関やその他のサービスの紹介などを行う)プログラムのメンバーの一部は、SKUサイズが変更されたことで、対象の商品の購入が難しくなったと報告している。

あるアラスカのWICユーザーは、米モダンリテールに、冷凍ジュースの分野でシュリンクフレーション関連の問題に直面したと匿名で答えた。アラスカ州では、WICで64オンス(約1.8リットル)入りパックの冷凍オレンジジュースを購入できる。このユーザーは、長いこと、対象のジェネリックブランドを購入してきたが、この数カ月は品切れになることが多く、そのあいだは購入していなかった。「ようやく販売されるようになったと思ったら、59オンス(約1.7リットル)入りになっていて、UPC(統一商品コード)も完全に新しいものになっていたため、WICの対象外になってしまった」。現在のところ、この問題は、カスタマーサービスを通じても解決されていない。

このようなサイズの変更は、忙しい母親にとって、食品の購入を「少しだけ困難に」した。「どれが対象かを覚えて、買い物にかかる時間が少し短くなったのに、サイズと対象が変わったおかげで手間がかかるようになった」という。「あとで対象外だと気がついて、返品のためにカスタマーサービスのカウンターで待たなくてはいけないこともある」。

消費者に正直であること

サブレディット「r/shrinkflation」では、企業はサイズを削減したことだけではなく、少ない量を高く売るさまざまな戦略が非難されている。あるユーザーは、トルティーヤチップスの袋に中身が半分しか入っていなかったと嘆いていた。別のユーザーは、以前は40枚入りだったウェットティッシュの箱が今では35枚入りになったと写真を投稿し、「確認してからじゃないとトイレにも行けない」と書いている

このサブレディットで下の名前のジョエルと名乗るアクティブメンバーは、米モダンリテールに、「企業には、ズルをして金儲けをしようなんて卑怯なことからは身を引いて欲しい」から、シュリンクフレーションは糾弾されるべきだと述べている。さらに「シュリンクフレーションは、企業がずっとやってきたこと、つまり、利益の最大化の現れにすぎない」とも付け加えている。

大手リサーチ&アドバイザリ企業であるガートナー(Gartner)のデジタルマーケット企業であるキャプテラ(Capterra)でシニアリテールアナリストを務めるモーリー・バーク氏によれば、世界恐慌のときと比べても、買い物客は、シュリンクフレーションなど企業の強欲さの兆候を非常に警戒しており、ソーシャルメディアでその懸念を大々的に発信しているという。

前回の景気後退時には、レディットやTwitterなどのソーシャルメディアのチャンネルはまだはじまったばかりで、シュリンクフレーションはほとんどがこっそりと進行できていたが、「TikTokやインスタグラムにアクセスできる今の消費者は、あっという間にブランドの評判を傷つけることができる」とバーク氏は語る。

「インフレの時代をお客様にとってさらに悪いものにしたと記憶されることは望まないだろう」とバーク氏はいう。さらに、ソーシャルメディアでの反発を防ぐためにブランドができることのひとつは、製品やサービスに対して行う変更について正直であることだと、同氏は続ける。最近の例としては、値上げの波のなかで、多くのブランドが前もって顧客に通知していることが挙げられる。

ただし、ブランドが正直であっても、多くの場合「消費者はシュリンクフレーションを安っぽくて卑怯だと受け止める」とバーク氏は述べている。

ブランドにとってリスクになる領域の増大

包装会社のU.S.パッケージングアンドラッピング(U.S. Packaging and Wrapping)でパッケージングエグゼクティブを務めるチャールズ・ハバーフィールド氏は、「購入者は、品質の変化よりも価格の変化に敏感である」と、かつて述べている。そのため、顧客を維持するために価格を変えないように、気づかれにくいシュリンクフレーションが利用されている。

ただし、歴史的なインフレ率を考えると、もはやそういうわけにもいかない。多くの買い物客は、製品のサイズが減っていれば、ますます不満を感じる。「これはブランドイメージの問題でもあり、モラルの問題でもある」とハバーフィールド氏は述べている。「企業は、あえて宣伝する必要がないのなら、新しい変更をどの程度明らかにするのか決めなければならない」。

小さいサイズを同じ値段、あるいは高い値段で提供することは「顧客の心証を悪くすると思う」と、ジョエル氏はいう。「恥ずかしくはないのか」。

[原文:‘It’s dishonest’: How ‘shrinkflation’ took over shoppers’ minds and social media accounts]

GABRIELA BARKHO(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:)
Illustration by Ivy Liu

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