トミーヒルフィガーとサイダーの 異なるNFT 戦略:Z世代のコミュニティ構築、エンゲージメント向上の取り組み

DIGIDAY

3月末に開催されたディセントラランド(Decentraland)のメタバースファッションウィーク(Metaverse Fashion Week)に参加した多くのブランドのうち、Z世代ファッションブランドのサイダー(Cider)とプレミアムアメリカンブランドのトミーヒルフィガー(Tommy Hilfiger)というふたつのブランドは、異なるNFT戦略でこのイベントにアプローチした。

ファッションのNFT分野は、ディセントラランドのファッションウィークとともに、ゲーミングプラットフォーム上の独自の専用イベントによって後押しされている。初のメタバースファッションウィークとして、ファッションショー、ギャラリー、ブランド主催のパネルをフィーチャーしたイベントが、3月27日までディセントラランドのファッションディストリクトで行われた。DKNY、ドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)、トミーヒルフィガー、パコラバンヌ(Paco Rabanne)、エトロ(Etro)、エスティーローダー(Estée Lauder)、フォーエバー21(Forever 21)といった従来のブランドから、さらにエルメス(Hermès)のリセラーであるプリヴェ・ポーター(Privé Porter)を迎えたこのイベントにおけるブランドの存在感は、伝統的なブランドとデジタルネイティブなブランドで二分された。デジタルネイティブなブランドには、デッドフェラズ(DeadFellaz)、ドレスX(DressX)、デマテリアライズド(The Dematerialised)、ファングギャング(FangGang)、オウロボロス(Auroboros)、モルティバース(Mortiverse)などが含まれている。

このファッションウィークは実験的な位置づけであり、デジタルストアやキャンペーン、NFTのローンチに関して、ブランドがさまざまなアプローチを試すのによい方法であることが証明された。

Z世代向けeコマースブランド、サイダーの戦略

2020年にローンチしたZ世代のeコマースブランドであるサイダーは、従来の小売ルートはほぼ避けており、それがメタバースファッションウィークの戦略にも反映されていた。実店舗をもたないサイダーは、ディセントラランドに店舗をかまえることを選択、ディセントラランドのスペースを活用して消費者に楽しいゲーム内体験を作り出した。サイダーランド(Ciderland)と名付けられたこのスペースは、フォトウォールとレインボーデザインの壁画が特色となっている。これは、ブロックチェーン企業ボソンプロトコル(Boson Protocol)のメタバースサービスプラットフォームであるボソンポータル(Boson Portal)とのパートナーシップで制作されたものだ。またサイダーは3月26日に体験型ゲームの体験に参入すべく、専用のファッションショーを開催した。

オーディエンスに楽しい経験を提供する機会に

「メタバースとWeb3は本当に起こっているトレンドであることを我々は認識しており、オーディエンスがいる場所でオーディエンスに出会いたいと考えている。この分野への私たちのアプローチの方法は、つまらないマーケティングのようなものではなく、オーディエンスによい体験を提供することに尽きる。Web3の用語でいえばユーティリティであり、バーチャルでぶらぶらしながらよい体験ができて、何か実際の物も購入することができる場だ」とサイダーの共同創業者ユー・オッペル氏は述べた。

この体験では、ディセントラランドのアバター用にサイダーのデジタルウェアラブルを購入する機会も提供されている。サイダーのデジタルウェアラブルNFTを購入すると、消費者は自動的にディセントラランドのサイダーランドにアクセスできるようになる。また今後は、独占プロモーションのほか、現実世界でのイベントやデジタルでのイベントへのアクセスも可能となる。

Z世代はNFTには関心が低いが、ゲームは人気

この超ファストファッションブランドは、すでにインスタグラムとDiscordで消費者とエンゲージしている。オッペル氏いわく、Z世代の消費者はブランドによるコミュニティ構築の取り組みを評価しているという。「メタバースを長期的にオーディエンスとエンゲージする方法としてぜひ活用したい」と彼女は語った。「将来的には、どのようなコレクションを作るか、どのようなスタイルの方向性を打ち出すかについての投票をオーディエンスに手伝ってもらったり、エキサイティングな現実世界の新規イベントのためにどこかで私たちと会えるようになるかもしれない。可能性は無限大だ」。

ソーシャルメディアでの投票によるインサイトやZ世代の従業員からの直接的なインサイトを常に得ることで、サイダーはZ世代市場への足がかりを得ている。同ブランドは100カ国以上で販売され、インスタグラムのフォロワー数は270万人だ。昨年9月にBラウンドの資金調達を完了し、10億ドル(約1222億円)以上の評価を受けており、世界でもっとも急速に成長しているユニコーン企業のひとつとなっている。3月初め、サイダーではインスタグラムのフォロワーを対象に調査を行ったところ、60%近くがNFTが何であるかをまったく知らないことがわかった。これは最近のほかの統計でも似たような結果が出ている。NFTに対するZ世代の関心は低いかもしれないが、この層のあいだでゲームは間違いなく人気がある。ニューズー(Newzoo)のアニュアルゲーミングレポートによると、Z世代の81%が過去半年間にゲームをプレイしたことがあり、これはどの世代よりも高い割合となっている。そこでサイダーでは、自社のインスタグラムにNFTの解説を兼ねた専用のインフォグラフィックをローンチした。また、Discordを通じて、NFTに関する質問をするようにコミュニティに呼びかけている。

「新たな分野に参入する場合、そもそもなぜそうするのかをオーディエンスに理解してもらい、すべてをちゃんと説明することが重要だ」とオッペル氏は言う。さらに、サイダーはより多くのディセントラランドのゲーマーをブランドに引き込むことにも興味を持っている。メタバースファッションウィークへの参加がその点で効果的だったことを期待している。

メタバースに詳しい大手ブランドのエンゲージメント

一方、比較的よりトラディショナルな企業であるアメリカのファッションブランド、トミーヒルフィガーは、すでに複数のプラットフォームでメタバースの実験を行っており、ディセントラランドのファッションウィークは、単に新たなオーディエンスとエンゲージする機会を提供したに過ぎない。このイベントのために、同社はディセントラランドのファッションディストリクトに店舗を設置した。それ以前には、ゲームの世界にさらに踏み込んでいく手段として、2020年「どうぶつの森」の「トミーアイランド(Tommy Island)」のローンチ、2021年のロブロックス(Roblox)との戦略的パートナーシップ、そして2022年3月には8人のゲーマーがブランドのインフルエンサーやライブストリーマーとして参加するコミュニティ主導のイニシアチブである「チームトミー(Team Tommy)」のローンチなどを行っている。

今後期待されるのはフィジタルアイテム

ディセントラランドの店内では、ボソンプロトコルとのパートナーシップにより、3Dレンダリングのスタイルを浮かばせて2022年春コレクションをバーチャルに紹介した。顧客は自分のアバターのためのNFTとその物理的なアイテムという形で、フィジタルアイテムを購入することもできる。ボソンプロトコルの共同創業者ジャスティン・バノン氏によると、フィジタルアイテムの人気はますます高まっている。

「この夏にやってくる大きなトレンドは——我々はすでにあるグループのためにこれを構築している——デジフィジカルとして販売されるハイエンドのアイテムだ」と彼は言う。「ハイエンドの物理的なハンドバッグを買ったら、NFTのウェアラブルがついてくることが期待されるようになる。そしてNFTのウェアラブルを購入すれば、それに対応した物理的なものが付いてくることになる。これはふたつの世界の融合だ」。

[原文:Metaverse Fashion Week recap: How 2 brands tackled the NFT opportunity]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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