【解説】今もっともホットなバズワード「 コンポーザブルコマース 」とは?

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eコマースブランドにを獲得するために、「フレキシビリティ」をセールスポイントのひとつにしようとするテックベンダーが増え続けており、これらのベンダーは、そのために新しいボキャブラリーを使用している。

この数年間、「コンポーザブル」と呼ばれるソリューションを売り込むベンダーが増えてきた。5月初旬、ラリー(Rally)、パックデジタル(Pack Digital)、スウェルコマース(Swell Commerce)というeコマーステック企業3社共同による取り組み「ゴーコンポーザブル(Go Composable)」を発表した。この3社はeコマースブランドに対して、3社のソリューションをすべて使用し、真に「コンポーザブル」なテックスタックを構築するよう売り込んでいる。一方、eコマース大手のShopify(ショッピファイ)は、1月に独自のコンポーザブルなソリューションをリリースした。同社がコマースコンポーネント(Commerce Components)と呼ぶこの新しいソリューションは、自社のテックスタック全体をShopifyに移すことなく、使いたい機能だけを選んで利用したいと考えるエンタープライズ系小売業者を対象としている。

コンポーザブルコマースの中核となるのは、eコマースブランドが特定のプロバイダーやプラットフォームの制約を受けることなく、ロイヤルティプログラムのプロバイダーから決済システムまで、テックスタックのあらゆる部分を選択できるようにすることだ。過去10年間のeコマースはバンドルを特徴としていたが、これはバンドルからの解放に向けた動きだ。Shopifyやビッグコマース(BigCommerce)などのプラットフォーム大手は、あらゆる要求に対応でき、若い新興企業がウェブサイトを迅速かつ簡単に立ち上げられるソリューションを売り込むことで急成長してきた。

開発者やベンダーによると、ブランドや小売業者は、コンポーザブルコマースによって、自社のニーズにより合致したeコマース体験を構築することができ、しかも、あらゆるコンポーネントを自分たちでカスタムで構築するよりも、コストやリソースの負担が少ないという。しかし、コンポーザブルな手法は若いブランド向けには実用的でない可能性があると警告する開発者もいる。そして、コンポーザブルコマースのもっとも熱心な提唱者でさえ、多くのブランドが真にコンポーザブルな手法を採用するためには、いくつもの障壁がまだ多く存在することを認めている。

「どのようにコマース体験を構築するかという点で、コマースの方向性は決まっている」と、ガートナー(Gartner)のバイスプレジデントアナリストを務めるマイク・ラウンズ氏は述べる。

コンポーザブルコマースとは何か?

コンポーザブルコマースという用語は、2020年にガートナー社が初めて広めたものだ。ラウンズ氏は、eコマースによりモジュール的なアプローチをとることを表す言葉を探していたところ、ガートナーの同僚が書いた「コンポーザブルエンタープライズ」に関するレポートを読み、「今後の方向性を表すのにぴったりの表現だ」と考えたと語る。

2006年に登場したShopifyや2009年に登場したビッグコマースのようなプラットフォームが台頭する以前は、自社の商品をオンラインで販売しようとする企業は、実質的にすべてを自分たちの手でカスタム構築する必要があった。これらのプラットフォームは、決済から顧客への配送情報の送信までを管理する一連のサービスを提供し、だれでも簡単にeコマースのウェブサイトを立ち上げられるようにした。また、サードパーティーのアプリストアを立ち上げ、小売業者が自分たちで構築することを望まない機能の一部を外注したり、eコマースブランドが複数のSMSプロバイダーやレビュー管理システムを選択できるようにした。

その結果、「当社が使っていたアプリはどんどん成長を続け、多くの機能を搭載した非常に大規模なプラットフォームになった。しかし、この手法の欠点は、動作が非常に遅くなることだった」と、ラウンズ氏は語る。理論的には、コンポーザブルな手法を使用してeコマースウェブサイトを構築する利点のひとつは、より高速に動作することだ。

そして、小売業者にはウェブサイトを構築する方法について、多少の自由と選択肢があるものの、Shopifyを使用する小売業者のほとんどは、たとえば購入後プロバイダーを、Shopifyのアプリストア内に存在するものからしか選ぶことができない。

しかし、コンポーザブルコマースでは、「体験のどの部分でも、好きなものを使用でき、たとえ、注文にShopifyを使用しても、商品にShopifyを使用する義務はない」と、ネタリココマース(Netalico Commerce)の共同創業者で最高技術責任者を務めるマーク・ウィリアム・ルイス氏は語る。そして、「すべてをカスタムで作り上げる代わりに、すべてをほかのSaaS(サービスとしてのソフトウェア)サービスから選択して接続できる」。

コンポーザブルはヘッドレスと同じことなのか?

コンポーザブルコマースの台頭は、eコマースでも同じようなトレンドが起きていることに端を発している。数年前、ヘッドレスコマースという用語も、よりカスタマイズされたeコマース体験を構築しようとするブランドや小売業者のあいだで流行していた。ラリーの創業者であるジョーダン・ギャル氏は、コンポーザブルコマースが「ヘッドレスと同じようなものを、別の用語で呼んだだけだ」と表現していた。

ルイス氏は、ヘッドレスという用語が単に、eコマースウェブサイトのフロントエンドとバックエンドを分離するという意味にすぎないとしている。

一方で、コンポーザブルコマースという用語は、「要するに、レビュー、SMS、そのほか使用しているあらゆるサービスを分割できるという意味を端的に表そうとしたものだ」と、同氏は語る。Shopifyは、新しいコンポーザブルなスタックを発表した1月のプレスリリースで、決済などShopifyのもっともよく知られたコンポーネントを使用しながら、「小売業者が好むバックオフィスサービス」と統合するという、架空の小売業者の事例を提示した。

ヘッドレスコマースの利点のひとつは、コンポーザブルコマースと同様、理論上はウェブサイトが高速になることだ。しかし、ヘッドレスコマースのウェブサイトは、技術的に構築が複雑になるという欠点もある。

ヘッドレスコマースのソリューションを実装しようとした小売業者が、さまざまな理由から、この方法を技術的に使いにくいものだと判断したことから、ヘッドレスコマースの評判が悪くなってしまったと感じていると、ギャル氏は語る。たとえば、「小売業者がShopifyでヘッドレスへの移行を試みたが、Shopifyはヘッドレスに向いていなかった」例を聞いたことがあると、同氏は語る。

そのため、一部のベンダーは、「コンポーザブルコマース」という用語を使用し、ヘッドレスに不安を感じているが、カスタマイズや柔軟性を求めるブランドの興味を引こうとしているのだという。

コンポーザブルコマースの利点は何か?

「ゴーコンポーザブル」の指揮を執る創業者のひとりであるギャル氏は、「ここで見せようとしているのは、小売業者がプラットフォームやそれに伴う制限に不満を感じている時に成功するための、達成可能で現実的なアプローチだ」と語る。

同氏の会社であるラリーは2020年に創業し、4月にマーチキャピタル(March Capital)主導で1200万ドル(約16億6000万円)のシリーズAラウンドを発表した。同社はブランドに対して、「コンポーザブルチェックアウト」というソリューションを提供する。これは、複数のバックエンドとフロントエンドのプラットフォーム、支払プロセッサー、決済方法をサポートするものだ。

たとえば、ラリーはアファーム(Affirm)やアフターペイ(Afterpay)といった複数のBNPL(後払い)プロバイダーや、ビッグコマース、セールスフォースコマースクラウド(Salesforce Commerce Cloud)、コマースツールズ(commercetools)などのコマースプラットフォームと統合できる。現在のところ、Shopifyとの統合は行われていない。

ラリーがほかの決済プロバイダーと異なる点について、「いくつかの違いがあるが、もっとも重要なのは独立していることだ」と、ギャル氏は述べている。

コンポーザブルコマースのプロバイダーは、ブランドに対して自社のソリューションを使用するよう売り込むとき、ほとんどのテックベンダーが使用するのと同様のKPI(重要業績評価指標)を売りにする。すなわち、自社ソリューションによって、平均注文価格やコンバージョン率が高くなるといったことだ。しかし、多くのコンポーザブルコマースのプロバイダーが引き合いに出す重要な論点は、そのソリューションによって、すべてを自分たちがカスタムで構築しなくても、ブランドが自由と独立性を得られるということだ。

ヘッドレスコマースと同様に、コンポーザブルコマースも、理論上はウェブサイトが高速になるものだ。しかし、実際には常に高速となるわけではない。

コンポーザブルコマースがすべての業者に採用されない理由

Shopifyのようなプラットフォームだけで構築を行うことの限界のひとつは、「ブランドが、簡単にそのプラットフォームから離れ、別の決済を作れないこと」だと、ギャル氏は語る。

しかし、すべてのブランドが独自の決済を構築をしたい、あるいは、その必要があったりするわけではない。この点について多くの開発者や代理店は、ひとつのプラットフォームに縛られたくない大規模な小売業者や、真にコンポーザブルな体験に投資できる時間とリソースを保有している場合は、コンポーザブルコマースが適していると語る。たとえばShopifyは、自社のコマースコンポーネントを明確に「エンタープライズ小売業者向け」と銘打って提供しており、最初の顧客がマテル(Mattel)社であることを発表した。

ルイス氏は次のように述べている。「靴下や靴を売るだけのeコマースの新興企業であれば、もっともクールで最速のウェブサイトを保有することはいい考えかもしれない。しかし率直にいって、最初からそのような技術的な投資は行わず、マーケティング面に重点を置くべきだろう」。

コンポーザブルコマースの提唱者でさえ、このテクノロジーがまだ初期段階であることを認めている。スウェルコマースの共同創業者でCEOを務めるエリック・イングラム氏は、コンポーザブルコマースを推進する最終的な目標は、独自のeコマース体験を、セットアップのしやすさという点で、「Shopifyやスクエアスペース(Squarespace)と同じくらい簡単に」することだと述べる。しかし、そのためには、こうした最大級のプラットフォーム自体が、小売業者の使用できる統合機能や、ウェブサイトのさまざまな部分をカスタマイズする方法について、よりフレキシブルになる必要があるだろう。

「我々は、その点に取り組んでいる」と、イングラム氏は述べている。

[原文: How composable became the hottest buzzword in commerce ]

Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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