こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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倉庫に過剰在庫が積み上がるにつれ、小売業者はスペースを確保するためのさまざまな方法を検討している。
ターゲット(Target)によると、自社の商品在庫は昨年より43%増加したと述べており、ウォルマート(Walmart)も32%の増加を報告している。どちらの小売業者も、商品の在庫を減らすために割引などの方法に頼ってきた。一方で、オールドネイビー(Old Navy)の数十の店舗は、自社の在庫を再調整するため、同社の包括的なサイズ変更プログラムの規模を縮小した。
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小売業者は最近になって、消費者からの需要の変化とサプライチェーンの問題の結果として過剰な在庫を抱えるようになったと警告しており、これは各社の収支決算に大きな影響を及ぼしている。消費者が、パンデミックのあいだにトレンドになったアスレジャーや家庭用品などのカテゴリーに多くの金額をつぎ込まなくなり、旅行やエンターテインメントへの出費を増やすにつれ、多くの小売業者は消費者が望まなくなった、少なくとも定価では買おうとしない商品の供給を抱えることになる。在庫レベルを減らすための努力として、一部の業者は割引を行い、ほかの業者は品揃えを全面的に切り捨てるようになった。
ガートナー(Gartner)のディレクターアナリストを務めるブラッド・ジャシンスキー氏は、次のように語っている。「これらの注文は、ほとんどの商品について最低でも数週間、多くの場合は数カ月前に行う必要がある。その結果として、何カ月も前、消費者からの需要が非常に大きかったころに注文した品物が、今になって小売業者に届き、過剰在庫になる」。
商品をさばくため小売業者が行う作業
数四半期前、小売業者が在庫していた商品の一部に対して大きな需要が発生した。2021年の第1四半期に、ターゲットのような大手小売業者の成長を促したのは、アパレル、家庭用品、日曜大工用具などのカテゴリーだった。これらの需要はあまりに大きかったため、ウォルマートやターゲットなどの小売業者は、自社の在庫レベルを増やすとともに、これらのカテゴリーの新しい専門ブランドに投資することを決定した。たとえばターゲットは、2022年初頭に家庭用収納製品のブライトルーム(Brightroom)という商品ラインを設立した。
しかしターゲットは、最新の四半期で、これまで売上の成長を主導してきたカテゴリーが反転したことを報告した。顧客はその代わりに、旅行かばんや玩具などのカテゴリーをより多く買い求めるようになった。
消費トレンドのこのような突然の変化により、数カ月前に行われた決定が、同社の現在の操業に影響を及ぼすようになった。ジャシンスキー氏は次のように述べている。「これは、過剰在庫を抱えるのと在庫切れのどちらがいいかという問題だ。そして、この決定についてはおそらく過剰在庫の方がマシだというのが答になる。しかし、数多くの要因が存在するため、これは誰にも予測できなかったろう」。
各小売業者が在庫量を適正化するために行う初期段階の行為のひとつは、サプライヤーからの出荷が船積みされる前にキャンセルすることだと、同氏は語る。ターゲットは6月初め、計画の一部としてすでにベンダーへの注文を取り消したと述べている。
一部の小売業者は、需要を喚起するため、大幅な割引によって買い物客を引きつけようとしていると、ビーデーオー(BDO)の再構成およびターンアラウンドサービス実践担当の国内リーダーを務めるデビッド・バーリナー氏は語る。
「その一環として、厳密には季節外れの商品や、在庫量が多すぎる商品の需要を生み出そうとしている。通常の販売では在庫レベルが十分に減少しないような商品については、多くの人々がそれらの商品を購入するよう働きかける必要がある」と同氏は述べている。
ウォルマートとアーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)は、需要を読み違えたあとで、アパレル商品の値下げをはじめようとしている。ベストバイ(Best Buy)のCEOを務めるコーリー・バリー氏は、在庫レベルが昨年よりも9%増加していることから、第1四半期の決算発表において、同社が「プロモーショナル活動の増大」を予定していると述べた。ターゲットは、家具やテレビなどのかさばる商品の在庫が多すぎると述べ、大きなアイテムを割り引いて、もっと需要の大きいマーチャンダイズのために棚の面積を空けると語った。
バーリナー氏は次のように述べている。「これまで商品を購入しようと考えていなかった消費者も、十分な割引があれば購入に走るだろう。あまりに大きな割引で商品を販売すると、収益性を損なうことになる」。
商品への需要は地域によって異なる可能性があるため、一部の商品がある店舗で十分に売れなかった場合、小売業者はその商品を別の店舗に送る場合があると、ジャシンスキー氏は語る。売れていない商品を自社のアウトレット店に送る小売業者もいる。ベストバイは最近、今後1年間にアウトレット店の数を2倍にする計画があると述べ、これにより中核的な店舗のスペースが緩和されるとエグゼクティブは語っている。
有利なオフプライス業態
状況が厳しいときには勝者と敗者がはっきりと別れ、在庫があふれるにつれオフプライス販売業者が勝者の側になる傾向がある。T.J.マックス(T.J. Maxx)、ロス(Ross)、バーリントン(Burlington)などのオフプライス販売業者は多くの場合、売れ残りの、または過剰のマーチャンダイズを買い取る。バーリントンはすでに5月の決算発表で、同社が何年間も扱っていなかったブランドからの商品の供給を受けていると語った。
バーリントンのCEOを務めるマイケル・オサリバン氏は次のように述べている。「現在の買い取り環境は、過去数年間になかったほど良い状況だ。当社のバイヤーは非常に良い取引を行えている。当社はこの機会を活かして、予備の在庫を積み上げてきた」。
ほかのすべての方法が失敗した場合、売れ残りの商品を処分する最後の手段は清算だろうと、専門家たちは語る。クイックロッツ・リキデーション(Quicklotz Liquidations)やリキデティサービス(Liquidity Services)などの清算人は、Amazonやターゲットなどのフルプライス小売業者から、売れ残りの、または返品されたマーチャンダイズを再販することに重点を置いている。商品の清算とは、商品を完全に破壊することを意味する場合もあり、コーチ(Coach)やバーバリー(Burberry)など一部のラグジュアリーブランドは、過去にこれを行って反発を受けたことがある。
在庫過剰の後遺症
一部の小売業者はすでに、今後数カ月は利益の赤字が続く可能性があると、投資家たちに警告している。
ターゲットの営業収入は、第1四半期にすでに前年比で43%も減少しており、ウォルマートは16億ドル(約2160億円)も減少している。ターゲットは第2四半期について、営業利益率が約2%になると予測しており、これは最初に説明された5.3%を下回っている。
「多くの小売業者の現状がそうであるように、過剰在庫が非常に多い場合、自社の社内か港湾かを問わず、倉庫のスペースにより多くの資金を費やす必要がある」と、ジャシンスキー氏は述べている。
一部の小売業者は、オールドネイビーの事例のように、自社の在庫をより的確に管理するための手段として、最終的に特定の商品やバリエーションを段階的に廃止することになるかもしれないと、専門家たちは述べている。同社の親会社であるギャップ(Gap)は、大きなサイズへの店舗での需要を過大に見積もりすぎたと語っている。米国で約75、カナダで15の店舗では、大型サイズの扱いを中止する。アパレル小売業者のロフト(Loft)も、「ビジネス上の問題から」プラスサイズの商品を切り捨てた。
さらに、BDOのバーリナー氏は、サプライチェーンの制限に終わりが見えない状況で、小売業者が自社のソーシング戦略を再考することになるかもしれないと語っている。「人々はサプライチェーンに慣れてきており、自社のソーシングのすべてまたは多くの割合がひとつの地域や国から供給される状況のリスクを受け入れたと考えている」と同氏は述べている。
ジャシンスキー氏は、多くの小売業者は第4四半期に在庫のレベルが正常化しはじめることを期待しているが、将来の結果を予測するには関与する変数が多すぎると語る。
「水晶玉占い程度しか当てにならないだろう」と、同氏は述べている。
[原文:Unpacked: From deep discounts to phaseouts, how retailers are unloading excess inventory]
Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
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