プーチン大統領と「ロシア国民」は別:プーチンと習近平は違う

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中国の習近平国家元首は「中国共産党政権と中国人民は別」という論理を非常に嫌っている。習近平国家主席は2020年9月3日、抗日戦争勝利75周年記念の座談会で演説し、中国共産党と人民を乖離する試みについて警告を発している。それゆえに、「党と人民は一体」と繰り返し、それを否定しようとする者がいたら猛反撃する。中国共産党の「一党独裁政治」の現実が白日のもとに暴露され、支配体制の正統性を失ってしまうからだ(「習近平氏が恐れる『党と人民は別』だ」2020年9月8日参考)。

CIS の国家元首の非公式会合で演説するプーチン大統領(クレムリン公式サイトから)

それでは、その中国共産党政権と密接な関係を有するロシアのプーチン大統領はどうだろうか。欧米社会から激しい批判と制裁を受けているプーチン氏は、「西側世界の攻撃に対してロシア民族の結束」を国民に呼びかけるが、「私(プーチン大統領)とロシア国民は一緒だ」といった論理はプーチン氏の口から飛び出さない。ロシア軍のウクライナ侵攻という冒険も「プーチン氏の世界」から飛び出したものであり、ロシア国民の願いからでないことを本人はよく知っているからだ。

ウクライナ戦争が始まった後、プーチン氏はロシア軍に侵攻を命じる一方、ロシア国民にはその軍事的行動を知らせないように腐心してきた。ウクライナ軍の攻勢を受け、プーチン大統領が軍の動員が必要となった時にも、国民から強い抵抗がある部分的動員令の発令を1日遅らせるなど躊躇した。そして予備兵の約30万人の動員令の発令後、国民の一部から強い抵抗を受け、その動員令の一部を修正せざるを得なくなったほどだ。プーチン氏はロシア国民の抵抗を恐れているのだ。プーチン氏は「自分と国民は別」であることを知っている。その点、プーチン氏と習近平主席とは違うわけだ。

ところで、KGB出身のプーチン氏の権力掌握術は冷酷であり、政敵を毒殺したり暗殺したり、刑務所に送る。プーチン時代に入って、反体制活動家、政治家たちが毒殺されるケースが増えた。情報機関出身者らしく、毒薬を利用した暗殺が多い。最近では、反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏は2020年8月、毒殺されかけた。同氏は現在、刑務所に拘留されている。

プーチン批判の政治家だったボリス・ネムツォフ氏の名前を思い出す。エリツイン大統領の後継者ともみられた政治家だったが、当時、首相に就任したプーチン氏から政敵と受け取られた。同氏は2015年2月27日、モスクワ中心部のグレートモスクワ橋で射殺された。55歳だった。同氏は2014年3月15日、モスクワの平和行進で、「プーチンのいないロシアとウクライナのために!」と叫んでいる。

最近ではロシアの野党政治家でジャーナリストのウラジミール・カラ・ムルサ氏がモスクワで大逆罪で起訴された。国営タス通信によると、弁護士のヴァディム・プロホロフ氏は6日、「われわれの依頼人は、リスボン、ヘルシンキ、ワシントンでの公の場でロシア当局を批判した3件の罪で起訴された」と述べている。有罪判決が下された場合、カラ・ムルサ氏は最大20年の懲役刑に直面する。カラ・ムルサ氏は過去、2度、謎の中毒をかろうじて生き延びてきた。

調査グループBellingcatによると、カラ・ムルサ氏はナワリヌイ氏を毒殺しようとしたロシア連邦保安庁(FSB)のエージェントによって追跡されてきた。同氏は現在、ロシア軍の信用を傷つけたとされる容疑で、拘留されている。

モスクワの著名なジャーナリスト、アントン・オレク氏は、「祖国を国家と、当局を国と混同してはならない」と述べている。換言すれば、「文豪フョードル・ドストエフスキー(1821~81年)のロシアとプーチン大統領の国とを混同してはならない」という警告だろう(「ドストエフスキーも嘆くロシアの現状」2022年3月18日参考)。

なお、2人のロシア人が小さなボートで海を渡ってアラスカに逃げ、米国で亡命を申請したという。2人のロシア人は、ロシアの海岸から約65キロ離れたアラスカ西部のセントローレンス島に到着した。

参考までに、ノルウェーのノーベル賞委員会は7日、2022年のノーベル平和賞にロシアの人権団体「メモリアル」を他の人権グループと共に選出した。「メモリアル」は昨年、ロシア当局から解散させられている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年10月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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